転生したと思ったらママになっていた件   作:大神降ろし

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第九十一話

 

 シリウスが虚幻流の道場に通い始めてから一週間後。

 

「はあっ!」

「なんのっ!」

 

 今シリウスはシーゼルと木剣で実戦さながらの訓練をしている。シリウスが木剣で果敢に攻め立てているがシーゼルは難なく防いでいる。

 

「(魔戦技、虚幻流…幻撃!)せいっ!」

「よっ、ぬおっ!?幻撃か!?口に出さずに発動させるなんて相変わらず器用だね!」

「そりゃどうも!」

 

 打ち合う合間にシリウスは声に出さずに魔戦技を織り交ぜて攻撃しているが、シーゼルは驚くだけで難なく防いでいる。通じるとは思っていないシリウスだがせめて一発は入れたいと、最近覚えた新しい魔戦技を使うために斬り払いながら後ろに跳んだ。

 

「(魔戦技、虚幻流…“虚閃”!)」

「(後ろに下がった…?)ん?ぬおっ!?」

 

 シリウスが木剣を振るうと半透明の斬撃がシーゼル目掛けて飛んだ。シーゼルはシリウスが後ろに下がったので何か仕掛けてくると警戒していたので早く気づけて飛んでくる斬撃を躱した。

 

「ちいっ!」

「ちょっと前に覚えた虚閃をもうここまで使えるなんて!師匠冥利に尽きるよ!」

「軽々防いで言われても嫌味にしか聞こえませんよ!」

「そら少しだけ見えてたからね!完璧になればほとんど見えなくなるから頑張って!」

 

 虚閃は目に見えない斬撃を飛ばす虚幻流の魔戦技だ。目に見える斬撃を飛ばすリクオン派の“空閃”を見えにくくしたもので、相手に気づかれにくいが斬撃が見えないので地味でもある。

 

「じゃあそろそろ行くよ!」

「!(魔戦技、虚幻流…“幻体”!)」

 

 真っ直ぐシリウス目掛けて走ってきたシーゼルにシリウスは魔戦技を発動させた。シーゼルが木剣を振るいシリウスに当てるが、幻を斬ったように擦り抜けた。

 幻体は幻を見せる魔戦技で発動時の姿をそのままそこに映すが、映した幻は全く動かないので離れていたらすぐに気づかれてしまう。だが今のような接近戦の真っ最中なら案外気づかれない。そして発動した後なら使用者は自由に動ける。

 手応えの無い事に気づき慌てて木剣を戻そうとするシーゼルの目には幻の後ろで木剣を引き絞るシリウスの姿が見えた。

 

「やばっ…!」

「魔戦技…強撃!」

 

 隠す必要は無いので基本の魔戦技の強撃をシーゼル目掛けて突きで放った。

 

「“無影虚動”!」

 

 シーゼルは咄嗟に魔戦技を発動させ、シリウスが放った突きはシーゼルに当たったがそれは残像だった。

 

「残像!?(聞いた事の無い魔戦技だ!多分虚幻流の上位技!どこ行った!?つうか音も無く残像を残しながら動くなんて反則!)」

 

 シリウスの周りをシーゼルは残像を残しながら音も無く動き回っている。シリウスが何度かシーゼルに斬りかかるものの全て残像だった。

 

「ちいっ!(ええい、落ち着け!こういう時は無闇に動けば思うつぼだ!動かずにカウンターを狙う!)」

 

 シリウスは周りを動くシーゼルの残像には目をやらず目を瞑り構えたままその場に止まった。ただジッと待ち続け直感で後ろに木剣を振るった。

 

「そこっ!、!?」

 

 シリウスの後ろにはシーゼルがいて木剣に当たったがそれも残像だった。

 

「(あっぶな!?どんな勘してるんだよこの子!?)」

 

 シリウスの後ろにいるシーゼルは先ほどまで自分がいた所に木剣を振るったシリウスに戦々恐々としていた。

 

「(でもこれで終わりだ。頭に一撃…いや、それは流石に…背中、も子供を背負ってたな…うーん…なら、あそこか?でも女の子になぁ…あ、気づかれそう。仕方が無い)ていっ」

「!!うし、あいたっ!?」

 

 自分の後ろにいる事に気づいたシリウスだが、その前にシーゼルに木剣でお尻を叩かれて痛みで飛び上がった。結構痛かったらしくそのままぴょんぴょんと跳び跳ねてお尻を押さえている。

 

「おおおぉぉぉ…!な、何で尻を…」

「いやぁ…子供達の前で頭を叩くのもあれかなって思って…背中も子供を背負ってるし…ならお尻かなぁって思って」

「妙な気遣い、どうも…!おおおぉぉぉ…!」

 

