「いぃっ!?つぅ~~~!」
「ジッとしてください。全く…無茶し過ぎです」
「うぅ…仕方が無いでしょ。ああでもしなかったら全滅してたかもおぉっ!?…しれなかったんだからぁ…」
重傷を負ったエルフィナはシリウスから手当てを受けているが、かなり無茶をしたのでシリウスからお説教も受けていた。
「うぅ…シリウスちゃんが冷たい…」
「当然でしょ。あんな無茶をしたんですから」
「…うわ~ん。シリウスちゃんが苛めるよ~。ポラリスちゃん、アトリアちゃん、スピカちゃん、フィナおばちゃんを慰めて~」
ジト目で見てくるシリウスに耐えられなくなり、ポラリス達に助けを求めた。
「あ~、う~」
「うー?あ、おー」
「…ぇぅ…ぁ、ぅ…」
ポラリス達に近づくとポラリスはエルフィナの顔をペタペタと触り、アトリアはエルフィナの右手を握った。スピカは近づいてきたエルフィナに怯えて後ろに下がろうとしている。
「えへへ~♪」
「全く…ああ、ヴァレットさん達はこういう気持ちだったのか…なるほどな…まあ、改善するかは置いておくが」
怯えるスピカを抱き上げながら以前ターエルにいた頃に無茶をした時の事を思い出した。
「あら、シリウスちゃんも無茶をした事が?」
「ええ。フォレストエイプっぽいゴリラを相手にした時に」
「そんなのがいたのね…それも変異種かしら…」
「どうでしょうね…他の皆さんは何も言わなかったので、多分大きいだけのフォレストエイプだったと思いますけど…」
「あ、あのー…」
「ああ、すいません。放ったらかしにしてしまって。そちらは怪我とかは無いですか?」
「ええ、お陰様で無事ですぞ。この度は助けていただき本当にありがとうございます。あなた方は命の恩人だ」
「そんな大袈裟な…依頼のついでで助けただけですので、そこまで考えなくてもいいですって」
「いいえ!そういう訳にはいけません!ましてや“緑風”様もおられるのにそんな不義理な事など…!」
「あっ、ちょ」
「緑風?」
「知らないのですか!?〈緑風〉のエルフィナ!伝説の一級ハンターチーム“グローミナス”のメンバーのお一人ですぞ!吹き荒ぶ風の如く素早い動きで多くの魔物を屠ってきた、まさに英雄に相応しいお方です!」
「へー…そうなんだ」
「そ、それだけですか!?」
「他にどう反応しろと?昔がどうとか私には関係ありません。私が知ってるエルフィナさんは、世話を焼くのが好きで子供が大好きなエルフィナさんだけです」
「(キュン)し、シリウスちゃーん!」
シリウスの言葉に感極まったエルフィナは痛みも忘れてシリウスに抱き着いた。
「うわっ!?何するんですか!?」
「おばちゃん、嬉しいわ!あーん!シリウスちゃん、大好き!」
「ええい!離しなさい!怪我人は大人しくしなさい!」
シリウスに抱き着いて頬擦りをしてくるエルフィナをシリウスは引き剝がそうとするが一向に離れなかった。
「う~、ま~」
「ぶー。ままー」
「…ぁ…ぅぅ…ぇ、えっと…う、うぅ…」
シリウスに抱き着いているエルフィナを見てポラリス達は嫉妬したのか頬を膨らませておりシリウスにしがみついた。アトリアは自分でハイハイをし、スピカは散々迷ったがハイハイができず藻掻いていたポラリスの服を掴んでシリウスの所まで引き摺っていった。
「ぬおおおぉぉぉ…!ポラリス達が抱き着いて動けない…!エルフィナさんはさっさと離れてください!」
「い~や~よ~!んっふふふ♪」
「ま~」
「ままー」
「…ぁ、ぅ…」
「これはこれは…ほっほっほ」
男性に温かく見守られながらシリウスはエルフィナが満足するまで抱き締められた。
「(グデー)」
「ご、ごめんね。感極まってつい…」
散々抱き締められた挙句これでもかと撫で回されてグロッキー状態になったシリウスはポラリス達に慰められていた。
「ま~」
「ままー」
「…ぁ…だ、いじじょ、ぶぶ…?」
「ぬおー…」
「…しばらく駄目そうね。あたたた…」
