転生したと思ったらママになっていた件   作:大神降ろし

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第八十話

 

 シリウス達は女性と共に森を出ようと森の中を駆けている。

 ポラリス達を抱いてウェズンも連れているので走る速度は遅いが、女性はシリウスに合わせるように速度を緩めている。女性は走りながら周囲を忙しなく見ており警戒を怠っていなかった。決断が早かったお陰かフェイクツリーと出くわす事無く森を出る事ができた。

 

「…ここまで来ればもう安心ね」

「そうですか。改めて助けていただいてありがとうございます」

「いいのよ。私が好きでした事なんだから」

 

 女性はフードを下ろしながらのほほんと答えた。

 

「自己紹介がまだよね。私はエルフィナ・ノーゼルって言うの。よろしくね」

 

 女性、エルフィナは緑色の長髪を三つ編みにしているシリウスよりも年上の二十代半ばの美女だった。外套の下にはかなり上位の魔物の革で編まれた服を着ており、主装備の短剣もシリウスが持つソルジャーアントの牙の剣や鋼鉄の小剣より上位の業物だ。装備している物全てがシリウスより四、五段階ぐらい上の水準でシリウスは自分より明らかに上の階級のハンターが自分を助けた理由が分からなかった。

 

「シリウス・ノクティーです」

「ま~」

「ままー」

「どうした?よしよし」

「あら可愛い。こんにちは~」

 

 エルフィナはポラリス達に笑顔で手を振るが、ポラリス達はジッとエルフィナを見て反応せずスピカは怯えてシリウスの背中に隠れてしまった。

 

「すいません。まだ人見知りなところがあって」

「いいのよ、気にしないで。小さい子供はそういうものだもの」

 

 のほほんとした笑顔で全く気にしていなさそうなので、シリウスも今すぐどうこうされる事は無い、ある程度は信用できると判断した。

 

「紹介しますね。ポラリスとアトリアとスピカとウェズンです」

「よろしくね~。それじゃあ帰りましょうか」

 

 エルフィナは笑顔で手を振り一瞬シリウスの荷物に視線をやった後先導するように前を歩き出した。

 

「(今、荷物を見たよな…?こりゃ、カペラとピーニの事バレてるな。いつバレた?…いや、フェイクツリーが出た時にピーニが叫んでたな。カペラは…ワンチャン気づいていない、か?何も聞いてこなかったって事は気にしてないか、私が話すのを待ってるか…どっちにしても二人をどうこうする気は無さそうだな)」

 

 何か目的があるかもしれないが悪意は無いと判断し警戒をさらに一段階下げてエルフィナの後に付いていった。

 

「さっきのはフェイクツリーって言ってね、見た通り木に擬態するの。大きいし力も強いけど動きは単純だから、位置に気をつければ十分対処できるから覚えておいてね。距離が合ったらそのまま下がればいいし、近くにいたら敢えて密着すれば意外と安全よ。ただ、その時は踏みつけとかには気をつけてね。身体は硬いから目と口の中を狙ってね。魔戦技や魔法も効果的よ。でも出てくるのは森の中ばかりだから火を使う時は気をつけてね。雷と風なら身体のどこでもいいけど、水と氷と土はさっき言った目と口の中がいいわ。それ以外だとあんまり効果は出ないからね。他の木との見分け方はね、地面を見るの。フェイクツリーは魔物だからずっとそこにいる訳じゃ無いから僅かに掘った跡とかが残ってるわ。気になったら本物の木と地面を見比べたらすぐに分かるわ…あら、それはエレネスの花ね。それはね、解毒のポーションの材料になるの。花を細かく磨り潰して煮詰めた後に濾過して不純物を取り除いたら解毒の効果が出るって聞いた事あるわ。不純物を取り除かないと解毒の効果が半減しちゃうんだって。このポーションが合ったら大体の毒は安心よ。でも可能な限り毒は避けてね。あれ、本当に辛いから。立っていられないぐらいの眩暈と指先も動かせないぐらいの痺れに襲われて本当に動けなくなるわ。あれは本当に辛かったわ…毒持ちの魔物はほとんどが見た目が毒々しいのばっかりだから、出会っちゃったら気をつけてね。大体が針とか牙に毒があるのが多いんだけど、偶に毒液じゃなくて毒の霧みたいなのを吐いてくるのもいるわ。見た目は蛇とかドラゴンだから早々会わないけどね。ドラゴンだと毒の霧だけじゃなくて毒のブレスとかも吐いてくる事はあるわ。もし、万が一出会っちゃったら脇目も振らずに逃げてね。その場合は直線に走るんじゃなくてジグザグに走った方が当たる確率は下がるわ。木とか岩を遮蔽物に使うのも手だけどそういうのも溶かすような毒を吐くのもいるから気をつけてね。それから―――」

