『ファシストになるより、豚になる方がマシだ』
救出作戦の翌日、基地の簡易ベットにポータブルDVDを持ってきて陽奈は映画を見ていた。現在療養中で、機体も大幅な修復作業が行われている中、駒込が病室に入ってきた。
「陽奈、話がある。良いか?」
「ん、どうぞ」
陽奈の怪我はそれほどでもなく、どちらかと言うと高機動戦における疲労の方が激しかった。その為、軽い治療と休憩を行うだけで終わり、今は体を休めていた。
二人のネームドを救出して帰って来ており、天塚のシールド隊も帰還した。ただ、肝心の天塚は行方不明。堕ちたのを誰も見ていない事から生きている可能性はまだ残されていた。
「園香の様子は?」
「……すっかり傷心している。お前のせいだぞ」
頭を軽く抱えながら少し睨むように駒込は言う。
「誰も堕ちたのを確認していないんだ。まだ生きている可能性はある」
「っ!!それが駄目だって言っているんだ!」
そう言うと、駒込は陽奈の胸ぐらを掴んで叫んだ。
「分かっているだろう?園香は天塚を失った。生きているかも分からない状態で、まともに戦えると思うのか?」
「だからこそ、最後の希望を与えるしか無いだろう……!?誰も墜落した現場は見ていないんだ。だったら、何処かで生きている可能性もあるだろうが……!!」
「そんな不確定な情報だけで、下手におソノに希望を持たせたかったのか?おかげで今は逆効果になっているんだぞ!!」
駒込はそう言うと、掴んでいた胸ぐらを落とすと少し疲れた様子で座り込む。
「今、おソノは誰とも話をしたがらない。完全に塞ぎ込んでしまった……」
「……」
本当に困惑した表情で駒込はそう答えると、陽奈は駒込に聞いた。
「……取り敢えず、貴方がここに来た理由は?」
「……まずはこれを聞いてくれ」
そう言い、駒込はある音声レコードを陽奈に聞かせた。それは沖田があの巨大なピラーの光線攻撃の直前に会話していたと思われる内容だ。そしてオーディンと話していたようで、そこには駒込曰く聞きなれない単語が混じっていたという。
「『ヴァルハラ』や『アスガルド』……そう言う単語が、オカルトとかには無いか?」
「そんな言葉、聞いた事ないわ」
「……そうか」
即答した陽奈に駒込は納得すると眉間に皺を寄せ、目元を軽く指で摘んでいた。するとそこで陽奈は駒込に続けて言う。
「ただ、この単語。そこだけ聞くと北欧系の言葉に似ているわね……」
「北欧系……」
駒込はオウム返しのように呟くと、陽奈は提案する。
「確か…クラウは北欧出身だったわよね?」
「あぁ…確かそうだったはずだ」
「じゃあ、彼女に聞いてみれば。何かわかるかもしれないわね」
そう言うわけで、二人は早速彼女の元に行って言葉の意味を聞こうとした。
「ーーで、生まれたのがこの変な金色の扉っと……」
「何なんだこれは?」
基地の廊下。陽奈と駒込は首を傾げる。体もほぼ回復し、リハビリついでにクラウディアに先ほどの単語を聞いた結果。彼女が『ヴァルハラ』と口にした途端、突如空間が切れるようにしてこの金色に輝く空間が現れた。
現在、この廊下は封鎖され遠目で駒込と陽奈、クラウディアは見ていた。そんな状況下でも、クラウディアは陽奈に感謝をしていた。
「陽奈、リズとリリーの救出。本当に感謝する」
「良いんだって。作戦は終わった。それに……完璧に作戦遂行ができた訳じゃないから」
そう言い、少し陽奈は表情を暗くした。戦闘は激しく、陽奈の機体も今は大修理中であり、当分は復帰できない状況だった。
「それで、この金の扉の先の調査だが……」
「私とアズ、クラウディアと行きたいと思います」
「私も賛成です。陽奈は宗教に詳しいですから」
「クラウディアもいた方が良いだろうから……まぁ、これで良いか」
里見司令と廊下で話し合い、三名ほどの人員を連れて金の門に向かって調査をする事が決まった。
片手に89式小銃とC4、手榴弾などの装備を持った志願した兵に陽奈は言う。
「悪いわね、色々と忙しいのに」
「いえ、姉御を守る為であれば肉壁にでもなれますよ」
「ははは、そこまでせんくても良いわ」
そう言い、片手に弓を持った陽奈はそう答える。何があるか分からない現状、最低限の武器を持っていきたいと言う彼女の意見に里見がOKを出したのだ。彼女は他にも食料を持ち、準備は進んでいた。
「よし、こっちも準備できたぞ」
そう言って現れた駒込の姿に少しだけ陽奈は苦笑した。
「あんた……これから冒険家にでもなるつもりかい?」
そう言い、陽奈は冒険家のような格好をしている駒込にやや顔を引き攣らせていると、駒込は反論する。
「仕方ないだろう。それに、未知の場所に行くんだ。冒険といっても過言では無い」
やや胸を張って答えると、陽奈は半分呆れが混ざった表情で言う。
「まぁ……似合ってんじゃ無い?」