ポーションが効いてきたとはいえまだ完治していないエルフィナも忘れていた痛みが戻ってきたのでしばらく休む事にした。地面に座るとどこからかお腹が鳴る音が聞こえてきた。
「おっと、これは失礼。数日は何も口にしていなかったものですから。水の方は朝露で何とかしていたのですが…安心したら鳴ってしまいました」
「そんなに捕まっていたのね。待ってて。確かここに…合った。はい」
エルフィナは荷物からパンと水を取り出して男性に渡した。
「おお、ありがとうございます。あむっ…ああ…久々のパンの味…」
「ゆっくり食べてちょうだい。シリウスちゃん、大丈夫?」
「…まあ、何とか」
男性は久々の食事を味わいながらゆっくり食べている。男性が食べ終わった辺りでシリウスも復活しエルフィナも痛みが引いたので王都に戻る事にした。
「素材はよろしいのですか?」
「私達二人だけだから全部は持って帰れないわ。後でギルドに言って持ってきてもらうから大丈夫よ」
「その分お金も掛かるんでしょ?」
「まあね。今回なら…1500リクルぐらい、かしら…?」
「数と大きさで値段が変わる感じですか?」
「そうね。そんな感じ」
エルフィナを先頭にシリウス、男性と続いて歩き続けて森を出た。
「エルフィナさん、魔戦技ってどこで覚えられますか?」
「シリウスちゃん、魔戦技を覚えたいの?」
「ええ。今回のように魔法より魔戦技の方が効果的な事があるかもしれないので」
「そっか。うーん…でも魔法と魔戦技って両立できたかしら…?」
「できないんですか?」
「使ってる人は見た事は無いわね…仮に使えたとしても魔戦技がメインで魔法は下位の補助ぐらいじゃないかしら?」
「知り合いでエンチャントを使ってから魔戦技を使う人がいますけど」
「あらそうなの?最近の子達って器用なのねー。なら、使えない事は無い、って感じかしら。それでも普通に覚えるよりも大変かもしれないわよ」
「それは覚悟の上です。ひたすら数をこなして身体で覚えるだけです」
「まあ素敵。最近の子は凄いわね~」
「何とご立派な考え…感服しましたぞ」
「いや、普通ですって。手札は多い方がいいですし、私の場合はこの子達がいるので余計に手札が多い方がいいんですよ」
「なるほど」
「話を戻すけど、魔戦技を教えてくれる場所、道場があるわ。ただねぇ…」
「何か問題が?」
「最近の道場は昔と比べて質が落ちてるのよねぇ…高額の授業料を払ってるのに教え方が雑だとか、見た目で判断して門前払いとか、可愛い女の子が来たら授業そっちのけで口説いたりとか、最近そういうのが増えてるのよ」
「それなら私も知っておりますぞ。講師側と生徒側に別れて言い争う場面を何度か見た事があります」
「うわぁ…」
「私が習ったとこは随分前に無くなっちゃったし…実際に道場の様子を見にいったり、習ってる人の話を聞くしかないわね。道場の場所はいくつか知ってるから案内するわね」
「お願いします。あの、魔戦技ってどんなのがあるんですか?」
「基本は【強撃】と【疾走】と【鋼体】かしら?【強撃】は普通より強い攻撃を放って、【疾走】は普通より速く走れて、【鋼体】は普通より身体が硬くなるわ。武器が変われば【剛撃】とか【閃撃】とか【重撃】とかもあるわ。【剛撃】は斧とか重量がある武器用で、【閃撃】は槍とかの突きがメインの武器用よ。【重撃】はパンチよ。どんな人でもここから始めるわ。そこからはどの流派が自分に向いてるかで皆別れるわ。今の主流はリクオン派とヘラルド派だったかしら?名前は開祖から取ってるらしいわ。リクオン派はさっき言った基本の魔戦技をさらに発展させた流派よ。使い勝手がいいから使う人も多いわ。ヘラルド派は武器に属性を付与させる魔戦技を教えてるわ。こっちは魔力消費が激しいけど威力が高くて見た目も派手だからそういうのが好きな人がよく使ってるわ。他にも流派はあるけど、主流なのはこの二つね」