 

 帰り道、エルフィナからフェイクツリーの対処法や薬草の使い道や毒持ちの魔物の対処法などを教えられた。シリウスは頼んでいないが為になる事ばかりだったのでエルフィナのマシンガントークとも言える会話を真面目に聞き続け、その会話は王都が見えてくるまで続けられた。

 

「ご、ごめんなさいね。他の人とこんなに話すの久しぶりだから、つい…」

「いえ、為になる事を聞かせてもらえたので別に」

 

 頬を赤らめて謝るエルフィナがシリウスにはお節介焼きのおばちゃんのように見えた。二人は王都に入りギルドへ向かった。

 

「依頼完了の報告です」

「はい…確認しました。こちらが報酬になります」

「…終わったかしら?なら私からも話があるわ」

「え、エルフィナさん!?お、お話というのは…?」

「(職員が敬語で話してるって事は有名人なのか?もしかして一級だったり…なわけないか)」

「さっき西の森を見てきたけどフェイクツリーがいたの。軽く探ってみたけど結構な数がいたわ。依頼にはフェイクツリーのは無かったと思うけど、どういうことなの?」

「えっ!?し、少々お待ちください!」

 

 受付の女性職員は慌てて資料を確認しに奥へ向かった。

 

「ギルドにも顔が利くんですね」

「まあ、ね。それなりに長くやってるからね」

 

 それとなく聞いてみたらはぐらされた感じで流されたのであまり聞かれたくないと分かり聞かない事にした。少しの間沈黙が広がったが女性職員が戻ってきた事で霧散した。

 

「お、お待たせしました…西の森の調査は確かにされてました…」

「そう。それで?」

「その…こ、こちらの不手際で依頼書の作成はまだされていません…」

「そうなのね。ところでこの子、さっき西の森で薬草採取をしてた時、フェイクツリーに襲われたの。私が助けなかったらどうなっていた事か…」

「大変申し訳ございませんでしたー!」

 

 クレーマーの如くネチネチと責め立てるエルフィナに女性職員は受付から出てきてジャンピング土下座を敢行した。

 

「…そっちの事情も分かるのよ。人手不足と入ってきた新人の研修でそこまで手が回らないのは。それでも言わせてもらうけど、そっちが大変なようにこっちも命を賭けてるのだから何とかしてほしいのよ」

「うぅ…すみません…」

「ふぅ…これ以上は止めとくわ。あなたに言っても仕方ないしね。ごめんなさいね、ネチネチ言って」

「いえ、こちらの不手際ですので…」

 

 女性職員は立ち上がって受付に戻りシリウスに向き直った。

 

「えー、この度はこちらの不手際で申し訳ございませんでした。お詫びとして先ほどの報酬にいくらか追加させていただきます」

 

 女性職員は受付の中にあるお金の入った袋から銀貨十枚ほどを取り出してシリウスに差し出した。

 

「あら、1000リクルだけ?」

「勘弁してくださいよぉ…私の権限じゃこれが精一杯なんですぅ…」

「いや、これでいいですよ」

 

 エルフィナの突っ込みに女性職員は涙目で反論し、シリウスは流石にこれ以上苛めるのは気が引けたので受け取った。

 

「あそこまで言わなくてもよかったのでは?」

「あそこまで言わないとギルドは中々動いてくれないのよ。大きな組織でそれなりの権力も思ってるから泣き寝入りする人も少なくないわ、もし、今回のような事が合ったら絶対に文句を言うのよ。一人で不安だったら私に言ってね。私がいなかったら周りの人に事情を話してね。味方になってくれるから絶対に泣き寝入りしちゃ駄目」

 

 受付を離れてロビーの空いている席に座り、エルフィナから先ほどのような問題の対処法を教えてもらっている。一通り教えてもらった後、夕暮れを告げる鐘の音が聞こえてきた。

 

