転生したと思ったらママになっていた件   作:大神降ろし

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魔戦技回です。
今回は会話が多いです。


第八十八話

 

「受講するって…いいのか?さっきも言った通り地味だし扱いにくいし、受講料だって高いぞ?」

「受講料はいくらですか?」

「あー…一ヵ月で100000リクルだが、その都度払う事もできるぞ。その場合だと一回3000リクルだな。まあ、一回お試しでやってみるか?それなら1000リクルにできるが」

「シーゼル!?何を言っておる!?我が虚幻流を安売りするでない!」

「いや、十分高いだろ。爺さんは高く売り過ぎなんだよ。500000リクルなんて誰も受けないぞ」

「我が虚幻流はそれぐらいの価値はある!」

「そのおかげで極貧生活を送ってる訳なんだが?俺がいなかったら爺さん、野垂れ死んでたんだぞ」

「ぐぬぬ…!虚幻流の価値が分からん者が多すぎる…!嘆かわしい…!」

「はあ、全く…ああ、すまないな。爺さんの事は流してくれ。それでどうする?」

「なら体験で。それから決めます」

 

 シリウスは青年に1000リクルを渡した。

 

「分かった。なら移動しよう。こっちだ」

 

 青年についていくと鍛練場にやってきた。剣道場のような所で端の方には練習用の木剣や木でできたマネキンが置かれているがどちらとも埃を被っている。

 

「すまないな。受講者が来るのは久しぶりで。掃除したくても俺一人だから時間が無くてな」

「お爺さんはしないんですか?」

「爺さんは今腰を痛めててな、あまり動けないんだよ。ああ、自己紹介を忘れてたな。俺はシーゼル・ディエンだ。よろしくな」

「シリウス・ノクティーです」

「ノクティーさんだな、よろしく。そうそう、肝心な事を聞くのを忘れてた。魔戦技を使うのは初めてか?」

「ええ。魔法なら使えますが」

「あー…うん…そうか…」

「何かマズい事言いました?」

 

 苦い表情になったシーゼルにシリウスは不安になりエルフィナの方を向いた。

 

「魔法と魔戦技はそれぞれ使う時の魔力制御のやり方が違うのよ。だから魔法使いは魔戦技が会得しにくくて、魔戦技使いは魔法を会得しにくいのよ」

「具体的に言えば…そうだなぁ…魔法を使う時はね、例えば十の魔力が必要な魔法を使う時に一ずつ魔力を増やしていくの」

「逆に魔戦技は一気に十の魔力を溜めなくてはならないんだ。武器にもよるが時間を掛け過ぎると魔力が抜けていくからな。それに接近戦で使う事が多いから時間を掛ける余裕が無いのもある」

「だから魔法使いが魔戦技を使おうとすると一ずつ溜めていくから時間が掛かり過ぎるし、魔戦技使いが魔法を使おうとすると一気に溜めちゃうから暴発しやすいのよ。だからどっちも使う人は…私は知らないわね」

「俺は一応どっちも使えるが、かなり意識して使わないと魔戦技の要領で溜めてしまうからオススメはしないぞ」

「そうだったんですね…うーん…取りあえず一回やってみます」

 

 エルフィナ達の言葉に少し考えたシリウスだが、一度どんな感じなのか体験してからでも遅くはないと考えた。

 

「あー…やるって事でいいかい?」

「はい、お願いします。ポラリス、アトリア、スピカ、ちょっとフィナおばちゃんといてね」

「う~?」

「う?」

「…ぅ、うん…」

「ポラリスちゃーん、アトリアちゃーん、スピカちゃーん、おばちゃんと一緒にいようねー」

 

 ポラリス達をエルフィナに預けてシリウスはシーゼルの前に立った。

 

「魔力の制御はできるから…取りあえず【強撃】から始めるか。はい、この木剣に魔力を込めて。量は…皆感覚でしてるから何とも言えないけど、そこまで多くなくていいから」

「破裂しない程度に込めたらいいんですね。やってみます」

 

 シリウスは魔法を使う感覚で木剣に魔力を込め始めた。

 

「(初めてだからゆっくりと…慎重に…破裂させないように…いやほんとどれくらい込めたらいいんだこれ?取りあえずこれくらいか?少なすぎか?分からん…)」

 

 木剣に魔力を込めろと言われてやっているが、事前情報がほとんど無いのでやれと言われてもどうしたらいいか分からず、ある程度魔力を込めてからシーゼルやエルフィナ達の方を見た。

