転生したと思ったらママになっていた件   作:大神降ろし

9 / 124
お待たせしました。
今回はいつもより少し長めです。


無自覚ながらも母親としての片鱗が出始めました。


第九話

 

 夜が明けて新しい朝が来た。

 町は起き出し住民達も活動し始めた。眠っているシリウスも窓から漏れ聞こえる音に目を覚ました。

 

「…ん~?もう、朝か?」

 

 欠伸をしながら起き窓を開けて日の光を浴びながら大きく伸びをしている。窓から見える景色は昨日夕方に見たものとはまた違った。これから仕事に出かける若い男性や、朝から元気に走り回っている子供達や、荷馬車に荷物を載せている商人や、洗濯物を干す女性などが見える。

 シリウスは朝の心地良い風を受けながらその景色を眺めていたが、ふいにベッドの方へ向かった。何となくそろそろポラリスが起きるのではと思い近寄って見ると丁度起きたのかモゾモゾと動いていた。この後起きる事も予想できたので替えの服とおしめを用意し泣く前に着替えさせた。

 

「はーい、おしめ変えましょうねー」

 

 ポラリスが何か言う前に手際よくおしめを変えた。すっかり手慣れてあっという間に終わった。

 

「はいスッキリー。おはようポラリス」

 

 シリウスは気持ち悪くなくなってご機嫌になったポラリスを抱き上げて朝の挨拶をする。ポラリスもおはようと言うようにシリウスの顔を触っている。美味しい食事を取り、柔らかいベッドで熟睡してすっかり疲れも吹き飛び、ポラリスの笑顔を見て機嫌も右肩上がりなシリウス。シリウスはポラリスをベッドに置き荷物から着替えを取り出してパパっと着替えた。

 

「さて、朝飯の前に洗ってくるか。よーし行くぞー」

 

 ポラリスを再び抱き上げて自分達の服を持って下に降り、昨日案内された水汲み場へ行き桶に水を汲んだ。服を洗う前に軽くうがいをして顔を洗ってから服を洗った。

 

「ふおおおぉぉぉ…!水が冷たいいいぃぃぃ…!」

 

 水の冷たさに苦しみながらも服を洗い終え部屋に戻り窓の近くにあった物干し竿を使って洗濯物を干した。

 

「よしオッケー。じゃあご飯食べに行こうかー」

 

 ベッドに置いたポラリスを再び抱き上げて、財布代わりの袋をポケットに入れて部屋を出て下に向かった。酒場は宿泊客だろう人が疎らにいるだけで空いていた。昨日の宴にいた人もおりシリウスに気付くと手を振ってきたので会釈で返している。

 

「おはよう嬢ちゃん!よく眠れたかい?」

「おはようございます女将さん。ええ、ぐっすり眠れました」

「はっはっは!そいつは良かった!ああ、朝食だね!それならスープとパンがあるけどどうだい?その子の分も作ってあげるよ!」

「はい、それでお願いします」

「はいよ!ちょっと待ってな!」

 

 厨房から出てきた女将と挨拶した後、朝食を頼み席に着いた。

 シリウスはポラリスを膝の上に置いてあやしながら今後の予定を考えている。

 

「(飯食ったらハンターの事を聞きにギルド的な所に行って、それから…どうしよ?買い物とか?市場とかをブラブラするのもいいかもな…っつかお金今いくらあるんだろ?というよりお金の単位って何て呼ぶの?ゴールド?コイン?絶対円じゃないよな…しゃあない、後で女将さんに聞いてみるか…聞くは一時の恥、聞かぬは一生の恥、だしな。よし決まり。買い物ついでに町を見て回る事にしよ。道に迷ったら誰かに聞けば大丈夫でしょ)」

 

 若干楽観的な部分もあるが本日の予定が決まったところで女将が朝食を持ってきた。

 

「はいよ!お待たせ!スープとパンだよ!」

「ありがとうございます。あの、つかぬ事お聞きしますが…お金の単位ってなんて呼ぶんですかね?」

「金かい?何でそんなこt…ああ、そういや確か…いいよ!色々教えてあげるよ!その前に飯を食べな!食べ終わる頃にまた来るからね!」

「あ、はい。ありがとうございます」

 

 女将は怪訝な表情をしたがシリウスが記憶喪失だという事を思い出し、シリウスの頼みを快諾した。シリウスは先に朝食を取る事になり、ポラリスに食べさせながら自身も食べ始めた。

 

「うっま…自分で作るより全然美味いな…まあ私のは鍋にぶち込んだだけだしな」

 

