転生したと思ったらママになっていた件   作:大神降ろし

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第七十二話

 

 昼食を食べ終わった一行はその後も散策を続けた。ちなみにレネイはステーキを食べきれなかったので残ったステーキはシリウスが食べた。

 野営道具が置いてある店や保存食を売っている店やポーションを売っている店などを見て回った。他の町にもあるが品揃えが違うので見応えがあり、助言を受けつつシリウスもいくつか購入した。買ったのはウェズンの手綱と追加の魔物避けと傷を回復するポーションと状態異常を回復するポーションだ。状態異常回復は聖水があるが中々希少品らしいので使うのがもったいないのでポーションの方を買っておいた。店だけでなく市民の憩いの場の噴水広場や荘厳な大聖堂なども見て回り充実した一日を過ごした。

 

「シリウスちゃーん!またねー!」

「じゃあなー!」

 

 夕方になったので解散となりシリウス達が泊っている宿屋の前でルゥト達と別れた。

 

「美味い物が食えて満足だー」

「色々な物が見れて楽しかったよ!」

「中々良い装備は見つからんな…」

「!!戻ってきたな!」

「うぇ!?な、何だい!?」

「どうしただー?」

「ん?」

 

 シリウス達は宿屋に入ると恰幅のある大柄な男が怒りの表情を浮かべながらシリウス達に近づいた。

 

「てめえか!俺が丹精込めて作った料理にいちゃもんを付けやがったのは!?」

「いちゃもんって…味が薄いスープは無いか聞いただけでしょうが」

「うるせえ!それをいちゃもんって言うんだよ!挙句の果てには俺の作ったシチューを台無しにしやがって…!」

「台無し?」

「あー…ほらシリウス、水を入れた事じゃないかな?」

「あれだけでか?」

「よくも俺の料理を滅茶苦茶にしやがったな…!」

「そっちの言い分の方が滅茶苦茶なんだけど…」

「うるせえ!てめえなんて客じゃねえ!とっとと出てけ!」

「出てけって…そりゃ店主が決める事だろ?」

「俺が店主だ!この宿屋の中じゃ俺がルールだ!」

「あ、そう…はぁ…分かった分かった。出てくよ」

 

 プライドが高過ぎて話が通じない店主とのやり取りに面倒臭くなってきたシリウスは宿屋を変える事にした。部屋に戻り荷物を纏め受付で鍵を返した後宿屋を出ていった。

 

「ふええええぇぇぇ…」

「ぐすっ、ひっく…」

「…ぅ、ぅぅ…」

「よしよし、怖かったね~。もう大丈夫だよ~、よしよし」

 

 買った手綱をウェズンに付けて厩舎から出しながら店主の怒鳴り声に泣いたポラリスとアトリアとスピカをあやしている。

 

「シリウスー、これからどうするだー?」

「取りあえず他の宿屋を探さないとな。最悪野宿だな」

 

 心配で付いてきたエベッタとクルフと一緒に他の宿屋を探して歩き回っている。だが通りに面した所の宿屋は既に満室ばかりで中々見つからなかった。

 

「うーん…見つからんな」

「どうする気だい?このままじゃ野宿だよ」

「まあ、何とかするさ。二人は戻りな。見つかったら明日教えるから。取りあえず朝食を食べ終わったらギルドに集合な」

「気をつけるだよー」

「また明日ー」

 

 日が暮れ始めたのでエベッタとクルフを宿屋に帰してシリウスは再び歩き出した。通りから外れた場所を探そうと目に付いた道に入り当ても無く歩いている。

 

「マジで見つからんな…本当に野宿か?」

「―――!」

「ん?」

 

 自分で言ったが野宿は嫌だなと思っていたら言い争う声が聞こえてきた。

 

「イヤッ!放して!」

「おいおい、いいじゃねえかよ~」

「俺達と仲良くしようぜ~」

 

 通りから覗いてみるとシリウスと同い年ぐらいの少女をチンピラみたいな風貌の男二人がナンパしていた。男達は少女を無理矢理連れていこうと手首を掴んでおり少女は必死に抵抗している。

 

「なんというベタなシチュエーション…こういう時に限って巡回がいないんだよな…はぁ…行くか」

 

 見てしまった以上見殺しにはできないので介入する事にした。

 

「はーい、そこまでー」

「ああ?何だ?」

「おいおい、邪魔するんじゃねえよ」

 

