転生したと思ったらママになっていた件   作:大神降ろし

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お待たせしました。
今週分です。


第八話

 

「嬢ちゃん!大変だったんだな!」

「そんな辛い事があったのに、それなのにおめえさんは…!」

「うおおおおおんん!涙が止まらねえよ!」

「お嬢ちゃん!私で良かったらいつでも力になるからね!」

「俺もだ!」

「ぼ、僕も!」

「わしにもできる事があれば何でも言っとくれ!」

「えっ!?い、いや、あの、えっと、あばばばば…」

 

 唐突に町民達に囲まれもみくちゃにされ混乱の極みにいるシリウス。

 本来ならそれを止める役目の兵士達も涙ぐんでおり頼りにはならない。

 

「ふええぇぇぇ…」

 

 シリウスの目がギャグ漫画みたいにグルグルしてきた時、人々の怒涛にポラリスが泣き始めた。町民達はハッと正気に戻りやり過ぎたと反省し数歩下がった。

 

「はっ!?あ、ああ、大丈夫だポラリス。いい子いい子」

 

 シリウスも戻ってきて泣き出したポラリスをあやし始めた。

 

「すまん。ちょっと取り乱した」

「そらこんだけに迫られたら赤ん坊も泣くわな」

「とりあえず町に入るか。いつまでもここにいたら邪魔だしな」

「お嬢ちゃん!うちは宿をやってるからとりあえずそっちに来な!」

「おお!それがいい。よし行こうぜ」

「え?え?」

 

 あれよあれよというまに予定が決まり町民達に背中を押されて連れられていったシリウス。

 門をくぐるとそこにはレンガの町が広がっていた。

 茶色や白色のレンガを組み上げて家が建てられ、道にもレンガが使われており馬車が二台ぐらい走れるほど広い。雨が降っても水が流れるように地下に水路が張り巡らされ治水にも気を遣われている。町の景観にも気を配られており所々に街路樹が植えられ、小さいながらも子供達が遊べそうな広場も設けられている。兵士が巡回し治安も良さそうで若い夫婦が手を繋いで歩いていたり、井戸の近くで近所のおば様達が井戸端会議していたり、子供達が追い掛けっこで遊んでいたり、商人が荷物を馬車に積み込んでいたりと多くの人が行き交って活気づいており皆笑顔で暮らしている。人間だけでなく耳が尖り肌が白いエルフや、背が低く髭を蓄えているドワーフなども人間と共に暮らしている。

 この世界には人間だけでなく多種多様な種族も暮らしている。

 エルフとドワーフだけでなく巨人族のジャイアール、小人族のポックルなどがいる。他にも獣系が二足歩行している獣人族や、鳥系が二足歩行している鳥人族や、蜥蜴系が二足歩行している竜人族もおり人種によって呼び名が変わる。狼のウェアウルフ、牛のミノタウロス、馬のケンタウロス、鳥のハルピュイア、蜥蜴のリザードマン等々。他にも多くの種族がいる。ゴブリンやオーガなどは亜人族と称され一部は友好的な者もいるがほとんどが敵対しており他種族を見れば襲ってくる。

 

「すご…」

「だろ?俺達自慢の町さ」

「先達が生涯を賭けて築いたかけがえのない宝物じゃ」

 

 シリウスは町の様相に目を奪われつつも町民達に連れられて宿へ向かっている。ちょっとした団体が歩いているので結構目立ち通りすがる人達が皆見ている。

 

「何だいありゃ?」

「さあな。この町の者ばかりだが…」

「真ん中の女の子は見た事ないねえ…」

「そういえばさっき正門のとこで騒ぎがあったらしいじゃない。それと何か関係あるのかしら?」

「ふっふっふ…俺は知ってるぜ」

「あらほんと?何なの?」

「もったいぶらずに早く教えなさいよ」

「実はな…」

 

 正門前の騒ぎはすでに町中に広まっておりシリウスの事も徐々に広がり始めている。その証拠に時折シリウスを見てくる人の目が非常に優しかったり涙ぐんでいたりしている。一体全体何がどうして皆がそんなに優しいのかシリウスはさっぱりわからなかった。あちらこちらからの優しい視線に落ち着かない気持ちになりつつ町民達に連れられ宿屋に到着した。

 

「さあさあ!入っておくれ!」

「あ、はい。お邪魔します」

「じゃあ後は頼む」

「また夜に来るぜ!」

「皆さん、ありがとうございました」

 

 町民達は宿屋の女将に挨拶した後、それぞれ戻っていった。シリウスは頭を下げ感謝した後、女将の後を追い宿屋に入った。レンガで作られた宿屋で一階は酒場も兼ねており、今は昼間なので客は疎らだが夜になれば宿泊客だけでなく近所に住む人達も食事や酒を楽しんでいる。

 

「えーっと、空いている部屋は…こっちはダメね。それなら…ああ!こっちの方良いわね」

 

 空いている部屋の鍵を持ってきた女将に連れられて、シリウスは二階へと上がりとある一室へ案内された。部屋の中はシリウスが思っていたより広く、キチンと掃除もされていて清潔だった。

