転生したと思ったらママになっていた件   作:大神降ろし

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第六十九話

 

「うーん…ふわあ…ん?のわぁ!?」

「!!どうした!?敵襲か!?」

 

 ピーニの慌てた声で飛び起きたシリウスは短剣を握りしめてピーニの方を見た。そこにはポニーを見て驚いているピーニがいただけだった。

 

「なんだ、何もないのか。はぁ…驚かすなよ」

「驚くに決まってるでしょうが!何で天幕の中に入れてるのよ!?」

「何でって…子供を一人で外に放置なんてできないだろ?…ああ、驚かしてごめんな。よしよし、大丈夫」

 

 ピーニの声で飛び起きたのはシリウスだけではなかった。ポニーも驚いて飛び起きており何事かとソワソワして落ち着かない様子でシリウスは首筋を撫でて宥めている。

 

「ふえええぇぇぇ…」

「あー!」

「…ぅ、ぅぅ…」

「(プルプル)」

「ああ、皆大丈夫だよ。ほ~ら、よ~しよしよし」

 

 驚いて泣き出した子供達の大合唱が始まりシリウスは慌てて皆をあやし始めた。

 

「シリウスー、どうしただー?」

「エベッタか。いや、何でもない」

「そうかー?そろそろ飯にするだー」

「分かった」

 

 火の番をしていたエベッタも心配して声を掛けるほどの大合唱で落ち着かせるのにかなりの労力を要した。

 

「ふぅ…やっと落ち着いてくれた…全く、ピーニが騒ぐから朝から大合唱だ」

「あんたが変な事をするからでしょうが!」

 

泣き止ませておしめも変えてようやく落ち着いたポラリス達を抱き上げて外に出ると、エベッタが朝食を作っておりクルフも既に起きていた。

 

「おはようだ!」

「おはようシリウス。朝から賑やかだったね」

「おはよう。ピーニが変に騒いでな」

「私は悪くないわよ!」

 

 ピーニの抗議を軽く流しながらシリウスはポニーの朝食を食べさせている。

 

「シリウスー、こんなもんでいいだか?」

「どれどれ…ああ、これぐらいの薄さでいい。すまんな、この子達も分も作ってもらって」

「いいだいいだ!一つ作るのも二つ作るのも一緒だ!」

 

 大合唱していたのでしばらく掛かると思ったエベッタが気を利かせてポラリス達の朝食も作ってくれていたので、皆でエベッタが作った朝食のスープとパンを食べた。食事が終わった後、天幕などを片づけて王都へ向けて出発した。平坦な道を歩いたり、緩やかな坂を上がったり下がったりしながらひたすら歩いているが何も見えなかった。

 

「なーんも見えんな…」

「ぜぇ、ぜぇ…」

「いい天気だなー…オラ、眠くなってきただ…」

「寝るなよ。どうしても寝るなら寝ながら歩けよ」

「いや、それは無理でしょ」

 

 ポラリスとアトリアとスピカは心地良い陽気ですでに夢の中だ。カペラはポニーの頭の上に乗って楽しげにしており、ポニーも特に嫌がっていない。代わり映えがしない道をひたすら歩いていると前方に何かが見えてきた。

 

「何だ?」

「ぜぇ、ぜぇ…ど、どうした、ぜぇ、んだい…?」

「んー…」

「エベッタ、起きろ」

 

 近づくとそれは壊されて黒焦げになっている馬車だった。燃やされてからそれなりの時間が経っているらしくシリウスが触れても熱さは感じなかった。周辺を見ると身包みを剝がされた死体がいくつか転がっていたが数が少なく感じたので、シリウスが地面を調べると多種多様の複数の足跡があり、魔物がやってきて死体を食べたり、持ち帰ったと推測された。

 

「酷いな…」

「と、盗賊かい?」

「多分な。持っている物はもちろん、服も全部持っていかれてる。さらに死体は魔物に食べられたみたいだ」

「可哀想だ…」

 

 せめて残っている死体を埋めてやろうと穴を掘る事にした。

 

「(酷い世界だな…奴隷といい、盗賊といい…この国は大丈夫か?…皆は大丈夫だろうか…)」

 

 ブーナガストで助けた元奴隷の皆の事が頭を過ぎった。自分より強いだろうがこの前の追手が大勢来れば一溜りもない。

 そのシリウスが心配している元奴隷達はアールレディア近郊までやって来ていた。

 