 シリウスは男達に近づき少女の手首を掴んでいる男の腕を掴んだ。割り込んできた不粋な者に男達はドスの効いた声色で凄んでいる。少女は拘束が緩んだ隙に逃げ出しシリウスの背に隠れた。

 

「嫌がってるでしょうが。それに同意無しで連れていくのは犯罪ですよ」

「はあ?おいおい、正義の味方気取りか?」

「…よく見れば中々可愛いじゃねえか。俺達と仲良くしてくれるなら許してやってもいいぜ?」

「はぁ…そんなので本当に女性が付いていくって思ってるんですか?冗談は顔だけにしてくださいよ」

「んだと!?」

「このアマが!痛い目を見なきゃ分からねえみてえだな!」

「あ、危ない!」

 

 シリウスの言葉に逆ギレした男達はシリウスに掴み掛ったがあっさりと避けられた。

 

「ふんっ!」

「ふぐぉ!?」

 

 隙だらけの男の腹を抉るように殴り男は悶絶して膝を付いている。

 

「てめえ!」

「遅い」

 

 殴り掛かってきた男をシリウスは軽々避けて後ろに回り込み男の尻を思いっきり蹴り飛ばした。

 

「うおっ!?ぬわあああぁぁぁ!?」

 

 男は道端に積み上げられていた荷物に頭から突っ込み崩れ落ちた荷物の下敷きになった。

 

「はい終わり」

「す、凄い…!」

「あ、大丈夫でしたか?」

「えっ!?あ、はい!あ、あの、助けてくれてありがとうございます!」

「いえいえ。勝手に頭を突っ込んだだけですので」

「ま~」

「ままー」

「…ぁ、ぅ…」

「ブルルル…」

「大丈夫だよ~、もう終わったからね~。それじゃ私はこれで」

「あ、あの!な、何かお礼を!」

「え?いやいや、そこまでしなくてもいいですって」

「そ、そういう訳には!?あっ!夕食はまだですよね!?わ、私の家、宿屋をしてるんです!そこでご馳走します!こっちです!」

「あ~れ~」

 

 押しが強い少女に手を引っ張られて歩く事数分ほどで少女が営んでいる宿屋、“新緑の安らぎ亭”に着いた。通りから少し離れているので立地的には少し悪いが外観はちゃんとしている。中に入ると夕食時もあって近所の人達で賑わっていた。

 

「お父さん!お母さん!お爺ちゃん!お婆ちゃん!」

「(家族で経営してるのか?)」

「おお、コルル。帰ったか」

「お帰り、コルル」

「ずいぶん遅かったな」

「また装飾品でも見てたんじゃないだろうね?」

「違うわよ!そこで知らない男の人達に連れ去られそうになって…」

「な、何じゃと!?」

「大丈夫なのかい!?」

「どこか痛いところとかは!?」

「きゅう…」

「お母さん!?しっかり!?」

「おいおい、何の騒ぎだ?」

「女将が倒れちまったぞ?」

「大丈夫なのか?」

「父さん達、何の騒ぎだい?」

「ずいぶん騒がしいけど…」

「どうしたの?」

「なになに~?」

「どうしたの~?」

「(いっぱい出てきたな~…)」

 

 騒ぎを聞きつけて少女、コルルの兄弟姉妹が奥や二階からぞろぞろと出てきた。シリウスは入り口から顔を出しているウェズンを撫でながら落ち着くのを待っている。ウェズンと戯れる時間がそんなに取れていなかったからかウェズンがやたらと甘えてくる。

 

「フフフ…どうした、そんなに甘えて」

「ブルブル…」

「寂しかった?ごめんな。うーむ…いっそ私も厩舎で寝るか?」

「あのー…」

「はいはい、何ですか?」

 

 気絶した母親も起きてコルルから事情を聞いた後家族一同がシリウスに向き直っている。

 

「娘を助けてくださって本当にありがとうございます!」

「ありがとうございます!あなたは娘の命の恩人だわ!」

「いやいや、言い過ぎですって」

「そんな事無いわ。あなたがいなければ孫がどうなっていたことか…」

「最近は治安も少しずつだが悪くなってきておっての…明るい時でも悪い連中がウロウロするようになったのじゃ…お嬢さんも気をつけなされよ」

「そうなんですね。ご忠告ありがとうございます」

「お父さん!お母さん!この人にお礼したいの!何かご馳走してあげて!」

「おお、そうだな。待ってろ、すぐに作ろう」

「さあさあ、こちらに座ってお待ちください」

「おや、馬をお持ちでしたか。サハル、厩舎に連れていって上げてくれ」

「分かったよ、爺ちゃん」

「ウェズン、また後で行くからいい子で待っててくれ」

「ブルルル…」

 

