転生したと思ったらママになっていた件   作:大神降ろし

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第七十四話

 

 チンピラ達からセイルとセネルを守った後、一家からの是非お礼をと押しに押されまくったシリウス。買い物から戻ってきて事情を知った祖父と父親も賛同してシリウスの宿代は以降無料となり今晩は豪華な夕食がご馳走される事になった。

 今から準備に掛かるという事で食堂は休業状態となり昼食は屋台で取る事になった。今は食べ終わりベンチに座って食休めをしている。

 

「良かったじゃないか。宿代がタダになって」

「よくない。得をしたって感じるより申し訳ないって思う方が勝つ。だからよくない」

「難儀な性格だね…」

「今日はご馳走だー!楽しみだなー!」

「エベッタは気楽だね…でも僕もご同伴に預かれて嬉しいな!」

 

 シリウスの仲間という事で夕食に誘われたエベッタとクルフは先ほどからご機嫌だった。

 

「それにしてもさっきの奴らは何者なんだろうな?」

「何者って…ただのチンピラだろ?」

「いや、全員腕に同じタトゥー、入れ墨をしていた。どこかの組織だとしても不思議じゃない」

「どこかの組織って…裏社会のかい?」

「たぶんな。奴らは下っ端だろうけどメンツを潰されたとなれば幹部とかが出てきても不思議じゃないな」

「まさかそんな…ここは王都だよ。王都にそんな裏社会の組織があるはずが無いだろう」

「分からんぞ。皆がそう思っているから敢えて王都にいるかもしれんぞ」

「もしそうだとしたらどうするんだい?」

「いざとなれば王都から逃げ出すさ。二人も巻き込まれたら私を見捨てろ。私に脅されたとか言えば見逃してもらえる、かもしれない」

「オラはシリウスを見捨てないだ!」

「それは有難いが止めとけ。自分の身を第一に考えろ」

「なーに、きっとシリウスの思い過ごしさ!ここはオルティナ王国の首都である王都オーベルダーナ!そんな裏社会なんていやしないさ!」

 

 クルフは能天気にしておりエベッタはよく分かっていないが、シリウスは既にいる前提で色々と考え始めている。

 

「(逃げるとは言ったが今度はそう簡単に逃げられないよな…一番いいのは向こうのボスと話ができて許してくれる事なんだが…そんな事あるわけ無いな。マジでどうしよう…)」

 

 安易に手を出さない方が良かったかもと思ったが、同じ事があればきっとまた同じ事をすると思い直した。そして膝の上にいる愛おしい子供達のために気合いを入れ直して対処法を考え始めた。

 

「(取りあえず情報が欲しいな。こんだけ広いんだ。裏の組織が二つ三つ合っても不思議じゃない。知ってそうな人は…昔から住んでいる人や酒場の主人辺りか?まずはそこから当たってみるか)エベッタ、クルフ、少し用事ができた」

「およ?そうだか?ならオラも行くだ」

「用事って…さっき話した裏社会絡みかい?」

「そうだ。杞憂で済めばそれでいい。私が気にし過ぎたって笑い話になるしな。だがもし本当に合ったら?あるにしても無いにしても確信が欲しいんだ。それを調べにいく」

「無いと思うけどな…まあいいさ。夕食まで暇だし、僕も付き合うよ」

 

 シリウス達は立ち上がって歩き出した。シリウスは王都の散策の時にいくつか古い酒場を目にしており、まずはそこから当たる事にした。まだ昼過ぎなので客は数えるぐらいしかおらず、酒場の主人も暇そうにしながらグラスを拭いていた。

 

「失礼。少し聞きたい事があるんだが」

「ああ?客か?客じゃないなら出ていけ」

 

 軽くあしらわれたがその程度でシリウスが諦める事は無く、無言で懐から銀貨を十枚ほどカウンターの上に置いた。

 

「聞きたい事があるんだが」

「…ふん、まあいいだろう。で?何が聞きたいんだ?」

「王都に裏組織みたいなのがあるかどうか。数はいくつあるか。取りあえずその二つかな」

 

 シリウスの言葉を聞いた瞬間酒場の主人は目を見開いた後すぐに目だけを動かして周囲を探った。

 

「…あまり大きな声で言うな。聞かれたら面倒な事になる」

「その口ぶりだとあるって事でいいんだな」

「ああ。数は四つだ。それぞれ東、西、南、北の地区を牛耳っている」

「四つもあるのかよ…追加だ。そいつらは互いに争ってるのか?」

「ああ。水面下でバチバチにやり合ってるぜ。最近じゃ昼間でもやり合う事もある。それぞれのシンボルが壁に描かれてる辺りはよく抗争があるから近づかない事だな」

「そうか…分かった、礼を言う」

「ふん、さっさと帰れ」

 

