宮古達が少し喧嘩した翌日。基地の広場では夏祭りが開催されていた。
市民が会場に入って祭りを楽しむ中、クラウディアや園香が手を振った。
「おーい」
そして陽奈以外の四人が浴衣姿で集まった。
「おぉ!二人とも浴衣ちゃんと着れたんだ」
「クーちゃん、浴衣にも詳しくって」
「父から受けた勲等の賜物だ」
クラウディアは誇りを持って答えると、今度は同じく浴衣姿の駒込を見て軽く首を傾げた。
「「ん?」」
「なんだよ……」
「んん、別に?浴衣かわいいね、アズちゃんの特別?」
「そう!気合い入れて見繕ったの」
そう言い、宮古と駒込はベッタリとくっついていた。その様子を見ているとふとクラウディアが聞いた。
「そう言えば陽奈は?」
「ん?あぁ、先にお祭り会場に入っているよ。先に楽しんでてって」
「そうなのか……じゃあ、行くか」
こうしてクラウディア達も夏祭りの会場に入って行った。
会場では金魚掬いに苦難している駒込の横でクラウディアが恐るべき量で金魚を救っていたり。
宮古が買った綿飴をよく遊ぶ近所の子供に渡したり。
かたぬきで駒込は余裕で型から取り出し、横で本庄は簡単なかたぬきを割ったり。
射的では三馬鹿がなかなか当たらずに大騒ぎしている中、クラウディアと園香が見事に当てていたり。
とにかく多くの屋台でそれぞれの物語があり、皆がそれぞれ楽しい思い出を作っていた。
「さーて、次が最後の屋台だぁ〜」
「そういえば一度も陽奈の姿を見ていなかったな」
「どこにいるんだろう?」
すると近くの掘立て小屋のような場所で多くの人が集まっていた。まぁ、多くは老人だったのだが……
「あっ!陽奈だ!」
その屋根のついた小屋を見ていた宮古が奥から出てきた陽奈を見つけた。
「あれは……」
「巫女さんだね」
彼女の着ている格好を見てクラウディアと園香は口にする。
「今から何をするんだろう?」
「神楽じゃないのか?」
そんな疑問を浮かべつつも、せっかくだからと言うことで陽奈の神楽を四人は見ていた。
簡単に立てられた神楽殿の上で陽奈は神楽鈴を持って音に合わせて綺麗な鈴の音と共にキリのある踊りを披露する。それを見ていた人達からは声が上がる。
「綺麗なもんだ」
「陽奈ちゃん、どっかの神社生まれなのかい?」
見ていた人たちからそんなふうに聞かれる。基本的にこう言った神楽を見に来るのは老人やそう言ったことに興味のある人間だが、一部は陽奈に憧れて観に来る人もいた。例えば三馬鹿のような……。
「やっぱ姉御っす」
「カッコ良すぎて」
「尊死しちゃう」
「何キモい事言ってんだ?」
横で相変わらずなことを言う三人に駒込が突っ込んでいた。まぁ、三馬鹿はこの際どうでもいいとして……
「すごく綺麗な神楽だね」
「すまんが、神楽とはなんだ?」
「あっ、クラウは知らない感じ?」
「ああ、名前だけしか聞いたことがなくてな」
そんなクラウディアの疑問に園香がわかりやすく教える。
「神様にお祈りする時にする踊りみたいなものだよ」
「そうなのか」
わかりやすい説明に納得した上でクラウディアは陽奈の踊る神楽を見ていた。
「あれは何を踊っているんだ?」
「え?えっと……」
「岩戸隠れを再現しているのさ。お嬢ちゃん」
クラウディアの問いかけに園香ではなく近くにいた老婦人が答えた。
「岩戸隠れ?」
「そう、昔の日本の神話だね。天照様が須佐男様にお怒りになって天岩戸に隠れてしまったお話だよ」
「あぁ、それ知ってる!」
そこで宮古が身を軽く乗り出して話に入ってくる。
「それで、その後色んなところが真っ暗になっちゃて八百万の神様達が相談してその場所の前で色んな事をして天照様を引っ張り出したって言うものでしょ?」
「お嬢さん、なかなか詳しいねえ。今の子にしちゃ珍しいじゃないか」
「えへへ〜」
老婦人に褒められて顔が緩んだ表情になる宮古に駒込が思わず聞く。
「お前、なんでそう言うのは詳しいんだよ」
「そう言うのは家族から色々と教わってきたから」
そう話していると神楽もだんだんと終わりが近づき、最後に大きく鈴の音が響き終えるとそのまま陽奈はお辞儀をして神楽殿を出て行った。
