夏祭りの翌日、館山基地格納庫。
その日、館山基地に存在する五機の英霊機と三機のF-15Jが滑走路に並ぶ。
本来の戦術姫隊は四機構成となるが、この館山は違った。
グラディエーターMk.IIを筆頭にキ-44II乙、He100D、橘花。そして少し離れた水路ではM.C.72Rが離水準備を始めていた。
先頭をF-15J三機が並び、その後方に英霊機が並ぶ。
そしてそれらの機体が離陸していくのを見ていく基地要員や周辺に住む一般人。不安そうに飛んでいく様を見ている彼らに英霊機の編隊は進路を急遽変更した。
そしてコックピットでそれぞれの機体の戦乙女達は敬礼し、それを見た基地にいた全員が大きく手を振って希望を持った目をしていた。
そして機体から白い煙幕を飛ばし、空に五本の線が広がっていた。下では街のいたるところから彼女達を応援する声が聞こえていた。
数時間後
入間基地
最前線基地として今回の作戦指揮を執るこの場所には多くの航空機が駐機していた。そしてそのすべてが戦乙女の駆る英霊機とそれらを守るシールド隊であった。
「軍の再編成が間に合ったのは、沖田空将補のおかげだな」
「即時撤退の判断が功を奏した。友軍救援と、殿を務めた部隊の救援もあった……」
管制塔の上から里見と同期である尾山・誠は眼下に広がる航空機の大群を見ながら話す。
「天塚・弥生と天照・陽奈、彼女らと共に奮闘した兵の賜物だったか……」
「前回から間を開けず、国内外からの全戦力をこの作戦に投入している」
眼下では出撃準備に合わせて機体を動かしていた。
「二度目の大攻勢。その敗北型立て直す余裕は無い」
「この戦いに負ければ…人類は敗北する」
「だが、前回の傷が癒えていないのはお互い様だ。
だろう?神よ」
そう言い、尾山は遠くに飛びえたつ富士山の山頂からここにいてもわかる程赤く細い
「始まるぞ。オーディン、お前の望んだ……
ラグナロクだ」
既に作戦は進んでいた。そして尾山は里見にある報告をする。
「それから里見、お前が頼んだ調査が終わった」
それを聞き、里見は眉一つ動かさず聞く。
「……結果は?」
「片方は分かった。だがもう片方は……」
「握りつぶされた…か」
すると尾山も表情一つ動かさず淡々と言う。
「いや、もっとまずい状況かもしれん」
「何?」
思わず里見は尾山の方を見てしまう。すると尾山はその時の経緯を話す。
「情報を調べていた時、どれだけ調べても何も出てこなかった。と言うより、調査中止の命令が降りた。それも、わざわざ誰にもバレない個人メールでだ」
「…上層部の圧力?」
しかし尾山は首を横に振る。
「いや、
「政府…じゃないな、とすると……」
思い当たる節はないと思うと尾山は一言、
「…宮内庁」
「……まさか」
しかし尾山の表情は動かない。それを見て里見も今度こそ本当の意味で凍りついた。
「まさか…そんな……」
驚愕する里見に尾山は現実を忘れたいと願望するかの如く遠くを見つめながら言う。
「里見。俺達は踏み入れてはならない領域に、土足で入り込んだかもしれん」
「……」
二人の間に風が過ぎる。遠くでジェット機の通過する音がよく聞こえていた。
「ーーそう、調べに入ったわけね」
基地の端、人が来ないのだろうか足元にはよく汚れが溜まっている薄暗い場所で一人の人物が電話をしていた。
その人物は電話越しで何やら指示を出していた。
「あくまでも現状維持、殺しは許さん」
そう言い残すと電話を切り、特徴的な向日葵色の目は暗闇の中でもやけによく見えていた。
基地の駐機場では自分の英霊機であるP-51Dを見ながら鈴原・くるみと石動・萌は話していた。
「くるみ、あまり気負いすぎないで……」
「うん、分かっている。でもね萌ちゃん……」
するとそんな二人の少女に声をかける人物達がいた。
「そう不安がるな。お嬢ちゃん達」
振り返ると、そこには三人の高齢パイロットが尾翼に肘を置いてポーズを取っていた。
「こんな時こそ、年寄りの出番よ」
「…お気持ちは嬉しいのですが、皆さんは退役した身では……?」
石動が苦笑気味に彼らに話しかける。
見た目も合わせて年を取っており、とても戦闘機パイロットなどと言う体に負荷のかかる仕事には就けない。
しかしそんな声は気にする素振りもなく彼らは自信満々に飛行服についている刺繍を指差す。
「ウィングマークがある限り、俺たちは生涯現役だ!」
「孫みたいな年頃の子供達が飛ぶんだ。落ち落ち隠居してられんよ」
「また死ぬかもしれない空を、戦友と飛べるのがこんなに嬉しいとはな!」
「俺も、自分が死ぬ日がこうも気分がいいとは思わなんだ」
そう言い、陽気に笑う老人パイロットに鈴原が切るように言う。
「死なせません」
「「ん?」」
「私たちは、生きる希望を背負って飛ぶ戦乙女です」
「それに、皆さんが忙しくなるのはこれから。戦いが終わった後もお力をお借りするんですから」
二人の言葉を聞き、老人パイロット達は大笑いした。
「はっはっはっは!なんてお嬢ちゃん達だ」
「神より怖えや」
「年寄りをまだこき使おうってのか?うちのカミさんといい勝負だな」