 自分が作ったスープより美味しいスープを飲みつつ、どうすればこんなに美味しく作れるのか考えている。

 

「(やっぱ出汁とか?調味料っていう線もあるよな…これ、本格的に作ろうとしたら専用の鍋とか食材とか大量にいるよな…でも美味しいのは食べたい…いや、栄養面の方も考えなくちゃならんな。ポラリスにも食べさせるんだからそこは大事だ。確か蜂蜜はダメだったよな。後は…何だっけ?とりあえずちゃんと火を通すのと塩分とかは控えめにすればいいかな。女将さんから話を聞いた後、市場で調味料とか無いか探してみるか)」

 

 作ろうとしても色々とハードルが高く時間も掛かるのでとりあえず手の届く部分から始める事にした。考え事をしていてもポラリスに食べさせるのは忘れずにしていた。

 自分の事は後回しにして子供優先な姿は疎らにいる宿泊客からは立派な母親に見えた。

 ポラリスが食べ終えてまったりしている間にシリウスは自分の食事を急ぎ気味で食べた。

 食べ終えた辺りで女将が厨房から出てきてシリウスの正面に座った。

 

「食べ終わったかい?じゃあ教えようか!どこから話そうかね?」

「どうしたんだ女将さん?」

「お、なんだなんだ?」

 

 女将が何から話すか悩んでいたら食事を終えた宿泊客が声を掛けてきた。馴染みの客なのだろう、女将に気安く話しかけている。

 

「ん?ああ、丁度いい!オットーさん、ゴナスさん!あんた達もこの子に教えてあげておくれ!」

「ん?どういうことだい?」

「実はね…」

 

 よく分かっていない二人に女将が事情を話し始めたら段々とシリウスを見る目が優しくなっていった。

 

「そうかい、そんな事が…」

「大変だったんだな嬢ちゃん…」

「ええ、まあ…(またか…止めてくれその目、落ち着かない)」

 

 二人から注がれる視線に落ち着かず曖昧な表情を浮かべている。

 

「おっと、まずは自己紹介だね。僕はオットー・ベナルス。食材などの行商をしているよ」

「俺はゴナス・リンド。俺は武器防具だな」

「シリウスと言います。こっちはポラリスです。よろしくお願いします」

 

 シリウスは礼儀正しく頭を下げたら、二人は感心している。

 辺境の村娘がここまで礼儀正しく挨拶できるのはかなり珍しい。シリウスからしたら前世の記憶にあるごく普通の挨拶をしただけだったが、ここではそれなりの教養が無いとできないような挨拶だった。

 

「…うん、よろしくね」

「ああ、何でも聞いてくれ」

 

 二人ともシリウスを気に入り率先して教えようと女将の隣に座った。

 

「じゃあ僕からいこうかな。まずはね…」

 

 リクル。それがこの世界の通貨単位。

 貨幣制度を導入した最初の貴族であるリクルアの名が使われている。

 

「これがリクル銅貨。こっちがリクル銀貨。そしてこれがリクル金貨。さらに上にリクル白金貨とかリクル金板なんてのもあるけど、まあこっちはそんなのがある程度でいいよ。王族とか貴族とか大商人ぐらいしか持ってないから」

 

 テーブルの上に並べられた銅貨、銀貨、金貨。

 円に換算すれば銅貨は約十円、銀貨は約千円、金貨は約十万円に当たる。

 

「銅貨一枚で1リクルだよ。それで銀貨一枚で銅貨百枚、金貨一枚で銀貨百枚になるよ。偶に前後する時もあるけど大体こんな感じだよ。そうだね、試しに…はい、これでいくらかな?」

 

 オットーはテーブルの上に銀貨四枚と銅貨七枚を置いた。

 

「407リクルです」

「おお…!すごいね君」

「こんなに早くできるなんて…!」

「はっはっは!やるじゃないか!」

 

 シリウスが答えると三人は驚いていた。

 この世界は田舎に行けば行くほど識字率が低くなり、それと同時に計算などができる者も少なくなっていく。明らかに辺境の村娘が即座に計算してみせた事はほぼ在り得ないと言ってもいい程。

 

「なら次は…これはどうだ!」

 

 今度はゴナスがテーブルに硬貨を置いた。

 置かれたのは金貨一枚と銀貨十三枚と銅貨九十七枚だ。

 

「11397リクルです」

「「「―――」」」

 

 再び対して間を置かずに答えたシリウスに三人は開いた口が塞がらなかった。町に住む人でも多少考える金額だったがシリウスは商人並みの早さで答えた。

 

