「…そう。そんな事が合ったのね」
卵から孵ったジャイアントスネークの赤ちゃん、ハダルを引き取った経緯をエルフィナはシリウスから聞いていた。そのハダルは現在、シリウスの指に噛みつきながらポラリス達に身体中のあちこちを触られている。噛みついているといっても産まれたばかりなのでまだ歯は小さくシリウス的にはちょっとチクチクする程度だ。
「ええ。なのでママと呼ばせるのは少し抵抗が…」
「確かにねえ…まあ、それもハダルちゃん次第じゃないかしら。私達があれこれ言っても最終的に決めるのはハダルちゃんだし」
「そう、ですね」
シリウスとエルフィナは神妙な表情で話しているが、当の本蛇は実に暢気でシリウスの指を餌だとまだ思っている。
「だから私は餌じゃないって、もう…」
「ふふふ…」
「う~?」
「うにゅぅ?」
「うぅ…」
「(プルプル)」
「ポラリス~、アトリア~、優しく撫でてあげてね。スピカ~、大丈夫、怖くないよ~」
ポラリスとアトリアはハダルを怖がらずに触っているが、スピカは見た事の無い生き物を怖がってシリウスとカペラに慰められている。
「エルフィナさん、ジャイアントスネークって何を食べるんですかね?」
「そうねぇ…多分お肉じゃないかしら。家畜を襲う事はよくあるし。あ、でもまだ赤ちゃんだから食べられないかも…いや、虫とか小動物だったら行けるのかしら?」
「んー…取りあえず今晩はお肉を上げてみますかね。さて、今度はウェズンとご対面だな。皆~、お外に行くぞ~」
ハダルを指に噛ませたままポラリス達を抱き上げてシリウスとエルフィナは部屋を出て厩舎に向かった。
「ウェズン~、お待たせ」
「ヒィン」
厩舎ではウェズンがシリウスが来るのを待っており、シリウスの姿が見えた瞬間嬉しそうに嘶いている。
「ウェズン、新しい子が増えたよ。この子の名前はハダルっていうんだ」
「ブル?」
ウェズンを一頻り撫でた後、シリウスはウェズンにハダルを紹介した。ウェズンはシリウスの指に噛みついているハダルを不思議そうに見ており、ハダルも噛みつくのを止めてウェズンを見つめ返している。ウェズンが匂いを嗅ごうとハダルに顔を近づけようとしたのでシリウスはハダルがウェズンに噛みつかないようにハダルの胴体を握った。
「ハダル~、ウェズンは餌じゃないぞ~」
「ヒン!?」
案の定近づいてきたウェズンを噛みつこうとしたが予めハダルを握っていたのが功を奏してウェズンは噛みつかれずに済んだ。
「ごめんねウェズン。ハダルはまだ産まれたばっかりだからよく分かってないんだ。許してあげて」
「ブルルル…」
「怒ってない?ビックリしただけ?そう、良かった」
ウェズンは今度は噛みつかれないように慎重にハダルに近づき匂いを嗅いでいる。一方ハダルの方はかなり怯えているらしく身体を縮こませてジッとしていた。
「ハダル、この子はウェズンっていうんだ。大きいけど全然怖くないから安心して」
大きい、怖いというハダルの思考がシリウスに伝わっていたのでシリウスは安心させるようにハダルを撫でている。シリウスの言葉と撫でが効いたのか縮こまりが少し緩和されウェズンをジッと観察している。
「ちょっとシリウス。その蛇、あー、ハダルだっけ?私に近づけさせないでよ」
「何で?」
「何でって、私が食べられるからでしょうが!」
「いや、大丈夫でしょ」
「大丈夫じゃないわよ!小動物でも中には私達妖精の天敵だったりするのだっているんだからね!」
「へー。だからずっと隠れてるのか」
妖精は大きくても40㎝~50㎝ほどしななく小動物相手でも十分捕食対象になり得るのだ。今もピーニはエルフィナの頭の後ろに隠れて出てこようとしなかった。
「う~、ま~」
「ままー!んー!」
「かあ、さま…」
「ん?どうした~?…ああ、ウェズンに乗りたいのかな?いいよ~」
シリウスはポラリス達をウェズンの背中に乗せて一緒に歩き出した。
「あ~♪」
「あーい♪」
「わ、わ…!?」
「(プルプル)」
「ヒィン♪」
皆楽しそうにしており、ハダルはカペラの上で楽しそうに笑うポラリス達の顔を見ていた。皆と散歩したり、シリウスやエルフィナに甘えて撫でられたりとまったりとした時間が流れていき、今はシリウスの膝でお昼寝をしている。その中でハダルもすっかりポラリス達に慣れて噛みつかなくなり、今はとぐろを巻いてウェズンの上で寝ている。
「皆、可愛いわねー」