「…やっとここまで来れたな」

「いやー…大変だったな」

「道なき道を掻き分けて…」

「時には空を飛んで…」

「時には川を泳いで…」

「魔物に襲われたり…」

「盗賊に襲われたり…」

「普通は一ヵ月以上掛かるところを二週間ほどで来たものな」

「…まあ、その、なんだ…悪かった」

「まあ、ラーゼルの気持ちも分かるからこれ以上は言わねえけどな」

 

 追手が来る前に何とかアールレディアに着こうとラーゼルは皆を説得して通常一ヵ月以上掛かる道のりを二週間ほどでやってきた。ラーゼルの気持ちもよく分かるし、捕まりたくないので皆も賛成したが、その道のりが険し過ぎたので全員疲労困憊だった。

 

「他の皆は大丈夫だろうか?」

「大丈夫だろ。別れる時にできるだけ急げって言ったんだろ?オイラ達と同じようにゴリ押しで進んでるはずさ」

「…反省してるからその辺にしてくれないか?」

「疲れましたー…」

「もう動けない…」

「あたた…足が痛え…」

「おーい、スープができたぞー」

 

 今はもう片方のグループを待ちながら森の中で休憩している。

 できたスープを飲んでいる皆の姿はシリウスと別れてからかなり変わっていた。奴隷商から奪った物資の他に道中で襲ってきた魔物を倒して手に入れた素材を偶々出会った行商人と物々交換して装備を手に入れたり、襲ってきた盗賊を返り討ちにしてそのままアジトを襲撃して物資を奪ったりしたので意外と装備や物資は充実している。見ただけでは奴隷とは分からず旅人やハンターにしか見えない見た目になっている。

 

「このスープも美味いんだけどさ…そろそろちゃんとした飯も食いたいよな…」

「それと柔らかいベッドで寝たい…」

「アールレディアに着けば美味い飯も柔らかいベッドもあるさ。もう少しの辛抱さ」

「…ん?誰か来るな…」

「どっちからだ?何人いる?」

 

 ラーゼルの言葉に全員に緊張が走り臨戦態勢を取った。

 

「…向こうから来るな。ん?この匂いは…皆、大丈夫だ。あいつらだ」

 

 茂みを掻き分けて現れたのはラーゼル達と別れたもう片方のグループだった。

 

「おう!そっちも全員無事だったか!」

「ああ。そちらも無事で何よりだ」

「いやー、道なき道を掻き分けるのは大変だったぜ」

「お?そっちもか。オイラ達もだ」

「ありゃ、そうだったのか?お互い大変だったな」

「つ、疲れた…」

「もう動けない…」

「お疲れ。スープでも飲んでゆっくりしな」

「ありがと…」

 

 道中の大変さを分かり合ったり、スープを飲んで一息付いたりしながら一時間ほど休憩した。

 

「…さて、そろそろ行くか。皆、準備はいいな?」

「「「「「おう!」」」」」

「「「「「はい!」」」」」

「よし、行くぞ」

 

 ラーゼルが先頭になって出発した。森を抜けて起伏が緩やかな丘をいくつも超えると遠くに巨大な町が見えてきた。

 

「見えた!アールレディアだ!」

「おお!遂に!」

「あそこに着けば本当の自由だ!」

 

 町が見えた瞬間、皆のテンションは上がり誰もが希望に満ちた笑顔を浮かべている。

 

「ふっ…むっ?」

 

 はしゃぎ出した皆を見て微笑んだその時、ラーゼルは僅かだが風に乗って嫌な臭いを嗅ぎ取った。

 

「ラーゼル、どうした?」

「…僅かだが匂いを感じた。アスティード、お前はどうだ?」

「ちょっと待てよ…」

 

 獅子の種族のレオネスと二足歩行する馬の種族のローシャンのハーフのアスティード・フェイルノーは目を閉じて匂いを嗅いだ。

 

「…確かに臭うな。これは…薬みたいな刺激物と…血だ」

「…おい、何か振動を感じるぞ。これは…馬だな。馬が走っている…複数の馬がこっちに向かっているぞ!」

「音も聞こえてきた!マズいんじゃないか!?」

「町に急ごう!走れ!」

 

 ラーゼルの声に皆が一斉に走り出した。アールレディアは既に見えているが、まだ距離があり全速力で走っても十分ほどは掛かりそうだった。ラーゼルが走りながら振り返ると遠くに馬に乗った十数人ほどの人影がこっちに走ってきていた。全員が黒の外套を着ており既にラーゼル達を捉えているらしく真っ直ぐ向かってきている。

 

「(向こうの方が足が速い!やむを得ん!)先に行け!」

「ラーゼル!?」

「いいから行け!」

 

