転生したと思ったらママになっていた件   作:大神降ろし

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第七十五話

 

 翌朝、目が覚めたシリウスは身支度を整えていつものようにポラリス達のおしめを変えて洗濯物を洗った後部屋に干した。朝食を取るために部屋から出たシリウスは一階に下りる前にクルフとエベッタの部屋を訪れた。

 

「クルフ、起きてるか?」

「…ああ、シリウスかい?ちょっと待っておくれ」

「ゆっくりで構わんぞ。エベッタをおこしてくる。エベッタ、起きてるか?」

 

 寝癖を直しながら出てきたクルフを一瞥した後、エベッタの部屋をノックしたが応答は無かった。シリウスが部屋に入るとエベッタはベッドの上で大の字になってイビキを掻いていた。

 

「グガー…グオー…」

「だと思った。ほらエベッタ、飯の時間だぞ」

「飯!」

「それで起きるんだね君は…まあ、エベッタらしいけどね」

 

 エベッタは女性なので部屋に入らずドアの脇で待っていたクルフはエベッタの単純さに呆れつつもそれがエベッタの持ち味だとも思っていた。

 

「およ?ここはどこだ?」

「昨日飯を食ったとこだよ。朝食の時間だぞ」

「すぐ行くだ!」

 

 眠気も一瞬で吹き飛んだエベッタは飛び起きて一足先に一階へ下りていった。クルフと肩を竦め合ってエベッタを追い掛けて一階に下り食堂へ向かった。食堂では客がいなかったのでコルルとセイルとセネルが朝食を取っていた。

 

「あっ!おはようございます!」

「ハンターのお姉さん、おはよー!」

「おはよー!」

「うん、おはよう」

「おはよう」

「おはようだ!」

「あら、おはようございます。昨日は随分召し上がられましたけど大丈夫ですか?」

「ええ。鍛えてますからあれぐらい大丈夫ですよ」

「あらあら、うふふ…すぐに朝食を持ってきますね」

「お願いします」

 

 祖母は厨房へ向かいシリウス達はコルル達の隣のテーブルに着いた。

 

「今日はどうするんだい?僕としては討伐系をしてみてもいいと思うんだけど」

「相手にもよるが構わんぞ。武器の新調にも金がいるしな。エベッタはどうだ?」

「オラも金が少なくなってきてるだ…これじゃあ美味い飯が食えないだ…」

「ところで昨日の奴らは大丈夫なのかい…?」

「昨日の今日だから大丈夫だと思うがな。まあ一応警戒しておけ」

 

 今日の予定を立てていると朝食のスープとパンが運ばれてきたので三人は食べ始めた。

 

「あ、セイル。また汚して…」

「あぅ…ごめんなさい…」

「あらあら…セネル、頬に付いてるわよ」

「あ、えへへ~」

「もう、仕方が無いわね」

 

 コルル達のいつもの朝食の光景をクルフとエベッタは時折見ていた。

 

「(家族か…そういえばもう何ヵ月も帰ってないな…帰っても父上や兄上達は僕の事なんてどうでもいいだろうけど…オーランとセラーノに会いたくなってきたな…)」

「(村を出てもうどれだけ経ったんだっけかな?父ちゃんは偶に手紙を書けって言ってたけど…父ちゃんに会いたくなってきたな~)」

「アトリア~、あ~ん(二人とも時々あの子達を見てるな。どうしたんだ?んー…兄弟姉妹か家族、か?寂しそうな顔をしてるし、そのうち帰りたいって言いそうだな)スピカ~、あ~ん」

 

 顔に出やすい二人から考えている事を的確に当てたシリウスは二人が一度帰りたいと言えば普通に認めるつもりでいた。朝食を食べ終えたらクルフとエベッタは一度泊っている宿屋へと戻っていった。シリウスも部屋で出掛ける準備を整えた後ギルドへ向かった。ギルドの前で数分ほど待ち二人と合流してからギルドに入った。

 

「今日の依頼はっと…んー…できそうな討伐系は…」

「すみません、少し失礼します」

 

 シリウスが依頼を吟味していると職員が追加で依頼を張り付けていった。シリウスがその依頼を見てみるとフォレストビーの巣の攻略だった。

 

「フォレストビーの巣の攻略か。報酬は80000リクルと蜂蜜。ふむ…確かフォレストビーは…まあ、人数がいるから…よし。エベッタ、蜂蜜が食えるぞ」

「蜂蜜!オラ、食いたいだ!」

「僕も食べたい!」

「なら決まりだな。人数がそれなりにいるから少し待つか」

 