「しからば!神様に嫁と孫より怖いもんは無いって、教育してやるとするか!」
そう言い、老人パイロットは後ろに聳え立つ富士ピラーを指さしてそう言い放っていた。
そして作戦開始時刻が迫り、入間基地の管制塔にて里見は司令所に上がる。
オペレーターはいつものメンバーが座り、近くには知り合いも多かった。
「ふん、貧乏くじだって言ったんだよ」
するといつものオペレーター三人衆が言う。
「不謹慎」
「テンション下がる〜」
「どんなに嫌でもそこがあなたの仕事場。ここにいるのは、あなたの軍です」
そんな反応を見て、里見は呆れた表情を浮かべた。
「全く、可愛くなくなったもんだ」
すると彼女らからはケロッとした返答が返ってくる。
「鍛えられましたから」
「同じく」
「右に同じく〜」
三人がそれぞれの反応を示すと、里見は改めて聞く。
「準備は?」
「滞りなく、順調です」
報告を受け、里見はマイクを手に当てて口を開いた。
「諸君、作戦指揮官の里見だ。いやぁ、悪いが口下手でね。気の利いたことは言えないが、私から諸君に言えるのは一つ。敗北の時は今日で終わりにしよう」
その放送は外に大々的に報じられ、外にいた全員が聞いている。
『我々は勝利を求めてここへ戻ってきた。だから、勝利しに行こう。あの神様気取りのペテン師に我々の鬱憤を叩きつけてやれ。神々の滅んだ神話の、再現といこう』
そして作戦のためにA800ZMタイフォンに積み込み作業が行われ、その横で『おやじ吸うな!』と書かれた真下で整備班長がタバコを吸っていた。
「それが我々の望む、ラグナロクだ」
その演説を聞き、外にいた整備兵達は一斉に拳を上げて威勢を放った。
「里見さん、無理しちゃって」
「だが、指揮官の鼓舞としては一人前だ」
「だーよねー、やる気出るなぁ〜」
「相変わらず能天気な」
基地の中、待機中の陽奈以外の四名は作戦前に集結していた。
「アズちゃん、もしかして緊張している?」
「っ!」
どうやら図星だったようで変な声が漏れると、宮古が彼女の手を取って言う。
「ふふーん、大丈夫大丈夫」
「大丈夫」
宮古と園香に両手を握られ、それに応えるように駒込も握り返していた。
それを見てクラウディアも少し微笑んでいると一瞬で目の前が一気に変わった。
『いい光景だな、クラウディア』
後ろを振り向くと、そこにはオーディンが立っていた。
「この場所は……」
「故郷だよ。俺やお前の」
「あいにく馴染みのない場所だ」
風が吹き抜ける中、クラウディアは軽く睨みつけながら答える。
「だろうな、言ってみただけだ。だが…いいところだろ?」
「オーディン、あなたの故郷はすでに滅んでいる。あなたはとっくにわかっているはずだ。歌が残されていた。あれは、滅びとそこからの再生を……」
そこでオーディンが遮るように言う。
「大勢が死ぬことになるぞ。それとも、神様気取りのペテン師の言うことなんか信じられないか?」
「あなたたが矛を引けば、私たちが……」
「無理な話だ。戦死者を多く出すことが、俺の目的だからな。来たるラグナロクのために……」
「戦死者を、エインヘリャルを私の麾下に加えるのだ。僕は勝つぞ!俺はラグナロクに勝利する。そのために!!」
どこか狂気的に聞こえるその様子にクラウディアは感じる。
「交渉の余地はないのか…それならなぜ私の前に姿を見せた」
「君の答えを聞きにきた」
するとオーディンはクラウディアに手を差し伸べた。
「来なさい、クラウディア。俺の娘よ、お前だけは私の手を取ってくれる」
その瞬間、返ってきたのは刀を抜く音であった。
「あなたの手は取れない。私の父は一人、帰る場所も心に決めた。ここは神々の理想郷、すでに滅んだ夢の国だ!」
クラウディアはそう断言するとオーディンは笑った。
「クックックッ……よくぞ吠えた!神偉大さも分からぬ愚かな小娘。大いなる父に逆らう不届き者のワルキューレ」
オーディンはそんなクラウディアの反応ですら嫌がる事なく受け止める。
「愛おしい、僕の娘よ……ならば、その意図にを奪い。俺の館に閉じ込めるだけだ!!」
その瞬間、クラウディアの日本刀が彼の首を斬り落とさんと左肩に当たる。
そしてオーディンとクラウディアの顔が急接近した時、
『そこまでだ』
「「っ!?」」
その瞬間、オーディンを囲うように灼熱の炎がクラウディアを引き離す。その灼熱の炎はクラウディアも囲うが、その炎はとても暖かく感じた。
「なぜだ!なぜ貴様が邪魔をする!!」
オーディンがそう叫ぶとどこから聞こえているのか分からない声が響く。
『汝は我の子。故に、彼女を守る』
「違う!クラウディアは俺の娘だ!貴様の子ではない!」
しかし、炎はどんどん大きくなり、クラウディアとオーディンは引っ張られるように炎に包まれながら離れていく。
そして最後に、謎の声は私に語りかけた。
『富士に来なさい。そこで全てがわかる』
そう言うと、次に宮古の声が聞こえた。
「クラウ!」
「ん?」
クラウディアはそこで横を振り向くとそこでは宮古達が先ほどと変わらない様子で声をかけていた。
「頑張ろうね?」
「……ああ、もちろんだ」
クラウディアは園香の問いかけに頷いた。