向日葵のフレア   作:Aa_おにぎり

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#1

ピラー

 

それは2019年の三月、ノルウェーのガルフピッゲンにて初めて観測されたあらゆる生命を脅かす存在。

 

この人類の歴史上初めて誕生した、人類共通の敵。

 

核兵器すら効果を及ぼさない、人類の科学力ではどうする事もできない。太刀打ちしようのない敵。

 

人類はその敵にもはや滅亡を待つしか無いのかと思われたその時、とある救世主が現れた。

 

 

 

その者の名はオーディン。自らを神と名乗る一人の男であった。

 

 

 

彼はピラーとと叩く術……『戦乙女(ワルキューレ)』と呼ばれる特殊な能力と、『英霊機』と言う戦乙女の力を最大限活かす為の道具を与えた。

そして乙女の名のつく通り、戦乙女は女性のみに与えられる特権でもあった。相性もある事から、人類の中でも戦乙女になれるのはごく僅かでもあった。

 

戦乙女の強さは、即ち己の純粋な心と神に対する信仰心によって決まると言われていた。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

二〇二五年 六月

太平洋洋上

 

その日、太平洋の大海原を一機の巨人機が飛行する。機体は双胴式の漆黒で、尾翼には国連軍所属を記すUNFの印が施されていた。

機内には一人の少女と、一機の紺色の複葉機が格納されており。作業員が複葉機の整備を行っていた。

 

「……」

 

一瞬だけ少女を見た後に、まるで腫れ物を見たかのごとく去っていく整備員を見てその少女は表情が曇ってしまう。

 

「(ここでも私は腫れ物となるのだろうか……)」

 

その少女……ネームド・ワルキューレの一人であるクラウディア・ブラフォードは一抹の不安を抱えながら先の指令で日本への配属が決まっていた彼女は()()()()()がある為に、前の職場では『死神』なんて言う二つ名を貰っていた。

 

基本的にネームド・ワルキューレと言う強力な力を持つ戦乙女の所属は国連軍であり、今では民間からの志願が当たり前であった。

 

地味に戦乙女の活躍により、女性の活動の幅が大きく広がったと言う効果もあるが、そんな事を言っていられないほど状況が切迫しているのも事実。戦乙女が出るまでの戦いで多くの軍人が死に、今では軍は慢性的な人手不足だ。戦乙女が出てからというもの。死亡率は格段に下がったが、それでも戦闘時における死者数が無くなることはない。

 

ましてや自分は……。

 

 

 

 

 

そんな事を考えながら窓を眺めていると、ふと会場に異変を感じた。

 

「あれは…っ!!」

 

咄嗟にその正体を見たクラウディアは席を立つ。その直後、乗っていた機体も大きく旋回をし始める。

 

「クラゲ型のターシャリ・ピラー……」

 

近くにいるだけでもこの輸送機には脅威だ。迎撃する必要がある。

 

「出してくれ」

「分かりました」

 

機長は答えるとクラウディアは自身の英霊機、グラディエーターMk.Ⅱに乗り込む。

そしてパサライト・ファイター母機としても使用可能なこの輸送機で彼女はエンジンを始動する。

 

そして発進をしようとした瞬間、爆発音が響いた。

 

「何っ!?」

 

すると、接近してくる複数の機体と混線する無線が聞こえて来た。

 

『おいそこの輸送機!ここはうちらが引き受ける!行け!』

『援軍の到着〜!!』

『馬鹿、いきなり勇者砲を撃つのか』

 

明らかに統率は取れていなさそうな上に通話がダダ漏れ……。こんなのでまともに戦えるのか?

 

「こちら輸送機、援護に感謝する。貴女が指揮官か?」

『すまないが今そんな事言っている暇はない。早く離脱しろ』

 

そう言っている割には戦況はあまりよろしくなさそうだが……。

 

『すまない。うちら雑魚だからさ。グラディエーターの人、手伝ってくれないか?』

『遅刻サボり魔が言うな!』

 

無線越しでそう言うと、金切音にも似た音がこの空域に響く。この音は……。

 

『お待たせ〜』

 

そう言い、現れたのは銅色一色に塗装され胴体には向日葵色の旭日旗の様な塗装を施した一機の戦闘機。

 

「橘花……!?」

 

レシプロ機が飛び回る中で異様な外見を放つ見た目の機体が飛翔していた。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

結果として戦闘は終わった。ピラー自身の活動限界時間を超えた為に、自壊したのだ。

ピラーは地面より生命力を吸い上げる生物。その為、生命力のない海上では生命力が枯渇するとそのまま自戒してしまうのだ。

ただ、今回の戦闘。クラウディアが参加してからだいぶ有利に事は運んだが……。

 

今回の赴任先、館山基地に着陸したクラウディアを乗せた輸送機は軽い入国審査を終え、そのまま乗機のグラディエーターごと基地に下される。

基地に足をつけ、あたりを見回すと先ほど飛んでいた赤いキ44−Ⅱ乙の機体が駐機しており、そのパイロットと思われる戦乙女の少女が自分に気づくと手を振って近寄って来た。

 

「やぁやぁS級さん!!さっきぶり!!」

「え、えっと……」

 

いきなりの挨拶に困惑していると、その少女に突如現れたもう一人の少女に頭を軽くどつかれていた。

 

「お馬鹿、まずは基地司令んとこに挨拶に決まってんでしょうが」

「痛いよ陽奈〜」

 

軽く涙目になりながらどつかれた所を軽くさする少女に、現れたややブラウンに近い……確か陽奈と言われていた少女はクラウディアを見ると、糸目が特徴的な顔で、頭には月に似た金色の丸い髪飾りをつけている見た目からもわかるやる気の無さそうな少女はクラウディアの顔を見て言った。