 酒場の主人に追加で銀貨十枚を渡した後シリウスは二人を引き連れて酒場を出た。

 

「よし、次に行くぞ」

「およ?まだ行くだか?」

「ああ。ここの主人が知らない事を知ってるかもしれないしな」

「それにしてもよく聞けるね。僕ならあんな怖そうな人に聞けないよ」

「慣れだ慣れ。そら、行くぞ」

 

 シリウスはその後も酒場をいくつか回って情報収集した結果、この王都には四つの裏組織が東西南北に別れて水面下で激しい抗争を繰り広げている。

 東を治める“ドラゴンファング”。

 西を治める“ツインスカル”。

 南を治める“ブラッドサイン”。

 北を治める“クルセイダーズ”。

 いずれも殺人、窃盗、密輸、人身売買、禁止薬物、違法賭博などの犯罪を平気で犯す裏社会の組織だ。国も取り締まっているが役人が買収されていたり、そもそも役人が組織の一員だったりして仮に捕まってもすぐに釈放されてしまっている。貴族の中には彼らと取引して富を得ている者もいて彼らに便宜を図る者もいる。王都だけでなく主要な都市などに支部をいくつも持っており、オルティナ王国の裏を牛耳っている。だが一年ほど前に東を治めるドラゴンファングのボスが代わってから犯罪行為から徐々にだが手を引き始めて一般人には手を出す回数が減り始めていた。それでも組織間の諍いは無くならず昼夜問わず王都のどこかで激しい抗争が繰り広げられている。

 一通り調べたシリウス達は再びベンチに座って集めた情報を纏めている。

 

「やっぱり合ったな、裏組織」

「…まさか、王都にあるなんて…今でも信じられないよ…」

「悪い事をする奴らが四つもいるだか?怖いだなー」

「ここは東地区だからさっきの奴らはドラゴンファングの構成員って事だな」

「だ、大丈夫かな…?」

「一般人には手を出さなくなってきてるとは言ってたが、私がメンツを潰したようなもんだからな。近日中には何かあるかもしれん。気をつけろよ」

「気をつけろって言われても…どうしたら?」

「…特に浮かばんな。精々祈るか、覚悟を決めとくぐらいか…?」

「そんな~…」

「情けない声を出すな。そんなに心配しなくても私が何とかする。ほら、そろそろ夕食の時間だ。美味い飯が待ってるんだからそんな顔をするな」

 

 既に日暮れ前になっていたので宿屋へと向かう事にした。宿屋に入ると準備が粗方済んだらしくコルルとセイルとセネルが食堂で休憩していた。

 

「あっ!お帰りなさい!」

「ハンターのお姉さん、お帰り!」

「お帰り!」

「うん、ただいま」

「ご馳走楽しみだー!」

「僕もだよ!」

「…本当に二人もいいんですか?」

「はい、もちろんです!…その、また大量に作ってるみたいで…」

「あー、あははは…」

 

 昨日の夕食の比ではないぐらいありそうな予感がしてきて乾いた笑いしか出なかった。

 

「コルル!できたから運ぶのを手伝っておくれ!」

「うん、分かった!セイルとセネルは席にご案内してあげて!」

「はーい!」

「こっちだよー!」

 

 セイルとセネルに手を引かれてシリウスは一番大きいテーブルに案内された。エベッタとクルフも席に着くと大量の料理が運ばれてきた。

 

「はい!お待たせ!」

「いっぱい食べておくれ!」

「あの、その…すみません…」

 

 シリウス達の前に置かれたのは店自慢のビーフシチューと上質なビッグボアの分厚いステーキと大きな魚を丸々一匹使ったアクアパッツァと新鮮な野菜のサラダと熱々のラザニアとフワフワの出来立てのパンだ。もちろん子供達にも用意されておりメニューは野菜がたっぷり入ったトロトロのシチューと摩り下ろした果物だ。シリウスの予想以上の夕食が出てきてシリウスは頬を引き攣らせ、クルフは固まり、唯一エベッタだけが目を輝かせて料理を見ていた。

 

「とっても美味そうだ…!」

「た、確かに美味しそうだけど…お、多すぎ、じゃないかな…?」

「だよな…はぁ…頑張って食うしかないか」

 

 食堂にいた他の客もあまりの量に二度見して目を瞬かせていた。

 