 

「(え、ひろっ…い、いくらかかるんだろ?)あ、あの~、お代は…?」

「いいんだよお代は!宿代はサービスさ!代わりと言っちゃなんだけど食事の方は払っておくれよ!」

「え"っ!?い、いやいや!?それでいいんですか!?」

「いいんだよ!ここではあたしがルールさ!さあ、宿の中を案内するよ!」

 

 女将はシリウスのツッコミを暴論で論破し宿の中を案内し始めた。

 

「ここがトイレ!男女共有だからね!入る時はちゃんとノックしな!こっちが水汲み場!ここに置いてある桶は自由に使っていいからね!お湯が必要な時は言っとくれ!ただ別料金になるから気を付けておくれ!あたしは大体こっちの厨房かそこの部屋にいるから、何か用事が合ったらいつでも声を掛けておくれ!」

 

 肝っ玉母さんである女将の怒涛の説明を受けた後部屋に戻った。

 ポラリスをベッドに置き、シリウスもベッドに倒れ込んだ。町まで歩き、魔物から逃げて、町民達から謎の歓迎をされて、肉体的にも精神的にも疲れ果てていた。

 

「はぁ~、疲れた…一体何なんだ…?歓迎してくれるのはいいんだけど…何でそこまで親身になってくれるんだ?ったく…このベッド柔らかいな」

 

 愚痴を溢すように独り言を呟き、隣にいるポラリスを撫でている。ポラリスはシリウスの手を抱き締めるように捕まえて遊んでいる。笑みを浮かべながらポラリスの好きにさせていたら、疲労と安心から眠気が襲ってきてそのまま眠った。ポラリスもしばらく遊んでいたが、眠っているシリウスを見て自分も眠くなったのかシリウスの手を抱き締めたまま眠った。縁も所縁も無い二人だが並んで眠る姿は母娘そのものだった。

 しばらく後、シリウスはふと目が覚めた。

 

「…う~、いかん、寝てた。ベッドが柔らかいのがいけないんだ。ポラリスは…まだ寝てるな。うおっ、もう夕暮れじゃねえか。どんだけ寝てたんだ?」

 

 寝落ちしたのをベッドの所為にしつつ窓の外を見ると既に日が傾き始めていた。

 荷解きすらしていなかったのですぐに必要そうなお金の入った袋を取り出し、寝間着などをベッド脇のサイドテーブルに置いた。荷物は少なかったのですぐに終わり何気に窓の外の風景を眺めていた。家路を急ぐ若い男性や、手を繋いで家に帰る家族や、一仕事終えて酒を飲みにいくハンターなどがいた。

 転生して初めて見るありふれた幸せな日常の風景。それらをただ見ていたシリウスだったが下の酒場に客が入り騒がしくなってきた。

 

「う~…」

「よしよし、大丈夫。ほ~れ抱っこだぞ~」

 

 うるさくて目が覚めてご機嫌斜めなポラリスを抱き上げてあやしている。あやされて機嫌も良くなってきたら今度はシリウスに手を伸ばしている。

 

「う~、う~」

「ん?どうした?おしめ…でもないし、機嫌は良くなったし…あっ、お腹空いたのか。よ~し、下に行ってご飯食べような~」

 

 朝に食べてから何も食べずに町まで来ており、自覚したら途端にお腹が空いてきた。お金の入った袋をポケットに入れ、ポラリスを抱いたまま下に降りた。

 階段から覗くと既に酒場は大盛況で満席だった。近所の人やハンターが酒と食事や会話を楽しみ、席の間を料理を持ったウェイトレスが忙しそうに歩き回っている。

 

「(人いっぱい…え?あんなとこに行くの?無理無理。誰だお前?みたいな目で見られるよ。怖いよ。でもな…お腹空いたし、ポラリスに食べさせなきゃしけないしなあ…ええい、行ってやるよこんちくしょう)」

 

 常連客や強面でゴツイハンターがいる所に行くのは中々勇気が入り、最後は自棄になりつつ向かった。酒場に入ってきたシリウスにその場にいた全員が注目し騒がしかった酒場が静かになった。

 

「(これだよっ!これが嫌だったんだよっ!何か用かっ!こっち見んなっ!)」

 

 心の中では騒がしくシリウスを見てくる全員にツッコミつつ、表情は何事もない様にしている。…視線の圧に耐えきれず若干口元がヒクついているが。静かだった酒場だったが、瞬間爆発した。

 

「うおおおぉぉぉっ!主役の登場だっ!」

「遅いじゃねえか!こっちはもう飲んじまってるぞっ!」

「おお!あの子が話してた子かい?」

「そうさ!記憶を失っても幼い子供のために強くなろうとしている少女!それがあの子さ!」

 

 何故か大歓迎されている。正門前で話したシリウスの状況が尾ひれはひれが付いていつの間にか町中に広まっていた。盗賊に襲われ記憶を失ったが幼い子供のために強くあろうとする気高い少女。町民達からはそう思われている。

 

「(何だよそれ!?勝手に美化するんじゃないよ!こちとらただの村娘だよ!)」

 