 お尻を押さえたままその場に蹲るシリウスを心配して壁際で観戦していたアトリアがハイハイで近寄り、スピカがポラリスの服を掴んで引っ張ってシリウスの所までやってきた。

 

「ま~」

「ままー」

「か、かあ、さま…だ、いじょう、ぶ…?」

「だ、ダイジョーブ…このぐらい…」

「まあ、一旦休憩しようか」

 

 模擬戦も終わり子供達も寄ってきたので一旦休憩となり、見学していたエルフィナもシリウスの所までやってきた。

 

「シリウスちゃん、大丈夫?」

「え、ええ…何とか…予想外のところに予想以上の衝撃が来たので…」

「ま~」

「ままー」

「かあさま…」

「よしよし、ママは大丈夫だよ~」

 

 シリウスの身体をペタペタと触るポラリス達を抱き上げてその場に座り、膝の上に乗せて頭を撫でている。

 

「…ようルゥト」

「…何だ?」

「あの嬢ちゃん、確か始めて一週間だったよな?」

「ああ」

「なのにもう三つも覚えたのか?しかも実戦でも使えるレベルで?」

「今見たのが幻じゃないならそうなんだろうな」

「マジかよ…」

「えぇ…何、あれ…」

「(ポカーン)」

「成長し過ぎだろ…」

 

 同じく見学していたルゥト達がシリウスの成長ぶりに驚いていた。

 

「ところで最後に使った魔戦技は何ですか?」

「あれは無影虚動って言ってね、虚幻流の移動系の上位技だよ。音も無く残像を残しながら移動できるんだ。まあ、その分魔力消費はかなり多いから、俺は一回しか使えないけどね。ノクティーさんなら頑張れば二、三回は使えるんじゃないかな」

「その前に移動系も覚えないといけないんですけどね」

「そういえばそっちはまだ教えてなかったね。“虚動”と“無影動”。そっちから教えないと」

「その二つはどんな魔戦技で?」

「虚動は残像を残しながら瞬時に移動する技で、無影動は音も無く移動する技だよ。この二つを合わせたのは無影虚動だよ」

「虚動は瞬動と同じ感じかしら?」

「ああ。それを改造してできたって聞いた事があるよ」

 

 エルフィナの言う瞬動とは高速移動ができる代表的な移動系の魔戦技で会得している者は非常に多い。虚動はそこに残像をプラスして作られており、瞬動よりも魔力消費は多い。

 

「疾走は速く走れるだけだけど、瞬動や虚動は一歩である程度の距離を移動できる。ここぞって時に役に立つから覚えてた方がいいよ。っと、その前に魔力は大丈夫かい?結構使ってたけど」

「あー…六割、ぐらいかな?」

「うーん、微妙だな…いや、今日はどんな感じなのかを見せるだけにしよう。よく見ててね。魔戦技、虚動」

 

 シーゼルが虚動を発動させると一瞬でルゥトの隣まで残像を残しながら移動した。

 

「ほう…残像で相手を翻弄しながら移動か」

「流石に分かるか。一旦距離を取りたい時とかにはかなり便利だよ。次は…魔戦技、無影動」

 

 今度は無影動を発動させるとシーゼルが音も無くシリウスに近づいてきた。

 

「ほとんど音がしないわね。隠密の時とかに使えそうね」

「ただどっちも魔力消費が激しいからそんなに使えないんだよね。今ので僕も魔力切れさ」

 

 魔力が三割を切ったのかシーゼルは具合の悪そうな顔でその場に座り込んだ。

 

「はぁ…」

「大丈夫ですか?」

「ああ。魔力切れになるのは久々でね。ちょっと早いけど今日はこれで終わりにしようか」

「自主練習はしても?」

「いいけど…無理はしないでよ」

「分かってますよ。ポラリス、アトリア、スピカ、ちょっと待っててね」

 

 三人を抱き上げて壁際まで運び頭を一撫でしてから中央へ向かい、木剣を構えていつもの型の素振りを始めた。

 

「は~、真面目だね~。誰かさんとは違って」

「そうですね~。誰かさんとは違って」

「…おい。何でこっちを向く?」

「「いーえ、べっつにー?」」

「お前は言われて当然だろ」

「お前らぁ…!よーし!俺様だって真面目にできるところを見せてやろう!といわけで、嬢ちゃん!相手になってやる!どこからでもかかってこい!」

「え?いいんですか?」

「あったりまえだ!さあ来い!」

 

 セレムとミラミスとレネイに煽られたゴルドは木剣を持ってシリウスと対峙した。相対したシリウスだが改めて向き合うと力量の差を見せつけられている。

 

