転生したと思ったらママになっていた件   作:大神降ろし

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第八十六話

 

 ギルドから素材を受け取って宿屋に戻ってきたシリウスとエルフィナ。

 厩舎の前まで荷車を引っ張ってきたウェズンを労って厩舎に入れた後、シリウスが泊っている部屋まで荷物を持っていった。

 

「ふぅ…」

「やっぱりキツかったんじゃないのー?」

「いーえ、全然。余裕ですが?」

「ふふふ」

 

 からかってくるエルフィナに余裕だと言い張るシリウスだが、やはり右腕一本で運ぶには重かったのか右腕が少し震えていた。荷物を端の方に置きポラリス達をベッドの上に優しく置いた。

 

「ま~。あ~、う~」

「ままー、あーうー!」

「ぁぅ…ぁ、あ…ぅぅ…」

 

 ポラリスはシリウスに手を伸ばして、アトリアは元気よく手足をバタつかせて、スピカは構って欲しそうにシリウスをチラッと見たが恥ずかしくなって俯いてしまった。

 

「いいよ~、遊ぼっか。えーっと…そーら、犬さんと猫さんだぞ~♪お馬さんもきたぞ~♪」

「あ~♪う~♪」

「いにゅしゃん♪」

「ぉー…」

「ふふふ」

 

 ポラリスとアトリアは猫と犬の木の玩具を持って歩かせて遊び、スピカは馬の木の玩具を持って目を輝かせている。シリウスとエルフィナは子供達が遊んでいるのを優しい目で見つめていた。

 

「うーん…やっぱりそろそろ新しい玩具がいるな」

「あら、買うの?どんなのがいいの?」

「ぬいぐるみがいいんですけど、どこか良い店知りませんか?」

「ぬいぐるみかー…あるのはあるんだけど…うーん」

「何か問題でも?」

「ぬいぐるみはどっちかというと貴族向けの玩具でね。店はあるんだけど、とーっても高いのよねぇ…この前見た時は一体10000リクル近くしてたわね…」

「うわぁ…うーむ…なら自分で作るか。針はあるから、糸と布と後は…綿か?」

「シリウスちゃん、お裁縫もできるの?すごいわねぇ」

「できるといっても解れた所を直したり、開いた穴を当て布で塞いだりする程度ですよ」

「それだけできれば十分よ。私も久々にやってみようかしら。今度お裁縫関連のお店に案内するわね」

「お願いします」

「はーい♪お願いされましたー♪」

 

 新しい玩具について話し合いながらポラリス達が遊んでいる様子を眺めていた。今は木の玩具ではなくピーニに興味が向いていた。

 

「あ~、う~」

「ぴー!ぎゅー!」

「嫌よ!絶対に行かないわよ!いい!?絶対に渡さないでよ!」

「ひぅ…!?」

 

 ポラリスとアトリアの標的になったピーニはスピカの頭の上に避難しており、スピカはどうしたらいいか分からずオロオロしていた。

 

「(プルプル)」

「う~?」

「かちぇら!」

「ふぅ…カペラの方に興味が行ったわね…今のうちに…!」

 

 見かねたカペラがポラリスの頭の上に乗ると二人の興味がカペラに向いたのでその隙にピーニはシリウス達の方へ逃げていった。

 

「はぁ~…やっとゆっくりできるわ…」

「お疲れ様」

「大変そうね~」

「他人事みたいに言って…!」

「実際他人事だしね~」

「きぃ~!」

 

 エルフィナの言葉に悔しそうにするピーニを見ながらシリウスはカペラと戯れているポラリスとアトリアを羨ましそうに見るスピカの所に向かった。

 

「スピカ」

「ぁ…ま…ぅぅ…」

「ふふふ、ゆっくりでいいよ。ほら、一緒に行こ」

 

 恥ずかしくてシリウスの事をママと言えないスピカと一緒に遊んでいるポラリスとアトリアとカペラの所に向かった。

 

「ま~」

「ままー、かちぇら!」

「(プルプル)」

「そうだよ、カペラだよ。ほら、スピカ。大丈夫、カペラも家族だよ」

「か、ぞ、く…?」

「そう、家族。だから全然怖くないよ」

 