「…ねえ君。よかったら僕のとこで働かない?」

「あっ!?ズルいぞ!俺が誘うのに自分だけ!」

「早い者勝ちだよ!それにこんな逸材を逃す訳にはいかないよ!」

 

 オットーとゴナスがシリウスを取り合って言い争いを始めてしまい、シリウスは蚊帳の外になった。女将は醜い争いを見てやれやれと言った感じで首を横に振り、シリウスは計算に答えただけで何故こうなるのかと疑問に思い首を傾げている。

 数分後、取っ組み合いにまで発展した争いを女将が鉄拳制裁で治めた。

 

「い、いやあ…すまないね。みっともない所見せて」

「いえ、別に構いませんけど…」

「うぅ~…やっぱり俺と一緒に…」

「まだ駄々を捏ねる気かい?」

「ひぃっ!?い、言いません!もう言いませんとも!」

 

 ゴナスが未練がましそうにしていると女将が拳を鳴らしながら威圧している。

 

「と、とにかくお金の数え方はこんな感じだよ。後は大まかな相場かな。そうだね…今だとマルイモは三つで1リクルかな。ナガニンジンは一本で1リクルだね」

「こういう短剣なら素材にもよるが鉄だと大体一本1000リクルぐらいだな」

「うちは朝食付きで一泊で300リクルだよ!夕食は50から100リクルぐらいだね!」

 

 マルイモことジャガイモモドキは三つで十円ほどでナガニンジンことニンジンモドキは一本で十円。鉄の短剣は一本一万円で宿屋は一泊三千円で夕食は五百円から千円ほどとなる。

 

「(武器はわからんが宿代はかなり安いな。野菜も激安だし…物価が安いのか?それともこの辺だけなのか?)かなり安いと思うんですけど、何か理由が?」

 

 安いのに越したことはないがシリウスは疑問に思い聞いてみた。

 

「あ~、君でも安いって感じるか。でも安いのはターエル周辺だけだね…王都や他の都市ならもう少し高くなるよ」

「そうそう。この短剣だって他なら2000リクルぐらいするしな。高い所だったら3000リクルするとこもあるぜ」

「ここに住み人達は皆初代町長が大好きでね!みんなで手を携えて生きていくのがモットーなのさ!だからできるだけ安くしたりするのさ!」

「そうなんですね(だから皆優しいのか…)」

 

 ターエル周辺は肥沃な土地で作物を育てるのに最適な地域で、森の幸も豊富にあるので野菜などの食材の物価はかなり安い。反面肥沃な土地なので魔物も多く住み着いておりそれを狩るためにハンターも集まり、ハンターが集まると武器防具などの装備が買われ、さらに買ってもらうために値段を他より抑えめにしたりと良い感じに需要と供給が取れている。

 

「これくらいかな?他の地域の相場とか全部言うと日が暮れちゃうからね。まあ大体ここより二倍か三倍ぐらいが一般的な相場って思ってもいいよ」

「分かりました。色々とありがとうございます。あ、後魔物の素材はどこで買い取ってくれますか?」

「ああ、それなら素材屋かギルドで買い取ってくれるぜ。ここにある素材屋は今店主がちょっと出かけているから売るならギルドがいいぜ」

「ギルドの場所はここを出て真っ直ぐ行って、大通りを右に曲がれば広場があってそこの近くにある大きな建物だよ!」

「はい、ありがとうございます。町の散策ついでに行ってみます」

「そうだ。ついでにハンターについても教えておこうか」

 

 ハンターとは様々な人々から依頼を受け達成する事で報酬を得る何でも屋。

 魔物退治を主としておりどの町にも一定数は必ずいる。他にもハンターになれば最低限の身分を保証してくれるので、行く当ても無い者達の受け皿にもなっている。登録料さえ払えば誰でもなる事ができるが、逆に言えば審査がそれだけなのでどんな粗暴な者でもなれてしまう。粗暴な者だけでなく裏で犯罪者と繋がっている悪徳な者や、新人のハンターを遊び半分で潰す心無い者もいる。どこの町にもそんな輩が少数ながらも存在する。

 

「そんな人達もいるんですね」

「まあね…ギルドも問題視しているけど、中々ね」

「そういう奴に限って逃げたり隠れたりするのが上手いんだよな…」

「ま、この町にはいないけどね!」

 

 オットーとゴナスは心当たりがあるのか溜め息を吐いているが、女将は自慢げに胸を張っている。

 色々と教えてくれた三人にお礼を言って、話し合いをしているうちに眠ったポラリスを抱き上げて席を立ち町の散策をするために部屋へ戻った。盗られて困る物はあまり無いが一応カバンに荷物を入れて持っていく事にして部屋に鍵を掛けて宿屋を出た。

