転生したと思ったらママになっていた件   作:大神降ろし

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今回はいつもより少し短めです。


第七十九話

 

 報酬を貰い真剣そうな顔をしているクルフとエベッタの所に戻ったシリウス。

 

「さて、何か話がありそうだな」

「え!?よ、よく分かったね…」

「そらそんな顔をすれば誰だって分かる」

「…オラ、そんな顔してただか?」

「ああ。何かを決意した、そんな顔だったぞ。まあ、何を話すのか大体想像つくけどな」

「そ、そこまで気づいていたのかい?ち、ちなみにその想像はどんなのだい?」

「故郷に帰る、だろ?」

「…当たり」

「…シリウスはすげえな」

「二人とも顔にすぐ出るからな」

 

 言おうと思っていた事を当てられて二人は驚いていた。

 

「やれやれ…いつまで経ってもシリウスには敵わないな…シリウスの言う通り、一度故郷に帰ろうと思ってるよ」

「オラも長い間父ちゃんに会ってないから会いに行ってくるだ」

「そうか。何時帰るんだ?」

「実は…馬車が後二時間ぐらいで出るらしいんだ。この次は一週間後みたいでそこまで先延ばしにするのもどうかと思ってね」

「オラも途中まではクルフと一緒だから、その…」

「随分急だな。前もって言ってくれれば餞別とかも準備できたんだが…」

「いや、そこまでしてもらわなくてもいいよ。それに決めたのは昨日だったしね」

「寂しくなるだ…」

「そうだな。でももう会えない訳じゃない。生きてたらまた会えるさ」

 

 泣きそうになりながら寂しそうにするエベッタにシリウスは肩を叩きながら励ましている。クルフも悲しそうな表情を浮かべながら俯いている。

 

「…まだ時間はあるな。なら家族に何かお土産を買っていってやったらどうだ?」

「お土産は蜂蜜って考えてたんだけど」

「折角だから色々買っていってやれ。そこまで高くない物だったら餞別代わりに私が出してやる」

「…いいだか?」

「構わん。ほら、行くぞ」

 

 落ち込み気味の二人を引き摺ってシリウスはギルドを出てウェズンも連れて市場の方へ向かった。

 

「王都でしか買えない物とかがあればいいんだがな」

「本当にいいのかい?」

「餞別代わりって言っただろ」

「何がいいかなー」

 

 シリウスは二人と一緒にクルフとエベッタの家族へのお土産を探した。なんて事は無い世間話をしながら探し、良さげな物があれば吟味して購入していたらあっという間に二時間は経ってしまった。西門近くの馬車組合の所までやってくるとちょうどクルフとエベッタが乗る馬車の乗車が始まったところだった。

 

「…さて、しばらくお別れだな」

「寂しいだ…」

「今生の別れじゃないんだ、泣くんじゃない。エベッタ、色々と気になるのは分かるが、ちゃんと人の話を聞けよ」

「…うん」

「クルフ、お前はもっと自信を持て。だが慢心はするなよ」

「…自信を持ち過ぎるな、ってことかい?」

「そうだ。相手が誰であれ慎重に行動しろ。そうすればいつか最高のハンターになれるさ」

 

 泣きそうなエベッタを慰め、クルフにアドバイスをして励ました。

 

「そろそろ出すよ。乗るなら急いでおくれ」

「ほら、早く乗れ。荷物も忘れるなよ」

「シリウスー…」

「情けない声を出すな。もっとシャキッとしろ」

「また…会えるかい?」

「ああ。しばらくは王都にいるから会いにこい」

 

 別れの挨拶をした直後、馬車は出発した。

 

「シリウスー!また会いにくるだー!」

「僕も必ず来るよー!」

「またなー!」

 

 馬車は西門から王都を出て、クルフとエベッタはシリウスの姿が見えなくなるまでずっと手を振り続け、シリウスも馬車が見えなくなるまで手を振り続けた。

 

「ぐすん…」

「エベッタ、シリウスに言われたろ?また会えるさ」

「…んだな!また会いにいくだ!安心したら腹が減ってきただ!飯を食うだ!」

「もう食べるのかい!?」

 

 クルフとエベッタはまた会えると信じていつもの調子を取り戻し、お互いの故郷へ向かった。

 

「…行っちまったな。こんな別れはターエル以来だな」

「ま~」

「ままー」

「…ぁ…ぅぅ…」

「(プルプル)」

「ヒィン」

「大丈夫だよ~。皆がいるからママは寂しくないよ~♪」

 

