転生したと思ったらママになっていた件   作:大神降ろし

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第六十七話

 

 翌朝、目を覚ましたシリウスが身体を起こそうとするが何故か皆がシリウスに抱き着いて寝ていたので身動きが取れなかった。ポラリスとアトリアとスピカとルーナはまだ分かるが、何故かリーサまでシリウスに抱き着いて寝ていた。しかも泣いていたのか、涙が流れた跡が頬に残っていた。

 

「(別れるのが寂しいからか?まあ、昨日の事が合ったんだから私が町を出ていくって察するか)」

 

 皆を起こさないように何とか身体を起こしてリーサの頭を撫でた。

 

「うぅ~ん…ふわぁ…おはよ~…何してるのよ…」

「ああピーニ、おはよう。何って撫でてるんだが?」

「そういうことを聞いてるんじゃないわよ…」

 

 呆れたように言うピーニにシリウスは肩を竦めている。話し声が聞こえたのかリーサが目を開けて身体を起こした。

 

「うぅ…」

「リーサ、おはよう」

「おはよ…」

 

 まだ寝惚けているのか横にフラフラしており、シリウスは苦笑し頭を撫でながら身体を支えている。リーサは撫でられて気持ち良いのかはにかんでいたがふと誰に撫でられているのか疑問に思った。

 

「(きもちいい………ん?私は誰に撫でられてるの?ここにはルーナ、しか……)」

 

 昨夜の事を思い出し誰に撫でられているのかを悟り身体を固まらせた。

 

「リーサ?おーい」

「あうあうあう…」

「バグってしまった…」

 

 顔を真っ赤にして固まってしまったリーサが気に掛かるが、ポラリス達が身動ぎ始めたので一旦リーサを放置してポラリス達のおしめを変える事にした。

 

「うにゅ~…ふわぁ~…」

「ルーナちゃん、おはよう」

「うにゅ…?…あ!シリウスおねえちゃん!おはよう!」

 

 おしめを変え終えたところでルーナも起き出し、少し寝惚けていたがシリウスが声を掛けるとすぐに目を開けて朝から元気いっぱいに挨拶をしてシリウスに抱き着いた。

 

「よしよし。ほーら、着替えようねー」

「はーい!」

「リーサ、そろそろ戻ってこい」

「うぅ…」

 

 リーサは自分がやらかした事をまだ引き摺っており顔を手で覆って俯いている。シリウスは肩を竦めてルーナの着替えを手伝った後自分も着替えた。リーサを見ると既に着替えが終わっており顔を赤くしてシリウスをチラチラと見ていた。

 

「ほら、行くぞ」

「う、うん」

「ごはんー!」

「あ~」

「あい~」

「…ぁ、ぅ」

「(プルプル)」

「今日は何かしらねー」

 

 ルーナと手を繋いで朝食を取りに下に降りた。

 

「お、来たか」

「おはよー」

「おはよう。シリウス、さっき店主と話したのだが、部屋を弁償しろと言っていた」

「あー、やっぱりか」

「シリウスに責任は無いと説明したのだが、荒した者が行方知れずだからな。シリウスに払ってもらうと凄い剣幕だった」

「…まあ、仕方が無いか。後で払ってくるよ」

 

 全員が揃ったので朝食を頼み和気藹々としながら食べた。

 

「ふー、美味かった。今日はどうする?依頼を受けるか?」

「私は昨日の奴を取っ捕まえるつもりだ」

「捕まえるって…どこにいるのか分からないじゃない」

「なので誘い出すために町を適当に歩くよ。その後は役人に訴えたら捕まえてくれるだろ」

「…そうだ。いい事を思いついたぞ」

「それ、本当に大丈夫?」

「ルヴェンのいい事は大抵良くない事になる方が多い」

「あー!あー!聞こえないー!」

「それでどんな方法だ?」

「お?乗り気か?まずはな…」

 

 ルヴェンが思いついた方法は町中を歩き回るよりは成功率が高そうだった。

 

「よし、それで行こう」

「お前にしてはいい方法だったな」

「確かにね。普段からこうだったら苦労は無いんだけどねー」

「うるせー!最後は何とかなってたんだからいいだろう!?」

「…」

「リーサ?どうした?」

「…やっぱり、町を出てくの…?」

「…分かってたか」

「…うん」

「やっぱ昨日のあれが原因か?」

「あれが切っ掛けなのは間違いないけど元々王都に行く予定だったんだ。それが少し早まっただけさ」

「…遅かれ早かれ別れるのは必定か」

「…寂しくなるわね」

 

 ルヴェン達はいつか別れが来る事は分かっていたので寂しさはあるものの理解しているが一人だけ違った。

 

「…え、なんで…?シリウスおねえちゃん、いなくなっちゃうの…?うそだよね…?」

 

 ルーナが聞き間違いだと思ってシリウスに縋るように聞くがシリウスは何も言わなかった。それを見て本当だと分かりルーナは泣き出した。

 