「(隙だらけだけど…叩いても何の問題も無さそう…ここまで差があるのか。まあ、模擬戦だから死にはしないから気楽だけど。魔力は…二、三発は使えるな。幻体で惑わして急所を狙いながら幻撃と普通の攻撃を織り交ぜてやるか)」

 

 方針を決めたシリウスは早速行動に移した。ゴルド目掛けて真っ直ぐ突っ込み上段から木剣を叩きつけた。

 

「よっ。へぇ、中々のパワーじゃねえか!俺様じゃなかったら手が痺れてたかもしれんな!」

 

 木剣を掲げてあっさりと防いだゴルドだがその力に内心驚いていた。

 

「(おいおい、すげえ力だな!思ってたより三、四割ぐらい力あるんじゃねえか!?こりゃ面白くなってきたぜ…!)」

 

 楽しそうに笑うゴルドにシリウスは臆せず果敢に攻め立てているが、全て片手で受け止められている。

 

「(はは…全然歯が立たねえ…ここまで差があると笑いが出てくるな。まあ諦めるつもりは無いが。それじゃあそろそろ仕掛けるか。魔戦技、虚幻流…幻撃!)」

「ハッハッハ!効かね、うおっ!?」

 

 普通の攻撃の最中に幻撃を織り交ぜて上段から放つとゴルドは魔戦技とは思わなかったのでやや体勢を崩した。

 

「(好機…いや、誘いだ!)」

 

 そのまま攻めようとしたシリウスだが嫌な予感がしたので後ろに跳んで下がった。

 

「(おいおい、俺がカウンターを狙ってたのを見破ったのか?マジかよ…今まで気づかれた事無かったってのによぉ。マジで面白い嬢ちゃんだな!)」

 

 ゴルドはわざと体勢を崩してシリウスが攻めてきたところを左手でカウンターの拳をシリウスの腹にお見舞いするつもりだった。

 

「んじゃあ、今度はこっちから行くぜぇ!」

 

 ゴルドはシリウスに駆け寄り両手で木剣を持って上段から振り下ろした。シリウスは冷静に木剣の軌道を読んで木剣の腹を叩いて軌道を逸らした。

 

「(いって!?馬鹿力過ぎるだろ!?)」

「おおっ!?(逸らしやがった!全力じゃねえがそれでもそこそこ本気で打ち込んだんだぞ!?)ちぃっ!まだまだぁ!」

 

 手を痛めつつゴルドの左側に逃れたシリウスを追撃するために横薙ぎを放ったゴルドだったが手応えが全く無かった。

 

「はあ!?」

 

 そこにいたのはシリウスの幻で目を見開いて一瞬とはいえ硬直してしまったゴルド。その隙を付いて幻体を使った後ゴルドの足元で伏せて待機していたシリウスは渾身の力を込めて斬り上げた。

 

「はあっ!」

「ぬぐおっ!?」

 

 咄嗟に右腕で防いだゴルドだが、シリウスが放ったのは幻撃だったので想像以上の衝撃に苦悶の表情を浮かべた。

 

「そこまで!」

 

 ルゥトの声に追撃しようとしていたシリウスはその場に留まり、追撃を警戒していたゴルドも構えを解いた。

 

「ぶはぁ!あー、しんど…」

「いてて…こりゃあやられたぜ」

「まさかゴルドに一撃入れるとは…手加減とかは?」

「してねえよ。全力じゃねえがそこそこ本気だったぞ。まさか逸らされるとは夢にも思わなかったぜ…」

 

 ゴルドとルゥトは緊張の糸が切れたので疲れが一気に吹き出してその場に座り込んでいるシリウスを見た。

 

「つ、つかれた…」

「シリウスちゃん、大丈夫?」

「ま~」

「ままー」

「かあ、さま…だ、いじょう、ぶ…?」

「ママは大丈夫だよ~。ちょ~っと疲れただけだからね~、心配無いよ~」

 

 シリウスを心配してポラリス達は抱き着いたり、服をギュッと掴んだりしており、シリウスは安心させるように皆纏めて抱き締めている。

 

「いやぁ…まさか一撃入れるとは思ってもいなかったよ…ノクティーさんは戦いが巧いね」

「子供達を守るために必死に身に着けただろうな。ゴルドの一撃を逸らしたのも偶然ではなく努力が実った結果だな」

「だな。あー、でも悔しいな…」

「斧でやったらまた違ったんじゃない?」

「いや、武器の所為にはしねえ。全力じゃないにしても俺は負けたんだ」

「へぇ~、ゴルドにしては素直じゃん」

「いつもなら言い訳とかしてますもんね」

「明日は雨が降るのか?」

「うるせー!真面目にやったってのに、何だこの仕打ち!」

「日頃の行いだろ」

「「(ウンウン)」」

「ちくしょー!」

「アハハ…まあ、今日はこれで終わりにしようか。もう魔力も無いでしょ?帰ってゆっくり休憩しな」

「そうですね、そうします」

 