 女将が言っていた通りに真っ直ぐ歩きながら町を見ている。

 綺麗な町並みで時折ある路地裏もそこまで汚れておらず綺麗に維持されており、大通りに出るとそれが顕著で町民達が自主的に道の掃除をして綺麗に保っている。

 

「(皆、本当にこの町が好きなんだな…)」

 

 嫌な顔一つせず会話を楽しみながら掃除をしている町民達を横目に見ながらシリウスは広場を目指し数分後には広場に着いた。

 広場は中央に町の創設者で初代町長でもあるターレルとフェエル夫妻の銅像が立っている。銅像の周囲は花壇が設けられており色とりどりの花が植えられている。老人だけでなく若者も銅像に対して頭を下げており誰もが敬意を払っているのが一目で分かるほどだ。シリウスも銅像に対して会釈をして目的の建物を探し始めた。…と言ってもすぐに見つかった。大きな建物にハンターと思しき人達が入っていく姿を見つけシリウスはその建物に近づき見上げた。

 

“ハンターズギルド”

「(良かった…文字は読める。ご都合主義万歳)」

 

 シリウスは立派な建物には目もくれず看板に書かれた文字が読める事に喜んでいた。

 ドアを開けて中に入ると広々としたロビーが広がっていてハンター達が寛いでいたり、壁に貼られた依頼書を吟味していたり、椅子に座り会議をしたりしている。制服を着た職員が忙しそうに動き回っていて受付で書類を纏めたり、ハンターが受注した依頼を説明したり、ハンターが持ち帰った魔物の素材の値段交渉をしたりしている。

 ドアが開いた音で数人の職員とハンターが入ってきたシリウスに目を向けた。

 

「おい、あの子…」

「あん?ああ、噂の…」

「あの子が噂の子だね」

「何しに来たのかしら?」

 

 既に噂は町中に広がっておりギルドにも伝わっていた。

 賑やかだったギルドが静まりかえりあちらこちらでヒソヒソと話す声だけが響いている。

 

「(またか…)」

 

 シリウスは再び注目されている事に内心ゲンナリしながら受付へ向かった。

 受付周辺で駄弁っていたハンター達は道を譲り行く末を窺っている。

 

「ようこそハンターズギルドへ。本日はどのようなご用件でしょうか?」

 

 受付にいた女性職員が営業スマイルで声を掛けてきた。

 

「ハンターの登録をしたいんですけど」

「…はい?」

 

 シリウスの言葉に受付の女性職員は鳩が豆鉄砲を食ったような顔をした。

 受付近くにいたハンター達もシリウスの話を聞いていたハンター達も目を見開いてシリウスを見ている。

 

「…すみません。もう一度よろしいですか?」

 

 女性職員は聞き違いで合って欲しいと一縷の望みを賭けて聞き返した。

 

「ハンターの登録をしたいんですけど」

 

 シリウスは先ほど言った言葉をそのまま言った。

 静まりかえるギルド。反応が無い事に疑問を浮かべるシリウス。早めのお昼寝から目を覚ましたポラリス。

 

「「「「「えええぇぇぇ!?!?」」」」」

 

 瞬間、静まりかえっていたギルドが爆発した。

 突然の事にビックリしているシリウスだったが、大きな声に怖がって泣き出したポラリスを見て慌ててあやしている。ポラリスが泣き出した事で口を塞いだギルドの面々だが驚愕の表情を浮かべている。

 記憶を失っても幼い子供のために頑張る少女。その噂の少女が来たので何らかの依頼をしに来たと思うのが普通だった。まさかハンターになりにきたなどとはギルドにいた誰も予想できなかった。

 

「い、いや、いやいやいや!?な、何を考えているんですか!?」

「オイオイオイ!?待てって!いやほんと、待てって!」

「嬢ちゃん考え直せって!?」

「ふおっ!?え?何の騒ぎ?」

 

 女性職員だけでなくその場にいたハンター達が詰め寄り真意を問い質そうとし、シリウスは大勢に詰め寄られ困惑している。

 

「よーし皆落ち着け。全員で寄ってたかってはその子達も怖がるだろ?」

 

 手を鳴らしながら一人のハンターが近寄ってきた。

 褐色肌の2mはあるスキンヘッドの大男で魔物の革でできた胸当てや金属製の篭手や脚甲を装備している。

 

「ヴァレットさん」

「おう、お疲れさん。取り合えず俺から聞くがいいか?」

「は、はい。お願いします」

 