「やる気の無い言い方だなオイ」
そう話していると、クラウディアもやって来た。腰に日本刀を下げて。
「おや、クラウ。貴方は日本刀?」
「ああ、使い慣れている武器だからな」
そう言い、総勢六名の探検隊は確認を終えるとそのまま一瞬息を呑んで金の扉の向こうに進んで行った。
「ここは……」
金の扉を抜け、見えた景色は何かしらの建物だ。十階のビルくらいはありそうな巨大な壁画や遠くには彫刻も置かれていた。全体的に何もかもがデカく、神聖的な場所であることは一目見て明らかであった。
「(なるほど、自ら腹の中を見せるか……面白い)」
恐らく此処に彼の意思は働いていない。だが、ここに誰かが侵入したことは気づいているはずだ。
周りの壁画を注意深く見ながら進んでいると、駒込が聞いてくる。
「陽奈、こう言う絵は見たことあるか?」
そう問いかけて来て、陽奈はしばらく絵画を眺めていた所に駒込が何かしらの本を持って見せて来た。
「読めるか?」
そう言い、渡されたハードカバーの本を見せられ、陽奈はそこで中身を吟味すると書かれていた言語を翻訳した。
「『天には素晴らしい場所がたくさんある。ヴァーラスキャールヴという大きなところがオーディンのおわすところで、神々が作ったものであるが、輝く銀に覆われている。
高御座のフリズスキャールヴはここの広間にある。万物の父がこの御座から全世界を見わたすことができる。』と書かれているわね……」
本の表紙には『ギュルヴィたぶらかし』と書かれており、その翻訳に駒込は首を傾げた。
「聞いたことない単語が多すぎて訳分からんな……と言うより、オーディン?」
「この『フリズスキャールヴ』はあの『フリズスキャルヴ』出会っていると思う。それに……」
陽奈は思い返しながら駒込に言う。
「宮古の機体に描かれている単語は、先ほどクラウが呟いた言葉とも一致する」
「っ!?」
よくそこまで覚えていると、駒込は思った。確かに、宮古の機体には『Vallhala』と言う意味のわからない単語が記されていたが、言われるまで気に求めていなかった。
「そしてこの壁画……」
そう言い、陽奈は広場のような場所に飾られて一枚の壁画を目にする。
そこには片目を覆われ、鍔の大きい魔女のような帽子に杖を持ったた老人を描いた巨大な壁画があった。
「これは……?」
見たこと無い意味不明な壁画に駒込は困惑していると横で陽奈が呟く。
「……主神オーディン」
「え?」
「壁画の隅。板が打ち込まれている」
「っ!?本当だ……」
よくよく他の壁画にも同様に何かしらの銘板が打ち込まれて、それら全てを陽奈が翻訳していた。
「これは何の文字で書かれているんだ?」
「そうね…これは数世紀前に消滅した古ノルド語ね……」
「「?」」
聞きなれない言語に首を傾げる駒込とクラウディア。ついて来た兵士はそもそも話についていけず困惑していた。
「昔の北欧の言葉ね。今では使われていないから、クラウも知る由もないけど……」
「よく知っているな」
「まぁ、趣味ですしお寿司」
そう言うと、六人は謎の建物の中を探索する。その中で陽奈は一瞬立ち止まる。
「どうした?陽n」
「しっ!誰かいる」
「「「「っ!!」」」」
陽奈の忠告に全員が緊張に包まれる。
ガシャン…ガシャン…ガシャン…
ヴァルハラの中を一人の金切り声をあげて歩く一つの影。
それはここを守る古の戦士。
此処の守りを任される兵の一人であり、今先ほど此処の主人より侵入者の排除を命じられて巡回中であった。
命令された当の場所につくものの、それらしき姿は見当たらず、周囲の探索に戻るとする。
ガシャン…ガシャン…ガシャン…
古の戦士が通り過ぎた広間、中央の銅像の足元の柵の奥から陽奈が顔を覗かせた。そして暫く周りを見回した後に呟く。
「……行ったわ」
そう言うと他の面々も顔を覗かすと大きく息を吐いた。
「はぁ……何だったんだあれは?」
「私にも分からん」
「ゑ?」
「だって私も初めて見るし」
鎧で纏われた二メートルほどある明らかに人の入っていなさそうな見た目のやつだし、そこは範囲外です。
「と言うか、よく知っていましたね。此処に隙間があるなんて」
「さっき色々見ていたからね。何があるかわからない以上、逃げ道は見つけておかなければ……」
「おぉ、流石っすね。姉御」
そう言うと、陽奈は軽くその兵士の頭を叩いて言う。
「愚か者、常に退路を確保しろって教わらなかったか」
「痛っ」
軽く叩かれて少し嬉しがる様子の隊員。この変態どもが……。
「さて、行くぞ。あの化け物が戻ってくるまで虱潰しに探そう」
「了解した」
陽奈の提案にクラウディア達は頷いた。
「お前が命令すんのか!!」
「大声出すな!」
「うぎゃっ!?」
頭を鷲掴みにして駒込は陽奈に軽く叱られるのだった。
途中の訳文はWikipediaより引用しました。