 カペラに触れるのを迷っているスピカの背中を優しく押してあげるとスピカは恐る恐るカペラに触れた。最初はおっかなびっくりツンツンと突いていたがやがてカペラの頭を撫でるようになった。カペラはされるがままだったが徐にスピカの肩に乗り頬擦りをした。

 

「(プルプル)♪」

「ぁぅ…」

「ふふふ。カペラもスピカが好きだって」

「う~」

「かちぇらー!」

 

 スピカだけに頬擦りしてズルいとポラリスとアトリアが抗議の声を上げたのでカペラはスピカから降りてポラリスとアトリアにも頬擦りをした。

 

「あ~♪」

「あーい♪」

 

 ご満悦な二人を見てシリウスは優しく微笑んでいたが窓の外からウェズンの声が聞こえた。

 

「ヒィン!ヒヒン!」

「ウェズン、今行くよ!ポラリス、アトリア、スピカ、カペラ、ウェズンが一緒に遊びたいって。お外に行こっか」

「あ~」

「あーい!」

「ぅ、うん…」

「(プルプル)」

 

 中から楽しそうな声が聞こえてきて、ズルい!自分も遊びたい!と声を上げたウェズンに気づいたシリウスはポラリス達を抱き上げてエルフィナ達と一緒に部屋を出て外に向かった。厩舎に向かうとウェズンが待ちきれない様子で厩舎内をウロウロしていた。

 

「ウェズン、お待たせ」

「ヒィン」

 

 ウェズンを厩舎から出すと興奮してシリウスに飛びつくように擦り寄ってきた。シリウスはポラリス達をウェズンの背中に乗せて一緒に歩き始めた。

 

「あ~♪う~♪」

「あーい♪あーう♪」

「わ、わ、わ…!?」

「(プルプル)♪」

「ヒィン、ヒヒン♪」

 

 背中に乗せて歩いているだけだが家族と一緒にいるだけで楽しいウェズンはご機嫌そうに嘶いている。子供達が楽しそうにしている姿を見てシリウスも嬉しくて優しく微笑んでいた。しばらくの間ウェズンに乗って遊んでいたポラリス達だったがやがて遊び疲れて、今はシリウスの膝枕でお昼寝している。右足にはポラリスとアトリアとスピカが、左脚にはカペラとウェズンが穏やかな表情で寝息を立てている。シリウスは慈愛に満ちた表情で愛しい子供達の頭を撫でている。

 

「ふふふ、可愛いわねー」

 

 子供達が遊んでいるのをずっと優しい笑顔で眺めていたエルフィナは眠っているポラリスとアトリアとスピカの頬をツンツンと優しく突っついている。

 

「ずーっと遊んでたけどシリウスは疲れてないの?」

「全然。この子達が楽しそうにしてたら疲れなんて吹っ飛んだ」

「そんなわけないでしょ…」

「ふふふ、母親ってそういうものよ。でもシリウスちゃん、無理は禁物よ」

「分かってますよ。寝たら疲れも取れますから」

 

 その後も子供達が起きるまでシリウスは皆の頭を撫でていた。

 

「んにゅ…ま~…」

「うにー…ままー…」

「んぅ…」

「(プルプル)」

「ブルブル…」

「皆、おはよう~。よしよし」

 

 ポラリスとアトリアは起きて早々にシリウスに甘え、スピカは目を擦ってまだ眠たそうにし、カペラは寝惚けているスピカの膝の上に乗り、ウェズンは身体を起こしてシリウスの服を甘噛みしている。シリウスは甘えてくるポラリスとアトリアの頭を撫でた後、ポラリスとアトリアとスピカを抱き上げて立ち上がった。

 

「うーん…これからどうしようかな…」

「それならさっき言ったお裁縫の店でも行ってみる?ここからそんなに遠くないわ」

「そう、ですね…皆、お散歩する?」

「あ~」

「あーい」

「ぅ、うん…」

「(プルプル)」

「ブルルル…」

「よーし、皆でお散歩だ~」

 

 ポラリスとスピカをおんぶ紐で抱いて、アトリアを左腕で抱き上げて、カペラはピーニとカバンの中に入り、ウェズンはシリウスに手綱を付けてもらって準備完了だ。エルフィナの案内で宿屋を出て東通りを十分ほど歩くとそれなりの大きさの商店が見えてきた。