「なるほど。基本を取るか、属性を取るか、ですね」
「シリウスちゃんは魔法も使うから属性より基本の方がいいかもしれないわね」
「確かに。それはそうですね」
魔戦技に関する事を話しながら一行は王都へ向けて歩いていった。王都に戻ってきて一先ず男性を家まで送る事にして大通りを歩いている。
「こちらです。まもなく私共の店です。店に着いたら是非ともお礼をさせていただきたい」
「そこまでしなくてもいいですってば」
「この通りの店って全部大手ばかりなんだけど…まさか、ね」
何やら嫌な予感がしてきたエルフィナだったが予感は的中してしまった。男性の案内で着いた場所には“ハウアー商会”という看板が掲げてあった。
「あっ!?会長!?」
「えっ!?本当!?」
「ほ、本当に会長だ!」
「おーい!会長が生きてらっしゃったぞー!」
店の前にいた従業員が男性に気づき大騒ぎとなった。
「あの、貴方の名前って…」
「おお、これは申し遅れました。私、アムゼロック・ハウアーと申します。ご覧の通り、ハウアー商会の会長をしております」
助けた男性は大会社と言ってもいいほどの大手の商会の会長であった。思いも寄らない大物が出てきて固まるエルフィナとポカーンと口を開けているシリウスだった。
「会長!よくぞご無事で…!」
「ああ、ロニー君。私がいない間苦労を掛けたね」
「勿体無いお言葉…!あの、隊商の方は…」
ロニーと呼ばれた若い男の部下の言葉にアムゼロックは悲しそうな顔をしたまま首を横に振った。
「そうですか…」
「彼らは私を命を賭して守ってくれた。その恩に報いねばならん」
「そうですね…ところでこちらの方々は?」
「私を助けてくれた命の恩人だ」
「何と…!?会長を助けていただき誠にありがとうございます!」
「「「「「ありがとうございます!!」」」」」
ロニーが頭を下げると騒ぎを聞いて中から出てきた従業員達も一斉に頭を下げた。
「い、いや別にいいですって。依頼のついでだったんですから。だから頭を上げてください。お礼も結構ですから」
「何と…!?」
「ハウアー商会の会長を助けたのに…!?」
「少し強請れば大概の物は手に入れられるのに…!?」
「色んなコネもあるから大概の地位も手に入れられるのに…!?」
「別にお礼欲しさに助けたわけじゃないので」
「で、ではどうして?」
「困ってる人がいたら助けてはいけないんですか?別に切羽詰まった状況でも無かったですし」
シリウスが不思議そうにそう言うと従業員達は唖然とした。
ハウアー商会の会長を助けたら、先ほど従業員達が言ったように大概の願いは叶えられるのだ。普通の人なら飛びつくような望外な幸運なのにシリウスはあっさりとその幸運を捨てた。シリウス的には目の前で助けを求めている人がいて、自分が助けられるぐらいの余裕があったので助けただけだった。
「何と謙虚な…!」
「す、凄い…!」
「私達とは器が違う…!」
「私だったら絶対飛びつくのに…!」
「くぅ…!自分が恥ずかしい…!」
「そんな大袈裟な…」
「いやー…シリウスちゃん?シリウスちゃんの考えは凄いし褒められる事だけど、圧倒的に少数派よ?」
「えぇ…」
エルフィナまで突っ込まれてシリウスはお礼欲しさに他人を助けるこの世界の人達の図々しさに少し引いている。
「うおおおぉぉぉ…!私、感動しましたぞ…!」
「えぇ…そこまで…?」
男泣きしているアムゼロックにも引いている。
「これは是が非でもお礼をせねば!さあ皆!最高級のおもてなしを!」
「「「「「はい!!」」」」」
「いやいやいや。だからいいですってば」
「まあまあ!」
「さあさあ、どうぞこちらへ!」
「紅茶と茶菓子を!一番良い物を!」
「はぁ…シリウスちゃん、諦めましょ?」
「あーれー」
従業員達によってシリウスとエルフィナは強引に建物の中に連れていかれた。