 女性職員に声を掛けてからシリウスに向き直った。

 

「嬢ちゃん。どうしてハンターになろうとしているんだい?ハンターは危険な仕事だ。常に命と隣り合わせでもある」

 

 できるだけ威圧しないように優しく問い掛けているが目は真剣そのものだ。それだけシリウスの事を案じているのが見てわかる。

 

「それは分かっていますけど、でも今の私には最低限の身分も無いので…ハンターになればそこは保証してくれるんでしょ?」

「む、それはそうだが…確か君の村は…」

「ええ、全滅してます。親戚など頼れる者もおりませんので。なので今の私は家無しの浮浪者同然です」

「むぅ…確かにそういう事情ならハンターになるのも止む無しか…」

 

 ヴァレットと呼ばれた大男はシリウスの言葉に渋い表情を浮かべながらも一定の納得をした。周囲で聞いていた他のハンター達も事情が分かったので止める事はしなくなったが、それでも良い顔はしていない。この町にいるハンターは皆良識ある者ばかりで、そういう事情があると分かっても心情的には止めてほしいと思っている。

 

「別に魔物退治をしなくても荷物運びや薬草採取の仕事をすれば、そこまでの危険は無いと思うんですけど」

「ふむ…そこまで考えていたか。それなら、まあ…」

 

 シリウスの言葉にヴァレットや周囲のハンター達も、中には渋々といった表情を浮かべている者もいたが納得してくれた。女性職員もそれなら致し方無いと考え登録するための書類を取り出した。

 

「コホン…では登録料100リクルとこちらの方に名前を書いていただけますか?あ、代筆もできますよ」

「え~っと、100リクルっと(銀貨一枚だったよな…たった1000円で登録できるのか…)後、代筆お願いします」

「はい、わかりました。ではお名前をお願いします。あ、フルネームでお願いしますね」

 

 女性職員は登録料の銀貨一枚を受け取りシリウスの代わりに書類を書くためにペンを持った。

 シリウスは女性職員の言葉に一瞬固まった。

 

「(やべ、考えてなかった…そうだよな。名前だけじゃなくて苗字もいるよな…うごごご。何にすべきか?ここは名前と一緒で星関連から…!)」

 

 眉間に皺を寄せて必死に考えているシリウスだったが、周囲の人達はその様子に違う印象を持っていた。

 目の前に自身の名前まで失っているのにただ前だけを見て進んでいる少女がいる。その姿に痛々しさを感じると共に眩しさも感じる。この子のために何ができるのか。この子のように前に進めるのか。皆、心中に小さな火が灯った。

 その場にいるハンター達に心境に全く気付いていないシリウスは苗字を考えるのに忙しかった。

 

「(星、星、星…ダメだあ…じぇんじぇん浮かばない~…アンドロメダとかマゼランとかは絶対合わないし…他の星座からも何かピンとくる物も無いし…うおぉん、どうすれば~…ええい、腑抜けるな私…!ぜ~ったい何かあるはず…!ぬおおおぉぉぉ…!天啓よ!降りてこい!いや!降りてきてくださいお願いします!)」

 

 シリウスの必死過ぎる懇願に天はしゃあねえなと言うようにヒントを授けた。

 

「(!!ティンと来た!星じゃなくて夜とかそっちの方!夜…ナイト、ナハト、ノワール、ん?ノワールは黒だっけ?後は確かノックス…ノックス?ノクティス?そんな感じが合ったような無かったような…ああもうっ!もう時間が無いっ!)」

「あの…」

「な、名前は、シリウス…ノ、ノクティー…です…」

 

 反応の無いシリウスにおそるおそる声を掛けた女性職員に消え入りそうな小さな声でシリウスは名乗った。

 シリウス・ノクティー。何とか捻りだそうとテンパった結果、ラテン語で『夜』を意味するノクティスに近い感じになった。本人はテンパって出しただけなので全然自信が無く、厨二っぽく感じる部分もあり若干恥ずかしい気持ちもあり段々と俯いてきたが、女性職員や周囲にいるハンター達の反応は悪くなかった。

 

「シリウス・ノクティー…っと。良い名前ですね」

「おう、良い名前じゃねえか。そんな恥ずかしがるなよ」

「そうそう。変な名前の奴とかいるしな。そっちに比べたら全然マシだぜ」

 

 口々に良い名前だと言われメンタルも少し回復し顔を上げた。

 

「ではこれで登録完了です」

 

 子連れハンターシリウス・ノクティー、爆誕である。

 

 




散々悩みましたがシリウス・ノクティーとなりました。
名前を考えるのって難しいですね…
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。