転生したと思ったらママになっていた件   作:大神降ろし

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第九十六話

 

「はぁ、はぁ…!シリウスちゃん…!無事でいて…!」

 

 王都から伸びる南の街道をエルフィナが魔戦技を使って爆走していた。一時間ほど前にトルプナートから王都へ早馬で戻ってきたエルフィナは、ギルドに報告した後シーゼルの道場に足を運んだ。

 

「こんにちはー。シリウスちゃんいるー?」

「ん?ああ、ノーゼルさんか。ノクティーさんならいないぞ」

「あら、そうなの?んー…なら宿屋かしら?じゃあねー」

 

 道場から出たエルフィナはそのまま隣の宿屋に入り、シリウスが泊っている部屋に向かった。

 

「シリウスちゃーん、私よー…いないわね…なら、ギルド?依頼でもしてるのかしら」

 

 ノックしても応答が無く、部屋から音がしなかったのでエルフィナは再びギルドへ向かった。

 

「ねえ、シリウスちゃん…子供を連れた女の子って来てないかしら?」

「あ、エルフィナさん!子連れの…ああ、あの人ですね。確か依頼を受けてたはず…これですね。南の森の山菜採りです」

「(何故かしら…物凄く胸騒ぎがするわ…前にもどこかで…)!?」

 

 エルフィナは依頼書を見ながら胸騒ぎを覚えていた。以前にも感じたような気がしたので記憶を辿っていたら突如胸を押さえて蹲った。

 

「え、エルフィナさん!?」

「はぁ…!はぁ…!」

 

 胸を押さえて荒い息遣いをするエルフィナに受付の職員は慌てて駆け寄り介抱している。

 

「(これは…間違い無い…!あの時と同じ…!シリウスちゃん…!)どこ…?」

「え?」

「依頼の場所はどこなの!?」

「うえぇ!?え、えっと…ここから南に二時間ほど行った森で近くに村があります…」

 

 職員に掴み掛りながら情報を貰ったエルフィナは脇目も降らずギルドを飛び出した。馬を調達する手間すら惜しくそのまま南門から出て走っていった。魔戦技の疾走と瞬動を交互に使いながら強行軍で走り続け、わずか三十分でカオロ村に辿り着いた。

 

「ぜぇ、ぜぇ…」

 

 息絶え絶えになりながらエルフィナが見たものは、燃える村と今まさに殺されそうになっている村人達だった。

 

「うわあああぁぁぁ!?」

「助けてくれえええぇぇぇ!」

「こ、来ないでえええぇぇぇ!」

「奪え!殺せ!」

「こんな目に合うなんて聞いてねえぞ!」

「腹の虫が治まらねえ!」

「全部奪って、全員ぶっ殺せ!」

 

 ドラコウルフから逃げ出した十人ほどの盗賊達は森を駆け下りて村の近くまで辿り着いた。そこで息を整えた後こうなったのは全部ピドムの所為だと責任転嫁し怒りのまま村に押し入った。

 

「ん?な、何だあいつら…?」

「誰か村長を呼んでこい!」

「おらぁ!出てこい小物が!」

「何見てやがる!ぶっ殺すぞ!」

 

 武器を持って村に入ってきた盗賊達に村人達は恐れをなして遠巻きに見ていた。

 

「お、おいお前ら!これはどういう事だ!?魔物は倒したのか!?魔物の死体を持ってこの村に凱旋するはずだったろ!?こんなの話に無かったじゃないか!?」

「ああ!?その魔物があんなのだって聞いてねえぞ!」

「てめえの所為で俺達は散々だ!」

「ピドム!傭兵団を雇ったとは言ってたが彼らはそんな風には見えんぞ!一体何をしたのだ!?」

「うるさい!黙ってろ!そもそもあんたが悪いんだ!俺のやる事全てに反抗するからこんな目に合うんだ!」

「何を言っておるのだ!?わしはこの村の守るために…」

「俺の村だ!なら俺がどうしようが俺の勝手じゃないか!俺の計画が全部水の泡になったのはあんなの所為だ!どうしてくれるんだ!」

「ごちゃごちゃうるせえ!てめえら皆殺しだ!」

「まずはてめえだ!おらっ!」

「ぎゃああああぁぁぁ!?痛えよおおおぉぉぉ!?」

「本当にやったぞ!?」

「こ、殺される!?」

「に、逃げろおおおぉぉぉ!」

「お、おい!?誰か、俺を助けろ!」

「うるせえ!黙って死ね!」

「ひぃ!?た、助け、ぎゃああああぁぁぁ!?」

「他の奴らも逃がすな!全員ぶっ殺せ!」

「金目の物や食料を奪い取れ!」

「火を付けろ!村もぶっ壊せ!」

 