建物は商会の事務所になっており、ロビーと来客に対応する受付があり、受付には美人の受付嬢が二人いて、入ってきたシリウス達に笑顔で頭を下げている。ロビーは広々としているが、塵一つ無く清潔に保たれており、所々に花瓶や絵などの調度品が飾られていた。従業員の案内でシリウスとエルフィナは受付を通り事務所の奥へ向かってある一室に通された。
そこは貴族や大手の商人が通される高級応接室であった。受付や廊下に飾られていた調度品よりも高級な調度品ばかりで、ソファーやテーブルも普通の物よりも明らかに高価な代物だと一目見て分かった。部屋の中にある物はどれも素人目で見ても数万リクルはしそうなほど豪華絢爛な部屋だった。
「こ、ここに入るんですか…?」
「そ、そうみたいね…」
「こちらの方で暫しお待ちを」
案内してくれた従業員が部屋を出ていきシリウスとエルフィナは恐る恐るソファーに座った。
「おおぅ…フカフカ…超高そう…」
「…実際超高いわよこれ…ソファーだけじゃない。テーブルや置いてある調度品も全部超高いわ…一つだけでも数万、数十万リクルはするかも…」
「ひぇ…絶対に壊せない…」
二人はあまりの高価な品々に戦々恐々としながら会長が来るのを待つしかできなかった。途中で従業員がこれまた高そうな銀色のティーセットで高級そうな紅茶と茶菓子を持ってきてくれて、緊張しながらそれを食べつつ会長が来るのを待った。
「いやはや、お待たせしました」
応接室に通されてから三十分ほど経ってからアムゼロックとロニーが入ってきた。
「何分数日は身を清めていませんでしたので…そのままお二人の前に出るのは失礼かと思いましたので、着替えさせていただきました。お待たせして申し訳ない」
「いえ、お気になさらず」
アムゼロックとロニーはシリウスとエルフィナの対面に座った。
「改めて、今回は助けていただき誠にありがとうございます」
「会長を助けていただき、感謝の言葉もございません」
「いえいえ。依頼のついでみたいなものなのでお気になさらず。ええ。お礼も全然いりませんので。いや本当に。このまま帰していただければ」
「シリウスちゃん…」
このままここにいたらどんなお礼をされるか分かったものじゃないと早々にお暇しようとするシリウスと、シリウスの本音を察して苦笑するエルフィナだった。
「そんな!?それでは私の気が治まりません!ロニー君!」
「はい。勝手ながらこちらの方である程度を纏めさせていただきました。まず謝礼金として1000000リクル。こちらはハウアー商会の去年の年収から試算しました。次にこちらを。こちらの札はハウアー商会の上客の証となります。こちらをハウアー商会の系列店にご提示いただければ最大級のおもてなしと通常、店ではお出ししていない特別な品物をご購入できるようになります。またこういうものが欲しいとお申し付けいただければ例えどのような品であろうと我が商会が全力を尽くしてお取り寄せいたします。続いてはこちらを。ハンターをされているとのお聞きしたので僭越ながらこれらをご用意させていただきました。まず上位のポーションを各種二本ずつ、そして魔具でございます。指輪の方は魔力を回復する指輪でございます。腕輪の方は盾の腕輪と言いまして、魔力を込めると盾を作り出す事ができます。こちらの杖は雷槍の短杖と言いまして、【ライトニングスピア】という魔法が込められております。まずはこちらの方を進呈させていただきます。他にご要望などございますでしょうか?」
「どのような事でも構いませんぞ。我がハウアー商会が全力を持って叶えましょう!」
破格どころかもはややり過ぎの域に達するほどのお礼だった。
しかもこれだけやってもまだ足りないと言わんばかりにアムゼロックとロニーはやる気満々だった。あまりの内容にシリウスは完全に固まり、エルフィナは顔が引き攣っていた。何の反応も無い二人にアムゼロックとロニーは顔を合わせて首を傾げており、凄まじいほどの温度差がそこにあった。