 コルルの兄のサハルに連れられてウェズンは裏手の厩舎に向かった。シリウスはコルルと同じく押しが強い家族によって席に着かされた。

 

「おや、そのペンダントは…なんと、ハンターでしたか」

「ええ!?ハンター!?」

「すげぇ!」

「コルルと同い年ぐらいなのに…」

「ハンターだ!」

「すごーい!」

「はあ…(そんなに驚く事なんだろうか…?)」

 

 シリウスとコルル達の間にはかなり温度差があった。魔物や盗賊などと戦うハンターは常に命の危機が伴う危険な職業でそれをコルルと同い年なシリウスがしている事に驚いている。だがシリウスは手っ取り早く身分証明ができて色々と縛られない身軽な職業だと思っている。魔物や盗賊と戦う事に関してはどこにいてもその危険と隣り合わせだと思っているので特に気にしていない。

 料理ができるまでコルルの一番下の妹達から質問攻めにあってしまった。

 

「どこから来たの~?」

「ターエルだよ。ここからとっても遠い所」

「どんな魔物倒したの~?」

「あー…悪い事をした大きなお猿さんや大きな蛇さん、かな」

「それ見せて~!」

「ペンダント?いいよ」

「キラキラだ~」

「いいな~。あっ!剣見せて~!」

「危ないからだーめ」

「ええ~、ケチ~」

「こら、セイル、セネル。お客様を困らせちゃ駄目」

「「は~い」」

「妹達がごめんなさい」

「いえいえ」

 

 和気藹々としながら喋っていたら料理が完成して運ばれてきた。

 

「はい!お待たせ!」

「いっぱい食べておくれ!」

「おうふ…」

 

 運ばれてきた料理はトロトロのビーフシチューと卵がたっぷり使われた野菜のキッシュと大きな魚を丸々一匹使った香草焼きとフワフワのパンだ。ポラリス達用にもスープと摩り下ろした果物が作られていた。

 

「すげえ量…」

「食べきれるのかな…?」

「ちょっとお父さん、お母さん!作り過ぎよ!」

「いやあ…張り切っちゃって…」

「気がついたらこんなになっちゃったわ」

「やれやれ…無理して全部食べなくてもよいからの」

「そうですよ。余ったら私達がいただきますので」

「あー…まあ、頑張ります。いただきます。ポラリス~、あ~ん」

「あ~。あ~♪」

「アトリア~、あ~ん」

「あー。あーい♪」

「スピカ~、あ~ん」

「…ぁ、ぁー…」

「(カペラとピーニには視線が切れた時に食べさせよう)」

 

 昼食の時から我慢させているので何とか食べさせたちと思っているが、コルルとセイルとセネルがシリウスが食べるのをジッと待っているので駄目そうな予感がしている。

 

「あむっ。うまっ」

「本当!?良かった!」

「美味そうな料理だな…俺もシチューくれ!」

「俺は香草焼きだ!」

「あのキッシュをくれ」

「えっ、あ、はーい!それじゃゆっくり食べてください!セイル、セネル、行くよ!」

「「は~い!」」

 

 シリウスが食べている料理を他の客も食べたくなったのか注文が入りコルルは対応するために妹達と共にシリウスから離れた。

 

「カペラ、ピーニ、今のうちだ」

「(プルプル)♪」

「うっま!このシチュー、うっま!」

「静かに食え、静かに」

 

 美味しそうに食べるカペラとピーニにホッとしながらポラリスとアトリアとスピカに食べさせている。皆が満足してからシリウスは残った料理を食べた。

 

「ふ~、食べきれた…お腹いっぱいだ…」

「あの量を食べるなんて…」

「凄いな…流石ハンター」

 

 ハンターになってから毎日欠かさず訓練をし、依頼で魔物と戦ったり、町から町へもひたすら歩いているのでその分エネルギーを補充するのに食事量が増えた。食べる量が増えてもそれ以上に動いているので太る事無く理想的なスタイルを保っている。

 

