転生したと思ったらママになっていた件   作:大神降ろし

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第九十九話

 

「…これが私の過去よ」

 

 自分の過去を話し終わったエルフィナは暗い顔をして俯いている。

 自分が行った復讐を包み隠さず話したが、血生臭いそれは普通の人なら忌避するものだ。灰色の世界を色づかせてくれたシリウス達であろうと例外ではない。

 

「(嫌われたくないけど…しょうがないわね…嫌われて当然な事をしたもの。それが私の罪)ごめんなさいね、こんな話をしちゃって」

 

 別れる前にシリウス達の顔を見ておこうと顔を上げると、シリウスは至って普通の表情をして膝の上で眠っているポラリス達をあやしていた。

 

「いえ別に。むしろ話してもらってありがたかったですけど」

「あ、あら?何でそんな反応?普通なら血生臭い話を聞いて嫌がるものじゃない?」

 

 思っていた反応と全然違ったので面食らって質問するエルフィナだが、何でそんな事を聞くのかと首を傾げるシリウス。

 

「え?だってエルフィナさんへの態度は変わらないって言いましたよね?」

「…え?そ、それだけ?その、復讐は駄目だとかは?話を聞いた感想とかは?」

「んー…まあ、私が同じ立場でも同じ事をしたと思うので別に。復讐を否定するつもりもありませんし。感想と言っても…うーん…お酒の飲み過ぎは駄目、ぐらいしか」

 

 本当にそう思っているのかシリウスはいつもと変わらない表情で答えている。赤の他人に自分勝手な理由で大切な人を理不尽に奪われたら誰だって許さないと思うし、復讐してやると思うとシリウスは考えている。復讐は駄目だと言っていいのは同じ苦しみを経験した人のみとも思っており、シリウスはエルフィナの復讐を無闇に否定しなかった。

 

「…もしかして、復讐の事を話したら私達が離れてくって思ってました?」

「…まあ、その…はい、思ってました…」

「はぁ~…その程度って思われてたなんて…」

「うぅ…その駄目な人を見るような目は止めて~…」

 

 話す前に態度は変えないと明言していたのにもかかわらず、エルフィナはシリウスが自分から離れていくと思っていたようだった。

 

「ポラリス達も懐いてるんですからそんな理由で離れたりしませんよ」

「そんな理由って…」

「私にとってはそんな理由です」

「ふーん…人間って大変ねー」

「妖精は違うのか?」

「まあね。そんな複雑なのは無いわね。私達は小さな魔物でも脅威になるから皆で力を合わせて生活してるから、そういうのは無いわね」

 

 ピーニと話す姿はエルフィナの過去を話す前と全く変わらなかった。

 

「ぅ…うえええぇぇぇん…!」

「え!?ちょ!?何で泣いてんすか!?」

「う~…ふえええぇぇぇ…」

「うー…あああぁぁぁ!」

「ひぅ!?ぁぅぅ…」

「おっとぉ!?こっちもか!?よーしよしよし!大丈夫だよー!ポラリス~、泣かないで~!アトリア~、何でもないからね~!スピカ~、怖くないよ~!よーしよしよし!エルフィナさーん!何で泣いてるんですかー!?」

 

 突如泣き出したエルフィナにつられてポラリス達も起きて泣き出してしまい、シリウスは大慌てでエルフィナを含めてあやしだした。エルフィナはシリウスが本当に何も気にしていないと分かり、受け入れてくれたのが嬉しくてシリウスに抱き着いて子供のように泣いている。シリウスはポラリスとアトリアとスピカとエルフィナを順番に撫でまくってあやし続け、数分後何とか皆泣き止んでくれた。

 

「ぜぇ、ぜぇ…や、やっと泣き止んだ…」

「ま~」

「ままー」

「かあさま…」

「えへへー♪シリウスちゃーん♪」

 

 膝の上にいるポラリス達はシリウスに甘え、エルフィナは背中からシリウスに抱き着いて頬擦りをしている。

 

「もう…一体何なんですか?」

「だって嬉しかったんだもーん♪」

「えぇ…」

 

 泣き止ますのに疲れ切って抱き締めてくるエルフィナを拒まずに好きにさせている。

 

「んふふー♪…ところでシリウスちゃん?」

「何です?」

「あれ…どうしたの?」

 