 甘えてくるポラリス達を抱き上げて道場を後にし、ルゥト達とも別れて宿屋に戻ってきた。

 

「あ、ハンターのお姉さんだ!」

「お帰りなさい!」

「うん、ただいま」

 

 宿屋の受付にはセイルとセネルが仲良く座っていて店番をしていた。

 

「二人とも店番してたの?偉いね」

「えへへ~」

「にへへ~。お姉さんはハンターのお仕事に行ってたの?」

「ううん。ちょっと隣で訓練をしてたんだ」

「隣?あ!シー兄ちゃんのとこだ!」

「二人とも知ってるんだ」

「うん!セネル達とよく遊んでくれるの!」

「あのねあのね!コルルお姉ちゃんはね!シー兄ちゃんの事が好きなんだよ!」

「シー兄ちゃんとお話ししたいけどいつも赤くなって話せないの!」

「それでね!誰にも言っちゃダメって言われたの!」

「あー、うん、そっか」

「あらあら、ふふふ…二人とも、いい?そういうのはね、内緒にしとかないといけないのよ?」

「「どうしてー?」」

「二人が教えたってお姉ちゃんが知ったら怒っちゃうわよー?」

「「やー!」」

「だから二人が話したって事は内緒ね。しー、よ」

「しー、ですね」

「分かった!」

「内緒にする!」

「「しー!」」

 

 思いがけずコルルの恋を知ってしまったが聞かなかった事にし、セイルとセネルが話した事もここだけの秘密にする事にした。

 

「あれ?どうしたんですか?」

「「えへへ~、内緒~♪しー♪」」

「?」

 

 シーツなどの洗濯物を持って洗い場へ向かおうとしていたコルルは可愛らしい仕草で話そうとしないセイルとセネルに首を傾げていた。コルル達を別れて部屋に戻ったシリウスはポラリス達をエルフィナに任せた後テーブルの上に紙と筆を用意した。

 

「あら、何か書くの?」

「ええ。ターエルでお世話になった人や友達に手紙を書こうと思って」

 

 何気にシリウスは手が空いた時などに文字を書く練習を続けており、この世界で広く使われている文字は書けるようになっている。

 

「手紙も書けるなんてシリウスちゃんは何でもできるのねー」

「これぐらい誰でも書けるのでは?」

「って思うでしょ?でもね、文字を書ける人って意外と少ないのよ」

「え?そうなんですか?」

「ええ。商人とか役人を除けば…半分ぐらいじゃないかしら」

 

 この世界の識字率はそこまで高くなく、地方の寒村では文字すら読めない者もいたりする。ハンターの中でも文字を読みはできるが書けない者もいるのでギルド側も有料で代筆を行っている。なので文字の読み書きができるシリウスはかなり凄い部類に入っているが、本人にはそのすごさが理解できていない。

 

「(え?文字の読み書き、できない奴とかいんの?そういや昔って現代より識字率が低かったっけ?リヤンとミーリは読み書きできるんだろうか…ラトミシアさんは多分大丈夫だけど…ま、まあ、誰かに読んでもらえばいっか)」

 

 リヤンとミーリが読み書きできないのではと一抹の不安を覚えたシリウスだが兎にも角にも手紙を書く事にした。内容は王都までの道筋で起こった事や自身の近況などだが意外と書く内容が多く、いつの間にか数枚の紙に裏表ビッシリと書いていた。

 

「書きすぎた…」

「あ、あらー…随分書いたのね…」

「つらつらと書いていたらこんな事に…ま、まあ、少ないよりはいいって事で。読むのはあいつらだし」

「シリウスちゃんの友達ってどんな子なの?シリウスちゃんのお話聞かせて?」

「えぇ…つまらない話ですよ?」

 

 エルフィナに強請られたのでシリウスはターエルにいた頃の事を話し始めた。

 ターエルで出会った心優しい住民達。下心など一切無くお節介を焼いてくれるハンター達。調子に乗る事が多く目が離せないリヤン。引っ込み思案だけどできる子なミーリ。他人と接するのが苦手だけど優しいラトミシア。

 話しているうちにその時の事を思い出して自然と笑顔になるシリウスにエルフィナは優しく見守りながら相づちを打ちながらずっと話を聞いていた。

 

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