「ーーー以上が、オーディンが隠していた真実」
元々は国際連合本部ビル……現在は国連軍総合統括作戦司令本部と名を変え、各国国連大使や軍人が会議を繰り広げている場所に里見は報告をしていた。
「我々はこれを、北欧神話と命名しました」
画面に映るのはあの金門をくぐった先での光景、そして陽奈の持ち帰ったあの古文書の写真などが映し出され、駒込の推測も交えた報告を伝えていた。
前までは理事会議場があったその場所では今でも各国政府のメッセンジャーとして国連大使が詰めかけ、円滑な作戦行動を進めるために各国の軍人も集結していた。
里見の報告を聞き、アメリカ大使が重々しく口を開く。
「神が予言した滅びの時はすでに訪れた後だと……」
するとそこで中国大使が口を開き、事実を告げる。
「だとしても、オーディンが協力者である事実は変わらん」
するとそこでイギリス大使が疑問を投げかける。
「そもそもオーディンが本当に協力者として適切なのか。問題はそこでは?」
「今更そんな話を蒸し返すのか?」
もちろん、世界中の情報機関がオーディンの調査を試みたが、その全てが失敗に終わっている今。彼に関する情報はほぼないと言うのが現状だ。
「正体不明の敵。それに対抗する手段を与えた神か……」
アメリカ国連大使。アラン・アームストロングはこれらの情報を閲覧した結果を交えてこの会議に参加している対しに聞いた。
「彼のことを独自に調べている国家は多いはずだ。何か情報は?」
しかし前述の通り、彼に関する情報はほとんどない。誰もが返答に困っていた時、突如会議室の映像が壊れたかの如く消えた。
「なんだ?」
里見が思わず呟くとその画面の向こうから雑音混じりに声が聞こえた。
『なんだとはご挨拶だな……人間』
「その声は……?!」
すると画面が切り替わり、今度は青年の声と共に鮮明な映像が現れた。
『神様』
「「「「「っ!!」」」」」
彼は何かの前で顔だけが映っている状態で立っていた。
『いつかの顔ぶれ、いつかの再現だな』
どこか嘲笑うかのように彼は口を開いた。
「大神オーディン!あなたは一体……?!」
『あの時は戦う力を与えた。ゆえに、今度は戦う動機を与えてやろう』
大使の言葉を遮り、オーディンは映像を思い切り引いた。すると彼の背後から巨大な人の影。それは……
「あれは……マウントフジのピラー……」
「っ、やはりか……」
里見は会議場のあの壁画を写した映像を一瞥しながら最悪の予想が当たったと内心で毒吐く。
「ピラーとオーディンがグルだと?!」
中国大使が驚愕した声を上げるとオーディンはそんな彼らを見て言う。
『我が友、トールの威力は先だって見せたばかりだろう?
大勢が戦死した。だが、まだだ。まだ足りない』
するとオーディンは腕を上げながら強く拳を握る。
『戦う力を与えた。戦う動機も与えた。そして…戦う敵も与えた……』
「「「「「オーディン!!」」」」」
立ち会った全ての人間がその名を叫ぶ。
『滅びに備えろ人類。重ねて言うぞ。
決戦の日、ラグナロクは近いぞ』
「だぁああっ……!!」
机に突っ伏して陽奈は倒れる。その周囲では駒込、本庄、和浦、御厨の四人が会議室で詰めていた。
「翻訳疲れたよぉ……」
「弱音を吐くな!」
机に突っ伏して倒れる陽奈に駒込が怒鳴って彼女を叩き起こす。
それを見て本庄が同情の目で駒込に言う。
「ここの所、翻訳作業で徹夜しているから仕方ないよ」
「しかしなぁ……」
「はぁ……ゲームしたい」
「五月蝿い!お前は黙って仕事をしろ!」
あのヴァルハラより持ち帰ったギュルヴィたぶらかしと書かれた古ノルド語の古文書の翻訳に彼女は奔走していた。
「今、世界中の情報機関も翻訳をしているわけだし。少しくらい休ませてあげれば?」
「……」
本庄の押しと横でもうやだと嘆く陽奈を見て駒込は少し考える。
