転生したと思ったらママになっていた件   作:大神降ろし

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お待たせしました。
今回はいつもより少し長めです。



第七話

 

 ようやく平原を抜けて現在は森の中を歩いている。

 始めに歩いた森とは違いちゃんと道があるので歩きやすい。

 

「道もしっかりし出したし、こりゃ村か町が近いな。良かった良かった」

 

 多くの人によって踏み固められた道を歩くシリウス。

 

「あん?何だあの猿…」

 

 ふと上を向いたら木の枝の上に猿っぽい見た目の魔物がいた。

ただ動物の猿と違い、手足が長くて太く牙も生え顔もかなり強面の猿型の魔物だった。

 猿の名前は“フォレストエイプ”と言い、森の奥に生息している魔物。単体ならそこまで脅威ではなく初心者でも何とか対処は可能だが、複数で来られるとチームワークが非常に厄介で犠牲者もそれなりに出ている。シリウスが出会ったのは偶々単独行動していた個体で大きさも成体よりは小さめの若い個体。

 そのフォレストエイプとシリウスの目と目が合った。

 

「ウキッ?」

「あぁ?(何か腹立つ顔だな…)」

 

 魔物の方は首を傾げながら不思議そうにし、シリウスの方は眉を上げて不快そうにした。

 

「何ガン飛ばしてんだ毛むくじゃらが」

「キッ!?ムギー!」

 

 無性に腹が立ちつい喧嘩を売ってしまった。

 シリウスの罵倒に魔物は何か分からないがバカにされたと思ったのか腕を振り上げて怒っている。そのままの勢いで枝から飛び降りてシリウスに襲い掛かった。

 だがシリウスは冷静に魔物を見つけた時に拾い右手に隠し持っていた石ころを魔物の顔目掛けて投げ付けた。

 

「ムギャ!?」

 

 さすがの魔物も顔に手のひらサイズの石がぶつかれば怯み、空中で体勢を崩し地面に激突した。シリウスはその隙を逃さず腰にぶら下げている鉈を手に持ち魔物の顔面に全力で振り下ろした。

 

「ふんっ!」

「グギャッ!?」

 

 魔物の頭を半ばまで割り魔物はそのまま倒れた。

 ブラッドファングの時に躊躇いは死を招くと悟り、殺す事の忌避感や肉を裂く嫌な感触に耐えつつ魔物を殺した。

 

「慣れねえな、やっぱ…慣れたくもないが」

 

 血の付いた鉈を見ながら呟き、溜め息を吐きながら鉈に付いた血を振り払った。血を払う仕草に実はちょっとカッコイイと思いながらポラリスを見た。怯えたりしていないかと確認してみたが、平然としておりシリウスの顔を見て首を傾げている。

 

「う~?」

「お前さんは大丈夫そうだね…将来は大物になりそうだ」

 

 何となく鉈を振るった右手で撫でるのは気が引けたので額を合わせてあやしている。いつまでも死体の傍には居たくは無いので、あやすのは切り上げて歩き始めた。しばらく歩いていると森を抜けた。

 抜けた先にそれなりの規模の町が見えた。

 町の名前は“ターエル”。5mほどの壁で囲われたこの辺りで一番大きな町だ。

 昔、この辺りは森に覆われており魔物も多く生息していて人が住めるような環境ではなかった。そこを訪れたのは一組の夫婦だった。

 夫の名前は“ターレル”、妻の名前は“フェエル”。

 住んでいた村で村八分にされこの地に逃げてきた。散々な目にあったが夫婦は決してめげずむしろここを開墾して自分達の町を作ろうと一大決心をした。

 木を切り倒し、家を建て、畑を作り、岩を壊し、魔物を退け、壁を作り、少しずつ規模を広げていった。

 やがて噂は広がり人が集まり始め、町として機能し始めた。

 決して楽な道ではなく、幾度となく災難が降りかかってきた。魔物の襲来、豪雨や強風による家屋の半壊、動物による畑の被害、住民同士のぶつかり合い、あげればキリがない。だがそれでも夫婦の超ポジティブ精神によってめげる事なく邁進し続け、住民達もそれに引っ張られるようについていった。

 そして誰の目から見ても立派な町へと成長した。夫婦は遂にやり遂げた。

 領主からも町として認められ夫婦は初代町長として就任し町の発展に生涯を尽くした。彼らの功績を称えて広場には夫婦の銅像が建てられ今尚住民から愛されている。

 そんな逸話が残る町へ向かうシリウスだったが背後から妙な気配を感じた。

 

