自分達がヴァルハラにて調査をしている間、外では館山奪還の為に宮古と園香が出撃して撃破したと言う。園香は無事に心を立て直せたようだ。とりあえず良かった……。
「やぁ、どうだい?」
陽奈はシェルターに生まれた赤ん坊を眺める。なんでも館山奪還作戦の後に生まれてきた命だそうだ。
子を産んだのは館山基地に入ってくるボランティアの妊婦だった。
「あぁ、陽奈ちゃん」
そう言い、その女性は横でおくるみで包まれた一人の赤ん坊を見る。
「容態は?」
「今の所は大丈夫だって」
「そうか……」
少し微笑むと、女性は陽奈に言う。
「良かったら抱いてみる?」
「……良いんですか?」
一瞬驚いて聞いてしまうと、彼女は頷く。
「ええ、もう他のみんなも抱っこしていたし」
「そうですか……」
そう言いクラウディア達のてんやわんやを想像しながら陽奈はその赤ん坊を抱える。
まだ首のすわっていない、生まれたばかりの命。ここまで無事に産まれてきたのも何かの縁だろう。
赤ん坊が死ななくなったのはつい最近の話だ。今だって、満足な医療設備がないと言うのにこうして静かに寝息をしている。
「……うっ」
すると抱かれた時の勢いか腹を空かしたのか、赤ん坊が泣きそうになる。
「おっと、はーいよしよし。大丈夫よ、怖がらなくて」
そうして赤ん坊をあやしていると女性が驚く。
「上手なのね。陽奈ちゃん」
「まぁ、昔赤ん坊を育てていた身ですから」
「あら、つまり経験者?」
「子供をあやすのは得意ですよ」
そう言うと陽奈の付けていた無線から連絡が入る。相手は駒込からであった……。
「まず、奪還した基地の設備が無事だったことは朗報だ。これで、改めてこっちの体制を立て直せる」
基地の司令室で里見司令がそう話す。深夜に館山基地に帰還し、荷物も雑多な状態で司令室には戦術飛行姫隊の面々や基地のメンバーが揃っていた。
「だがその前に、悪い話もある……」
そう言うと里見は駒込の方に視線を向けた。すると駒込はパソコンの画面をクラウディア達に見せた。
「これはウチらがゲートの向こうで撮影して来た映像だ」
そう言い、撮影した映像を動かしながらとある仮説を立てる。
「うちはこれが、オーディンの…‥即ち神様の歴史だと考えている」
そう言い、幾つかの壁画の絵を見せるとそのうちの一枚に宮古が反応した。
「それ、富士山の?」
あの柱の上で巨大な金槌を振って作戦を失敗させた巨大なピラー。それがその壁画には映っていた。
「そうだ。それで、横にいるのが……」
「……オーディン」
「「「「「っ!?」」」」」
クラウディアの呟きに全員が驚く。これが事実ならば、とある仮説が立証されるからだ。
「確かに壁画のオーディンは。最初に確認された際に変身した姿と酷似している」
「問題はなんでオーディンとあの巨人と並んで戦っているのか……」
そして壁画や、陽奈の入り込んだ書庫から得た情報を思い返しながら答えを紡ぎ合わせる。
「この神様の歴史は最後は滅びの時を待って終わっている」
そして最後に焼け野原とかした壁画を見せて言う。
「滅びの時。それは……」
「ラグナロク」
「ラグナロク?」
それは確か……
「ラグナロクってこれから起こるんだよね?」
そう、前にオーディンが言った話だ。ラグナロクはこれから起こる。それを防ぐ為に戦乙女がいるのだ。
「それが真っ赤な嘘だったって話」
そこで陽奈が言う。何処か馬鹿馬鹿しいように、呆れた様に。
「とうの昔にラグナロクは起きていた。そしてそれら神話の時代に起こったその出来事は歌としてクラウディアの故郷、北欧にて伝承されてきた」
「北欧に伝わる神話。即ち……」
「北欧神話」
「ラグナロクはもう、終わっている……」
そう言い、クラウディアや他の面々は息が詰まる感覚になる。それは詰まり……
「オーディンが敵に……?」
「そうしか無いって事さ。今までの事はオーディンの掌で転がされていたって事さ」
「っ!!」
全員が途端に怒る。そりゃそうだ、今まで多くの人類が死んだ。それは全て一人の神によって引き起こされたのだから……。
全員が黙り込んでしまう中、陽奈は一人話し続ける。
「そしてそのラグナロクの際、オーディンはフェンリルと言う巨大な狼の怪物に呑み込まれたそうだ」
「は?お前、何処からそんな話を……?」
真面目に首を傾げる駒込に陽奈は懐からある一冊の本を取り出す。
「こいつに書いてあったのさ」
そう言い、彼女は一冊の本の古びた分厚い本を見せた。表紙になんて書いてあるかは分からなかったが、それが何なのかは全員が理解した。
「お前!!それどっから持ってきたんだ?!」
「駒込が見つけてきた本をちょいとね」
「なぁにしてんだ馬鹿タレ!!」
駒込が思い切り陽奈の頭を殴るが、逆に駒込の手を痛めたらしい。馬鹿か、コイツ……!!
