ギャラルホルンが鳴り響き、出撃した館山基地のワルキューレは輸送機の中で作戦会議をしていた。一回出撃したはいいものの、敵は予想外にもセカンダリ・ピラーであったのだ。
「敵はクラゲ型ターシャリを率いる海没型セカンダリー・ピラー……過去のデータに同じ形状の生物は確認されていないわね」
「そうか……」
やけに詳しい。陽奈のいつもの気の抜けるような表情とは裏腹に頭は回るのだろう。駒込も彼女の情報にはすんなりと頷いていた。
「こいつの情報収集能力は信頼できる。間違えたことは一度もないしな」
「まぁ、ピラーは新型の個体ばっかだから過去と同じ個体例が出てくるのも稀ですけどね。ただまぁ、セカンダリであればヴァンドランデがありますのでまずは本体を引き摺り出さないと……」
そんな訳で、何かいい案はないかと模索し始めたが。ここで里見が一言、
『一本釣りでもするか?』
そこで駒込が何か閃いたようだ。さすがは誰もが認める天才。
「んで、作戦はガチンコ漁……と」
「それはなんだ?」
クラウディアが機体の搭乗前に陽奈に聞く。
「うーん、昔は良くしていたんだけど今は禁止されている漁だよ。大きな石をぶつけて、魚を気絶させたりして取るの」
「そうなのか……」
「それで、今から宮古の勇者砲を使って下にいるセカンダリを無反動砲の衝撃で誘き出す。それで外郭が壊れるとは到底思えないけど、浮き上がらせる分には問題ないでしょうね」
そう言い、格納庫に到着するとクラウディアは物珍しそうに陽奈の英霊機を見る。
「珍しいでしょう?」
「えぇ、まぁ……」
何せジェット機だ。初期の物とは言え、出せる速度も段違いだ。
「ただまぁ、エンジンが壊れやすかったから余っていたターボファンエンジンに換装したばかりだけどね」
「え?」
英霊機だぞ?そんな改造が加えられているのだろうか?
すると、そんな疑問に答えるように彼女は言う。
「里見基地司令がわざわざ取り寄せてくれたんだ。その時に機体も弄らせてもらったけどね」
そう言い、陽奈は自分の英霊機である橘花を見た。確かによく見ると、機首部分には通常の機関砲がなく、代わりに下方に出っ張ったような大きな穴が空いておりそこにはAー10サンダーボルトⅡを思わせるようなガトリング砲が搭載されていた。
エンジンと武装の換装をしたのかと驚いていると、後ろから飛行服を着た駒込が愚痴るように橘花を見て言う。
「この野郎、エンジンを換装したと思いきや翼にハードポイントを付けろだの、コックピットにラジカセ付けろだの、注文ばっかしやがるんだ」
「でも、全部聞いてくれるアズズは優しいねぇ〜」
「う、五月蝿い!!」
やや顔を赤くしながら彼女は英霊機であるHe100D-1に乗り込む。目標変更の指示などで館山沖を飛行する三機のFー15Jのパイロット達はすると駒込は無線機で話しかける。
『聞いて驚け!!この新顔、欧州では死神なんて呼ばれてたんだと!!』
駒込の無線に対して困惑の声が上がる。
『死神ってこの襲撃の事か?』
『転属初日に中ピラー。そりゃ不運だろうなぁ』
普通であれば、皆はここで気が沈むだろう。だが、此処の連中は馬鹿である事で有名だ。だから……
『ウチに来た死神は美人だ!よっぽど俺達は引きが良い!』
「「違いない!!」」
君の過去がどうであれ、ここは暖かく迎えてくれるだろう。
輸送機から既に他の面々は出て行った。最後に出撃するのは陽奈だ。
「出るよ」
彼女は耐Gスーツの飛行服に身を纏い、発進準備を行う。ジェット機と言う特性上、パイロットの失神防止の為に彼女だけは耐Gスーツを装備していた。
『了解、お気をつけて。姉御』
「姉御じゃねえってんだよ」
『はっはっはっ、そりゃキツイですよ』
軽い冗談を言いながら陽奈はエンジンを離陸速度まで加速させる。この前、アフターバーナー付きのターボファンエンジンに換装したばかりの改修型だ。何度か試験飛行を終え、問題ないと判断されたが実質的にこれが初の実戦だ。
「ふぅ……」
ドッキングしていたアームが外れ、陽奈の駆る橘花は飛翔する。空圧を後ろに押し出す轟音は異様な速度で海面スレスレを飛行するとその衝撃波で波が出来ていた。
『勇者砲、いきなりファイヤァァアッ!!』
無線で宮古が叫ぶと同時に翼下に懸下されているM20無反動砲を発射する。遠くで水柱が立ったのを確認した。
『遅いぞ!陽奈!今どこだ?!そろそろ来るぞ!』
「海面スレスレを飛行中。水柱が見えたからそろそろ着くよ」
そう言い、橘花は上昇を開始。そこから一気に降下し、上空より強襲を始める。
カチッ
操縦桿の赤いボタンを押し、機首のM61バルカン砲が火を吹く。毎分六千発の発射速度に耐えられる者など居らず、宮古達の後を追うピラーを撃破していく。
『遅い!』
「えぇ〜そんな叫ぶ事?」
駒込に怒鳴られ、陽奈は相変わらずやる気の無い声で答えると先ほど爆発した海面が泡立ち、そこから巨大な生物が姿を現した。
「うわっ、でか……」
『鯨みたい!!』
そこには金色の装甲に覆われた鯨を模した形のピラーがいた。
『このままだと陸に上がっちゃう』
