スピカに母様と呼ばれたシリウスはスピカを抱き締めて喜びに浸り、ポラリスとアトリアが自分もと呼んだので三人纏めて抱き締めている。
「んっふふふ♪スピカ~、もう一回呼んで?母様って呼んで?」
「か、かあさま…?」
「にへへ~♪ちゅ~♪」
「ぁぅぅ…」
スピカに母親認定されて嬉しいシリウスはスピカの頬や額にキスしまくっている。スピカは愛されて嬉しい反面、恥ずかしくて顔を赤くして俯いている。
「う~、ま~」
「ままー!んー!」
「んっふふふ♪ポラリスとアトリアにも、ちゅ~♪」
スピカばかりに構っていて妬いているポラリスとアトリアにも同じようにキスをしたらすぐに機嫌を直して笑顔になってシリウスに抱き着いている。
「もう、今日はぬいぐるみ作りはいっか。一日じゃできそうにないし」
「そうね、ゆっくり作りなさいな。というわけで、おばちゃんとも一緒に遊ぼ~?」
「ば~」
「ふぃーばぁば!」
「ばぁば…本当にそれでいいんですか?」
「もちろんよ!むしろ大歓迎!」
「…まあ、本人がそう言うなら別に何も言いませんが」
鼻息が荒いエルフィナにシリウスは何も言わない事にした。それからはシリウスとエルフィナと無理矢理巻き込んだピーニと一緒に夕食までポラリスとアトリアとスピカとカペラと遊んだ。
「ば~♪」
「ポラリスちゃーん♪」
「ぴー!」
「はーなーしーなーさーいー!」
「かあ、さま…」
「(プルプル)♪」
「スピカ~♪カペラ~♪よしよし♪」
エルフィナはポラリスを膝の上に乗せて頭を撫でており、ピーニはアトリアに捕まってギュッと抱き締められて、シリウスはカペラを持ったスピカを膝の上に乗せて頭を撫でていた。約一名を除いてまったりとした時間が流れ、気がついたら夕方になっていた。
「もうこんな時間か。少し早いけどご飯にするか。皆~、ご飯食べよっか」
「あ~」
「あーい!」
「ぅ、うん…」
「(プルプル)」
ポラリス達を抱き上げて疲労困憊なピーニとカペラをカバンに入れてエルフィナと共に食堂へ向かった。少し早い時間なので客は疎らだったが外からガヤガヤと話し声が聞こえてきたのでシリウス達は急いで席に座った。座った直後に常連の客達がぞろぞろと入ってきて食堂は満席となった。
「ふー、セーフ」
「あ!ハンターのお姉さんだ!」
「ご飯食べにきたの?」
「うん、そうだよ」
「分かった!えっと…」
「赤ちゃん用三つと大人用二つだよ。お願いね」
「三つと二つ!分かった!」
「待っててね!」
注文を取る手伝いをしていたセイルとセネルは元気よく厨房へ向かった。
「元気ね~」
「そうですね。そういえばスピカと友達になりたいって言われてたっけか」
「あら、いいわね~。友達が増えるのはとっても良い事よ」
「で、でも…ま、だ…ぅぅ…」
まだシリウスとエルフィナ以外は怖いのかスピカはシリウスの服に顔を埋めてしまった。
「無理しなくていいよ。スピカのペースで少しずつでいいから。ね?」
シリウスがスピカの頭を撫でて慰めているとポラリスとアトリアがそれに嫉妬してシリウスに抱き着いた。料理が来るまでシリウスは抱き着いた子供達の頭を優しく撫でて、エルフィナはそれを微笑ましく眺めていた。
「はーい!おまたせしましたー!」
コルルが料理を持ってきてくれたので撫でるのを止めて夕食を取る事にした。ちゃんとカペラとピーニの分も持ってきてくれていた。
「ほーら、皆、ご飯が来たぞ~。いただきます。ポラリス~、あ~ん」
「あ~」
「アトリア~、あ~ん」
「あー」
「スピカ~、あ~ん」
「ぁ、あー…」
「カペラ~、あ~ん」
「(プルプル)」
「シチュー、うま~」
「本当にカペラちゃんも子供なのね…まあ、それもありかしら…?あむっ、おいし」
シリウスはいつもと同じようにカペラにも食べさせており、それを見たエルフィナはそういう事もあるかと受け入れる事にした。魔物を使役していると仲良くなる事も偶にあるが、シリウスのように母娘みたいになる事はエルフィナも聞いた事は無かった。
「(違う種族でも親子になれるし、今回もそれと一緒ね)ほら、シリウスちゃんも、あ~ん」
「またですか…あー」
考えを纏めたエルフィナは朝と同じようにシリウスに食べさせている。シリウスはポラリス達に食べさせて、エルフィナはシリウスに食べさせて夕食を終えて部屋に戻ってきた。
「そうだ。シリウスちゃん、明日は用事ある?」