 エルフィナの視線の先にはドラコウルフの子供が、ここはどこだとベッドの上をトテトテと歩きながら部屋の中を見回している。

 

「ああ…色々ありまして」

「その色々を聞きたいんだけど…はっ!?まさか…また子供を増やしたくてどこかから盗んで…!?駄目よシリウスちゃん!いくら子供が好きでも!」

「違いますよ!?いくらなんでもそこまでしませんよ!その子の親に託されたんですよ!」

「あれ?確かハダルちゃんもそうじゃなかった?」

「ええ、そうですね」

「…シリウスちゃん、託され過ぎじゃない?いえ、それがシリウスちゃんの良いところでもあるんだろうけど」

「そんな事言われても…」

 

 魔物の卵や子供を見つけたら大体は素材や好事家に売るために採取や捕獲したり、後の禍根を断つために潰したり殺したりしている。シリウスはただ誠実に対応しただけなのだが、この世界の人からはかなり変わった事と認識される。

 

「それで?やっぱり育てるの?」

「そらまあ…託された以上は責任を持って育てないと」

「でも大丈夫?もうかなりいるけど…」

 

 ポラリス、アトリア、スピカ、カペラ、ウェズン、ハダルと既に三人と三体もおり、さらにそこに一体追加するとなると子育てが大変になるのではとエルフィナは危惧している。

 

「まあ…何とかなる、いや、何とかしてみせます。私はママなんですから」

 

 大変なのは百も承知。

 それでも何とかしてみせるのが母親なのだとシリウスはそう思っている。

 

「…シリウスちゃんは凄いわねぇ…」

「そんなに凄い事ですか?」

 

 エルフィナに褒められるがシリウスは当たり前だと思った事を言っているだけなのでいまいち理解していない。

 

「ドラコウルフってやっぱり肉を食べますよね?」

「そうね。この子はまだ小さいから量はそこまで多くなくても良さそうだけど、大きくなったら凄い事になりそうね。大人だったらビッグホーン一頭を食べるぐらいだしね」

「あー、やっぱり…あ、そういや肉とか取ってたな」

 

 ポラリス達をベッドの上に置いてシリウスは荷物を漁りビッグホーンの素材を取り出した。

 

「あらまあ…ビッグホーンの毛皮に角、それから内臓とお肉まで…これ、どうしたの?」

「この子が毒に侵されていたのでそれを治療したら親がお礼にくれました」

「…ねえシリウスちゃん。シリウスちゃんがした事はとても良い事だし、褒められることでもあるけど気をつけてね。時と場合によったら助けても襲われる事もあるからね」

「分かってますよ。その時はちゃんと倒します」

 

 肉の匂いを嗅ぎつけてドラコウルフの子供がシリウスの方へやってきた。肉をジーっと見ておりよだれも垂れている。

 

「食べたいか?ほれ。ちゃんと噛んで食べるんだぞ」

 

 シリウスが手頃な大きさの肉を差し出すとドラコウルフの子供は噛り付いて美味しそうに食べている。美味しそうに食べる様子をシリウスは微笑ましく眺めている。

 

「シリウス。そろそろ彼らを出してあげたら?」

「ん?ああ、そうだな」

「まだ何かいるの?」

「ええまあ。エルフィナさんは見えるんだろうか?」

「見えないんじゃない?これまでも結構目の前を通ってたけど反応してなかったわよ」

「じゃあちょっと見えるようにしてくれ。そうすれば分かるから」

「しょうがないわね…ほいっと」

「あら、なあにこれ?」

「すぐに分かるわよ」

「おーい、出てきていいぞー」

 

 シリウスが呼ぶと荷物の中から精霊達が出てきた。ドラコウルフの親を埋葬した後、精霊達は普通にシリウスに付いてきたのでシリウスは取りあえず荷物の中に隠れるように言っておいたのだ。

 

「うにゅぅ…」

「ここはどこなにょ?」

「ちっちゃなにんげんしゃん」

「もーむ、ぷにぷに~」

「ちっちゃなおおかみしゃんだ~」

「ぶふっ!?」

 

 荷物から出てきた五人の精霊はそれぞれ思い思いに過ごすのを見てエルフィナは吹き出した。

 