「そうですね」
シリウスとエルフィナは可愛らしい寝顔を見せるポラリス達の頭を順番に撫でている。
「す~、す~…う~…ま~…」
「うにゅぅ…ままー…」
「んぅ…ぅ…?」
「(プルプル)」
「ブルルル…」
「は~い、皆、おはよう~。よしよし」
お昼寝から起き出した皆の頭を優しく撫でながら挨拶をするシリウス。ハダルも起きたがシリウスの顔を見て首を傾げている。
「ハダル~、おはよう。ん?おはようっていうのは起きた時の挨拶だよ」
「シュー」
ハダルはよく分かっていないもののチロチロと舌を出しながらシリウスの真似をして挨拶した。
「はい、おはよう。いい子だね~」
ちゃんと挨拶できたハダルの頭をシリウスは指の腹で優しく撫でてあげた。
「う~、ま~」
「うー!ままー!んー!」
「あ、わ、え、えっと…」
「(プルプル)」
「ブルブル」
ハダルに構っているのでポラリスとアトリアが妬いて手足をバタつかせたり、シリウスの服を引っ張ったりしてアピールし出した。
「ふふふ♪じゃあ皆纏めて…ぎゅ~♪からの~、ちゅ~♪」
「あ~♪」
「あーい♪」
「ぁぅ…」
「(プルプル)♪」
「ヒィン♪」
「シュー?」
シリウスは子供達を纏めて抱き締めて一人一人に額や頬にキスをしていった。ポラリスとアトリアとカペラとウェズンは嬉しそうにし、スピカは恥ずかしくて俯き、ハダルはよく分からず首を傾げている。
「あーん、私だけ仲間外れで寂しいー。フィナおばちゃんも交ぜてー」
「うあー」
「ば~♪」
「ふぃーばぁば!」
「ぁ…ぉ、お…ぁぅ…」
「(プルプル)♪」
「ヒヒン」
「シュー?」
「相変わらず飽きないわね…」
仲間外れにされたエルフィナがシリウスごとポラリス達を抱き締めた。シリウスは既に諦めてされるがままでポラリスとアトリアとカペラは喜び、スピカはエルフィナの事を呼ぼうとするが恥ずかしくて呼べず、ウェズンは撫でを堪能し、ハダルはやっぱりよく分かっていなかった。ピーニに呆れられながらちょっとの間、五人と三体で抱き合いながらイチャついていた。その後ウェズンと別れて部屋に戻りポラリス達をエルフィナに任せたシリウスは夕食までぬいぐるみ作りを再開した。
「シリウスちゃーん、そろそろご飯にしましょー」
「…ん?ぬおっ、もうこんな時間か。皆~、ごめんね~」
エルフィナに声を掛けられるまで暗くなってきたことに全く気づかなかったシリウスはべそを掻く手前のポラリス達を抱き上げてあやした。
「う~、ま~」
「ままー…ぐすっ」
「ぅぅ…かあ、さま…」
「ごめんね~、よしよし」
抱き上げて頬擦りをしたり、額や頬にキスをしたりしてあやしていたらあっという間に機嫌が良くなった。
「ま~♪」
「ままー♪」
「かあさま…」
「よしよし。さ、ご飯食べよっか」
皆で食堂へ向かうと食堂は既に客で賑わっており、何とか空いている席を見つけて座った。
「あ!シリウスさん!いつものでいいですか?」
「はい、お願いします…あ、しまった。ハダル用のお肉を頼み損ねた」
「でもどうやって頼むの?カペラちゃんは無害な魔物だから何とかなったけど、ハダルちゃんは、ねえ?」
「んー…まあ、小動物を拾ったとか言っときますよ」
コルルが料理を持ってくるまでの間、ポラリス達と手遊びをしながらエルフィナと話していた。
「シリウスちゃんはしばらく道場に通うのよね?」
「ですね。まあ、臨時収入も入ったのでしばらくは依頼をしなくても大丈夫なので。取りあえず二、三週間ぐらいは道場の方に集中しますよ」
「そうね、その方がいいわ。ちゃんと頭と身体で覚えてからじゃないとね。依頼の時は何があるのか分からないしね」
「はい、お待たせしましたー!」
「ありがとうございます。それと後でいいんで生肉を少しくれませんか?」
「へ?生肉ですか?」
「ええ。実は小動物の卵を持ってたんですけど、それが孵りまして。その子用のご飯が欲しくて」
「ああ、そういう…分かりました。後で持ってきますね」
「お願いします」
コルルはシリウスの言葉を素直に信じて接客に戻っていった。
「それじゃあ食べましょう」
「ですね。いただきます。ポラリス~、あ~ん」
「あ~」
「アトリア~、あ~ん」
「あー」
「スピカ~、あ~ん」
「あ、あー…」
「カペラ~、あ~ん」
「(プルプル)」
「うまうま」
「美味しいわねー」
「ハダル~、ごめんね。もうちょっとだけ待っててね」