「やー!いっちゃやだー!うわあああぁぁぁん!!」

 

 火が付いたように泣き出したルーナをリーサは何も言わずに抱き締めているがルーナが泣き止む事は無かった。

 ルーナの中ではシリウスはリーサと同じぐらい大切な存在になっておりもう一人の姉と思うほどだった。その大切なもう一人の姉が自分を置いて遠くへ行ってしまう。それが認められず、だが説得できる言葉も持たないのでルーナはただ泣くしかできなかった。ルヴェン達も気持ちが分かるので強くは言えず沈痛そうな表情を浮かべている。

 

「ルーナちゃん」

「やー!やー!」

 

 泣きながらシリウスの服を掴むルーナをシリウスは強く抱き締めた。前後から姉に抱き締められて声を上げる事はしなくなったがそれでも嗚咽を漏らしている。

 

「ルーナちゃん。私は今日、この町を出ていく」

「!?やー…!」

「聞いて。確かにしばらくの間別れる事になるけどずっとって訳じゃない。必ずまた会いにくるよ」

「やー…ずっと、いっしょ…」

「私も離れたくないけど、ここにいると悪い人が来ちゃうんだ。お願い」

 

 ルーナはそれ以降喋らずシリウスに抱き着いたまま嗚咽を漏らし続けた。泣き止んだ後は寂しさを押し殺すようにリーサに抱き着きリーサも強く抱き締めている。

 

「…さて、行こう」

「もういいのか?」

「これ以上いると決意が鈍る。準備してくる」

 

 シリウスは一度部屋に戻り荷物を持って戻ってきた。受付で部屋の修理代の3000リクルを支払った後皆と宿屋を出た。

 

「さてと…まずは人通りの多い所に行くか」

「今の時間なら市場がいいぞ」

 

 シリウス達は市場の方へ歩き出すと朝から宿屋を見張っていた昨日の男が少し後ろから後を追い始めた。露店が並ぶ市場に着くと自然と別れたように装ってルヴェン達と二手に別れた。

 

「来てるな…ピーニ、頼むぞ」

「任せなさい」

 

 人混みに紛れて荷物からピーニが出ていき露店の下に潜んで準備を始めた。シリウスは日持ちのする食料を買いながら男の様子を窺っている。男はシリウスから付かず離れずの位置におりシリウスが移動すると見失わないように移動し始めた。男が露店のすぐ傍を通った時に潜んでいるピーニが仕掛けた。

 

「今ね。じゃ、お願い」

 

 ピーニは宿屋にいた時から付いてきてもらった火の精霊にお願いして露店に火を付けた。

 

「…ん?か、火事だ!?」

「うわあああぁぁぁ!?」

「火を消せ!」

「わしの店が!?」

「水だ!水を持ってこい!」

 

 突如火事が起きて周囲にいた人達は阿鼻叫喚のパニックを起こしている。逃げる人混みに紛れてシリウスはピーニと合流してその場を離れた。男はシリウスを追い掛けようとするが逃げる人の波に押され身動きが取れなかった。火は小さかったのですぐに消されたが未だに動揺が広がっている。

 

「ボヤで済んで良かった…」

「ちくしょう!一体誰が火を!」

「あいつだ!あいつが火を付けたぞ!」

 

 周囲の人達が火を付けた犯人を捜そうとした時、人混みからルヴェンが男を指差しながら声を上げた。

 

「何!?本当か!?」

「本当だ!あいつがやったんだ!」

「私も見たわ!あいつよ!」

「な!?貴様ら!?」

「てめえか!?よくもやったな!」

「よくもわしの店を!」

「衛兵を呼べ!」

「こいつを抑えろ!」

「糞がっ!」

「逃げたぞ!」

「追え追えー!」

「逃がすなー!」

「市場で騒ぎがあると聞いて来てみたが、ええい!何が合った!?」

「役人さん!放火犯が!」

「何!?町の秩序を脅かす愚か者が!お前達!追え!絶対に逃がすな!」

「「「「「ハッ!!」」」」」

 

 ルヴェンが立案した作戦がボヤ騒ぎを起こしてその罪を男に押し付けるという作戦だ。火を付ける役目は火力の調整ができるピーニが、扇動する役目は町の人に顔を知られているルヴェンとセネディが、役人を市場に連れてくる役目は物腰が丁寧で役人相手でも対応できるエバンが担当し、リーサとエベッタとクルフは少し離れた所から万が一に備えてシリウスの護衛をしていた。作戦は見事に成功し男は衛兵と町の人達から追われ逃げるしかなかった。シリウスはその間に西門の方へ向かい、途中で皆と合流して全員で門から外に出た。

 

「…追ってきてなさそうね」

「まだ逃げ回っているのだろう」

「ここの役人はしつこいからな。きっと捕まえるまで追い掛けるぞ」

「本当に成功するとは思わなかったよ」

「凄かったなー」

「「…」」

「リーサ、ルーナちゃん。分かってくれ」

 