「あら、もうそんな時間なのね。それじゃあシリウスちゃん、またね」

「ええ、では」

 

 エルフィナと別れシリウスは子供達と宿屋へ戻った。

 

「色々あったけど…ウェズン、今日はどうだった?」

「ヒヒン、ヒィン」

「楽しかった?そう、良かった」

 

 色々あり中々に疲れたのでウェズンを厩舎に戻した後、夕食を取り部屋に戻って早めに眠った。翌朝、洗濯と朝食を終えた後に荷物を持ってウェズンを連れて再びギルドに向かうとロビーでエルフィナと再会した。

 

「あらシリウスちゃん、ポラリスちゃん、アトリアちゃん、スピカちゃん、おはよう~」

「あー、おはようございます」

 

 自分を待っていたかのようにギルドにいたエルフィナにどんな表情をしたらいいか分からないシリウスだった。何故ならシリウス達を見つけた瞬間、無表情だったのが満面の笑みに変わったからだ。ウキウキしながらシリウスに近寄るエルフィナの姿を周囲のハンターは目撃していた。

 

「おい、あれ見ろよ…」

「ん?…マジかよ…」

「あの人って…まさか…!?」

「あの嬢ちゃん、〈ヴィクオール〉だけじゃなくてあの人とも親しいのか…!?」

「そんなにあの緑色の人は有名なのか?」

「はぁ!?」

「おっま!?知らねえのか!?」

「何で知らねえんだよ!?」

「いいか!?あの人はな…!」

「おい待て!あれ見ろ…!」

 

 騒ぎ出したハンター達が言われた方を見ると横目で睨んでくるエルフィナがいた。

 

「ひぇ…!?」

「喋るな、って事、かな…?」

「もしくはうるさい、だろうな…」

「ちょっと騒ぎ過ぎたな。大人しくしとこう…後で教えてやるから静かにしとけよ」

「お、おう…」

 

 エルフィナの一睨みで強面の男達を黙らせてしまった。

 

「全く…ポラリスちゃん達が泣いちゃったらどうするのよ」

「いや、それぐらいで泣きませんよ」

「そう?ポラリスちゃん達は偉いわね~」

 

 エルフィナはポラリス達を撫でたそうにするが、時期尚早だと手を振るだけに留まった。

 

「今日もお仕事するの?」

「ええ。食事代とか色々掛かりますし、装備もそろそろ新調したいので」

「シリウスちゃんは偉いわね~」

 

 エルフィナは自然にシリウスに近づき頭を撫でた。

 

「…」

「あ、ごめんなさいね。つい」

「いや、別にいいんですけど」

 

 頭を撫でられる歳でも無いので何とも言えない表情を浮かべていたが、気を取り直して掲示板を見てみると昨日言っていたフェイクツリーの依頼が張ってあったり、別の討伐系の依頼には他の魔物が出てくる可能性があるという追記がされていた。

 

「昨日のがもう張ってあるな」

「あら、仕事が早いわね~。こっちは追記が書かれてるわね。何かあったのかしら?」

「フォレストビーの巣の攻略で依頼書と書かれてた事と実際の巣の大きさが違ってたんですよ。それで皆で文句を言って確かめさせたんです」

「それでこうなったのね。私が言わなくてもちゃんと文句が言えたのね。えらいえらい♪」

「…何で私の頭を撫でるんですか…別に構いませんけどね」

 

 エルフィナに頭を撫でられながらシリウスは掲示板からデーコンの採取の依頼を取った。

 

「少し余分に採ってウェズンに上げるか」

「デーコンね。あれは茹でて食べると美味しいのよね~」

 

 受付で受注した後、ウェズンを連れて東門から出て北東の森へ向かった。

 

「…あの」

「なあに?」

「ここまで来て言うのも何ですけど…付いてくるんですか?」

「駄目だった?」

「いや、そういう訳では…はぁ…もういっか。その代わり手伝ってもらいますからね」

「もちろん、任せて!」

 

 何故かずっと付いてきたエルフィナと共に北東の森のデーコンの群生地へ向かい採取を始めた。シリウスは以前採った時にコツを掴んでいるので淀みなく採っており、エルフィナもやった事があるのか、ドンドン採っている。ウェズンも蹄と鼻先を器用に使ってデーコンを掘り美味しそうに食べていた。

 