「…?何だ?何か騒がしいような…何か来るのか?」

 

 森の方で何かが騒ぐような音が聞こえ始めた。

 首を傾げているシリウスだがふと先程の出来事を思い出した。

 

「あっ…もしかしなくてもさっきのあれか?仲間が戻ってこなくて見にきたら死んでたから騒いでるのか?ヤベェ…逃げるんだよ~!」

 

 匂いを辿ってこっちに来ると判断しシリウスは全速力で街に走り始めた。

 チラホラと人が歩いている姿が見受けられ走るシリウスに首を傾げている。

 

「ん?何だ?」

「どうした?」

「いや、あの子…」

「すげえ走ってるな。しかも顔が必死だ」

「後ろから何かk…って!?おい、魔物だ!」

「マジかよ!?逃げろ!!」

 

 後ろから追いかけてくるフォレストエイプに他の通行人も気付きだしてシリウス同様に町へと走り始めた。十数頭ほどが怒りを浮かべながら匂いの元を追いかけている。

 町の門番も様子のおかしい通行人に気付いた。

 

「何かおかしいな…あれは!?魔物だ!魔物が来るぞー!!」

 

 大声で叫び周囲に危機を知らせた。

 門の近くにいた人々は大急ぎで町に入り、待機していた兵士達が外へ出ていく。

 

「急げ!こっちだ!」

「盾構えろ!来るぞっ!」

 

 盾を構えて待ち構える兵士の間を逃げる人々が通っていく。

 一番後ろにいたシリウスも通りその直後、兵士と魔物の戦いが始まった。殴打と爪の攻撃を何とか盾で受け、槍や剣で応戦している。しかし兵士達の練度が高くないのか苦戦を強いられており、少しずつ負傷者が増えていく。

 

「くそっ!このままじゃ!しまっ!?」

「一体抜けたぞー!」

 

 動きが鈍った兵士の脇をすり抜けて一体の魔物が町目掛けて駆けだした。仲間を無残に殺した奴を同じ目に合わせてやると怒りに満ちた目をしている。仲間の血の匂いが付いたシリウスにターゲットを絞り雄叫びを上げながら殴りかかった。

 

「ええいっ!ままよ!」

 

 このままでは避けられないと判断したシリウスはスライディングをするように滑り髪の毛を掠ったがギリギリで回避した。そのままポラリスに気を付けながら身体を無理矢理捻り右手に持った鉈を魔物の腕に叩きつけた。

 

「ギギャ!?」

「ちぃ!浅いか!」

 

 鉈は腕を切断できずわずかに肉に刺さっただけで止まった。それでも思いもしない反撃に魔物は怯み逃げるだけの時間と応援が来るまでの稼ぐことができた。

 

「はあっ!」

「グギャアアアァァァ!?」

 

 町から走ってきた男が気合と共に剣を振った。

 魔物の身体をいとも簡単に切り裂き苦悶の声を上げ倒れる魔物に容赦なく剣を突き立てトドメを刺した。

 

「早く逃げろっ!後は僕達が引き受けるっ!」

「よーし!てめえら!気合い入れろっ!」

「「「「「応!」」」」」

 

 金属の鎧を着て剣を持った青年、魔物の皮の鎧を着て斧を持った中年男性、ローブを着て杖を持った女性、皮の肩当を着て弓矢を持った女性、聖職者風の衣装を着た女性等々。統一性の無い様々な見た目の人達が集まった。

 彼らに共通するのは首から下げられているペンダント。

 彼らはハンター。シリウスが言っていた冒険者的なものである。

 様々な人々から依頼を受け達成する事で報酬を得る何でも屋でもあり魔物退治のプロフェッショナルでもある。職業上魔物と戦う事が多い彼らハンターにとってフォレストエイプは既に慣れた相手だった。

 

「こいつらは連携してくるぞ!一体一体確実に仕留めろっ!」

「弓はドンドン撃て撃て!魔法はトドメ役だ!合図したらすぐに撃て!」

「おらおらおらっ!下がりやがれっ!このエテ公がっ!」

「てめえらなんぞお呼びじゃねえんだよっ!」

「よっしゃ今だ!」

「下がって!【ファイアーボール】!」

 