仮にも神様の家から盗人をした陽奈に全員が呆然となっていた。
「っとまぁ、この『ギュルヴィたぶらかし』と言う本に神の誕生からラグナロクまでの話し全部が書かれている。色々役立つだろう」
「大丈夫なのか?それ」
「なんかピラーみたいに生命力奪われたりしない?」
心配げに見るクラウディア達に陽奈は自信を持って言う。
「大丈夫大丈夫。コイツに害はない、事実駒込がくたばって無いだろう?」
「「「あぁ……」」」
「あぁとは何だ!あぁとは!!」
駒込に体力がないのはよく知っている。この前も駒込は寝不足でピラーの攻撃で倒れた様なやつだ。そして陽奈が懐から取り出したと言う事はこの部屋に入った時点で持ち込んでいたと言うことになる。それで駒込が倒れていないのだから一番わかりやすい安全基準だ。
「ってな訳でまぁ……他にも書物はあったらしいけどこれしか持ち出せなかった訳ね」
「神殿から盗むなんて何て恐れ知らず……」
「そこいらの泥棒より酷いっすね」
「おいちょっと待て。最後の言った奴出てこい」
散々な言われようの陽奈に駒込はふと気づく。
「ってか思ったんだが……ウチらが散々追われた理由ってそれじゃ無いのか?」
「え?」
一瞬驚いた後、全員の視線が陽奈に集まる。そして全員がジト目をしていた。そんな視線を受けて陽奈は手を後ろにしながら言う。
「……ごめんしたら許してくれる?」
その後陽奈は駒込とクラウディアにこってり絞られたとか何とか……。
「はぁ……」
陽奈への説教を終え、駒込は疲れた様子で司令室のソファで横になる。先ほど説明を終えた上にヴァルハラへの探索の疲れも抜けきっていない上での説教だ。今すぐにでも寝てしまいそうではあった。だが、これだけは……。
「司令……」
「ん?」
部屋に残っていた司令は書類を片付け終え、丁度電気を落としたところだった。部屋には月夜の明かりが灯り、駒込はポケットからとある物を取り出した。
「これを見てくれ」
「?それは……」
それは薬莢であった。真鍮製の立派な薬莢を持っていたが、里見はそれを見て首を傾げた。
「うちの使ってる五.五六ミリの薬莢じゃ無いな」
「流石だな」
すると駒込はそこでこの薬莢を手に入れた時の状況を話し出す。
「ヴァルハラにてウチが見つけたんだ。地面に転がっていた」
あくまでも自分が踏んづけてずっこけた事は言わずに彼女は続ける。
「あの時、ウチらの誰も発砲をして居なかった。だが、この薬莢だけは転がっていた……」
「?」
おかしな話だ。そもそも突入して行った部隊にこの大きさの薬莢の弾薬は誰も持って行っていない上に発砲していないのに薬莢が出ないはずがない。
「どう言うことだ?」
「少なくともあの空間で発砲すれば一発で分かる。しかしあの時は発砲していなかった……」
「……何をして欲しいんだい?」
里見はそこで駒込の真意を察する。
「この薬莢に適合する弾薬を調べて欲しい。そしてーー」
そこで駒込は里見に要件を言うと、彼は頭に手を当てて軽く髪を掻く。
「はぁ…厄介な注文だ……」
「頼めるか?」
「……分かった。やれるだけやってみるよ」
「ありがとう」
そう言うと駒込はソファからのっそりと起き上がるとそのまま部屋を後にした。
「何と言う愚行か……」
ござの上で正座した状態で一人の髭面の老人が腕を組んで目を閉じて言う。その側には雷霆が置かれていた。
「だから言ったであろう。あの者に全てを任せるべきでは無いと……」
そしてチャブ台を挟んだその反対側で一人の女性が茶を飲みながら言う。
「うーむ…しかしあそこまでの代償を払われては断れることでも無かろう」
「そこじゃろ、お主の甘い所。この前妻に叱られたばかりであろう。この好色オヤジめ……」
「ズカズカと言いたいことだけを言った様だな。かなり心に来る……」
そう言い、その老人も差し出された茶を一気に飲み干す。
「しかし、お主の意見はしかと受け止めた。他の者も協力を拒む事はないだろう。後は……」
「彼奴の言質を取ればよろしい。既にあの若造は妾に宣戦布告をした。既に戦いは始まっておる」
怒気と苛立ちを含めた声でその巫女服を着ている女性はゆっくりと茶碗を置いた。
「少なくともあの若造の我儘に付き合うつもりはない。その事をしかと受け止めていただきたい」
その女性はそう言うと老人も頷く。
「分かっておる。既に他の神々も承知の上だ。好きにやると良い」
「お主に言われずとも」
そう言うと女性は軽く手を叩いて従者を呼び寄せるとそのまま次に枡と酒を持って来させた。
「私は日本酒がそれほど好きでないぞ?」
「五月蝿い。お主らのミスでこっちは迷惑を被っておるのだ」
「それはお互い様であろう」
苦手と言いつつも老人は持ってきた酒をそのまま出てきた枡に注ぐ。
「だがな、色々と文句は言わせろ。お主らが動かなかったから、妾はあの若造を殺せなかった…それがどれほど悔しい事か……」
そう言い、出てきた酒瓶ごと女性は一気に自棄になって酒を飲む。すると老人は少々萎縮しながら答える。
「それはすまなかったと思っておる。正直、あの者を最後まで判断しかねておったからな」
「馬鹿、あやつは戦争と死の神だぞ?全て一人で抱え込んで仲間を信用しなかった。だから
「……」
そこで老人は枡に一口、酒を飲む。
「まったく可哀想な奴……と言って仕舞えばそれで終いだが…」
「実際はそうでもなかった。あやつは我々のテリトリーにまで侵略を行った」
「もう言い逃れはできない。奴は人類を神の前で屈服させ、人類全体を己の管轄下に置こうとしている」
「あぁ、大きな失敗だった……」
するとその女性は立ち上がった。酒瓶はすでに空で、相当な勢いで飲んだのだと分かる。
「さて…妾はそろそろ時間だ。また今後の処遇について話し合おう……
ゼウス」
そう言い残すとその女性は去って行った。