「明日ですか?できそうな依頼があればそれをするつもりですけど」
「実はね、一つ道場を見つけたの。近くにあるから明日見にいってみない?」
「そうなんですか?なら明日行きましょう」
「分かったわ。それじゃあ名残惜しいけど私はそろそろ帰るわね。ポラリスちゃん、アトリアちゃん、スピカちゃん、カペラちゃん、また明日ね」
「ば~」
「ばぁばー」
「…ぅ、うん…」
「(プルプル)」
ポラリス達に手を振ってエルフィナは自分が泊っている宿屋に帰っていった。
「ん~…!はぁ…今日は色んな事が合ったな…まあ、プラスになったから良しとするか。皆~、歯を磨くぞ~」
「あ~」
「あーい!」
「ぅ、うん…」
皆を抱き上げて洗い場に向かい、一人ずつ丁寧に歯を磨いていった。
「…は~い、アトリアも終わり~。こっちでポラリスと待っててね。次、スピカ~、おいで~」
「う、うん…」
「じゃあ、あ~ってして」
「あ、あー…」
「そのままジッとしててね。痛かったり嫌だったらママの手を握ってね」
スピカ用の歯ブラシを持ってスピカの歯を磨き始めた。何度かスピカの歯を磨いてきたが、今までは緊張でガッチガチに固まっており、今では歯を磨かれる未知の感覚に目を白黒させながら力を抜いて大人しくしている。
「シャコシャコ♪シャコシャコ♪」
「あ~♪う~♪」
「あーう♪あーい♪」
シリウスに合わせるようにポラリスとアトリアも楽しそうに歌い、近くで洗濯していた他の宿泊客は微笑ましそうにシリウス達を見ていた。磨き終えて部屋に戻り皆を寝間着に着替えさせてベッドの上に置いた。
「う~?」
「うにゅぅ?」
「ぁ、ぅぅ…ぇ、えっと…」
シリウスが乾いた洗濯物を畳んでいる間、ポラリスとアトリアは昨日と雰囲気が違うスピカに首を傾げて不思議そうに見つめており、スピカは注目されてオタオタしている。シリウスが洗濯物を畳み終えてポラリス達の方を見るとポラリスとアトリアがスピカに抱き着いて押し倒していた。
「あ~♪」
「あーい♪」
「わ、わ、わ…!?」
「(プルプル)」
楽しそうにしているポラリスとアトリアにスピカは二人に抱き着かれて押し倒されてあたふたしている。カペラは三人が怪我をしないように見守りながらスピカの頭の上に乗っている。愛娘達が楽しそうにしている姿を見てシリウスはただ笑って見守っていた。
「ふふふ…ママも交ぜて~♪」
「ま~♪」
「ままー♪」
「わ、わ…!?かあ、さま…」
「(プルプル)♪」
「…飽きないわねー」
シリウスもそこに交ざっていき皆を纏めて抱き締めてイチャつき始めた。ピーニはポラリス達の手が届かない場所に避難しながら呆れたように見ていた。やがて眠くなった三人は仲良く手を繋いで眠り、シリウスも皆に毛布を掛けて眠った。
翌朝、いつものように目を覚まし皆を着替えさせた後洗濯を終えて部屋に干していると部屋のドアがノックされた。
「シリウスちゃーん、ポラリスちゃーん、アトリアちゃーん、スピカちゃーん、カペラちゃーん、フィナおばちゃんですよー」
「ば~」
「ふぃーばぁば!」
「…ぇ、えっと…ぁぅ…」
「(プルプル)」
「来るの早いな。はいはい、今開けますよ」
シリウスがドアを開けるとエルフィナが満面の笑みで立っていた。
「シリウスちゃん、おはよう♪」
「おはようございます」
「ば~」
「ふぃーばぁば!」
「ポラリスちゃん、アトリアちゃん、おはよう~♪今日も元気ね~♪」
「ぁ、ぁ…ぉ、ぉはよ、ぅ…」
「スピカちゃん、おはよう♪ちゃんと挨拶できて偉いね~♪」
「(プルプル)」
「カペラちゃんもおはよう♪あら、意外と良い手触り」
エルフィナは部屋に入り、ポラリスとアトリアとスピカとカペラに挨拶してそれぞれの頭を撫でていた。
「今日は随分早いですね」
「皆と一緒にご飯食べたかったからねー」
「あらあんた、また来たの?」
「来たわよー。シリウスちゃん達が大好きだから何度でも来るわよー」
「物好きね…」
「それじゃあシリウスちゃん、ご飯食べましょう。あ、それと下に友達も待ってるわ」
「友達?」
ポラリス達を抱き上げてエルフィナと下に降りて食堂に入るとそこにはルゥト達がいた。
「あ、シリウスちゃん!おはよう!」
「よう、おはようさん」
「おはよう」
「おはようございます」
「おはよう」
「皆さん、おはようございます。どうしたんですか?」
