向日葵のフレア   作:Aa_おにぎり

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#17

「人類の敗北は決まりだ」

 

駒込の判断に一瞬、会議室に沈黙が走った。すると会議室にキーボードを叩く音が響く。

 

「情報の精査と前回の作戦のデータ解析」

 

キーボードを叩く和浦はそのまま光の籠った目で話す。

 

「私の…仕事だから……」

 

そう言うと、本庄や御厨も同じようにデータの解析を始め、それを見ていた里見は納得した様子で軽く頷く。

 

「となると、俺の仕事は偉い人達への説明と説得かな。やれやれ……」

 

自分の仕事にかかる重積を想像しながら彼はクラウディアに目線を合わせる。

 

「クラウディア、同行してくれるかい?お前がいたほうが説得力がある」

 

良くも悪くも、クラウディアは現在注目の的だ。各国首脳と折り合いをつけるには良い見せ物だ。

 

「了解、しかしアズズは……」

「うちの事はいい。うちは作戦を形にして、少しでも勝算を上げる役割だ。ギリギリまでやる」

 

するとクラウディアは駒込の体調を考えて彼女に近づきながら話しかける。

 

「アズズ、あまり詰めすぎるな」

 

しかし彼女はそんなクラウディアの言葉にこう返す。

 

「心配すんな。私以外にもコイツがいる。オーディン嫌いの強い味方がな」

 

そう言い、駒込は陽奈を指差した。指を指された陽奈は軽く微笑むとクラウディアに言う。

 

「そう心配しなくていい。クラウディア、あなたはあなたにしかでき無い事を尽くしなさい」

「そうか……」

 

そんな二人を見たクラウディアは片目を閉じて敬礼しながら答える。

 

「アズズ、陽奈。死力をつくせ」

 

すると二人は息ぴったりに答える。

 

「「いつだってそのつもりさ」」

 

かくして、それぞれの仕事は決まった。クラウディアは富士ピラー再攻略に奔走する里見について行き、各国の折り合いを付ける仕事を勤めた。

駒込と陽奈は作戦のための計画立案のために奔走し、寝る間も惜しんでいたりしていた。

途中、彼女の飲む紅茶に睡眠薬を仕込んで駒込を無理やり寝かしたりし、互いに体調を整えながら計画を立てていた。

 

「前回の戦闘データを元にするなら……」

「待て、それだとオーディンがまた仕掛けてくる可能性があるぞ」

「オーディンが世界の敵となった以上、情報収集もできない。司令部はここで良い」

「しかしな……」

 

夜な夜な陽奈と激論を繰り広げる駒込達をよそに宮古達も準備を進めていた。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

そして数日が経ち、カーテンを思い切り開けて宮古が駒込の寝るベットから布団を引き剥がした。

 

「あーずー、朝だよ〜っ!」

「んん〜……っ!!」

 

布団をひっぺがされ、下着にシャツ一枚という基地の職員(変態ども)が見れば鼻血を出して卒倒しそうな寝姿に宮古は軽く微笑みながら話しかける。

 

「こんなにベット散らかしちゃって……みんなのためにすっごい頑張っているんだね」

 

そう言い、連日の陽奈との激論の末に起こっている部屋の汚さを指摘しながら彼女は布団をたたむと駒込が体を起こす。

 

「当たり前だろ。というかお前は何をしているんだ。私をほったらかして……」

 

一部の人間なら百合展開を望むような声が上がりそうだが、二人は軽く言い合う。

 

「ごめんてば。拗ねないで」

「拗ねてなんかないし……って、ん?」

 

すると駒込は宮古のベットの上に置いてあった()()に目が入った。

 

「それなんだ?」

「あっ!気づいた?ついさっき届いたんだ〜」

 

すると宮古はそれを駒込に見せた。

 

「ん〜!やっぱり思った通り。アズは黒が似合うね〜」

「ふんっ!うちはなんでも似合う」

 

鏡で浴衣を伸ばして自信ありげに駒込は頷くと宮古は浴衣を持ちながら言う。

 