 シリウスは慰めてくれる自分の愛しい子供達をまとめて抱き締めてお返しに一人ずつ頬擦りしていった。一頻り甘やかした後は再びギルドへ向かった。

 表でウェズンを待たせてギルドに入り依頼書が張ってある掲示板で依頼を吟味し始めた。

 

「ウェズンも行ける依頼…採取系で何か…お、薬草採取。場所は…昨日とは違う森か。少し距離はあるが今から行っても日暮れには帰れそうだな。まあ、最悪野宿でもいいし。よし、これにしよう」

 

 薬草採取の依頼書を手に取って受付に向かい受注した。

 ギルドを出ようとしたシリウスは出入り口でフードを被った深緑色の外套を着た人と擦れ違った。シリウスは気にも留めずギルドを出ていったが、擦れ違った人物は去っていくシリウスの背中をジッと見ていた。その人物はギルドに入り受付へ向かった。

 

「…ねぇ、さっきの子連れの女の子の事なんだけど」

「え、あ、はい。数日前に王都にやってきたばかりの五級のハンターさんらしいです。昨日、フォレストビーの巣を攻略したそうですよ」

「そう…どこに行ったか分かる?」

「えーっと…西の森の薬草採取ですね」

「西の森…」

 

 その人物は数秒考えた後ギルドを後にした。

 シリウスはウェズンと共に宿屋へ一度戻り荷物を持って再び西門へ向かった。依頼の薬草が生えている場所は王都から一時間ほど歩いた所にある森だ。西門から外に出て街道をのんびり歩いている。

 

「ブルルル…」

「走りたいか?いいよ。いっぱい走っておいで。私の目の届く範囲にいてね」

「ヒヒン」

 

 ウェズンは街道の脇に広がっている草原を思うままに駆け出した。

 

「ヒヒーン!」

「うんうん。楽しそうだな」

 

 やはり厩舎で動けなかったのはストレスだったらしく楽しそうに嘶きながら走り回っている。シリウスは義娘が楽しそうにしているのを笑顔で眺めながら道を歩いている。ウェズンはしばらく走り回った後、シリウスの所に戻ってきた。

 

「楽しかった?」

「ヒィン」

「そうかそうか」

 

 ウェズンに水を飲ませながら優しく撫でて休憩を取った後、目的地の森へ向けて再び歩き出した。王都を出て一時間後、薬草が生えている森に到着した。森に入ろうとするシリウスはふと何かを感じて後ろを振り返った。

 

「…?(今誰かに見られたような…気の所為か?)」

「シリウス、どうしたのよ?」

「いや…誰かに見られたような気が…」

「誰もいないじゃない。気の所為よ」

「なら、いいんだが…」

 

 首を傾げながら改めて森へ入っていったが気の所為では無かった。

 

「…」

 

 岩の陰に隠れていた人物は静かにシリウスの後を付いていった。誰かに追跡されているシリウスは何も気づく事無く森の中を歩きながら依頼の薬草を探している。

 

「どんな薬草なの?」

「黄色い花らしいんだが…」

「あ、あれじゃない?」

 

 ピーニが指差す方を見ると黄色い花がいくつか咲いていた。

 

「これだ。えー、数は二十か。ここだけじゃ足らんな」

「取りあえず摘んでいきましょ」

 

 ピーニと一緒に摘んでいくがやはり数が足らずさらに奥へ向かう事にした。

 奥へ行くにつれて鬱蒼としてきて、枝に阻まれて日が差さず、薄暗いのも相成って重苦しい雰囲気が漂ってきた。シリウスは自然と剣に手を掛け、ポラリス達もどこか不安そうにシリウスに抱き着く力を強め、ウェズンも不安になってきたのかシリウスにピッタリと引っ付いて離れなかった。

 

「さっさと見つけて帰るか」

「賛成。ここ、何か怖いわ…空気も重いし。自然が豊かだから精霊は皆元気だけど」

「元気だから私にもはっきり見えてるのか」

 

 シリウスの視界には大小様々な半透明の精霊が元気いっぱいに動いていた。森なので緑色の風の精霊や茶色の土の精霊や深緑色の木の精霊がたくさんいた。自然豊かで大気中の魔力も豊富にあるので精霊が見えない者でも何かいる気配が感じ取れるほどで、シリウスの場合だと注意深く見れば半透明のモヤモヤが見える程度なのが今はハッキリと半透明の精霊が見えていた。

 

「知ってるかどうか試しに聞いてみるか。あー、ちょっといいか?こんな黄色い花、どこにあるか知ってるか?」

「―――」

「えー…あっちか?」

「―――」

「あー…うん、ありがとう」

「分かったの?」

「何となく、だが…合ってたか?」

「ええ。向こうにあるって言ってたわ」

 