 盗賊に腕を斬られて痛みに悶えながら倒れるピドムだが、村人達は誰も助けようとせずその間に逃げ出す者ばかりだった。助けを求めるピドムだったが誰にも見向きされずに盗賊に殺された。他の盗賊達は逃げ出した村人達を追い掛けながら家に押し入って、止めようとした村人を斬り殺し家具を壊しながら物資を根こそぎ奪い取り、奪い終わった家は火を付けて次の家に押し入っている。

 

「あ…あ、あ…」

 

 エルフィナの脳裏にある光景がフラッシュバックしている。

 燃える村。

 転がる遺体。

 そして、首だけの男性と子供の―――。

 

「う、うわあああぁぁぁ!」

「ぎゃあ!?」

 

 トラウマをもろに刺激されエルフィナは半狂乱になりながら盗賊に斬りかかった。

 

「な、何だ!?」

「あああぁぁぁ!」

「ぐわあ!?」

「こ、こいつ、やりやがったな!」

 

 盗賊が斬りかかるがあっさりと受け流されてカウンターで短剣を胸に突き刺され、だがそれだけでは終わらずもう一本の短剣で首を斬り飛ばされた。次の盗賊は投げナイフを額、喉、胸に突き刺された後、短剣が大上段から振り下ろされて両腕を斬り落とされた。背後から迫った盗賊は回し蹴りを頭に食らい首が180度回転し、その後胸に短剣を突き立てられ開腹するように振り下ろされた。エルフィナは次々と盗賊達を殺し続けたが、殺し方がどれも惨かった。今のエルフィナの心にあるのはシリウス達への心配ではなく、深い、深い憎悪だけだった。衝動のまま盗賊達を惨殺していき、残るは一人だけとなった。

 

「ひ、ひいいいぃぃぃ!?た、助けて、くれ!と、盗った物はは返す!た、足も洗う!だから、命!命だけは!」

「殺してやる…殺してやる…殺してやる…殺してやる…殺してやる…殺してやる…殺してやる…殺してやる…殺してやる…殺してやる…殺してやる…殺してやる…殺してやる…殺してやる…殺してやる…」

 

 盗賊の命乞いもエルフィナには届かずうわ言を言いながら盗賊に近づいていく。盗賊は尻もちを付き青白い顔をしながら震えている。エルフィナは落ちていた粗末な剣を拾い盗賊の腹に突き刺した。

 

「ぐあっ!?があああぁぁぁ!?」

 

 エルフィナは突き刺した剣をグリグリと捩り盗賊は激痛で悲鳴を上げている。一頻り捩った後は剣を一旦抜いてまた突き刺し、抜いて突き刺しをひたすら繰り返した。突き刺す度に盗賊は悲鳴を上げ何度目かで力尽きた。エルフィナは息絶えた盗賊を汚物を見るような目で見下し剣を捨てた。盗賊達を殺し尽くし、焼けた村を見回し、血に染まった自分の手を見て、突如口を押さえて蹲った。

 

「うっぷ…!?ぐ、ぐうぅ…!」

 

 憎悪は消え正気に戻ったエルフィナは込み上げてくる吐き気に必死に耐えていた。

 

「わ、私、は…ま、た…うぐぅ…!」

 

 トラウマを刺激され我を失ったとはいえかつて自分が犯した罪を繰り返してしまった事に深い後悔を感じていた。

 

「んぐっ…!はぁ、はぁ…こん、なとこ…シリウス、ちゃんに、見られたら…」

「エルフィナさん…?」

 

 シリウスにこの凄惨な現場を見られる訳にはいかないと思って動こうとしたら、背後から声を掛けられた。物凄く聞き覚えがあり、少し前まで一刻も早く会いたいと思っていたが、今一番会いたくない人の声だった。ゆっくり振り返ればそこには五体満足でどこも怪我をしていないシリウスがいつものようにポラリス達を抱いて立っていた。

 シリウスはドラコウルフの親を看取った後、剥ぎ取りをせずそのまま埋葬する事にした。ドラコウルフの巨体が入るぐらいの穴を掘るには相当時間が掛かるが、一緒にいた土の精霊がものの一分でその穴を掘ってくれて、風の精霊がドラコウルフを浮かせてその穴に入れてくれた。ドラコウルフの子供は母親が埋められていくのをただジッと見ていた。墓標代わりに石を重ねて、お供えに近くに咲いていた花を手向けた。手を合わせて冥福を祈った後、託されたドラコウルフの子供を連れて山を下りていたところで焼け落ちた村を見掛けて急いで下りてきたのだ。

 

「―――ぅ、うおえええぇぇぇ!」

「エルフィナさん!?」

 

 シリウスに現場を見られてしまい耐えきれずその場で嘔吐しだした。シリウスは慌ててエルフィナに駆け寄り背中を擦っている。

 