「そうだけど黒は特に」

 

どこかまんざらでもない感情を交えながら駒込はふと単純な疑問が浮かんだ。

 

「それ浴衣だよな?なんで浴衣だ?」

 

宮古がわざわざ注文した浴衣に首を傾げていると宮古は答える。

 

「そりゃあ、夏祭りには浴衣がつきものだもん。私の分もあるよ」

「待て話が飛んでいる。夏祭りって?」

 

着替えながら駒込は宮古に聞く。

 

「館山のお祭りだよ。元々明日の予定だったんだけど……中止になりそうで、その準備してたの。大変だったよ」

「夏り……?」

 

その瞬間、駒込のシャツのボタンが取れ、動きが止まった。

 

「あ、ボタンが……」

 

落ちたボタンを拾う宮古に駒込は思わず怒鳴る。

 

「この非常にお祭り?お前、また思いつきでそんな事初めて……祭りなんて場合か!誰もそんなこと望んでいない!」

「みんな手伝ってくれたよ。ソノや陽奈、街の人達や基地のみんな……お祭り、成功させようって」

「どいつもコイツも……」

 

非常時に呑気な行事ができるはずがないと呆れや憤慨が混ざる駒込に宮古は柔らかく接する。

 

「アズ、今すっごい大変だよね。わかるよ、だから一緒に……」

 

そう言い、宮古は駒込に手を差し出そうとした。しかしその言葉で駒込は何かが切れた。

 

「うちの気持ちがわかる……?」

 

今までどんな思いで作戦計画を練ってきたか、その重積が、その重みが……

 

「わかるもんか!」

 

そう叫ぶと彼女はそのまま部屋を飛び出して行った。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

駒込が飛び出した頃、基地の格納庫では陽奈の乗る橘花の修理が終わったと報告を受けて格納庫を訪れていた。

 

「ったく、派手に壊しやがって……おかげでほぼ全部の部品を作り直す羽目になったぞ」

「あー、なんかすいやせん」

「馬鹿っ、直すのが俺たちの仕事なんだよ」

 

修理とは名ばかりの駒込謹製の魔改造が施された橘花はエンジンにさらなる推力を与えるべくXF3-400を仕入れていた。

 

「どっからこんなの仕入れたんです?」

「防衛装備庁の倉庫に眠ってたのをダチの伝手で持ち出してきた。全部の試験を終えた後で埃をかぶっていたんだ」

「それだと機体がぶっ壊れません?」

「そこはすでに機体自体に追加で骨組み入れてる。少なくとも空中分解はしない」

 

整備班長と話しながら陽奈は勝手に魔改造されていく自分の機体を見る。

 

「今回のエンジン換装で翼をテーパー翼から後退翼に変更した。本来の計画じゃあ、GAU−8を乗っけるつもりだったらしいが…それだと飛べねえから変わらずのM61A2を機首に装備。まぁ、これまでとほぼ変わらねえな」

「推力の時点でだいぶ違うと思うのですがそれは?」

「文句なら俺じゃなくてあのべそっかきに言いな。後で怒鳴ってやる……」

 

そう答えると班長はその場を去っていく。残った陽奈は翼の付け根の中からうっすらとはみ出ているM134を見る。

 

「機銃マシマシじゃないですか……」

 

おまけにハードポイントもいくつも取り付けられており、よくこんな短期間で翼を再設計したと感心するレベルだ。

 

「あいつ、本気でうちの機体A-10にでもするつもりかよ」

 

駒込ならやりかねないと思いながら陽奈は近くの整備員に聞く。

 

「あんた達、コイツ試しに動かした?」

「はい!問題なく!」

 

タイヤも換装され、半分テセウスの船のようになりつつある愛機のコックピットに乗り込む。実際、宮古の機体はテセウスの船なんだが……。

 

「コックピットに変更はほぼ無しか……」

 

