離陸を行い、橘花に乗る陽奈は操縦桿を握る。操縦の感覚に違和感を感じないのは流石駒込の技術と言った所だろうか。弾薬は満載で継戦能力は高い。
「ロケット弾でも追加でつけときゃよかったな……」
作戦が始まったと同じくらいにタツノオトシゴに似たピラーが出現。それぞれ対処に当たっていた。
「産まれたばかりだから外殻は薄いわね……」
戦況の観察を後方で行い、手助けな必要な部分を探す。すると、ピラーに少し手こずっている様子の二機のP51ーDを見る。
「量産機ね……」
どっちかって言うとツインマスタングの方が好みだが……。
「新人ちゃん、こっちに引き寄せるから。隙をついて撃破しな」
『えっ!?あ、はい!!』
『分かりました!』
二機の返答を聞き、陽奈は間に割って通過するとそのピラーは追いかけてきた。
「無闇矢鱈に攻撃するだけでいいのだから余計に考えなくて良いのが羨ましいねぇ……」
思わずそんな風に溢れると、無線に手を当てる。
「今っ!」
『はい!』
『うりゃぁあっ!!』
指示した通りに射撃し、ピラーを撃破する。新人の割には射撃の勘は良さそうだ。きちんと予測線を撃っている。
「貴方達、新人かい?」
『は、はいっ!』
『そうです』
そう聞き、陽奈はこの作戦の為に訓練期間を短くされた子かと納得すると続けて言う。
「戦闘に慣れていない子は必ずダッグを組んで、落ち着いて攻撃しなさい。それができないなら逃げて。プライマリー攻略まで時間を稼いで頂戴」
『はい!』
『分かりました!』
そう言い、陽奈はそのままエンジンを吹かせると飛び去って行った。そして、本格的な開戦を知らせるグランドスラムによる爆撃を確認。ピラー外壁に巨大な穴を確認した。
「侵入経路を確保……これより侵入する」
開けた穴に侵入し、陽奈達は内部に突入した。
内部に突入した陽奈はそこでクラウディア達と合流する。
「クラウ、状況は?」
『見ての通りだ』
「そうか……」
内部に入り、そこで見た光景はまさに飛行機の墓場だった。
「英霊機か……」
『それに戦闘機もいる』
確かに、色合い的には元々は軍用機であったのだろう。国籍マークも付いた機体が残骸の様に下に堕ちていた。
「全員、聞いているね?」
『はい』
『ええ』
『ああ』
『はーい!』
無線で返事が聞こえると陽奈は言う。
「敵がいつ何処から出てくるかは分からない。ただ……」
その瞬間、ギャラルホルンが鳴り響く。
『ギャラルホルン!?』
『一体何処から……!?』
『そんな、前兆なんて何処にも……!!』
そして、いきなり下から攻撃が飛んできた。
「先手必勝ですかい……!!」
その瞬間、下から一機の黒い機体が飛行する。
「司令部!例の機体です!交戦許可を!」
『……許可する』
事前に情報を流していたおかげか、基地側の動きも早い。今回の司令官が沖田空将補で助かった。これで堅物とかだったらもっと被害が出ていただろう。
「了解!」
許可が出たからには攻撃に移る。
『里見!!』
無線を繋いでいた天塚が慌てた様子で聞く。彼女の近くには一機の黒いF7Fがいた。
『あれは神宮寺の!!』
『っ!誰がこんな事を……!!』
「各機止まるな!やられるぞ!!」
機体を動かし、陽奈はなるべくクラウディアなどから離れる。
「アズ!わかっているわね!?」
『っ!分かっている。もし敵がお前を狙った時は……っ!!』
すると、それらの黒い英霊機は陽奈の機体を見つけると進路を変えて一目散に追いかけ始めた。
『本当に追いかけ始めた……っ!?』
『援護する!追いk「来るなっ!」っ!?』
『『『!?』』』
途中で遮られ、クラウディア達は驚く。すると陽奈は言う。
「追いかけたらお前達も吹っ飛ぶぞ!!」
『しかし……』
現状、黒い英霊機が全て陽奈の機体を追いかけている。そんな状態で幾ら速度のあるジェット戦闘機と言えど持たない。
「良いか!よく聞け!」
無線で後ろを追いかける機体をミラーで確認しながら陽奈は叫ぶ。
「こいつら引き連れて私は逃げる!お前達は真後ろを取れ!それと……」
陽奈はこの空間の中央に聳え立つ柱の上に立つ不気味な銅像らしき物を見る。
「あの真ん中の奴には気をつけろ!動き出したら報告!」
あの彫刻は間違いない……
「(野郎、本気で殺しにかかって来たな……)」
少なくとも抹殺する為にわざわざ息子を連れてくる時点で大分ぶっ飛んでいるはずだ。
「此処すらも領地にしたい訳か……」
陽奈はそう呟くとスラストレバーを前に押し倒す。エンジンの推力的に言うとTー4練習機以上の推力がある。機体がぶっ壊れることも覚悟せねばならない。
『なんだこの機体は?!早い!』
すると無線で誰かが叫ぶ。そしてその一機は速度を上げた陽奈の機体を追いかける。
『これは…っ!?日ノ本の守護者、沖田・桜……!!』
黒いP51はそのままアフターバーナーを炊く橘花に接近する。
「ちっ、改造していやがるか……」
『なっ、なんだあの速度……?!』
改造した英霊機のジェット戦闘機に追いつくレシプロ機と言うあり得ない構図に誰もが驚愕する。
「誰でもいい!一機ずつ後方に回って仕留めろ!」
『私が行く!』
「クラウか……頼んだ」