 

「さぁ、まずは基地司令の場所に案内するわね」

「あ、はい……」

 

そんな訳で到着早々印象的な二人を見ながらクラウディアはそのまま陽奈と言う少女の案内の元。基地司令がいるという場所に案内して貰った。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

それで、ここの基地司令と対面したのだが……。

 

「クラウディア・ブラフォード、着任しました」

「あー、堅苦しいのは良いから」

 

クラウディアの着任の挨拶もそこそこに里見・一郎司令に話をする。彼は今、人が話しているというのに足の爪を切っていた。

 

「そうか……そうそう、君の歓迎会やるから。宜しく」

「歓迎会……ですか?」

「海上にピラーが現れたから直ぐには出来ないけどね。で、取り敢えず基地の案内しようと思うんだけど。担当は……」

 

司令が言い終える前に司令室の扉が勢い良く開けられる。

 

「案内はアタシ!じゃん拳で勝った六車・宮古!!」

「って訳で、行ってらっしゃい」

 

クラウディアは宮古に連れられて出ていった。司令室に残った、クラウディアをここまで案内した少女。天照(てんしょう)・陽奈は里見に糸目のまま突っ込みをかける。

 

「司令、任官直後の人に爪を切りながら挨拶ってのは……」

「ん、そうか?」

「だって、一応。貴方ここの基地司令ですよ?」

「一応って、酷いなぁ……」

 

ちなみにこの基地司令、前まで水虫を発症していた。その為、司令室の机には水虫用の薬が置かれていたりする。

爪を切り終え、陽奈も陽奈で司令室の滅多に使わないソファーに寝転がっていた。そんな彼女に里見は聞いた。

 

「どうだった、今日の試験飛行の程は?」

「まぁ、ぼちぼちですね。動かしましたけど、問題はなさそうです」

 

飄々とした様子で答えると、里見も少し安心した様子で答える。

 

「そうかい、それなら仕入れた見込みはあったわけだ……」

「色々と迷惑をかけました」

「そんな事はないさ。君の実力は皆も知っているだろう?」

 

それぞれやる気の無い格好で話していると、里見は陽奈に聞いた。

 

「外の炊き出しには?」

「今日はもう動きたくな〜い」

「はぁ、いつもの君だねぇ……」

 

基地で最もぐうたらと自称する彼女は、その名の通りいつも寝ているか基地の隅で何かしらのお菓子を食べているかの自堕落な生活で正直戦乙女の試験で落とされなかったのが不思議なくらいだ。このぐうたらさには駒込ががみがみ怒るわけで……。

 

「取り敢えずまぁ、君の欲しがっていた装備はこれで全部揃ったよ」

「そうですね。おかげで戦いやすくなります」

 

その声は先ほどまでのゆるゆるだった声とは違い、ハキハキとした真剣な声色だった。糸目が特徴的な彼女だが、こういう真剣な話をするときは人が変わった様になる。

まぁ、そう言う点もあるからこそ、里見は前の基地で邪魔者扱いされていた彼女をわざわざ引っ張って来たわけだが……。

 

「あとは本格的な戦闘をして、機体性能に慣れて行くだけですね」

「そうか……」

 

少しだけ空に風が吹く。雲が流れ、水色の空を塗ったり塗られたりしていく。

 

「……司令」

「ん?」

 

陽奈はそんな空を眺めながら里見に聞く。

 

「司令は、私たちの事……どう思っています?」

「……」

 

陽奈の問いは彼女達戦乙女を戦場に行かせることへの疑問だろう。戦乙女に男や、年老いた女性は慣れない。純粋な心を持ち、神に対する信仰心が強い者ほど。戦乙女としての強さは決まっていると言われている。

戦乙女を作り出すオーディンが現れて間もなく六年。この永遠と続く戦争の終わりは未だ見えなかった。

 

「私は戦いたいと志願してここに居ます。……ですが、私たち戦乙女の中にはオーディンに直接名指しで才能を発現した子もいます」

「……そうだな」

 

里見は頭が痛くなる感感覚に襲われる。こういう鋭い所も、普段では見せない彼女の一面だ。

 

「そして、そう言った子らは半ば強制的に戦争に駆り出され。戦闘の末に死亡した者も数多くいます。現に我が国のエース級も堕とされる結果となりました」

「……」

 

すると、陽奈は追求する様に里見に言う。

 

「今回、欧州より派遣されたエース。……日本にいたエース級が落とされた事で、ピラーに対する防衛網に一時的な穴が開く事となる為、派遣された。

……しかし、そんなエース級であれば本来であれば直ぐに出動が可能で、設備も豊富な百里基地に送ればいいはずなのに。こんな補給の面でも不安が残りやすい、はっきり言って田舎であるこの地に派遣となったのか……」

 

すると、陽奈は身体を起こすと里見の目を見て聞いた。

 

「それはつまり……()()()何かしらの事情があっての事ですか?」

「……」

 

陽奈の追求に、相変わらず見た目に寄らない鋭い観察眼を持っている。だからこそ、こちらも頭も痛くなると言うもの。

 

 

 

するとその瞬間、基地全体にピラーが出た事を知らせる警報。『ギャラルホルン』が鳴り響いた。

 

「……まぁ、この事は答えなくていいです。私も、新しいワルキューレと喧嘩はしたくありませんから」

 

そう言い残すと、彼女は司令室を後にして行った。その姿を見て、里見は軽くため息をついてしまった。

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