 剣と斧と槍で応戦し、矢が縫うように飛び、火球がトドメを差す。

 ハンター同士連携し合って次々と魔物を仕留めていく。傷付いた兵士は門の方へ下がり、そこにいた聖職者風の衣装を着たハンターに治療されていた。

 

「大丈夫ですか?」

「あ、ああ。少し引っ掻かれただけだ。そんなに深くない」

「そうですか。少し失礼…これならすぐ治ります。【ヒーリング】」

 

 ハンターが手をかざすと淡い光が傷口を覆い少しずつ傷が塞がっていく。

 シリウスはハンター達の戦いや魔法に目を奪われている。

 

「すご…」

「おう嬢ちゃん、わかってるじゃねえか」

「だよなあ。やっぱハンターはすげえな」

 

 独り言のつもりだったが、隣にいた男性達に拾われた。

 

「ハンター?」

「なんだ?嬢ちゃん知らねえのか?」

「村から出た事が無いもんで」

「ああ~、それならしゃあねえか…ハンターってのはな、簡単に言えば何でも屋みてえなもんよ。誰かから依頼された仕事をこなして金を得る。後は魔物を退治して素材を売ったりとかな」

「そうそう。おかげでこっちも助かってるぜ」

「仕事も魔物退治だけじゃなくて薬草採取だったり、商人の護衛だったりもあるぜ」

「後荷物運びの仕事もあったぜ。俺この前見た」

「そんな事も依頼されるんですか?」

「ああ。ハンターならギルドが身分を保証してくれるからな。依頼する方も安心できるもんよ」

「普通に人を雇うと下手すりゃ金を盗られたり荷物を持ってかれたりする事もあるしな。多少割高でもそっちを取る奴は結構いるぜ」

「もし盗んだ奴がいてもギルドに報告すればすげえペナルティが課されてな。最悪登録抹消なんてこともあるからな、やる奴はほとんどいねえよ」

「へぇ~」

 

 シリウスはこれ幸いと男性達にハンターの事を聞き情報を得ている。話しているうちにハンター達は魔物をあっという間に退治した。

 様子を見に来た住民や逃げてきた通行人から歓声が上がった。

 ハンター達は手分けして魔物の解体や死体を一ヶ所に集めて焼却処理している。

 

「やっぱり死体は燃やすんですね」

「まあな。血の匂いで他の魔物が来ても困るし虫も集るしな。ほっといても良い事なんてないからよ」

「うへえ。俺、こういうの正直苦手だ…嬢ちゃんは大丈夫そうだな…」

「ええ、まあ(慣れたくは無かったけどな)」

「その歳ですげえな…」

 

 シリウスが男性達と話していたらハンターの青年がシリウスの方へ近づいてきた。

 

「すまない。これは君の物だろうか?」

 

 その手にはシリウスの鉈が持たれていた。

 

「あ、はい。私のです。わざわざありがとうございます」

「いや、気にしなくていい。間に合って良かった」

 

 青年は爽やかに笑いシリウスの無事を喜んでいた。

 甘いマスクと爽やかな笑顔を浮かべる青年に見ていた女性陣から黄色い声援が飛び交った。ただ目の前にいるシリウスには何の効果も無かったが。

 

「(男だったら嫉妬する顔だな…女だけど何も感じないな。やっぱ私は前世男だったのか?)」

「しかし一人でしかも子連れとは…誰かと一緒には来なかったのかい?」

「いや、まあ、村が盗賊に襲われて壊滅しちゃいまして…」

「!?それは…すまない。配慮が足りなかった」

「いえ構いませんよ(村で過ごした記憶無いしな)」

「それと…申し訳ないが君の村の場所を教えてくれないか?」

「?それは構いませんが…どうしてです?」

「実は僕達は盗賊団の討伐の依頼を受けていて、君の村を襲った連中がそれではないかと思ってね。もちろん謝礼はする」

 

 かなりの熟練であろうハンターが何かしらな事を叶えてくれる。

 思わぬところで幸運が舞い降りてきたのでシリウスはしばし考えた後謝礼の内容を答えた。

 

「では…ハンターについて詳しく教えるのと多少手解きをお願いしたいのですが」

「教えるのは構わないが…手解きというのは?」

「まあ…子連れで一人旅ですので多少戦えないと生き残れないですし。頼れそうな人はいないので」

「…そうか、わかった。ただ依頼が終わってからになるが構わないかな?」

「ええ、大丈夫ですよ」

「では少し待っていてくれ。仲間を呼んでくる」

 