 シリウスは受付に向かい依頼を受けるとロビーで人数が集まるまで待つよう言われた。ロビーの椅子に座って世間話をしたり、ポラリス達と戯れたりして待つ事数十分、蜂蜜が食べたいハンター達が集まった。

 

「皆、そんなに蜂蜜が食いたいのか?」

「おいおい、嬢ちゃんは食った事ねえのか?」

「あれはヤバいぜ」

「甘いのが苦手な俺でも食いたいぐらいなんだからな!」

「そんなにか」

「そんなにだ」

「嬢ちゃんが最初に受けたんだろ?なら、今回のリーダーは嬢ちゃんだな」

「え?そんな決まりがあるの?」

「おう。最初に受けた奴がリーダーをする。大人数前提の依頼の暗黙のルールってやつだ」

「どうしても無理って言うなら他の奴がするがどうする?」

「オラはシリウスがリーダーの方がいいだ!」

「僕もシリウスならいいよ」

「えぇ…あー…んー…はぁ、分かったよ。私がするよ」

「へっへっへ。頼むぜリーダー」

「活躍するからよ、分け前は多めに頼むぜ」

「活躍してから言え」

「そりゃそうだ!ハッハッハッハ!」

 

 シリウスがリーダーをする事に他のハンター達からも特に異論は出てこなかった。シリウスがギルドに来た時に〈ヴィクオール〉と親し気にしていたのでそれなりにできると判断されたようだ。

 

「(お手並み拝見ってところか?期待が重い…)あー…なら各自準備を整えて一時間後に東門前に集合で。もし遅れたら置いてくからそのつもりで」

「「「「「おう!」」」」」

「「「「「はーい!」」」」」

 

 依頼を受けたハンター達は皆準備のためにギルドを出ていったのでシリウス達も準備のために一度別れた。シリウスは外に出るための荷物は持っているので足りない物を買いに向かった。フォレストビーは噛みつきと針しか攻撃手段は無いが、中には毒液を飛ばしてくる個体もいたりするので解毒の水薬は必須だ。シリウスは薬屋へ向かい解毒の水薬を五本ほど買い、蜂蜜回収用の瓶も数本買った。

 少し早いが一応リーダーなので早めに向かおうと東門へ向かった。東門前にはまだ誰も来ていなかったが少し待つと徐々に集まり始めた。

 

「嬢ちゃん、早えな」

「俺達が一番乗りだと思ったんだがな」

「一応リーダーだからね」

「ほーん、感心感心。どっかの誰かさんとは大違いだなー」

「そうだなー」

「…何だよ。間に合ってるんだからいいじゃねえか」

「いつもギリギリなのか?」

「そうなんだよ。こいついっつもギリギリに来てよー」

「俺達はいっつもハラハライライラしてよー」

「しょうがねえだろ。あれこれしてたら時間が経っちまうんだから」

「いや、ちゃんと時間配分しとけよ」

 

 強面で大柄な男達にも怖気づかず堂々と話しているシリウスに男達は内心驚きながら心地良く話をしている。シリウスが男達から復習がてらフォレストビーの情報を聞いていたら依頼を受けたハンター達が全員集まった。

 

「…うん、全員いるな。なら出発だ」

 

 シリウスを先頭にハンター達は森へ向けて出発した。依頼の場所は森を入って二、三時間ほど歩いた森の奥だ。その近辺で山菜を取っていた人がフォレストビーの大群を見たとの情報を元にギルドが調査したところ、フォレストビーの巣を発見した。巣の大きさは直径で40mほどもあるがこれでもまだ中の下ほどの大きさらしい。

 

「上の上ならどれぐらいの大きさなんだ?」

「さあな。俺も見た事は無いな」

「私が聞いた話なら王城ぐらい大きいらしいわよ」

「高さが王城ぐらいなら全体の大きさは王都ぐらいありそうだな…」

「想像もつかねえな…」

「フォレストビーもどんだけいるんだろうな?」

「万を超えても私は驚かないぞ」

「万を超えるフォレストビー…おっかねえ…」

 

 森を歩き始めて二時間ほど経った辺りで一行は一度止まった。

 

「さて、まずは偵察するか。偵察が得意な人いる?」

「俺、できるぜ」

「私も!」

「僕もできるよ」

「なら頼む。フォレストビーに見つからないように巣の場所を探ってくれ。ついでに大まかでいいから数も数えてくれ」

「おう、任せろ」

「行ってきまーす」

「行ってくるよ」

 

 偵察に出た三人が戻ってくるまでの間、作戦の最終確認をする事にした。

 