そう言うと陽奈はそのまま追従してくる元英霊機達を確認する。
「良いだろう。そちらがその気であれば……」
そう呟くと陽奈はスラストレバーを握ったまま一度強く目を閉じると目を見開き向日葵色の瞳が淡く光る。するとエンジンのアフターバーナーの色が青白い光を放ち、さらに高速で爆発したかの様に加速する。
『なんだあれは!?』
『そ、速度。大幅に増幅中!音速を既に超えています!!』
無線の奥で驚愕する声が聞こえる中、陽奈は機内でドッグファイトを仕掛ける。
急上昇し、そのまま意図的に失速してそのまま慣性の力で再び姿勢を戻し背後を取る。俗にいう木の葉落としという戦法をとった。
「堕ちろ!!」
そう叫んで放たれた銃弾の嵐は一気に二機の機体を堕とす。
『容赦が無くないか?それに今の加速……』
「どれだけ過去の栄光を知っていようと。今は敵。敵は堕とすに限る」
『うわぁ、容赦ねぇ……』
やや引いている様子の駒込に忠告する様に陽奈は言う。
「それよりもアノニュームは状況把握!宮古、聞こえているわね?」
『聞こえているよ!』
無線から張りのある声が聞こえ、陽奈は問う。
「勇者砲は?」
『アズに言われて温存しているよ!』
「よし、使うのはあの真ん中の奴が動いた時だ。アズ、タイミングは任せる」
それぞれ指示を出し、最後に陽奈は残ったメンバーに無線を繋ぐ。
「園香」
『はいっ!?』
「園香はクラウの援護、ウチに食いついてくる敵機を堕としてくれ。最悪園香は速度が命だ」
『分かりました』
そう答えると無線が新たに入ってくる。相手は天塚だった。
『園香を前線に残すのか?私は反対だね。すぐにでも後方に下げた方がいいんじゃ無いのか?』
「出来るならそうでもしたいですけどね……」
そう言いながら陽奈は乱戦とかしているこの空域を見る。
「今この現状では、園香を逃すだけでも死人が出かねません。それに……」
すると陽奈は襲ってくる無数の銃撃を不規則なエルリンロールをして避けながら言う。
「こっちにも人が欲しいんです。それに、本気で園香を飛ばせたく無いなら機体を弄ってエンジンをぶっ壊せば良かったんだ。少なくとも私だったらそうします」
そう言うと、天塚はやや怒りを含んだ様子で陽奈に叫んだ。
『だったら、あんたに何がわかるってんだい?!』
しかし、そんな彼女に陽奈は落ち着いた表情で……ある意味では冷徹な声で答える。
「だったら貴方もしっかりと立場をはっきりさせて下さい。それに、この状況下でも貴方が園香に出来る事は多々あるでしょう?
園香は天塚さんに甘えているのはよく知っています。ですが、貴方の今の行動は園香に無力感を与えているだけなんですよ」
「っ……!?」
そこからはまるで諭す様に陽奈は言う。
「戦って死ぬかもしれないってのは戦争では当たり前です。だったら、少しでも助け合って生き残る道を探すんです」
そういう内心、陽奈は呆れた表情で吐露する。全く、憲法九条なんて制定するからこんな事になるんだ。
戦争を放棄したところで待っているのは蹂躙されるだけの未来だ。永世中立を宣言したスイスだって、国民皆兵で自国を守っていると言うのに……。
今はピラーという未知の敵だからこそ、国民にとって忌避するものでも無い上に実害も出ているからこそピラーに対する批判も少ない。ただ、少ないだけでピラーと通話できないのかと叫ぶ馬鹿もいないわけでは無い。特にピラーの攻撃頻度の低い日本ではその馬鹿の割合が多いのも事実。
政府の中にはこの気に憲法を改正する動きもある様だ。何せ、頼みの綱である在日米軍の数が大きく削減されているのだ。アメリカもピラーとの戦闘で多くの軍人を失っている。おそらく世界の国防政策も大きく変わることになるだろう。
かつて世界の警察と謳っていたアメリカも南北戦争以上の死者を出している現状、他に回せる戦力も無くなりつつある。欧州や中国に至っては徴兵が始まっている始末。その現実を、憲法九条という殻に籠って見ようとしない日本人。その刷り込みが元自衛官である天塚にも少なからず影響していたのだ。
「園香が強いのはみんな知っています。貴方が園香の姉なら支えてください。園香は貴方には甘えん坊なんですから」
『あ、甘えん坊前提!?』
「実際そうでしょう?あんな蕩けた顔の園香なんて初めて見たし」
『っ//』
声にならない悲鳴をあげて園香は顔が赤くなる。その様子を想像して少し陽奈は微笑んだ後に言う。
「まぁ、そんな所です。今の現状、園香を守る為には兎に角敵を撃ち落とすしかありません」
そう言い、元英霊機達に追いかけられている陽奈は常に中央に立つ銅像らしき物に目を向けていた。そして一旦息を吸うと、クラウディアに問いかける。
「クラウ、背後の敵は堕とせるか?」
『ああ、私達は日々成長している。彼女が墜ちたあの時より、今日の私達の方が強い!!』
「そうか……」
良い言葉を聞いた気がするな。命に限りある人間だからこそ考えられる言葉だな。
「よし、このまま一機ずつ落として……『おい!あれを見ろ!!』っ!?」
駒込の言葉に遮られ、陽奈は中央部を見た。
そこでは、先ほどまで微塵も動かなかったあの銅像がゆっくりと動き出していた。