「ヒィン」

「美味しいか?よしよし、いっぱいあるからな」

「その子、ウェズンちゃん、だっけ?言葉が分かるの?」

「ええ。契約してるので」

「あら~珍しいわね~。昔は何人かしてる人を見かけた事があったけど、最近はほとんど見なくなったわ」

 

 ベテランのハンターですら動物と契約する事はとても珍しい事だった。その後もデーコンを採り続け、規定数よりも多めに採って王都に戻った。ギルドに戻り納品して報酬を貰った後は昨日と同様エルフィナから為になる経験談を聞かせてもらった。そして夕暮れになるとエルフィナと別れて宿屋に戻って眠った。

 それから数日…

 

「シリウスちゃん、やっほー」

「あらシリウスちゃん。お仕事行くの?私も付いていっていい?」

「シリウスちゃーん!これ見て!凄いでしょ!?」

「シリウスちゃーん。ポラリスちゃん達にクッキーを焼いてみたの。食べるかしら~?」

 

 毎日のようにエルフィナと出会い、依頼を受けた時は一緒に行き、特に用事が無い時は為になる話を話して夕暮れまで一緒にいるようになった。ここまでくるとシリウスも子供好きでお節介焼きな近所のおばちゃんにしか見えなくなっていた。

 

「…少しいいですか?」

「ん?なあに?」

 

 だがシリウスは念には念を入れてロビーに座っているエルフィナに直接聞く事にした。

 

「どうしてそこまでしてくれるんですか?子連れのハンターは珍しいかもしれませんが、あなたには何の得もないですよね?」

「ふふふ、直球ね。んー…放っておけないから、じゃ駄目?」

「駄目ですね。私が納得できません」

「本当にそれだけなんだけどなぁ…そうね…初めて見た時に昔の、とっても幸せな時の事を思い出してね。それを思い出したら、もう放っておけなくて」

 

 嘘を付いているようには見えず本当に放っておけなかったからシリウスにあれこれと世話を焼いているみたいだった。

 

「(えぇ…本当にそれだけ…?警戒してた私が馬鹿みたいじゃん…)はぁ…ポラリス、アトリア、スピカ、この人は大丈夫だよ」

「う~?」

「うー?」

「…ぅ、ぅ…ほ、んと…?」

 

 膝の上に座っている三人に話しかけると三人はエルフィナを見た。

 

「は~い♪エルフィナ…いや待って…この子達からすれば…うん、そうね…よし。フィナおばちゃんですよ~♪」

「おばちゃんって…そんな歳でも無いでしょうに…」

 

 自分からおばちゃん呼びを要求するエルフィナにシリウスは突っ込むが、エルフィナは笑顔で無視してポラリス達に手を伸ばしている。スピカはまだ怯えてシリウスの服を掴んでいるが、ポラリスとアトリアはシリウスとエルフィナを何度も見比べている。シリウスが笑い掛けるとまずポラリスがエルフィナの手を掴んで笑った。

 

「あ~♪」

「ん"ん"ん"」

 

 天使の笑顔を間近で見て悶えるエルフィナにアトリアが追い打ちを掛けるようにエルフィナの手を掴んだ。

 

「あーい♪」

「あはあああぁぁぁん!!」

「うわぁ…」

 

 奇声を上げて仰け反って悶えているエルフィナを見てシリウスは引いたが、子供達が甘えてくる時のシリウスも似たようなものだった。

 

「可愛いわあああぁぁぁ!!」

「あ~♪」

「あー♪」

 

 エルフィナはポラリスとアトリアを抱き上げながらクルクルと回った後、二人に頬擦りをしている。

 

「ポラリスとアトリアを盗られてしまった…寂しいからスピカを愛でよう、そうしよう。という事で、スピカ~」

「ぅぁ、ぁぅ…」

 

 娘を盗られた寂しさを隠すために膝の上に残ったスピカを抱き締めて頬擦りしたり、頭を撫でている。スピカはビクッと身体を固まらせた後、力を抜いてされるがままになっている。

 

「(だいぶ慣れてくれたと思うんだが…まだ掛かるかな?早くママって呼んで欲しいんだが…いや、焦りは禁物だ。時間が解決してくれる、はず)よしよし」

 

 それなりに時間は経っているが未だに身体を固まらせるスピカを撫でつつ、早くママと呼んで欲しいシリウスだった。

 ギルドのロビーの一角は朝からとても賑やかだった。

 

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