 作戦の成功に喜んでいる横でシリウスに抱き着いて離れないリーサとルーナをシリウスは説得していた。

 

「別にもう二度と会えない訳じゃない。必ずまた会いに行くよ」

「…絶対?」

「ああ」

「…約束、だよ」

「もちろんだ」

 

 リーサは何とか分かってくれたがルーナはシリウスの腰に抱き着いたまま一向に離れてくれなかった。

 

「ルーナちゃん、約束する。必ずまた会いに行くって」

「…ほんと?」

「ほんと」

「…ほんとにほんと?」

「うん。約束する」

「…やくそく」

 

 シリウスの誠意ある説得にようやくルーナは応じてくれた。シリウスはルーナをギュッと強く抱き締めてから離した。シリウスから離れるとルーナはまた悲しくなってきてリーサに抱き着いて悲しみを紛らわせようとしている。

 

「リーサ」

「わっ…!?」

 

 シリウスはリーサを抱き寄せて強く抱き締めた。

 

「リーサ、一人で抱え込むなよ。お前は一人じゃないんだから」

「…!…うん」

 

 シリウスの言葉に涙が溢れてきたリーサはシリウスを強く抱き締めた。一頻り抱き締め合い名残惜しいがお互いに離れた。

 

「ルヴェン、セネディ、エバン、世話になった」

「何気にするな。俺も楽しかったしな」

「またいつでも遊びに来なさいよ」

「道中気をつけてな」

「オラもまた来るだ!」

「おう、いつでも来い」

「まだ紹介しきれてない美味しい物がいっぱいあるからね」

「また来い」

「教えてもらった事は忘れないよ」

「毎日やれよ。お前は気を抜いたらすぐに忘れるからな」

「あら、サボってたの?駄目よ、続けないと」

「継続は力だ。頑張れ」

 

 それぞれと別れを告げてシリウス達はテトラニーアを旅立った。

 

「シリウスおねえちゃん!」

「必ずまた来るからなー!」

「絶対また来てねー!」

「気をつけろよー!」

「またねー!」

 

 ルヴェン達はシリウス達の姿が見えなくなるまで手を振り続けた。

 

「…行っちまったな」

「…そうね」

「…既に寂しい気持ちがあるな」

 

 シリウス達が見えなくなるとルーナは涙を溢しながらリーサに抱き着いている。

 

「グスン」

「ルーナ、シリウスと約束したでしょ。また会えるって。だからもう泣かないで」

「…うん」

 

 涙を拭ったルーナと一緒にルヴェン達は町に入り宿屋に戻ろうとしたが、その道中で住民達の会話が耳に入ってきた。

 

「ねえ、聞いた?第三市街で人が暴れてるって」

「聞いた聞いた!その暴れてる人って暗殺者らしいわよ」

「え、そうなの!?それは知らなかったわ…」

「細い針みたいなのを投げたり、瓶から毒を撒き散らしたりしてやりたい放題らしいわよ」

「それで軍が動いたのね」

「…もしかしたら領主様が狙われたのかしら?」

「あり得そうよね。領主様ってほら、あれだから」

「確かに。あれだからあっちこっちに敵を作ってるかもしれないわね」

 

 シリウスを狙った男は未だに捕まらず大暴れしながら逃げており、遂には軍までもが動員されて大事になっていた。

 

「…どうやらとんでもない事になってるみたいだな」

「軍まで動くって相当よ…」

「それほどの者に狙われているシリウスは一体何をしたのだろうな…」

「大丈夫かな…?」

「これだけ大騒動になってるから外に出た事はまだ気づかれていないと思うけどな…」

「あいつ一人とは限らないわよね…」

「…無事を祈るほかあるまい」

「シリウスおねえちゃん、だいじょうぶなの…?」

「きっと大丈夫だよ」

 

 ルーナにはそう言ったが内心リーサも心配でいっぱいだった。そのシリウスは皆の心配をよそにエベッタとクルフと共に何の不安も無く歩いている。

 

「良い人達だったなー」

「そうだね。領主はあれだったけど町の人達は皆良い人ばっかりだね」

「(約束がどんどん増えていくな。リヤンとミーリとラトミシアさんチュミーちゃんに加えてリーサとルーナちゃんも増えてしまった。守れるかね?)」

「ま~」

「まま」

「…ぁ、ぅぅ」

「(プルプル)」

「うん?どうした?ママは大丈夫だよ~」

 

 考え事をしていたシリウスを落ち込んでいるように見えたのか、子供達が心配そうに声を掛けてきたのでシリウスは大丈夫だと皆の頭を順に撫でた。

 

「さーて、王都までもう少しだな」

「後どのくらいだい?」

「あー…四、五日ぐらい、かな?」

「まだそんなにあるのかい…」

「大丈夫だ!歩いてたらその内着くだ!」

 

 出発して早々にゲンナリし出したクルフといつも通り元気なエベッタと共にシリウスは王都に向けて歩き出した。

 

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