 

「こんなもんですか?」

「「「「「…」」」」」

「あの~…」

 

 シリウスから声を掛けられてもエルフィナ達は何も言えずにいた。

 

「…できてるよな、あれ」

「だな…」

「シリウスちゃんは器用ねー…」

「おかしいな…初心者って聞いたはずなんだが…」

「え!?もうできたの!?」

「あれ?シリウスさんは使った事ありましたっけ?」

「あいつは無いと言っていたぞ」

 

 初めて使うので慎重に時間を掛けてしたのであっさりと必要な魔力を込める事に成功した。

 

「えーっと…次はそのまま振るんだが…どう説明したらいいか…」

「そうねぇ…シリウスちゃん、魔法を使う時と同じようにイメージしながら【強撃】を放ってみて。いつもの斬撃より強い感じで」

「分かりました」

 

 シリウスは魔力の篭った木剣を両手で持って構えた。

 

「(いつもより強い斬撃をイメージ…強い斬撃…両手だとしっくりこないな…片手でやるか。体勢もいつもと同じで。おっと、魔力がちょっと抜けていくな。補充補充)」

 

 シリウスは木剣を右手で持ち、左半身を後ろに下げて半身になった。

 

「体勢を変えたな…あの体勢で片手でやるつもりか?」

「あの体勢はシリウスちゃんが戦う時の体勢ね。いつもポラリスちゃん達を抱いてるからあの体勢が慣れてるのかもね」

「…ん?いつもって…依頼の時もあの子達を抱えてるって事?」

「そうよ。ポラリスちゃん達を預けられる人がいないからね」

「き、危険じゃないですか!?あの子達は大丈夫なんですか!?」

「戦ってる時はシリウスちゃんに抱き着いてジッとしてるわ。それで泣いた事は私は一度も見てないわ」

「どれだけ肝が据わってるんだ、あの子供らは…」

 

 何やら外野が五月蝿いがシリウスは魔力の維持とイメージを強固に固めていて耳に入っていなかった。

 

「(イメージ…イメージ…)【強撃】!」

 

 シリウスが剣を振り下ろすと通常の斬撃より明らかに威力が増した斬撃が放たれた。

 

「一発でできてるよ…本当に初心者かあの子?」

「そのはずよ。私に魔戦技のあれこれを聞いてたから」

「あれぇ?魔戦技ってこんなに簡単にできたっけか?」

「いや、そんなはずは…」

「ゆっくり時間を掛けたら誰でもできるでしょ、これぐらい」

「「「「「いやいやいや」」」」」

 

 シリウスは時間を掛ければ誰でもできると主張しているがもちろん違う。

 初心者はまず魔力を木剣に込めるところで躓き、込められたとしても制御し切れなかったり、込め過ぎたりして暴発させ、次にちゃんとしたイメージを思い描けなくて不発に終わる事が多々ある。むしろそういう失敗を幾度も重ねて魔戦技を会得していくのが普通であり、間違っても時間を掛ければ誰でもできるものではない。

 

「教える事、あんまり無いんだけど…」

「そうねぇ…後は今溜めた魔力の量を瞬時に木剣に込めるのを繰り返すぐらいかしら…」

「…そうですね。俺もそれぐらいしか浮かびません」

「後は他の魔戦技でも教えたらいいんじゃないか?」

「【疾走】と【鋼体】か。それもそうだな。取りあえず何回か【強撃】を繰り返してみて」

「分かりました」

 

 シリウスはシーゼルに言われた通り【強撃】を繰り返し放った。込める量も何となく分かったので込める速度を重視して繰り返し練習した。

 

「…もう普通にできてるね」

「これなら戦闘中でもできるわね」

「あー…うん、色々言いたい事はあるけど、置いておこう。次は【疾走】だ。これは武器じゃなくて自分の足に魔力を溜めるんだ。量は【強撃】と同じぐらいでいい」

「足全体に魔力を溜める感じでね。走る時をイメージすれば発動しやすいわよ」

 

 シリウスはエルフィナの助言通りに足全体に魔力を溜め始めた。

 

「(【強撃】と同じくらい…こんぐらいか?痛みとかは感じないな。溜め過ぎたら痛みとか出そう…走るイメージ…)【疾走】うううぅぅぅ!?ぶべっ!?」

 