 精霊が言った方向へしばらく歩くと木の根元に依頼の花がいくつも咲いていた。

 

「あったあった。これだけあれば十分だな…ん?」

 

 シリウスが花を摘んで確認していると精霊以外の何かの気配を感じた。周囲を見回しても見えるのは鬱蒼と茂る木々ばかりで何もいなかった。シリウスは気の所為かと思いつつも何か引っ掛かりもう一度周囲を注意深く見回してみた。さっき見たのと同じ光景しかなかったが、僅かに何かが動いたような音が聞こえた。音が聞こえた方を見ても一本の木しか無かったが、シリウスはその木をジッと見つめた。

 

「(何だ…この木、何かがおかしい。上手く言えないのがモヤモヤする…!)…ウェズン、ピーニ、行くぞ。急げ」

「え?どうしたのよ?」

「ブル?」

「いいから。早く」

 

 シリウスがよく分からない危機感に襲われ離脱しようとするが一歩遅かった。

 

「!?シリウス!後ろ!」

 

 突然木が動いて太い枝を振り下ろそうとしていた。

 その木の名前はフェイクツリー。木ではなく木にそっくりに擬態できる魔物だ。

目や口を閉じて動かなければ本物の木と全く見分けが付かないほどで発見は非常に困難で、気がついた時には攻撃される直前や攻撃を受けた後が多い。大きさも木と同じぐらいあり、それに比例して力も強いので討伐するのもかなり厳しい。木にしか見えない身体も非常に硬い甲殻で覆われており、金属並みか個体によってはそれ以上な時もあるほどだ。そのフェイクツリーが太い枝に見える腕をシリウスに振り下ろそうとしていた。

 

「くっ!?(回避…いや、避ければウェズンに当たる!防御…ポラリス達諸共潰される!受け流し…あの太い枝を受け流せるか…!?だがやるしかない!)」

 

 シリウスは覚悟を決めて振り下ろされようとしている腕を凝視しながら剣を構えたその時、後ろからナイフが飛んできてフェイクツリーの目に突き刺さった。

 

「ギュオオオォォォ!?」

「なんだ!?いや、今しかない!ウェズン!」

 

 シリウスはフェイクツリーが悶えている間にウェズンの手綱を引っ張り距離を取った。シリウスが後ろに下がる途中、擦れ違うように深緑色の外套を着た人物がフェイクツリーに突撃していった。フェイクツリーは残った目でその人物を捉え、叩き潰そうと腕を振り下ろしたが、目にも止まらぬ速さで避けてフェイクツリーの後ろの木の上に乗った。

 

「【溜撃】、【瞬動】」

 

 木の上に乗った人物は短剣を逆手に抜き、何かを呟くと短剣と足が淡く光った。フェイクツリーは木ごと叩き潰そうと両腕を振り上げたが遅かった。木が陥没するほどの力で木を蹴ってさっきより数倍速い速度でフェイクツリー目掛けて突撃し、擦れ違いざまに首であろう部分を斬りつけた。普通なら弾かれるだけだがバターを切るように刃が通り、フェイクツリーの首は中ほどまで斬られた。

 

「ギュオオオォォォ…!」

 

 急所を深々と斬られたフェイクツリーは断末魔を上げながら倒れた。

 先ほど呟いたのは魔戦技で溜撃は強撃や剛撃と同じく瞬間的に威力を高めるものだ。強撃などよりも威力は低めだがどの武器種でも使える使い勝手の良い魔戦技だ。瞬動は脚力を強化し十数秒程度だが目にも止まらぬ速さで動けるようになる。

 

「はえ~、凄いわね~…」

「ブルブル…」

「助かったが…誰だ?」

 

 あっという間にフェイクツリーが倒されて目を丸くしながら見ているピーニと若干疑惑の目を向けているシリウス。フェイクツリーを倒した人物は周囲を軽く見やってからシリウスの方へやってきた。

 

「大丈夫だった?」

「ええ、まあ…助けていただいてありがとうございます」

 

 外套とフードで分からなかったが、声色からして女性だった事に少し驚きつつもシリウスはお礼を言った。

 

「気にしないで。ところで用事が済んでいたら早く森を出た方がいいわ。この森、最近フェイクツリーの目撃情報が多いのよ」

「フェイクツリー…あれですか?」

「ええ。一、二体程度ならどうとでもなるけど、結構数がいるみたいなの。この辺りにまだいないとは限らないから急ぎましょう」

 

 依頼の薬草も数は足りているので女性の助言もありシリウスは女性と共に早々に森を出る事にした。

 

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