 

「ここよ。布とか糸とか、そういう物ぜーんぶ置いてるわ。結構色んな所から布とかを仕入れてるみたいで人気のお店よ」

「へー」

 

 店の中に入ると布や糸の他に針や紐なども置いてあり品揃えはかなり豊富だった。結構繁盛しており貴族や商家の使用人が布や糸を買いにきていたり、服飾関連の人が服を作るための布を吟味していたり、裕福な家の娘達が綺麗な布を手に取ってキャイキャイと騒いでいたりしている。

 

「針と布はあるからいいとして、糸は…どの色にしようか…まあ、有って困る物でも無いから何種類か買っとくか。赤、青、黄、緑、後は白でいっか。布は…多いな…」

「ホントよね~。いつ来ても圧倒されるわね~」

 

 壁一面に棚が置かれ、そこに色とりどりの布が所狭しと並べられていた。分厚い布もあれば、向こうが透けて見えるほど薄い布もあり店主の拘りが垣間見えた。

 

「これだけあると探すのも一苦労ね」

「厚さは普通で手触りがいい物があればいいんだが…」

 

 エルフィナと手分けして良さげな物を探して十分後、気に入った布を見つけた。その後、綿と目に使うボタンも見つけて糸と布と綿とボタンを購入して店を出た。

 

「そんなに買って大丈夫?」

「必要な物なので別に構いません。臨時収入も入って少しは余裕もありますし」

「いや、10000リクルを軽く超えてたじゃない」

 

 シリウスが買った物は糸五種類、綿三袋分、ボタン十個、布三種類だ。糸が一つ200リクル、綿が一袋1000リクル、ボタンが一つ100リクル、布が一つなんと6000リクルもした。店主が厳選した上質な代物なので余計に高い値段が付き、合計23000リクルもしたが必要な物なのでシリウスは必要経費として割り切っていた。

 

「はぁ…もう買っちゃったからこれ以上は言わないけどね。それで?どんなぬいぐるみを作るの?」

「取りあえず熊と兎と鼠でも作ろうかと」

「あら、いいわね…何で鼠?」

「可愛くないですか?」

「えー…うーん…そう、かしら…?」

 

 シリウスの頭の中にはカピバラが映っており、エルフィナの頭の中にはジャイアントラットが映っていて互いに微妙な勘違いが起こっていた。

 

「(カピバラ可愛いのに…あ、こっちにはカピバラみたいなのはいないのか)」

「(ジャイアントラットが可愛い…シリウスちゃん、ジャイアントラットを見た事が無いのかしら…?あ、もしかして野鼠の方かしら?それなら可愛いのもいるから納得ね)」

 

 ジャイアントラットは可愛いから程遠い見た目をしており一瞬シリウスの感性を疑ったエルフィナだがすぐに野鼠の方だと修正した。もちろんどちらも違うが。

 店の前で待っていたウェズンを連れてそのまま少し散歩してから宿屋に戻った。ウェズンを厩舎に入れた後部屋に入ってポラリス達をベッドの上に置いてからシリウスは机の上に布を広げて寸法を指で測りながら唸っている。

 

「えー…このぐらいの大きさで…それから手足と耳…これぐらい?いや、何かバランスが…もうちょっと大きめ?いや、それだと持ち運びが…んー?」

 

 ぬいぐるみなど作った事は無いが何とかなるだろうと軽く考えていたシリウスだったがそんな事は無く、予想以上の難しさに布とにらめっこをしながら唸っていた。

 

「大変そうね~」

「あ~、う~」

「んー!」

「あら、ポラリスちゃん、アトリアちゃん、どうしたの?」

 

 シリウスが四苦八苦しているのを椅子に座って眺めていたエルフィナは自分を見て手を伸ばしているポラリスとアトリアに気づいた。

 

「よいしょ…どうしたのかな~?」

 

 ポラリスとアトリアを抱き上げてあやすエルフィナだが、二人はエルフィナをジッと見て口をモゴモゴと動かしている。

 

「あ~、う~…ば~」

「んー、い、ふぃ、ふぃー、ば、ばぁ、ばー」

「!?!?」

 