「四つのチームに別れて行動する。呼び方はそれぞれ一班、二班、三班、四班で。まずは全員で巣の外にいるフォレストビーを片づける。ある程度片づいたら一班と二班が中に突入。三班と四班は戻ってくるフォレストビーを外で警戒。ある程度経っても来なかったら三班と四班も中に。一班と二班は中にいるフォレストビーを掃討しつつクイーンを探す。全員で取り巻きのフォレストビーを倒しつつクイーンを倒す。以上。質問は?」

「大丈夫だ」

「こっちも大丈夫だ!」

「特に無いぞ」

「ならここからはチームに別れて行動しようか」

 

 今回の依頼に参加したのは五人組のチームが三つとソロが二名だったのでチーム分けは簡単だった。ソロの二人はシリウス達と即興のチームを組む事になった。

 

「俺はガッソム・エッソだ!見ての通り大剣使いだ!よろしくな!」

「あ、あの…ぼ、僕は、て、テゴン・ユレバー、です…そ、その…戦闘は、苦手で…荷物運びと解体ぐらいしか、できません…すみません…」

「私はシリウス・ノクティーだ。剣が使えて魔法も多少は使えるが子供達を抱えてるから前線にはあまり出られん」

「僕はクルフ・ビットリンさ。槍を多少は使えるよ」

「オラはエベッタ・ルドリットだ。斧と盾を使うだ」

 

 シリウス達と組んだのは大剣を使う豪胆な大男のガッソム・エッソと荷物運びと魔物の解体をする気弱なテゴン・ユレバーだ。

 

「よろしくな!俺とエベッタだったか?二人が前に出るって事でいいのか?」

「そうだな。次にクルフ、テゴンで最後尾は私だ」

「ど、どうして?ぼ、僕、戦えないから、一番、う、後ろの方が…」

「後ろから魔物が来たら対処できないだろ?いざとなればテゴンはクルフを盾にすればいい」

「い、いや…さ、流石にそれは…」

「そんな事されたら僕が危ないんだけど!?」

「何とかしろよ。最高のハンターになるんだろ?」

「すごい無茶振りされた!?」

「ガッハッハッハ!面白い奴らだな!気に入ったぜ!ガッハッハッハ!」

 

 シリウスとクルフの掛け合いでガッソムは気に入り、テゴンも肩の力が抜けてあっという間にチームに馴染んだ。

 

「ん?おーいリーダー。戻ってきたぞ」

「ご苦労さん。で、どうだった?」

「巣の場所は分かったぜ。このまま真っ直ぐ十分ほど行った所だ」

「フォレストビーの数はかなりいたわ。見かけただけでも三十はいたわ」

「見回りの数も多い。巣の中も合わせたら百は軽く超えているかもしれん」

 

 想像以上にフォレストビーの数が多かったので皆に動揺が走っている。

 

「マジかよ…」

「百以上って…何が中の下だよ!?ギルドの奴ら、いい加減な仕事しやがって!」

「そんな数相手は無理だって!?帰ろうぜ!?」

「そんなに大きいのなら、毒持ちも当然いるわよね。解毒のポーション持ってないわよ…」

「ど、どうしよう…!?」

「嫌だぁ…死にたくないよぉ…!」

 

 ギルドに怒る者や数に怖気づく者や恐怖に押し潰されそうな者など、その場は阿鼻叫喚となった。

 

「流石にその数相手は無理だな。それとこの空気もマズいな…」

「ど、どどど、どうしよう…!?どうしたら…!?」

「あわわ!?し、シリウス!どうするだ!?」

「やっぱり帰ろう!ね!?」

「たわけ。そんな簡単に諦めるな。ガッソム、思いっきり手を叩いてくれ」

「ん?こうか?」

 

 シリウスに頼まれてガッソムは力一杯手を叩いた。かなり大きい音だ出たので全員騒ぐのを止めて音がした方を向いた。

 

「落ち着け。ギルドが調べた時はその大きさだったんだろう。依頼書にはそんな事書かれてなかったから後で抗議すればいい。解毒なら私が少し持ってるからこれ使え。それにハンターならこんな事で弱気になるな」

 

 シリウスは全員を落ち着かせて自分に注目を向けさせた。

 

「取りあえず四つ作戦が浮かんだから聞いてくれ。まず一つ目。このまま作戦通りに進める。ただ数が想定より多いからほぼ確実に被害が出てくると思う。二つ目。諦めて帰る。五体満足で帰れるが報酬はゼロで評判も下がる。三つ目。巣を燃やす。向かってくるフォレストビーを倒すだけだから危険はそこまで多くないが蜂蜜は手に入らないし最悪森に延焼する。四つ目。全員で外にいるフォレストビーを掃討して巣から出てくるのも遠距離から攻撃して数を減らす。比較的安全だが時間が掛かるし巣の中にいる数にもよるが数に押し潰される可能性もある。どれがいい?他にも作戦が浮かんだなら遠慮なく言ってくれ」