以前と変わらぬ計器、強いて言えば残弾のメーターが少し変わったくらいのコックピットを身終えるとそのまま機体を降りて基地を歩く。すると園香が手入れしているひまわり畑から話声が聞こえてきた。陽奈は声を聞き、園香が話している相手が噂の宮古と喧嘩した子であったが故に少し遠くから聞き耳を立てていた。

 

『私も、誰かに覚えていてくれるなら。笑っていた方がいいかな』

『思い出になるのが早すぎるだろ』

『そうだよね。でも、思い出はいっぱい作っておきたい。神様に意地悪されて暗い顔した写真ばかりなんて嫌だもん』

『おソノ、強くなったな……』

 

館山奪還作戦以降、園香は前と比べても一層強くなっている気がする。それはおそらく、彼女の残した言葉が大きな支えとなったのだろう。

 

『ふふっ、みこちゃんにも言われたよ』

『お前達がそうでも、私は……』

 

園香はそう答えると駒込はその場を後にしていく。

 

「匿ってくれた礼は言っておく。じゃあな」

 

そして花壇をさっていくとき、園香は最後に言う。

 

「…アズちゃん。思い出を作るのも、振り返るのも、私はみんなと同じにしたいな」

 

園香のそんな願いに耳を傾けながらも、彼女は何も答えずに去って行った。

 

 

 

 

 

「……」

 

花壇から去っていく駒込にいきなり声をかけられた。

 

「どうだい?みんなから居場所をちくられる気分は?」

「っ!?」

 

基地の裏から声をかけてきた彼女に駒込は呆れたように答える。

 

「お前か……」

 

駒込は声をかけてきた陽奈の顔を見た。

 

「良いわけないだろう?!」

「日頃の行いね」

「っ、おソノにも言われた」

「こりゃ失敬」

 

彼女は平謝りするとそのまま駒込に特徴的な糸目を見せながら言う。

 

「それだけあなたは好かれているからいいわね」

「はぁっ?」

 

思わず反論しようとした矢先、陽奈はいつになく真剣な眼差しで言う。

 

「その繋がりを大事にしておきなさい。あなたみたいな子が生きていくのに必要なのは……

 

 

 

信じる心なのだから」

 

 

 

「信じる……心?」

 

妙に確信めいたような、どこか引っ掛かるような言葉で駒込はオウム返しをする。すると彼女は頷いた。

 

「そう、貴方にはあって……

 

 

 

オーディンには無いもの」

 

 

 

「え?」

 

首を傾げる駒込に彼女はそのまま去っていく。

 

「じゃあね、宮古に謝った後。祭りにも来なさい」

「あ、ちょっと!!」

 

駒込が呼び止めるも、彼女はそのまま去って行ってしまった。

 

「オーディンには無いだって……?」

 

ますます彼女に対する疑問が浮かびながら駒込はとりあえず気分を晴らすために基地を後にして行った。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

その後、夕方になって野島埼灯台に陽奈は向かう。目的は駒込を探しに行った宮古達の回収だった。歩いていると視線の先には岬のベンチに座っている宮古と駒込の姿を見た。

 

その様子を見る限り、仲直りはしたようだ。

 

「(まぁ、あの二人だからな)」

 

宮古と駒込が決定的に仲が悪くなると言うこともない。そうなった時はおそらく余程のことが無ければありえないだろう。この一年、二人を見てきて思ったことだ。

 

四月にクラウディアがここに着任してから数ヶ月、世界は大きく動いた。

富士プライマリピラー攻略、それから先日のオーディンによる宣戦布告。

 

「世間も大きく動いているだろうなぁ……」

 

少なくとも現在、自衛隊は抜根的改革に移行している。警察も重装化し、常に自動小銃を抱えるほどにはそう言った規制も緩くなった。

第二次世界大戦が終わってから八〇年。日本の平和憲法の殻はすでに破られた後だった。

 

そんな戦時下でも関わらず、絶えず人は生きていた。

ただ一つ、今言いたいことと言えば

 

 

 

「アイツら、結婚しちゃえばいいのに」

 

 

 

ベンチの上で仲良く話す二人を見てそう呟いてしまった。

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