「陽奈〜!」
神楽を終え、巫女服を着たままの陽奈に宮古達が近づく。
「神楽、すっごく良かったよ!」
「あら、ありがとう」
宮古の反応にそう返す陽奈。
「なかなかキレのある踊りだった」
「綺麗だったよ」
「ってか、お前。神楽も踊れたのか?」
最後に駒込が首を傾げて陽菜に言う。
「あら、言ってなかったっけ?」
「聞いてないわよ!」
駒込がツッコミをかけていると陽奈に近づく三人の影が。いつもの三馬鹿だ。
「姉御、お疲れ様でした」
「キレがありました。俺、惚れそうっす」
「結婚してください」
いつもの調子で陽奈に話しかける三人に、彼女は特に最後に片膝を立ててプロポーズした金髪に対して
「お礼はこれで?」
「ありがとうございます!」
はいていた草履で彼の顔面を思い切り踏んづけていた。
もはやそっち方向に目覚めているこの三人にとって陽奈に尻に惹かれることがこの基地で一番の喜びとなっていた。
「じゃあ、私はこれで終わるから」
「うん、後で海に来てよね!」
「行けたら行くわ」
そう言い残すと陽奈は祭り会場を一足先に後にして行った。
それからしばらくし、祭りも終わりに近づいて屋台の電気も落としていた。
「みんな海辺に?」
「ソノとクラウはそう。私とアズはちょっと用事」
宮古が両手に屋台で買った料理を持って答える。
「これお願い」
「むぐっ」
そして宮古から屋台料理を全て手渡され、口にチョコバナナを突っ込まれたクラウディアは少し困惑していた。
「おい、そんなの聞いていないぞ」
「いいからいいから」
「よくない…あぁ、こらっ!!」
宮古は駒込を連れて会場から去っていく。
「じゃあ、私たちはこっち。行こ?」
そんな二人を見送り、園香はクラウディアを連れて海岸へと移動をした。
「遅えぞポニーテール!」
格納庫に到着した宮古達は早速班長に怒鳴られた。
「ごめん班長。いける?」
「ほれ」
咄嗟に手を合わせて謝る宮古に班長は指を指した。その先では宮古のキ44が翼下に二発の特殊装備を積んでいた。
「そう来なくっちゃ!」
それを見て宮古は駒込を連れて宮古が先にコックピットに乗り込む。
「ほらアズも乗って」
そう言い宮古は駒込に手を差し出す。
「ばっ!乗れるか、狭いだろ!」
一瞬バカと言いそうになったところを止め、駒込は乗れないと反論する。しかし彼女はそれほど気にしていない様子で言う。
「ぎゅって詰めて、ぎゅって乗れば大丈夫!ほらアズ、行こう!」
「……」
一瞬だけ考えた後、駒込は宮古の差し出した手を取ってそのままコックピットに乗り込んだ。
同じ頃、海岸では市民の手によって会場に無数の紙製のランプが流されていた。中では蝋燭のぼんやりとした火が灯り、海の一部を明るく照らしていた。
「灯籠流し……死者の弔い…か」
「慰められるのは、きっと生きている人の方。だから大事なの」
そんな流れていく灯籠を見ながらクラウディアは園子に聞く。
「宮古達は、どこに?」
「すぐに分かるよ」
その瞬間、上空からプロペラの回転する音が聞こえた。
「聞こえる?」
「ん?」
その音を頼りにクラウディア達は空を眺めると、そこでは宮古の機体から無数の花火が飛んでいた。あの翼下に懸下された特殊装備から花火は飛んでいた。
「ふぅ……」
自室に戻り、簡単に着替えた彼女は部屋の冷蔵庫から一升瓶と岡持ちを持って宿舎を出る。
今頃海岸ではクラウディア達が灯籠流しに参加している頃だろう。
「さて、行きますかね」
この日のためにこっそり準備してきた自分用の楽しみ。宮古達には申し訳ないが、この時ばかりは一人で楽しませてほしい。場所は海がよく見える、いい場所だ。
岡持ちと一升瓶を持って基地を歩いていると基地のあの暇つぶしにもいい場所で今日はあそこで飲もうと思っていた。
そしてその場所に行くと、そこには先客達がいた。
「ふぅ…出るタイミングを逃した。まいったねぇ……」
煙草に火をつけてそう呟くのはこの基地司令、里見・一郎その人だった。
「泣き顔は年相応か……」