「シュー?」
一人だけご飯を食べていないハダルに謝るが、ハダルは首を傾げながらシリウス達や周りの客の食事を眺めている。皆シチューやスープをパンを食べており、一体何を食べているんだろうとハダルは疑問に思っていた。気になってきたのでポラリス達に食べさせているシリウスのスープの器に近づいて器の中を覗いてみるとそこには何やら色の付いた水が入っており、ハダルは首を傾げながらも少し舐めてみた。
「シャー!?」
「ハダル?どうしたの?大丈夫?」
ごく普通のスープだったがハダルは初めてのスープに驚いて声を上げた。シリウスはハダルがスープを気にしているのに気づいており好きにさせていたが、ハダルが声を上げたのを聞いて心配になり声を掛けた。ハダルにはシリウスのスープは濃すぎたようで舌を出したまま首を横に振っていた。
「ハダルちゃんには濃すぎたみたいね」
「みたいですね。さっきから舌がって言ってますし。ハダル~、こっちならどう?」
シリウスは子供達用のスープを匙に掬ってハダルに差し出した。ハダルは警戒しているがシリウスの顔と匙を何度も見た後、恐る恐る匙のスープを舐めた。子供達用のスープなので味は薄くハダルでも美味しく飲む事ができた。
「シュー」
「美味しい?そっかそっか。じゃあ、ハダル~、あ~ん」
シリウスが再び匙を差し出すとハダルはスープを美味しそうにペロペロと舐めている。
「スープも飲めてるな。あー、でもこれだけじゃハダルは物足りないか。野菜は流石に食べないだろうし、やっぱり肉か。んー…でも持ち運ぶとなるとすぐに傷むからなぁ…なら干し肉とか燻製肉かな…燻製肉とか高いんだろうなぁ…まあ、ハダルのためだから買うけどね。なら肉用の袋も追加で買って…いや、待てよ…その辺で狩った魔物の肉を燻製すれば…魔物の肉も案外美味しかったし、これなら節約にもなるし…後は燻製のやり方か。木のチップで燻すくらいしか知らないよ…」
ポラリス達にご飯を食べさせながら外でのハダルのご飯の事を思案しているシリウスをエルフィナはただニコニコしながら見ていた。
「うーむ…何見てるんすか」
「いーえ。ただただやっぱりハダルちゃんのママでもいいんじゃないって思っただけよ」
「…それはハダルが決める事です。もうちょっと大きくなったら全部話します」
そうなったら嬉しい思いはあるもののやはり抵抗があるのでその辺の判断は近い将来ハダルに委ねる事にしている。
「お待たせしましたー。これぐらいでいいですか?」
「はい、十分です。ありがとうございます」
食事が終わった頃にコルルが生肉を少量持ってきてくれた。
「ハダル~、これ食べる?」
「シュー」
ハダルはシリウスの手の上に置かれた小さく切られた生肉をジッと見た後かぶりついた。美味しかったのか舌を頻繁にチロチロさせて次々と生肉を丸呑みにしていく。
「美味しい?そう、良かった」
美味しいと連呼しながら生肉を食べていきあっという間に全部食べてしまった。満足そうにしているハダルを見てシリウスも笑顔を浮かべてハダルを撫でている。
「…さて、それじゃあ名残惜しいけど私は帰るわね。シリウスちゃん、ポラリスちゃん、アトリアちゃん、スピカちゃん、カペラちゃん、ハダルちゃん、ピーニ、また明日。バイバーイ」
「はい」
「ば~」
「ふぃーばぁば!」
「ぅ、うん…」
「(プルプル)」
「シュー?」
「じゃあね~」
皆に手を振ってエルフィナは自分が泊っている宿屋へ帰っていった。エルフィナを見送った後シリウスも部屋に戻りぬいぐるみ作りで散らかした机の上を片づけて皆の寝支度を整えてベッドの上に寝転んだ。ベッドの上ではあくびをするポラリスと、まだまだ元気いっぱいでベッドの上を這い回っているアトリアと、アトリアを止めようか悩んでいるスピカと、ポラリスの傍でそれを見守るカペラと、その隣で首を傾げているハダルと、ハダルを警戒してカペラを盾にしているピーニ。
「は~い、皆~寝るよ~。ほらアトリア、おいで~。よしよし」
まだまだ元気いっぱいのアトリアをシリウスは隣に寝転ばせてお腹をポンポンと叩いているとアトリアはあっという間に眠った。
「ポラリス、アトリア、スピカ、カペラ、ハダル、ピーニ、おやすみ」
皆に毛布を掛けながらシリウスも目を瞑った。ハダルはシリウスをしばらく見つめていたが、やがてシリウスの頭の傍でとぐろを巻いて眠った。