 聞こえてくるトンデモ話に心の中でツッコんでおり、表情は崩れヒクついている口元が隠せなくなっていた。

 

「はっはっは!来たね嬢ちゃん!ほら、そんなとこに突っ立てないでこっちにおいで!」

 

 女将が一層騒がしい酒場の中でも聞こえる声でシリウスを呼んだ。呼ばれたので仕方なく向かったが、横を通るたびに色んな人から声を掛けられた。

 

「嬢ちゃん!大変だったんだな!」

「すげえよあんた!俺だったら諦めてるぜ!」

「俺達でできる事が合ったら何でも言ってくれ!」

「ワシ達も力になるぞ!」

「あ、あはは…どうも…」

 

 あちらこちらから激励が飛びその度にシリウスは何とも言えない表情で曖昧に返事を返している。女将がいる席までやってきて席に着いた。

 

「はっはっは!大人気だね嬢ちゃん!」

「あはは…そうみたいですね…」

「う~、う~」

 

 女将に返事を返すとポラリスがお腹が減ったと主張した。

 

「おやおや、お腹が空いてるみたいだね。ならとっておきのシチューを作ってあげるからね。嬢ちゃんにはうち特製のメニューを持ってきてあげるよ」

「あ、はい。お願いします」

 

 女将は声量を落として喋りポラリスの頭を優しく撫でた後、厨房へ向かい料理を作りにいった。

 シリウスはポラリスをあやしながら酒場の様子を眺めていた。皆笑顔で食事と会話を楽しんでおり笑い声も聞こえてくる。何組かシリウスに視線を向けたり手を振ったりしておりその度にシリウスは会釈している。

 

「はいよお待たせ!たくさん食べな!」

 

 酒場を眺めてしばらく時間を潰していると女将が両手にトレイを持って料理を持ってきた。トレイには野菜がゴロゴロ入った熱々のシチューと焼いた燻製肉に付け合わせの芋と柔らかそうなパンが乗っていた。もう一つのトレイには既に磨り潰されている野菜や芋が入った温かいシチューが乗っていた。この世界に来て一番の御馳走にシリウスは口内で涎が出るのを感じた。

 

「ありがとうございます。あのお代はいくらで?」

「ああ女将。その嬢ちゃんの飯代、俺らが持つぜ」

「え"!?い、いやそんな、悪いですよ」

「なに今日ぐらい構わねえよ。俺達にとっちゃたかが知れてらあ」

「そうそう、遠慮すんなって」

「というわけで女将、これあの子の分ね」

「はっはっは!あいよ!」

 

 隣の席にいたハンター達がシリウスの返事を聞く前に女将にシリウス達の分の食事代を支払った。既に支払われてしまいお金を返そうとしても断られるのが関の山だったのでシリウスは何もできずお礼を言う他なかった。

 

「…すみません。ありがとうございます」

「気にすんな」

「そうそう、これくらいいいって」

「それより温かいうちに食いな。ここのシチューは絶品だからよ」

 

 ハンター達はそう言って自分達の食事に戻った。

 

「いただきます」

 

 手を合わせて食事の挨拶をした後、シリウスはシチューを掬い口に運んだ。

 

「うっま…」

 

 その一言しか出なかったが表情は緩み切っておりそれだけで美味しいと分かるほどだった。隣の席のハンター達も分かると言わんばかりに笑っている。

 

「ふー、ふー、はいポラリス。あーん」

「あー」

 

 膝の上にいるポラリスにシチューを食べさせると美味しいのか笑顔で手足をバタつかせていた。その様子にシリウスは笑顔になり、周囲にいる人達もほっこりした笑顔になっている。シリウスもポラリスも終始笑顔で食事を続けた。皿にわずかに付いたシチューの残りもパンで拭って食べきり、ポラリスもシチューを全て食べた。

 

「ふい~。美味かった。ごちそうさまでした」

「あ~、あ~」

 

 シリウスもポラリスも身も心も満たされてご満悦である。

 ポラリスの口を綺麗に拭いていたら陽気な音楽が聞こえてきた。近所の人達による即興のライブが始まり酒場は大盛り上がりとなった。 テーブルや椅子が退けられてスペースが作られて音楽に合わせて皆が踊っている。陽気な音楽にポラリスも身体を揺すってリズムに乗りシリウスも曲に合わせて手拍子をしている。

 宴は続いていたがポラリスが欠伸をしたことでシリウスは名残惜しかったが席を立った。

 

「おや、もう行くのかい?」

「ええ、この子がお眠なので。色々ありがとうございました」

「いいんだよ気にしなくて。それじゃおやすみ」

「おやすみなさい」

 

 傍にいた女将に挨拶した後部屋に戻った。

 鍵を掛けてロウソクに火を付けポケットに入れていた金の入った袋を荷物の中に入れ、ポラリスをベッドに置き窓を閉めた。シリウスがベッドに腰掛けた時にはポラリスはすでに夢の中だった。シリウスはロウソクの火を消しポラリスの横に寝転び毛布を掛けてあげた。

 

「おやすみ、ポラリス」

 

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