 ポラリスとアトリアがたどたどしくだが、確かにエルフィナの事を呼んだ。エルフィナはピシッと固まり二人が発した言葉を頭の中でリプレイしていた。

 

「(ば~…ふぃーばぁばー…間違い無くフィナおばちゃんって呼んでる…いや!呼んでるわ!呼んでるに違いない!キタわ!私の時代がついにキタわー!)そうよ~!フィナおばちゃんですよ~!」

 

 歓喜に包まれたエルフィナは満面の笑みでポラリスとアトリアを抱き締めてこれでもかと頬擦りをしている。

 

「あ~♪」

「あーい♪」

 

 頬擦りされている二人はくすぐったそうに身を捩りながらも楽しそうに笑っていた。スピカは傍で二人が抱き上げられているのをジッと見て、エルフィナを見た後俯いてしまった。

 

「ふふふ♪スピカちゃん、どうしたの?」

「ぁ、ぅぅ…」

「ほ~ら、スピカちゃんもおいで~」

「ぁ、えっと、その…ち、ち、が…」

 

 仲間外れにされて寂しがっていると思ったエルフィナはスピカも抱っこしようと呼んだがどうやら違ったようだ。

 

「ぁ、あの…な、な、んて、よ、よよん、んだだら、らら…」

「なんてよんだら…ああ。私の事はフィナおばちゃんって呼んでくれたらいいわよ~」

 

 呼び方に悩んでいたらしく改めて言うとスピカは首を横に振った。

 

「ち、ちが…」

「違う?…ああ」

 

 スピカがチラチラとシリウスの方を見たのでエルフィナは全てを察した。

 シリウスに心を開いてからシリウスに甘えたい気持ちが出てきたものの、シリウスの事をどう呼べばいいのか分からずいつも俯いていた。そうするとシリウスが察してすぐに声を掛けてくれたり、頭を撫でてくれたりするがポラリスとアトリアのように自分からも甘えてみたいと今朝から思っていた。

 

「ふふふ…そうね~…ポラリスちゃんとアトリアちゃんと同じでママでもいいと思うわよ」

「…で、でで、も、そ、そそ、れ、それ、ふ、ふ、ふた、り、りのの」

「んー…ああ、ママはポラリスちゃんとアトリアちゃんが呼んでるから取りたくないのね。スピカちゃんは優しいわね~。じゃあね、お母さんとか母様とかもあるわよ」

 

 エルフィナが色々と母親の呼び方を教えてあげると、スピカは少し考えた後フラフラしながらシリウスの方へ歩いていった。シリウスはエルフィナがポラリスとアトリアとイチャついているのを見て非常に苛つき眉間に皺が寄り青筋を立てながらもぬいぐるみ作りを続けていたが、スピカが近寄ってきたので作業を中止して顔を解してからスピカが来るのを待った。

 

「んんっ…スピカ、どうしたの?」

「ぁ、ぁ、…ぅぅ…あ…」

 

 スピカが何かを伝えようとしているのでシリウスは目線を合わせて静かに待っていた。

 

「あ、ぁ…か…か、かあ、さ、ま…」

 

 小さくたどたどしい声だが確かにスピカはシリウスの事を母様と呼んだ。シリウスは先ほどの怒りが霧散して歓喜に包まれた。

 

「母様ですよ~♪ママじゃないけど全然オッケー!スピカ~♪」

「わ、わ、わ…!?ぁぅ…」

 

 満面の笑みでスピカを抱き上げて高い高いしながらクルクルと回り、ギュッと抱き締めて頬擦りをした。スピカは目を丸くしたがシリウスに甘やかされて嬉しいものの恥ずかしくて顔を赤くしてされるがままになっていた。

 

「う~、ま~」

「ままー!うー!うー!」

「あらあら、ふふふ…はい、シリウスちゃん」

「ポラリス~♪」

「ま~♪」

「アトリア~♪」

「ままー♪」

「(プルプル)♪」

「カペラ~♪」

 

 スピカだけギュッとされてズルいと抗議の声を上げたポラリスとアトリアにエルフィナは微笑ましくなりながらシリウスに二人を渡した。可愛くて愛しい我が子達に囲まれて先ほどの怒りはどこかに吹き飛んでいき、シリウスは幸せの絶頂にいた。

 

 

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