 ラーゼルは腰の剣を抜いてその場に留まった。すると何人かはラーゼルの思惑に気づきお互いに目を合わせて頷いた。

 

「俺も付き合うぞ!」

「俺もだ!」

「お前達は先に行ってくれ!」

「でも!?」

「行くんだハルマス!町の守備隊を連れてきてくれ!頼んだぞ!」

「くっ…!すぐに連れてくるからな!絶対に死ぬんじゃないぞ!」

 

 一行の中で最も足が速いドラゴニュートとケンタウロスのハーフであるハルマス・ライジェットはアールレディアに向けて全速力で走り出した。他の者も何度も振り返りながらアールレディアに走り出した。

 

「すまんな。貧乏くじを引かせた」

「なに、気にするな」

「そうそう。俺達が好きでした事だ」

「どうしても気になるって言うなら一杯奢れ」

「ふっ…一番いいのを奢ってやる。だから死ぬなよ」

「へへっ…来たぞ!」

 

 追手は二手に別れており片方はラーゼル達に、もう片方はアールレディアの方へ向かっている。

 

「行かせませんよ!ぬおおおぉぉぉ!」

 

 ゴリラの種族のゴリオンと虎の種族のフーレンのハーフであるフログレス・ステイラーが近くにある岩を持ち上げてアールレディアに向かおうとしている追手達目掛けて投げた。

 

「何!?ぐわあ!?」

「くっ…!うわあ!?」

 

 次々に飛んでくる岩に当たる者や、避けた者の馬が驚いて立ち上がり落馬する者が続出した。

 

「ちぃ!あいつらから先にやれ!」

「殺すなよ!報酬が減る!」

 

 リーダーの指示で矢じりに薬が塗られている弓矢を取り出してラーゼル達を取り囲んだ。

 

「矢に何か塗られてるな」

「恐らく痺れ薬の類だろうな」

「当たれば動けなくなりそうですね」

「ったく…大盤振る舞いで嫌になっちまうよ」

「ふんっ…獣がごちゃごちゃと…やれ!」

 

 リーダーの掛け声と共に矢が一斉に放たれた。

 

「はあっ!」

「ふんっ!」

 

 ラーゼルとアスティードは剣を振るって矢を次々と落としている。他の者も盾で防いだり外套を振るって叩き落としている。

 

「ちっ、小癪な…たかが獣に何を手古摺っている!さっさと捕まえろ!一斉に掛かれ!」

 

 いくら射かけても当たらないので業を煮やしたリーダーが怒鳴って突撃を指示した。弓を仕舞って剣や短剣を取り出してラーゼル達に殺到した。

 

「遅い!」

「ぐあ!?」

「当たらねえよ!オラッ!」

「くっ!?がはぁ!?」

 

 ラーゼルは攻撃を避けてからがら空きの胴体に剣を突き刺し、アスティードは剣を受け止めて強引に弾き飛ばして袈裟斬りを放っている。二人は一行の中でも戦い慣れており追手の攻撃も難なく捌いているが、他の者達はそうはいかなかった。

 

「あぶねえ!?」

「この!近寄るな!」

「くそっ!こいつら強いぞ!?」

「速くて当たらん!」

「くっ…!このままでは…!」

「あの二体以外は大したことは無いな。さっさと捕まえろ。そうすればあの二体も大人しくなるだろう」

 

 ジリジリと近づいてくる追手に追い詰められていくフログレス達。ラーゼルとアスティードも囲まれて援護にいけず絶体絶命なその時、町の方から岩が飛んできた。

 

「うおぉ!?」

「な、何だ!?」

「うおりゃあああぁぁぁ!」

「ベナレットか!」

「見ろ!他の皆も!」

「ラーゼル達を助けるぞ!行くぞ!」

「「「「「うおおおぉぉぉ!」」」」」

 

 エルフとジャイアールのハーフであるベナレット・イーニアが近くの岩を持ち上げて投げまくり、追手達が怯んでいる間に町に向かっていた皆が加勢にきた。

 

「もう少しすればハルマスが守備隊を連れてくる!それまで耐えるぞ!」

「分かった!アスティード!俺達は突っ込むぞ!」

「おう!」

 

 仲間達が助けに来てくれたおかげで勢いを取り戻して一気に押し返した。

 

「糞がっ!獣の分際で!」

「おいどうする!?このままじゃ…!?」

「町の守備隊が来たぞー!」

「民間人を助けるぞー!守備隊!前へ!」

 

 ハルマスが数十人の守備隊をと戻ってきた事で追手達は逃げるしか手が無かった。倍以上の数の正規の軍隊と真正面からやり合うには流石に荷が重かった。

 