「いやな、〈緑風〉様と出会ってな、朝から随分ご機嫌だから聞いてみたら嬢ちゃんと飯を食うからだって言ってな。俺達も飯がまだだからついでに便乗したって訳よ」
「それと道場を一つ見つけたと聞いてな。どんな流派か気になったから付いてきたんだ」
「そうだったんですね」
「う~」
「ままー、うーあーうー」
「お腹空いたね~、ご飯食べようね~」
「話は食事が終わってからにしようか」
「そうだな。おーい!」
「はいはーい!今行きまーす!」
ゴルドがコルルを呼んでしばらくして食事が運ばれてきたので皆で朝食を取る事にした。カペラとピーニの事はまだルゥト達には言っていないので二人は隠れながら朝食を取った。
「さて…それでその道場はどこに?」
「すぐ近くよ」
朝食後、エルフィナの先導で宿屋を出るとエルフィナは宿屋の隣で止まった。
「ここよ」
「近っ!」
「隣じゃん!」
「…確かに、よく見たら道場だ。パッと見ただけじゃ分からなかった」
「見た目は普通の民家ですね」
「…随分草臥れてるが人は住んでるのか?」
レネイの指摘通り、手入れが行き届いておらず壁は雨風で黒く汚れ、庭は草が生えっぱなしで放置され、壁には所々に穴が開いておりとても人が住んでいるようには見えなかった。
「取りあえず入ってみましょう。何かあってもこの面子ならどうとでもなるわ」
元一級のエルフィナと一級目前のルゥト達がいればエルフィナの言う通り、足手纏いのシリウスがいてもどうとでもなる豪華な面子だった。
「もしもーし。誰かいるー?」
エルフィナが割れそうなドアを叩くと中から物音が聞こえてきた。
「…誰だ?借金の取り立てならまだ期限があるだろ?」
中から出てきたのは気怠そうな表情の灰色の短髪の美青年だった。
「違うわよ。ここって魔戦技の道場よね?」
「…魔戦技を?あんたらが?いや、いらないだろ」
「私達じゃないわよ。この子よ」
「どうも」
「えぇ…子連れなのに魔戦技を覚えたいのか?正気か?」
「正気ですし、本気ですよ。こんなんでも一応ハンターなので」
「…はぁ、世も末だな…取りあえず入りな」
青年はシリウス達を中に招き入れた。中もだいぶ草臥れているが、所々修繕した跡が残っておりここに住んでいるようだった。
「何じゃ、騒々しい」
「爺さん、客だ」
「あん?客じゃと?」
奥の部屋にいたのは立派な長い髭を蓄えた老人だった。
「客と言ったな?ここにいる全員か?」
「いや、この子だけだ」
「どうも」
「…はあ?この赤子を連れてる娘が?…おい、そこの娘。遊びではないのだぞ。我が“虚幻流”は天下無敵で未だ負け無しの最強魔戦技じゃ。お主のようなヒヨッコに会得できるものではない。早々に帰るといい」
「虚幻流って言うんですね。どんな流派なんですか?」
「聞いておったのか!?さっさと帰れと言っておるのだ!」
「爺さん、黙っててくれ。客だぞ?借金だってまだまだ残ってるのに、念願の客を追い出すつもりか?」
「ぐぬぅ…!?」
「悪かったな、見た通り頑固でさ。虚幻流は相手の虚を突いたり幻を見せたりして翻弄する魔戦技だ。魔戦技は一目見れば発動しているか分かるが、うちのは分かり辛いのさ。例えば…【幻撃】」
青年が鞘に入った剣で魔戦技を使うが特に変化は無かった。
「…何か使ったんですか?」
「んー…微妙に魔力を感じるけど…随分分かり辛い」
「その通り。【幻撃】は、まあ、簡単に言えば発動してるか分かり辛い【強撃】といったところだ。うちのはこんな風なのばっかりで地味だから使えるのは俺と爺さんだけさ」
「確かに地味だな…」
「…見た感じかなり扱いも難しそうだな。並みの人が敬遠するのも分かる」
「シリウスちゃん、どうする?」
「…いや、ここにします」
「え!?いいの!?」
「すっごく使いにくそうですけど、大丈夫なんですか?」
「悪い事は言わんから止めとけ」
「初見殺しにピッタリだし分かっても対処は難しそうですからいいと思うんですけど」
「…確かに、そう言われればそうだな」
「こんなの使ってくる奴とは戦いにくいそうだな…」
「いいの、シリウスちゃん。かなり地味だし、言っちゃ悪いけど卑怯だよ?」
「何をしようが勝てばいいんですよ。卑怯だとかその辺の奴に言わせとけばいいんです。という訳で受講します」
あっさりと決めたシリウスに皆は止めたがシリウスの意志は固かった。こうしてシリウスの魔戦技会得の日々が始まった。