「「「「「…」」」」」

 

 自分達より確実に年下なシリウスが現状を打開する作戦を考えていた事に全員驚きつつ騒ぐだけの自分達が恥ずかしくなっていた。

 

「…あー、そうだな。まず一つ目は無いよな」

「そうだな。死んじまったら元も子もねえ」

「だからといって二つ目も無いよな?」

「確かにな。このまま手ぶらで帰るのはカッコ悪いにもほどがある」

「三つ目は…流石に…」

「それはちょっと…」

「じゃあ四つ目しか無いよね」

「他、何か浮かぶか?」

「うーむ…」

「うーん…」

「町に戻って応援を呼ぶ、とか?」

「二時間戻って、事情を話して、また二時間歩くのか?」

「人を集めるのでも最低でも一時間は掛かるぞ」

「流石に五時間は待てねえな」

「なら四つ目の作戦で行くしかねえな」

「そうだな。それで行こう」

 

 落ち着きを取り戻して皆が議論した結果四つ目の作戦で行く事になった。

 

「すげえな…騒ぎをあっという間に抑えちまった…」

「す、凄い…!」

「シリウスはすげえなー」

「…どうやればそんな風になれるんだい?」

「別にそんな難しい事じゃない。常に考えてその場の最適解を模索し続けているだけだ。やろうと思えば誰でもできる」

「確かにできるだろうが、みんながみんな、嬢ちゃんみたいに冷静に考えられねえよ」

「そうか?」

 

 シリウスはポラリス達を危険に晒さないためにほぼずっと続けている事なので凄い事をしているという自覚は無かった。

 

「じゃあ、二手に別れて巣から一定の距離を取って円を描くように動くか」

「そうだな。それが一番だな」

「十人もいれば何とかなるな」

「じゃあ俺達三班と四班はこっちから回るぜ」

「分かった。逆側で落ち合おう」

 

 一班と二班は右から、三班と四班は左から回ってフォレストビーの掃討を始めた。シリウス達が歩き始めて数分後に羽音が聞こえ始めたので全員がその場に伏せると見回りのフォレストビーが三匹姿を現した。

 

「出たな。一発で仕留められるか?」

「任せろ」

「私は左をやる」

「なら俺は真ん中だな。右を頼む」

 

 弓を持ったハンターが弓を構えて、矢を番え、弦を引き絞り、狙いを定めた。フォレストビーがその場で滞空して周囲の様子を見ている隙に矢を放った。

 

「ギギィ!?」

「ピギィ!?」

「ピギュ!?」

 

矢はフォレストビーの頭部に命中しフォレストビー達は地面に落ちた。近くによるとフォレストビー達はしばらく痙攣していたがやがて動かなくなった。

 

「お見事」

「へへっ、ざっとこんなもんよ」

「べ、別に褒められても、嬉しくなんて無いんだからなっ!」

「すげえ嬉しそうだがな」

 

 倒したフォレストビーを一ヵ所に纏めて再び歩き出した。三班と四班に合流するまでに見回りのフォレストビーと五回出くわし計十五体倒した。

 

「おーい!」

「お疲れさん。そっちはどうだった?」

「ああ、十数匹は倒した。そっちは?」

「こっちも同じぐらい倒した。たぶん見回りはもういないと思うんだが…」

「そうだなこれだけ倒したのならもう大丈夫だろう」

「仮にいたとしても数匹程度だろうな」

「なら後は巣にいる連中だけだな」

「作戦はあるのか?」

「さっきと同じだな。ひたすら遠距離で叩く。ただ隠密って訳には行かないから、前衛が囮になっている間に弓と魔法で数を減らす」

「まあ…それしかないな」

「こう…一発で複数のフォレストビーを撃ち落とせるような魔法なんて無いのかねぇ…」

「そんな都合の良い魔法なんてあるわけ無いだろ」

「諦めて現実を見な」

「それと向こうが距離を詰めてきたら後ろに下がってくれ。常に一定の距離を保つ感じで」

「うーん…俺達の出番があまり無いな…」

「こう…張り合いが無いというか…」

「巣の中に入れば否応なしに出番があるからそこまで我慢してくれ」

 

 一行は気合いを入れ直して巣へと近づいていった。

 

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