「おのれ…!この屈辱忘れんぞ…!」

 

 捨て台詞を残して追手達は逃げていった。守備隊の半分が追い掛けてもう半分はその場に残った。

 

「お前達、大丈夫か?」

「ああ、助かった。礼を言う」

「気にするな。町を守るのが俺達の仕事だ」

「皆!大丈夫か!?」

「安心しろ、ハルマス。誰も欠けていない」

「そうか、良かった…」

「ハルマスが守備隊を早く連れてきてくれたおかげで助かったぜ!」

「よせよ。俺は走っただけだよ」

「取り込み中悪いが少しいいか?」

 

 ラーゼル達が皆と無事を分かち合っていた時に守備隊の隊長が声を掛けてきた。

 

「仲間が襲われていると聞いて駆けつけたのだが、少し事情を聞かせてもらえるかな?」

 

 隊長がそう言うと守備隊がラーゼル達を囲むように動き出した。

 

「おいおい!?俺達は何もしてないぞ!?」

「そうよそうよ!」

「皆、落ち着け。これが彼らの仕事だ」

「不快に思わせたのなら謝罪しよう。だが先ほど言ったようにアールレディアを守るのが俺達の仕事だ。素性の分からない者を入れる訳にはいかん。ましてや先ほどの連中はかなりの手練れに見えた。そんな連中に追われていた君達を警戒するのは当然だ」

 

 隊長の言葉は厳しいものだったが至極当然なものだった。

 

「分かった。一から説明しよう」

 

 代表としてラーゼルが一歩前に出て事の顛末を説明し始めた。

 各地から攫われて奴隷にされた事、買われて売られてを繰り返した事、ブーナガストで逃げ出した事、自由を求めてアールレディアに来た事、全てを包み隠さず話した。もちろん自分達がハーフである事も含めて。

 

「ラーゼルよ。全部話す必要があったか?」

「そうよ。ハーフである事は話さなくてもよかったじゃない」

「いや、隠し事があれば疚しい事をを考えているのではと疑われる。敢えて全部話した方が後々困らなくてすむ」

「そうだけどよ…見ろよ。あちらさん、頭抱えてるぜ」

 

 隊長は思っていた以上の厄介事に頭を抱えていた。受け入れればプトグロア伯爵から圧力が掛かるかもしれず、先ほどのような裏社会の者がアールレディアに来て良からぬ事をする可能性がある。受け入れなければアールレディアが掲げる理念に反してしまう。

 

「…これは俺では判断がつかんな。悪いが正門まで来てもらえるか?上の者に聞いてみる」

「分かった」

 

 隊長では判断が付かないので上司の役人に全て押し付ける事にした。守備隊の先導でラーゼル達はアールレディアの正門に向かった。正門の前ではアールレディアに入るための長い行列ができていた。隊長はその横を通って門の中に入っていき、しばらくすると役人と思しき制服を着た中年の男と一緒に出てきた。

 

「彼らが?」

「ええ。事情はさっき話した通りです」

「ふむ…失礼だがこの町に来た理由は?」

「自由のために」

 

 役人の質問にラーゼルは即答した。役人はラーゼルの目を見て、後ろにいるハーフ達を見て、再びラーゼルを見た。

 

「…嘘を付いている目ではない。そして疚しい事を隠している訳ではない、か。いいでしょう。入場を許可しましょう」

「本当か?感謝する」

「入れるぞ!」

「やったー!」

「これで自由だ!」

 

 自由を得て手を取り合って喜びを分かち合うラーゼル達。

 

「…よろしいので?」

「構いません。アールレディアの理念は〈全種平等〉。彼らだけを排斥するなどできませんよ。仮にプトグロア伯爵が何かしてきても公爵様が何とかしてくれます」

「…それっていいんですか?」

「構いません。公爵様が仰ってらしたので」

 

 何か合ってもアールレディアを治める公爵がどうにかしてくれると役人は押し付ける気満々で隊長はそれに少し引いていた。ラーゼル達がアールレディアに入る事ができた時、シリウスは王都へ向けてひたすら歩いていた。

 

「…?何だ?」

「どうしただ、シリウス?」

「いや…何かとても良い事が起きたような、そんな気が…」

「んー?良い事が合っただか?」

「うーむ…よく分からん。まあいい、その内分かるだろ。ほらクルフ、早く来い。置いてくぞ」

「ぜぇ、ぜぇ…ま、待ってくれぇ…」

 

 王都まではまだまだ遠い。

 

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