「ったりめだ若造。お前にはあれが小娘に見えねえってのか?」
そして現れた整備班長に聞かれ、里見は本音を明かす。
「そうじゃないと思っていたかった…ってのが本音だね。全く」
そう言い、里見は一回煙草を吸う。
「……でも直前で気づけて良かった。あの涙のためだったら何だって出来る。だろう?」
「はっ、何だか楽しくなってきたな」
どこか不敵に整備班長は笑う。
「そりゃあいい。楽しいってのはいい事だ」
そこで里見はもう一度煙草を吸う。
「どこまでも、うちの基地らしく行こう。明るく、楽しく行こうじゃないか」
夜空に華を散らすキ44を見ながら里見はつぶやくと、後ろから知っている声が近づいてきた。
「おやおや、おっさん二人が若娘のすけべな話ですか?」
振り返るとそこには岡持ちを片手に一升瓶を持った浴衣姿の陽奈が立っていた。
「へっ、そんな野暮な話は若造で十分だ」
「おっと、これは失敬でしたね」
すると彼女は少し微笑みながら岡持ちの中身を見せながら誘ってきた。
「お二人もいかがです?」
持っている日本酒と岡持ちの中にはガラス製の水の張ったボウルに入った水饅頭が入っていた。酒饅頭に氷水と砂糖をかけない方の、本物の水饅頭だ。
「水饅頭か……夏にぴったりの甘味だ」
「お前さんが作ったのか?」
「ええ、最近は出撃もありませんでしたから」
どことなく女将さんと言う雰囲気が漏れている彼女に里見は頷いた。
「じゃあ、せっかく陽奈が作ってくれたんだ。御相伴に預かろうかね」
「そいつは良い。水饅頭はよく冷える」
そんなわけで三人は基地の渦高い土手に腰をかけて陽奈は二人に持ってきていた猪口を渡す。
「こんなのしかありませんが」
「良いんだよ。こう言う時は適当で」
そう言い、猪口を受け取ると陽奈はそこで里見と整備班長に持ってきていた一升瓶を傾ける。
「お前、それは純米大吟醸か?」
「ええ、私のとっておきです」
「え?そんないいものを?」
「いいじゃええか、そんないい酒滅多にお目にかかれねえんだ」
そう言い、三人は空を飛ぶキ44を見ながら猪口を掲げる。
「これからの皆の安全を願って」
「「「乾杯」」」
そして一気に中を飲み干すと里見はいい日本酒を飲んだ感想を言う。
「あぁ…いい酒だが、甘いねぇ」
「こいつはちと甘すぎやしないか?」
「ふふっ、それが良いんですよ」
陽奈はそう答えるとそのまま持ってきた一升瓶をまた傾ける。
「パイロットが酒を飲むか……」
「こう言う時だから良いんですよ」
「少なくとも数時間は飛ばせらんな」
パイロットはアルコールを飲むと気圧変化の関係で血管が膨張する為、酩酊してしまうため危険だ。そのため、完全に酒が抜けるまで待たなければならない。
「だから少量で済ませろよ」
「わかっていますよ」
そう言い、猪口を飲み干す。明日は再び富士ピラー攻略のために浜松基地に飛ぶ。そのため、酔った状態で飛ばすと色々と怒られるの待ったなしだ。
「じゃあ酒が飲めないなら……」
そう言うと彼女は懐からタバコ取り出した。
「酒に煙草……」
「こりゃ、立派な女だ。けっ、上物吸ってやがるぜ」
「本当は刻たばこの方が好みなんですけどね」
そう言い彼女はフィルターが金色の高級感あふれる漆黒の紙タバコに火をつける。
「トレジャラー・プレミアム・ブラック……最高級の紙タバコじゃないか。金持ちだねぇ……」
「一本入ります?」
そう言い、彼女は最高級の煙草を勧めてくるが、里見はそれを断った。
「いや、辞めておこう。そいつを吸うのは作戦が成功した時だ」
「そうですか」
「班長は?」
「いらねえな。そんな悪趣味な煙草は」
あっさりと引き下がった陽奈に里見や班長は陽奈の持ってきた日本酒と彼女の作った水饅頭を堪能していた。
空にはすでに花火の姿は無く、海岸にいた人たちもまばらになっていた。
そして二人の男と一人の年に似合わぬ雰囲気を醸し出す三人はその夏の美しい夜空に気を取られまともな会話をする事もなくただ時が過ぎるのを見届けていた。
三人ともただこの時間を目一杯に満喫していた。