 青年は魔物の処理をしている仲間の元へ走っていった。少しして青年が仲間を連れてシリウスの元に戻ってきた。

 青髪の青年を先頭に短い金髪の斧を持った大男、長い銀髪の杖を持った女性、長い金髪の弓矢を持った女性、淡い水色の長髪の女性。中々に濃いメンバーがやってきて注目してくるので流石にシリウスも若干尻込みしている。

 

「ああ、怖がらせてすまない」

「そらこんだけ雁首揃えて押し掛けりゃ怖がるだろ」

「いや、どう見てもあんたの顔でしょ」

「何でだ!?渋くてカッコイイだろうが!」

「そう思ってるのはお前だけだ」

「むしろあなたのお顔は怖いですよ」

「かぁーっ!わかってねえなおめえら!」

「皆落ち着け。話が進まないだろ?」

 

 怖いとは思っていなかったシリウスだったが、愉快なやり取りを見て緊張が解けた。

 

「ごめんね、騒がしくて。それであなたの村の場所なんだけど…」

「ああ、はい。ここから森の方へ行き平原を道なりに行った所です」

「森の方…道なり…ああ、あっちの方ね。あっちの方はまだ調べてなかったわね」

「多分襲われてから2.3日は経っていると思いますよ」

「おいおい、ずいぶん他人事みてえに言うじゃねえか。おめえさんの村だろ?」

 

 記憶が無いので他人事みたいに言ったのが引っ掛かったのか大男が訪ねてきた。他の仲間も気付き視線をシリウスに向ける。

 

「いやあ、実は襲われた辺りから記憶が無くてですね。断片的には覚えてたりするんですけど…」

 

 シリウスは頬を掻きながら何てこと無いように言ったが周囲はそう取れなかった。

 盗賊の襲撃で見知った村人や家族が殺されさらに村で過ごした幸せな記憶まで無くした。それでも彼女の子供か兄弟姉妹か村人の誰かの子供かはわからないが赤子のために笑顔でいて強くなろうとしている。

 大男は聞いてはいけない事を聞いてしまったように罰が悪そうな顔をし、青年は俯き拳を強く握り、銀髪の女性は悲しそうな顔をし、金髪の女性は気遣うような視線をチラチラと寄越し、薄青髪の女性は口を手で覆い目を涙で滲ませている。

 話を聞いていた周りの人達も悲しそうな表情を浮かべており中には涙ぐんでいる人もいる。

 

「ああ~…悪い。配慮が足りなかった」

「いえ、全然大丈夫ですよ」

 

 大男が頭を下げて謝罪しシリウスは笑顔で軽く許したがその言葉すら周囲の人達の心に刺さっている。周囲の様子がおかしい事に気付いたシリウスだったが自分の話した事が地雷だという事には気付いていなかった。

 

「(何かお通夜みたいな雰囲気になってるんだけど…私、何かしちゃいました?)あの~大丈夫ですか?」

「…あ、ああ。すまない。大丈夫だ、気にしないでくれ」

 

 シリウスが声を掛けると青年が応対してくれた。

 だが表情は一緒だが目に力が入っていた。

 この少女と子供のために必ずや盗賊団を討伐してみせる、少女のためなら自分が出来る事は可能な限りしようという強い意志が篭った目だ。他の仲間や周囲の人達も程度の差はあるものの似たり寄ったりな目をしている。

 一体何が琴線に触れたのか分からないシリウスはこちらを見てくる目に落ち着かなくなってきた。

 

「あ、あの…そろそろ私、行きますね」

「ああ、手間を取らせて悪かったね。ゆっくり休むといい」

 

 シリウスは早足で町へと向かったが町民達に捕まりもみくちゃにされていた。

 その光景を眺めていた青年だったが、やがて仲間たちの方を向いた。

 

「…彼女のために必ずやり遂げるぞ」

「応よ。あんな話聞かされちゃ黙ってられるかってんだ」

「当然よ…!絶対許さないんだから…!」

「いいだろう。今回は本気でやってやる」

「私も頑張ります!」

 

 義憤に燃える仲間達と共に必ずやり遂げる事を誓い合った。

 

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