「大丈夫ですか!?」

「うええぇ…!し、しりう、すちゃ、み、みな、うええぇ…!」

「大丈夫ですから。全部出しちゃいましょう。よしよし、大丈夫です」

 

 胃の中が空っぽになり胃液だけになっても吐き続けたが、シリウスは眉一つ動かさずにエルフィナの隣にいて背中を擦り続けた。エルフィナの背中を擦りながらシリウスは周囲を警戒しているが、盗賊は皆死に、村人は半数が盗賊に殺されるか焼け死んでおり、残った村人は村が崩壊して呆然としている。血が付いたエルフィナの手と短剣に惨殺された盗賊達の死体を見れば誰がやったかすぐに分かったが、シリウスは何も言わずにエルフィナの背中を擦り続けた。

 

「はぁ、はぁ…」

「はい、水です」

 

 シリウスから水を貰い口をゆすいだエルフィナはようやく落ち着いたが心は晴れなかった。

 

「動けます?」

「…うん」

「じゃあ帰りましょうか」

 

 シリウスがエルフィナの手を取って帰ろうとした時だった。

 

「…お前達の所為だ」

「あん?」

「お前達の所為でこんな事になったんだ!」

「そうだ!お前達が来たから皆死んじまったんだ!」

「返してよ!あの人を返してよ!」

「全部燃えちまった!明日からどうすればいいんだ!」

「責任取れよ!」

 

 山火事の方は燻っているものの鎮火しつつあるが、村の方はほとんどが焼け落ちてしまっている。生き残った村人達は村がこうなったのはシリウス達の所為だと口々に言いだし責め立て始めた。普段より弱っているエルフィナは暗い表情で俯いて責任を感じているがシリウスが平然としていた。

 

「なーに言ってんだお前ら」

「何だと!?」

「私達がいなかったらこの村は全滅してたぞ?」

「!?そ、そんなわけ…!」

「いやしてたぞ。だってお前らが生きてるのはエルフィナさんが盗賊達を倒したからだろうが。それを言う事欠いてこっちの責任とか…呆れて物も言えん」

「くっ…!」

「そもそもあの盗賊達を招き入れた奴の責任だろうが。そっちを責めろよ」

「招き入れたのって確か…」

「ピドムだ!あいつだ!」

「そうだ!あいつが傭兵を雇ったとか抜かして村に入れたんだ!」

「どこだ!?あいつはどこだ!?」

「見つけ出して責任を取らせよう!」

「あ!?死んでる!」

「何!?ちくしょう!」

「村長!あんたの息子だろうが!何でああなるまで放っておいた!」

「あんたがもっとちゃんと育ててればこんな事にはならなかったのに!」

「わ、わしの所為とでも言うのか!?お主らもわしが散々注意してるのを見ていただろう!?わしの所為ではない!」

「…醜いな。子供達の情操教育に悪い。さっさと帰るか。ほらエルフィナさん、行きますよ」

「…うん」

 

 村人達が責任を押し合う醜い行為に背を向けてシリウスはエルフィナを連れて村を離れて王都への帰路に付いた。帰り道でもエルフィナはずっと暗い表情で俯いており、ポラリス達が声を掛けても何の反応も示さなかった。今はシリウスが手を引いて歩いているが、手を離したらどこかに消えてしまうのではと思うぐらい思い詰めた表情をしている。

 

「(本当に大丈夫か?別に盗賊を殺したぐらいで引かないのに…それとも何か別の理由が?うーん…分からん。王都に着くまでこの空気か…)」

 

 エルフィナが思い詰めた表情なのでその場の空気が茶化せない空気になってしまい、シリウスは何も言えずポラリス達も空気に当てられたのかジッと黙っている。気まずい空気の中誰も話す事無く歩き続けてようやく王都が見えた時、シリウスは心の中で安堵の溜め息を吐いた。この状態のエルフィナを連れ回すわけには行かないので取りあえずシリウスの部屋に連れてきた。

 

「ふぅ…色々あって疲れたな…」

「全くよ…頭のおかしい村人には絡まれるわ、ドラコウルフに出くわすわ、山火事に遭うわで散々だったわ」

「…何も、聞かないのね…」

 

 シリウスとピーニがいつもと同じ感じで話しているとエルフィナが恐る恐る尋ねてきた。

 

「触れて欲しくなさそうなので」

「…そうね。思い出すのも辛いし、話していても楽しいものでも無いしね…でも、気になるんでしょ?」

「気にならない、と言えば嘘になりますけど、別に話さなくてもエルフィナさんへの態度は変わりませんよ?」

「…いえ、話すわ。ここまで来て話さないのは筋が通らない」

 

 エルフィナは椅子に座り、シリウスはポラリス達とベッドの上に座った。

 

「さて…どこから話したものかしら…」

 

 エルフィナの悲しい過去が語られ始めた。

 

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