『遅滞戦術じゃ無理だ』
『て事はこのまま作戦通り』
『どカーンとやっつけ……ってあ!?』
宮古はそこでやらかしたことに気付いた。
『どうした?!』
『勇者砲二発とも使っちゃった……』
『何やってんだ!!』
『そ、装填してくる』
宮古は慌てて無反動砲の装填のために一時帰還をする。
基本的にピラーの形は自然界に存在する生物や物を模しており、エイリアン見たいな様相の物は確認されていない。そして、その鯨は早速クラゲ型ターシャリ・ピラーを放出してきた。
「ったく、子分が多い様子で……!!」
『シールド隊!レッドの援護を!!』
『了解!まさかれた!』
宮古の機体は戦域から消えていく。
「で、うちらはどうする?」
『このまま敵を引きつけて数を減らす』
「『『『了解!』』』」
そうして各々ピラーを倒し始める。
『追尾!離れろ!』
「いちいち鬱陶しいねぇ……!!」
追尾してくるピラーに陽奈はチラリと確認をすると真上を飛ぶ。
「アズ、頼んだ」
『ったく、そっちの方が武装多いだろうが!!』
そう言いながら駒込は射撃を行う。
「……ここっ!」
上がりきった陽奈はそのままエンジンを一旦落とし、そのまま自由落下にも似た形でピラーの隙間を縫って海面に落下する。
そしてそのままエンジンを再起動し、海面スレスレを飛行。立ち上げた水飛沫でピラーの一群を消し飛ばした。
『流石は我らの姉御!』
『俺達に出来ない芸当を平然とやってのける!』
『そこに痺れる!憧れるぅ!!』
先ほどの輸送機、タイフォンの近くで護衛するシールド隊の三名はそんな事を口々に言い、無反動砲を装填中の宮古は焦ったく感じていた。
そして戦闘をしている内、陽奈は口角が上がりかける。
「ふふーん、調子出てきたんじゃない?」
戦闘中だと言うのに陽奈はコックピットのラジカセに電源を入れると、『In the mood』が流れだす。
『お!姉御が音楽を流し出したぜ』
『こりゃ、やる気を出したな』
『おい!戦闘中に音楽を流すな!!』
無線で駒込が怒鳴るも、陽奈は操縦桿を握る。
「♫〜!」カチッ
一瞬だけバルカン砲が火を吹き、一群が丸ごと吹き飛ぶ。
『今のは…っ!!』
通常ではありえない事だが、同じく飛行する園香が無線でクラウディアに事情を話す。
『陽奈ちゃん、調子が出てくるとああやって音楽を流すんです。そしたらすごく強いんですよ』
『そ、そうなのか……』
すると今度は駒込が大勢のピラーを連れていた。
『アノニューム、突っ込みすぎだ。私の真似はしなくていい!』
『真似じゃないし。それに……!!』
その瞬間、駒込の機体後部のハッチが開いた。
『ゾンダーゲレート!!』
そして放たれた無数のロケット弾がピラーの一群を一掃した。
「あれは……」
『アズちゃん…英霊機を改造しまくってていろんな装備をいっぱい付けてて……』
「英霊機を!?そんなことして……」
『結果は見ての通りだ!うちくらいの天才なら…ってわぁぁっ!?』
すると駒込はいきなりピラーに襲撃を受けた。
「助けに…『任せな』っ!」
言葉を遮るようにして陽奈の声が聞こえるとそのまま陽奈は橘花を駒込を追いかける集団に合わせ、撃発。放たれる二〇ミリ炸裂弾がピラーの一群を撃破した。
『園香。頼んだ』
『はいっ!』
すると、彼女は残った一群を丸々引きつけ、恐ろしい速度で上昇。エンジンを切って急下降をする。そして、クジラピラーの直上で旋回。スレスレを飛行し、曲がりきれなかったピラーはそのまま自爆する形でクジラピラーの背中に突っ込んでいた。
「なんて無茶な機動を……」
『ああ見えて、うちの中では一番ヤバいやつだからな。園香は』
『アズちゃん、聞こえているよ。……はぁ、怖かった』
『嘘つけ!』
駒込に園香はやや呆れた顔で話していると……。
『お待たせ〜!!』
『遅い!弾は?』
『込めてきた!』
『よし、なら後はヴァンドランデの位置が分かれば……』
「あそこだ」
クラウディアは背中の開いたピラーを見ながら呟く。
『わかるのか?』
「ああ」
『あの数じゃあ、そこの馬鹿だけじゃあ届かなねえな』
「それなら……」
そこで全員の声が合わさる。
『『『『「五人で抜く!」』』』』
「みんなお疲れ〜!!」
クジラピラーを倒し、作戦終了した彼女らは基地である館山に帰還する。
「おっ、ミコちゃん。また無茶したんだって?」
「へへ〜」
宮古は後で陽奈にどつかれる可能性を想定しつつもシールド隊の三人とハイタッチをする。
そして着陸した後、クラウディアは日の入りをする大海原を眺める。その雄大な景色に思わず言葉が漏れる。
「……綺麗だ」
すると、宮古は思い出したようで声を上げた。
「あっ!忘れてた!!」
すると、宮古はクラウディアを呼ぶ。名前を呼ばれた彼女はこちらを振り向く。風に髪が煽られ、その姿はになるほどだった。
そしてそんな彼女を見ながら館山基地の面々が言う。
「「「「館山基地へようこそ!!」」」」
盛大な挨拶を受け、クラウディアも少しだけ微笑みながら頷く。
「あぁ、クラウディア・ブラフォード。着任する」