「ったく、三〇分だけだぞ」
「はいよ〜、あんがと」
のっそりと起き上がり、彼女はそのまま部屋を出ていく。
「ったく、こんくらいの事でへばるなんて……」
そんな陽奈を見て自分も弱いのに鈍だと言った駒込のパソコンに一通のメールが届いた。
「?司令から……っ!!」
今はアメリカに飛んでいる里見から届いたメールを見た駒込は表情が険しくなって、その後すぐに出て行った陽奈を追いかけた。
「陽奈!」
慌てて彼女の後を追いかけた駒込はソファで倒れている彼女を見て叩き起こした。
「お前の予測が大当たりだ」
「ん、そうかい……」
しかし彼女は大した反応を見せず、そのままアイマスクをして寝てしまった。
「こんな状況でも、お前はいつもと変わらないのか……」
通常運行の彼女に駒込は半分呆れつつも、どこかほっとした様子でそのまま部屋を後にしていた。
三十分後、ソファから起き上がった陽菜は持っていた携帯が鳴った。
「……」
番号は不明、陽菜は携帯を取ると電話に出た。
「ーーあぁ、お前さんかい?」
電話に出ると、相手は噂の御仁からだった。
『君が素直に電話に出てくるとは、なんとも不思議な気分だ』
「そうかい?私ぁ、君がわざわざ泥を塗る形で宣戦布告した事に驚いているよ」
『どうもコソコソと動くのは趣味じゃないんでね』
「はっ、どの口が言うかねぇ……」
カーテンを開け、日差しが入り込んでくるのを感じながら陽菜は窓の外を見る。
「少なくとも、今更うちに電話して来て。…何の様だい?」
『いや、君が人の真似事をする理由が分かった気がしてね……』
「ほぅ?」
陽菜はそこで一瞬動きが止まる。携帯の向こうで話す人とは今の所戦争状態にあるはずなのだが……
「じゃあ、その感想はいつか聞く事にしましょうかね」
『その時が来ると良いけど』
「何、どうせ君とはいつか会うはずだ」
『根拠は……』
「占い」
『だったら確率は高そうだ』
部屋を出て陽菜は先ほどの会議室に移動する。
「それで?君はこの後どうするんだい?」
『来るべき時を待つ。ラグナロクはまだ始まったばかりだからね』
「そうか……」
可哀想なやつ、とは言わなかったが喉元まで出て来ていた。それを押さえ込んで彼女はそのまま電話を切った。
「陽奈〜!」
「ん?」
翻訳作業を終え、基地を歩いていた陽奈に宮古が声をかける。
「陽奈、ちょっと手伝ってほしい事があるんだけど」
「?」
宮古が声をかけて来たのは単純な事だった。
「お祭りの準備?」
「そう!みんなでやろうって!」
この前の作戦で街にも大勢の人が帰ってきた。そこで祭りを開いて慰問祭を開こうと言う提案だった。
「もう街のみんなも手伝い始めているんだよ」
「そう……」
少なくとも今の所、街にいる人間やここにいる人間は今までに散って行った人間をまともぬ弔う時間すらなかった。しかし、この祭りを開けばその弔う時間ができる。そう言う思いもあるのだろう。
「いいんじゃない?」
「そう?じゃあさ、ちょっと手伝って欲しい事が……」
その時、陽奈の携帯に電話が鳴る。
「あ、司令から呼び出しだ」
「あ、例の仕事?」
「そう見たいね。ごめん、祭りの手伝いはまた後で」
「うん、手伝える時は言ってね!」
「ええ」
まぁ、しばらくはまともに寝れない日が続きそうだが……
米国より帰国した里見からの話で、オーディンが正式に宣戦布告をした話などが直接話された。それを聞き、ある程度の予測が現実のものになったと自体の深刻さに普通だったら倒れてしまいそうな状況であった。
「陽奈さんの翻訳も相まって北欧神話には多数の神がいる事がわかりました」
本庄がプロジェクターで画面を映しながら里見に情報を伝えていた。
「富士で出現した、識別名トールや複数の神の存在」
「トゥール、フレイヤ、ヘイルダム。あとロキとか、とにかく沢山」