「多すぎね?」

「あそこのテーブルが埋まるなんて初めてだぞ…」

「随分な歓迎っぷりだが、そもそもあの三人は何をしたんだ?」

「お前、今朝の出来事を知らないのか?実はな…」

「…そんな事が合ったのか。そりゃあんなに歓迎するはな。にしても良い匂いだな…おれも食いたくなってきた」

 

 食堂にいる全員がシリウス達を注目しており美味しそうなご馳走に唾を飲んでいる。

 

「オラ、もう待ちきれないだ!あぐっ!はぐっ!美味いだー!」

「あむっ!うん、とっても美味しいよ!」

「いただきます。ポラリス~、あ~ん」

「あ~。あ~♪」

「アトリア~、あ~ん」

「あー。あーい♪」

「スピカ~、あ~ん」

「…ぁ、ぁー…」

「(取りあえず皿に取り分けてっと…隙を見て二人に渡すしかないな。昨日と同じならまた客が注文するはず)あむっ、うまっ。ポラリス~、は~い、あ~ん」

 

 一口だけ食べた後再びポラリスに食べさせ、アトリアに食べさせ、スピカに食べさせを繰り返している。

 

「ハンターのお姉さんは食べないの?」

「美味しいよ~?」

「この子達の方が先かな」

「え~」

「え~‥あっ!はい、あ~ん!」

「あっ!?ズルい!私も私も!」

「こらセイル!セネル!」

「あー、いいですよ。あー」

「美味しい?」

「うん、美味しいよ」

「えへへ~」

「私も!あ~ん!」

「あー」

 

 二人に食べさせられているシリウスを見て周りの客もほっこりしている。

 

「おーい!こっちも注文頼む!」

「こっちもだ!」

「はーい!じゃあゆっくり食べてくださいね!」

「お姉さん!ちゃんと食べてね!」

「食べてね!」

 

 コルル達は他の客の注文を取りにシリウスから離れていった。

 

「…よし、カペラ、ピーニ、いいぞ」

「(プルプル)♪」

「魚うっま!ラザニアうっま!シチューうっま!肉うっま!」

「黙って食え、黙って」

「う~ま~い~だ~!」

「エベッタも似たようなもんじゃない」

「まあ、うん、そうなんだが…ピーニは見つかったら面倒な事になるだろ?」

「それはそうね。でも美味しいから仕方が無いじゃない」

「ま~」

「ままー」

「…ぁ、ぅ…」

「はいはい、ごめんね~。は~い、あ~ん」

 

 ポラリス達が呼んだのでシリウスは再びポラリス達に食べさせ始めた。

 

「ポラリス、アトリア、スピカ、カペラ、満足したか?」

「あ~♪」

「あい♪」

「…ぅ、うん…」

「(プルプル)♪」

「そっか」

「ふ~、食べたわ~。もうお腹いっぱい」

 

 美味しいシチューもデザートの果物も全部食べ終えて満足そうな表情を浮かべる子供達にシリウスも笑顔が零れ落ちている。その後シリウスも少し冷めた料理を食べ始めた。

 

「うまっ。冷えても美味いな」

「うっぷ…もう入らないよ…」

「ぶひゅ~、オラ、満腹だ~」

 

 クルフは善戦したものの四分の一ほど残し、エベッタは見事に完食した。シリウスは満腹でまったりしている子供達を見つつ黙々と食べ進めていき十分後には完食した。

 

「ふぅ…クルフ、もう食えんのか?」

「むり…」

「しゃあねえな…」

 

 シリウスはカペラとピーニが食べた分少しだけ余裕があったのでクルフが残した分を食べ始めた。

 

「シリウス~、大丈夫だか?オラも少しは食えるだよ?」

「モグモグ…大丈夫だ。エベッタも満腹だろ。何とかなる、というかする」

 

 シリウスは黙々と食べ進めてあっという間に完食した。

 

「ふぅ…もう入らん…」

「すげえ…」

「あの嬢ちゃん、完食しちまいやがった…」

「どこにあんだけ入るんだよ…」

「ハンターのお姉さん、すごーい!」

「全部食べちゃった!すごーい!」

「えぇ!?あれ全部食べたんですか!?」

「おやまあ…やっぱりハンターさんはよく食べるわねぇ」

「あなた!また完食よ!」

「うんうん!作る側からすれば嬉しい事この上ないな!」

「全く…二人とも、少しは加減しなさい」

「よく食うなぁ…僕なら無理だな」

「私なら半分で満腹ね」

「俺も無理だな。皆なら行けるかな?」

「うーん…どうだろうな?」

 

 普通の倍以上はあった夕食をギリギリだが完食したシリウスにコルル達と客は驚いている。食べきれなかった優男のクルフと完食した恰幅のいいエベッタは理解できるが、細身の少女と言えるような見た目のシリウスがあの量を完食するとは全く思っていなかった。