「(心なしかスタイルが良くなっている気がするんだが…良くなっても困るんだが…)ポラリス、アトリア、スピカ、お腹いっぱいになった?」

「あ~♪」

「あーい♪」

「…ぅ、うん…」

「そっかそっか。あ、すいません。ここって宿屋もしてるんですよね。一部屋空いてますか?」

「ええ、空いてますよ」

「なら取りあえず三日お願いします。場合によっては延びるかもしれませんが」

「まあまあ、ありがとうございます。でしたら…孫の命の恩人ですし、一泊1500リクルのところを500リクルにさせていただきます」

「…有難いんですけどいいんですか?」

「もちろん構いません。大切な孫を助けてくれたのですから、これぐらい安いものです」

「…そこまで仰るなら」

「コルル、お部屋までご案内してあげて」

「分かった!こっちです!」

 

 シリウスは1500リクルを支払い部屋の鍵を貰ってコルルに二階の部屋まで案内された。

 

「ここです!」

「おー、綺麗」

 

 部屋は昨日まで泊まっていた部屋よりも綺麗にされていた。机の上に花瓶があり綺麗な花が生けられ、窓の外にも花が植えられていた。壁には王都が描かれた絵が飾られており殺風景だった昨日の部屋よりも落ち着ける空間になっていた。

 

「洗い場は一階の裏にあります!食事は外か一階の食堂で!食事は大体200から300リクルぐらいです!何か合ったらいつでも言ってくださいね!」

「分かりました。ありがとうございます」

 

 命の恩人であるシリウスに少しでも恩返ししようと気合十分なコルルに苦笑しながらシリウスは荷物を解いて必要な物を取り出している。シリウスとコルルは部屋を出てシリウスは厩舎の方へ向かうとコルルはそのまま付いてきた。気合入り過ぎと内心呆れているがそれを口に出す事無くウェズンの所まで来た。

 

「ブルルル…」

「ご飯食べたか?…そっか、よしよし」

「言いたい事とか分かるんですか?」

「ええ、まあ…何となくですが(契約してる事は黙っていよう)」

 

 町の中だと四六時中一緒にいられないのでウェズンはここぞと言わんばかりに甘えている。ポラリスとアトリアは一緒にウェズンを撫でており、スピカは気にはなるが中々撫でる勇気が湧いてこなかった。シリウスはスピカを背中から下ろして右腕に抱き抱えた。

 

「スピカ、大丈夫だよ。怖くないよ。ほら、ウェズンの目を見てみて」

 

 スピカはシリウスに言われた通りウェズンの目を見てみるとウェズンはとても優しい目でスピカを見つめていた。その目をジッと見つめ返し、ゆっくりとだがスピカはウェズンに触れて撫で始めた。

 

「(娘達が一緒に戯れる姿はたまらん…!…いつの間にかウェズンも娘判定してるな…まあいいか……………いや、よくない!ウェズンの気持ちが最優先だ!仮に私から離れたいと思ったとしてもウェズンの選択を尊重しなくちゃならん!)」

 

 あくまでウェズンはウェズンの母親から頼まれたから預かっているだけだと自分の心に喝を入れた。シリウスはそう思っているがウェズンは違った。

 魔物から助けてくれて、実の母親を丁寧に埋葬してくれて、大した力も無い自分を大切にしてくれている。ウェズンの中ではシリウスは既に第二の母親、義母のように思っており心を開いている。ポラリスとアトリアとスピカに撫でられシリウスに優しく見つめられてウェズンは幸せであった。

 

「ブルブル…ヒィン」

「…え。いや、待て待て。お義母さんって、いやいやそれは…」

 

 突如ウェズンからお義母さんと呼ばれてシリウスは義理とは言え母親と呼んでくれた喜びとウェズンの実の母親に対して申し訳ないという罪悪感に包まれた。

 

「ヒヒーン…ヒィン」

「お母さんはお母さん、お義母さんはお義母さん………本当にいいのか?」

「ヒィン」

 

 シリウスの問いにウェズンはただお義母さんと呼びそれが答えだった。シリウスは喜びの涙を流しながらウェズンに抱き付き額を合わせている。

 

「(何でこの人は泣いているんだろう?)」

 

 感動的な場面なのだが、傍から見ればボソボソと独り言を言った後に急に泣き出したようにしか見えずコルルの疑問ももっともだった。泣き止んだシリウスはポラリス達が欠伸をするまで三割増しの笑顔でウェズンを愛でまくった。

 

「そろそろ寝るか。ウェズン、おやすみ」

「ブルルル…」

 

 コルルとも別れて部屋に戻ったシリウスは寝る準備を済ませた後、いつもようにポラリスとアトリアとスピカとカペラとピーニと共に眠った。

 

 

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