報告を聞き、里見は本庄に確認を取る。
「そんで、有識者たちの結論は?」
「オーディンとピラーの結託。そして、北欧神話の滅びの終焉……」
不意にクラウディアに視線が向かう。彼女はオーディンの娘として一層熱い寵愛を受けていた身だ。複雑な気持ちになるのも分からなくは無い。と言うより、当局から目をつけられている可能性もなくはない。
「ラグナロクはすでに起きている……か」
翻訳作業もほぼほぼ終わりに近づき、そこで一時手空きとなった陽奈が里見に聞いた。
「司令、情報はどうなっているんです?」
「世界中の記者団と報道協定を結んだ。戦いが終わるまで大きな混乱は避けられる」
「じゃあ、あとは変な輩がネット記事で書かない事を祈るだけですね」
余計な情報は社会的な混乱を招く。今でもネット上には嘘記事を書いている馬鹿たれがいるくらいなんだ。まぁ、大体がシカトされるか炎上するかのどっちかなのだが……。
「その可能性もほぼほぼ無いだろう。今現在、有識者は恐ろしいほど足並みが揃ってる。あの首脳会議で正面切って宣戦布告されたんだ」
「顔に泥を塗られたも同じですか……」
メンツをとにかく気にする政治家はそう行った事に関しては足並みを揃えやすい。
こんな戦時下でもメンツを気にするかと内心卑下しつつも陽奈は天を仰ぐ。
「まぁ、少なくとも我々に今必要なのは時間ですね」
「そうだな……準備の方は?」
その問いに和浦がパソコンを見ながら答える。
「浜松と小牧、そして百里を筆頭に急ピッチで基地の復興が行われています。二週間で予定の水準に達します」
こうなった為、反抗作戦の第一歩となる富士プライマリピラー再攻撃の準備のために世界中から物資の集積が行われようとしていた。
「基地の復興が終わり次第、残った戦少女を再集結……ですか。静岡空港は使わないんで?」
今、撃墜の恐れがあることから旅客便が飛ぶことはほとんどない。そのため、民間の空港には駐機されている旅客機やその他車両しかなく、ハッキリ言って金食い虫となっていた。そのため、多くの国ではそう言った民間の空港は全て戦乙女のために使われていた。
「静岡空港はこの前の攻略の時、トールの攻撃で滑走路が壊された。復旧には三ヶ月かかる」
「じゃあ使えないわけですか……」
あのトールのレーザー攻撃で静岡県内に大きな被害が出た。その損害は一個の地震災害級だと言う。
「だが、前回の戦いで相手の戦力は削られている。補給のための休眠もできていない。窮地でもあり、好奇でもあるのはどっちもって事だ」
「モノはいい様だけだな」
そこで駒込が疲れた顔で呆れながら答える。
「アズズ、大丈夫か?」
「ギブアップって言える局面じゃないだろうが!」
クラウディアに強く反論すると、後ろから陽奈が話しかける。
「うちらが持ち帰った情報で世界の命運が決まる……」
陽奈の呟きにクラウディアは自分の掌を見る。
「オーディンの宣戦布告以降、ピラーの攻撃は以前と同じく散発的。だが……」
「
陽奈の言葉に今度が疑問が浮かぶ。
「変、ですよね」
「黒幕だったと明かしたのに、加護は取り上げない……神様の考えってのは分からんねぇ」
里見がお手上げといった様子で首を軽く振ると陽奈が言う。
「彼は戦いを求めているんだ」
「戦い?」
本庄が聞くと彼女は頷く。
「そう、戦い……翻訳過程で色々と知ったけれど、あの神様は戦うことでしか己の目的を果たせない。そう言う宿命なのさ」
「「「「「「……」」」」」
全員が一瞬黙り込んでしまう。
するとそんな空気を切り裂くかのように駒込は冷徹な意見を言う。
「しかし、オーディンが居なければ戦乙女を増やすことはできない」
「ヴァルキューレはオーディンの祝福を受けて翼を授かる。つまり、今翼のある者達が堕ちれば……」
「人類の敗北は決まりだ」