 

「うー…うごけない…」

「オラ、このまま寝たいだ…」

「おい、ここで寝るな。自分の宿屋で寝ろ…駄目だこりゃ」

 

 シリウスの言葉も聞こえないぐらい船を漕いでいるエベッタにシリウスは呆れていた。

 

「はぁ…仕方が無い。すみません、二部屋空いてます?」

「えーっと…はい、空いてますよ」

「じゃあ一晩お願いします」

 

 二部屋の代金3000リクルを支払った後、ポラリス達を抱き上げて寝そうなエベッタと動くのが辛そうなクルフの背中を交互に押しながら二階の部屋にそれぞれ押し込んだ。エベッタはベッドに寝転んですぐにイビキを掻いて寝て、クルフは椅子に座って苦しそうに呻いている。

 シリウスは部屋を出て厩舎に向かいウェズンの所に向かった。厩舎内に入ってウェズンを甘やかしポラリス達も興味深げにウェズンの身体を触っている。義母や姉妹達に構ってもらえて嬉しそうに嘶くウェズンを見てシリウスも嬉しそうに微笑んでいる。小一時間ほど戯れた後ウェズンと別れて部屋に戻り、寝る準備を済ませた後皆で仲良くベッドで眠った。

 殆どの者が寝静まった深夜過ぎ。東地区の奥まった場所の建物の地下に男達が集まっていた。

 

「…それで?負けたお前達はノコノコと逃げてきたって事か?」

「えっと…」

「その…」

「…その通りだボス」

 

 豪華な椅子に座っている男にチンピラ達は言い淀んだが、シリウスに負けた大男は素直に認めた。

 

「はぁ~…今大事な時期だってのに余計な事をしてくれたな」

「すまねえボス…」

「いやいや、ルドが悪いわけじゃねえよ。なあ?」

 

 ボスは嗤いながらチンピラ達を見ており、ボスの周りにいる幹部達は厳しい視線を向けている。中には殺気が篭った視線を向けている者もいる。

 

「ち、違うんですボス!」

「そ、そうです!悪いのはその女の方で…!」

「あーあー、いい、いい。言い訳なんて聞きたくない。おい、連れてけ」

「「「「「へいっ!」」」」」

「ち、違う!俺は悪くない!悪いのはあの女なんだ!」

「い、嫌だ!た、たす、助けてくれえええぇぇぇ!」

 

 泣き叫び暴れるチンピラ達を部下達が無理矢理引き摺って部屋から出ていった。泣き叫ぶ声が聞こえなくなった辺りでボスは深い溜め息を吐いた。

 

「はぁ~…にしてもルドが負けるなんてその女、大したもんだな。どんな奴だったんだ?」

「若い女で背格好はそんなにデカくなかった。あの見た目で投げ飛ばされるなんて全く思わなかった。後は…首からペンダントを掛けているのが見えたからハンターをしているはずだ」

「へぇ…ハンターをしてる若い女ねぇ…この町のもんじゃ無いだろうな。少し探れば居場所はすぐに掴めそうだな」

「では報復を?」

「いやいや、流石にそこまではしねえよ。ただメンツが丸つぶれだからよ、このままって訳にも行かねえよな。まあ、下っ端の暴走を抑えきれなかった俺にも責任はあるしな。その辺を話し合いたいと思ってな」

「すぐに調べます」

「いや、取りあえず後でいい。今は時期が悪い。クルセイダーズの野郎が喧嘩吹っ掛けてきてやがるんだ。そっちを優先しろ。それが終わってからでいい」

「了解です、ボス」

「さて…てめえらも準備しな!クルセイダーズに誰に手を出したか思い知らせるぞ!」

「「「「「おおおぉぉぉ!」」」」」

 

 地下にいた部下達に発破を掛けると部下達は全員忙しそうに準備に取り掛かった。

 

「さーて…この俺、ラミール・トーネスに喧嘩を売った事、後悔させてやるぜ…!」

 

 ドラゴンファングのボス、ラミール・トーネスは指の骨を鳴らしながら不敵に笑った。

 深夜の王都の某所でドラゴンファングとクルセイダーズがぶつかり数十人以上の死傷者が出る抗争が起こったが決着は付かなかった。王都の警備達が騒動を察知して直ちに向かったが残っていたのは血痕と荒らされた町だけだった。今回の抗争もよくある一つに過ぎず、四つの組織が最後の一つになるまで終わる事は無い。町の住民は嵐が過ぎ去るのを待つように息を殺して一日でも早く終わるのを祈るしかできなかった。

 

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