「な、ななななな!?」

「そんなに驚かなくても」

「これが驚かずにいられる!?精霊!精霊よ!精霊は本来人間には寄り付かないし、力を貸す事も滅多に無いのよ!ここ十年は精霊の力を借りる人なんて聞いた事なんて無いぐらいなのよ!」

「へー、そうなんですねー」

 

 呑気にそう宣うシリウスにエルフィナはそれが如何に凄い事なのか事細かく説明しだした。

 

「いいシリウスちゃん。精霊はね、特定の種族か才能が無いと全く見えないし、感知もできないの。意思疎通ができて、精霊が気に入らなければ力を貸してもらうどころか、一緒にいてもくれないの。見えたり、感知できる時点でとても凄い事なの。分かった?」

「はい、分かりました」

「もう…魔物使いに精霊使い…シリウスちゃんは一体何になる気なの?」

「何って言われても、その、困るというか…」

「…はぁ…まあ、シリウスちゃんが凄い…いえ、変わってるのは今に始まった事じゃないからいいけどね」

「何で言い直したんですかね」

「まあそれは置いといて。それで?精霊達はどうするの?まさか育てるなんて言うんじゃ…」

「いやそれはさすがに…まあ、好きにさせるつもりではいますけど」

 

 同行するかどうかは精霊に委ねてるのでシリウスからは何も言う気は無かった。エルフィナとシリウスが話している間、精霊達はポラリス達と戯れて好きに過ごしている。

 

「ちっちゃなにんげんしゃん」

「あ~、う~」

「はなちて~」

「うー?ぎゅー!」

「わたちはこわくないにょ~」

「うぅ…」

「もーむ、ぷにぷに~」

「(プルプル)」

「おおかみしゃん、はいよ~、なにょ~」

「ガウ?」

「皆も特に怖がったりはしてなさそうですので、多分付いてきますねこれ」

「そうね…はぁ~…シリウスちゃん、見える人は滅多にいないけどできるだけ隠しなさい」

「要らぬやっかみを受けるからですか?」

「それもあるけど、貴族とか権力者に気づかれると確実に面倒事に巻き込まれるわ」

「うへぇ…絶対に秘密にしなければ」

 

 権力を持った者は大体ろくでもない者ばかりと思っていたシリウスだったが正しくその通りだった。

 

「精霊はこれでいいとして、問題はドラコウルフの方ね。隠す事はほぼ不可能だから隠さずに曝け出した方がいいわね」

「どうしてですか?」

「隠してバレた時の方が怖いからね。魔物を飼う場合はギルドに届け出しないといけないの。バレたら罰金は当然だし、ハンター資格剥奪もあり得るわ。この際だからカペラちゃんとハダルちゃんも届け出を出しといたら?それならもう隠れなくてもよくなるわ」

「それはいいですね。明日にでも行ってきます」

 

 背中に乗った精霊の方を見て不思議そうに首を傾げているドラコウルフの子供はシリウスの方へやってきた。シリウスの手をクンクンと匂いを嗅ぎ、ペロッと舐めた。

 

「よしよし」

 

 シリウスがドラコウルフの子供の頭を撫でると気持ち良さそうに目を細めていた。

 

「この子の名前は決めたの?」

「ええ。リゲルにしようかと」

 

 現代日本ではリゲルはオリオン座の恒星の一つだ。

 

「あらいい名前。リゲルちゃーん」

「ガウ?」

 

 ドラコウルフの子供、リゲルは付けられた名前で呼ばれるがよく分かっていないらしく首を傾げている。

 

「シリウス?もしかして精霊にも名前を、って考えてない?」

「ん?まあ、強請られたら考えるつもりではあるが…何か問題があるのか?」

「精霊は名前を付けられると付けた人と契約して専属になるから気をつけなさい」

「専属?ん?なら、仲良くならなくても名前を付ければ専属になるのか?」

「いえ、それは無いわ。精霊側が受け入れない限り専属にはならないから無理矢理はできないの。ただここにいる精霊達はまだ生まれたてだから名前を付けたらそのまま専属しそうだけどね」

「そうか。なら付けてって言われるまでそのままだな」

 

 その後、シリウスとエルフィナは夕食まで精霊達とポラリス達が戯れる姿を眺めながら互いがいなかった間の事を話し合っていた。

 

 

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