 シリウスが地面を蹴り出した瞬間、ドンッという音と共にシリウスは物凄い速さで顔面から鍛練場の壁に激突した。

 

「シリウスちゃん!?」

「ちょちょちょ!?大丈夫!?」

「はわわ!?い、今回復を!」

「物凄く痛そうな音がしたな…」

「初心者によくある失敗だな…てっきり何でもできると思ったから何かホッとした…」

「だな。まあでも、あの嬢ちゃんならすぐにできるようになる予感がするが」

「そうだな。あの子は魔力制御がかなり長けているみたいだからな。イメージもかなりしっかりしている。込める魔力をもう少し少なくして、止まるイメージや曲がるイメージもしっかりと思い浮かべればすぐにできるようになるだろう」

 

 壁に激突して鼻血を出したシリウスはミラミスに治療されながらもルゥトのアドバイスをちゃんと聞いていた。

 

「ま~」

「ままー」

「か、かあさま…だ、だい、じょ、うぶ…?」

「ジンジンする…大丈夫だよ、ポラリス、アトリア、スピカ。ママは元気だぞ~」

「壁との距離が近すぎたわね。今度はもっと離してからした方がいいわ」

「そうします。治療ありがとうございます」

「いえいえ。まだ続けるんですか?」

「もちろん。会得するまで止めません」

 

 治療してくれたミラミスに感謝しつつ立ち上がり再び魔力を足に溜め始めた。

 

「(魔力は少し抑えめで…スピードもやや落として…止まるイメージも…)【疾走】!」

 

 【疾走】を発動させると先ほどよりも速度が落ちたがイメージがしっかりしていたので突っ掛かりながらも止まる事ができた。

 

「っとと…!?ふぅ、あぶねえ…こんな感じか…いや、もうちょいスピードを落とした方がいいな。ポラリス達を抱えるから危ないし…今度は曲がるイメージも…【疾走】!」

 

 シリウスはもう一度【疾走】を発動させた。先ほどよりもさらに速度を落としてそのまま減速せずに壁際で急カーブして鍛練場を走り回っている。

 

「(そろそろ効果が切れる感じだな。なら、そこを曲がってから)ぬぐぉ!?べふぅ!?」

 

 壁際で曲がろうとした時、足首を思いっ切り捻ってしまい曲がり切れずにまた壁に激突した。

 

「シリウスちゃーん!?」

「あーあ…またやっちゃった…」

「大丈夫ですか!?」

「ああ…また失敗した…その度にホッとする自分がいる…」

「いや、心配してやれ。お前は一応師匠だろうが」

「思いっ切り捻ってぶつかったな。ガハハ、俺もあんなだったぜ」

「俺もだ。数え切れないぐらい転がって、ようやく会得したからな」

「そうそう。おーい、頑張んなー。それを会得できたら他の移動系の魔戦技もすぐに会得できるからよー」

「ふ、ふあい…がんふぁります…」

 

 鼻を押さえながらミラミスに捻った足首を治療されている。

 

「…はい。これで大丈夫ですよ」

「おお…もう痛くない。ありがとうございます」

「いえいえ。でも気をつけてくださいね」

 

 ミラミスに治療してもらって動けるようになったシリウスは立ち上がり、より慎重になりながら【疾走】を発動させた。今度は余裕を持って怪我をしないように動き回り、効果が切れるまで壁に当たる事は無かった。

 

「っとと…!?ふぅ…何とかなった」

「四回目でもう形になったな。流石だ」

「おいおい、もうできたのかよ」

「これが才能の差か…」

「ほらほら、そんな悲観的にならないの。シリウスちゃん、魔力は大丈夫?」

「ええ。まだ行けますよ」

「じゃあ次は【鋼体】ね。身体全体に魔力を行き渡らせて硬くなるイメージでやってみて。できたら私が軽く叩いてみるから」

「分かりました。ふぅ…(魔力を全身に…硬くなるイメージ…)【鋼体】!」

 

 シリウスが【鋼体】を発動させたのを確認したエルフィナは借りた木剣をシリウスの肩や頭に振り下ろした。結構な勢いで叩かれているがシリウスにはほとんど痛みや衝撃は無かった。

 

「どう?」

「全然痛くないです」

「一回でできたわね。魔力制御とイメージができていれば大体の魔戦技は使えるようになるから覚えててね」

「はい」

「もう基本の魔戦技できちゃったよ…」

「おいおい、ここからが本番だろうが」

「はっ!?そうだった。あー…何を教えようか…あれと、あれと、他は…」

「まずはさっき見せたものからでいいのでは?」

「…それもそうだな。よし、じゃあここからは基本じゃなくて虚幻流の魔戦技を教えよう」

「お願いします」

「教えるのはさっき見せた【幻撃】だ。基本的には【強撃】と一緒だが、ただ雑に込めるのではなくて薄く広げていく感じで込めていくんだ。さらにその上から…そうだな…透明の薄い布を被せるような感じでさらに魔力を込めていく。そうすれば…ほら、こんな感じになる」

 

 シーゼルが実践すると先ほどと同じように木剣からは魔力がほとんど感じられなかった。

 

「でも実際にはちゃんと込められている。【幻撃】」

 

 シーゼルが置いてあるマネキンに木剣を振り下ろすと大きな音と共にマネキンの肩の部分が凹んだ。

 

「おお…」

「こんな感じだ。威力は【強撃】と同じかやや低めだが、感知しにくいのが特徴だな。まあ、デメリットもあるんだが…」

「どんなのです?」

「一つ目は見た目。只々地味だ。大なり小なり名声を求めるハンターからすればその時点で敬遠しがちでな。二つ目は魔力制御の難しさ。ただ込めるのではなくて薄く広げたりするからかなり難しいんだ。三つ目はイメージの難しさ。さっきの透明の薄い布みたいに想像し辛いイメージだったりするから、まあ、頭がよろしくない奴が多いハンターじゃあ中々思い描き辛い。四つ目は魔力消費量の多さ。この【幻撃】でも【強撃】の倍は使う。他の魔戦技も普通よりかなり魔力を使うのが多いから使う奴も限られてくる。だからこんな風に習いにくる人がいないわけだが」

「へー」

「へーって…それだけ?俺が言うのもなんだが、こんな魔戦技を会得しようなんて普通思わないぞ?」

「メリットもあるじゃないですか。対応し辛いし、奇襲には持ってこいだし」

「…それはそれでいいのか?」

「勝てばいいんですよ。取りあえずやってみます」

 

 シリウスは木剣を構えて魔力を込め始めた。

 

「(魔力を木剣全体に薄く広げて…え、ムズ。薄く広げると魔力がドンドン抜けていくんだけど?抜けなくするには…イメージだ。木剣をコーティングするようなイメージを…よしよし。抜ける速度は落ちた。それから透明の薄い布を被せるように…魔力がゴリゴリ減ってく…確かにこりゃ使う奴はかなり限られるな…よし、被せれた)【幻撃】」

 

 シリウスが発動させるとシーゼルと比べるとまだまだ荒いものの確かに発動できた。

 

「おお…また一発で…俺の立場が無い…」

「やったわ!シリウスちゃん、すごーい!」

「見た目は特に変化は無いな」

「本当にできてるのかあれ?」

「お手本のよりもまだ荒いから魔力は所々感じるけど、普通の魔戦技よりも感じにくいよ」

「はへー…凄いですねー」

「器用な奴だな」

 

 シーゼルはシリウスの器用さに凹み、エルフィナは我が事のように喜び、ルゥト達もシリウスの器用さに称賛していた。

 

「あふん」

 

 【幻撃】を発動していたシリウスだったが、魔力を使い過ぎた所為で力が抜けてその場で膝をついた。

 

「シリウスちゃん!?大丈夫!?」

「魔力使い過ぎだよー!」

「【強撃】五回に【疾走】を四回、【鋼体】に【幻撃】だったか?それだけ使えば、まあこうなるよな」

「今日はこれで終わりだな。使ってみてどうだった?」

「思ってたよりも難しいですね。特に移動系」

「移動系はな、使いまくって身体で覚えるしかないからな。まあ、頑張んな」

「ですね。シーゼルさん、これからも受講します。えー、はい。100000リクル」

「うえ!?ほ、本当に!?」

「はい。これからよろしくお願いします」

 

 シリウスは荷物から100000リクルを取り出してシーゼルに渡した。シーゼルは本当に受講してくれるとは思っていなかったので驚いていた。

 

「シリウスちゃん、本当にここでいいの?」

「はい。他の道場は合わないし、ここなら宿屋も近いので通いやすいですしね」

「ん?近くの宿屋?」

「はい。ここの隣です」

「あー…そうか…」

「何か?」

「いや、大丈夫。こっちの問題だから。とにかくこれからよろしく」

 

 

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