トールが起き上がり、前回と同じく世界中にセカンダリピラーが出現する。
オーディン的に言えば、これらをどう凌ぐのかが気になるところではあった。しかし……
「……何?」
現れたピラーは爆発と共に撃破されていく。
「各国のプライマリピラーが活動を開始!世界中で戦闘が始まりました」
「付随して、国内のセカンダリも活性化。増援が出現します!」
「……前回と同じ状況。だが……」
今回は一味違う。
「国内のセカンダリとの戦闘開始!」
そしてそれら戦闘時の映像は世界会議場にも伝えられ、彼らの顔に泥を塗ったオーディンは世界中の歩調を合わせることとなっていた。
「いつまでも、やられっぱなしのままだと思うな。狂える神よ」
「全世界、全戦力、全人類がこの戦いに賭けた。見るがいい、人類の底力を」
「神々の黄昏……ラグナロクの時だ」
おそらく、世界で初めてとなる国連軍。人類全体が纏まって共通の敵に攻撃を行っていた。
「私も負けれいられないな」
クラウディア達は各地で奮戦する仲間に応えるべく一気にトールに向かって接近する。
「押し通る!」
オーディンの寵愛を受け、周辺のピラーを衝撃波で消し去り、道を作る。
「宮古!」
「勇者砲!ファイヤァァアアアッ!」
そして七五ミリ無反動砲が発射される。
発射された弾丸はそのまま真っ直ぐトールに飛翔し、そして……
トールの一歩手前で爆発した。
「外した?」
「いや、違う」
「防がれた!」
弾丸が迎撃された事を受け、宮古はその気配を感じて上を見る。
「黒い戦乙女……」
「スヴェルトワルキューレ……」
「……桜さん」
空を飛ぶ黒い英霊機を見て駒込は何処か不敵に口角が上がる。
「出てくる想定はしてた。何一つ計算以上じゃない。退屈な撃ち筋だ。何だ、神様ってのもうち以下か」
「そうだよ!アズとヒナは天才だもん!」
「この状況で言えるの、ずるい」
「だが、その通りだ」
そこでクラウディアはオーディンに宣言する。
「こんなものでは私たちの覚悟は折れないぞ!オーディン!!」
そしてその声は届いていたのだろう、オーディンは答える。
「だろうな、ならば……こうすれば折れぬ覚悟を踏み躙れるか!!」
するとオーディンはトールを動かし、持っている大槌ニョルニルを大きく振りかぶらせた。
「っ!総員!回避行動!」
その直後、トールの前に魔法陣が浮き上がり、大量の電力が集中する。
そして振りかぶり、魔法陣に大槌が当たった直後。魔法陣から例の極太レーザーが発射された。
そしてそのレーザーは開口部を抜け、外にまで広がっていった。
「司令部!」
『……大丈夫だ、攻撃は逸れた』
咄嗟に駒込が安否確認をすると、すぐに返事が返ってきた。
「なるほど、やはり
「当たり前だ。ウチと陽奈で計算したんだからな」
無線を盗聴していたのか、オーディンはそのまま宙に浮遊して待っていた。
「最前進に次ぐ最前進。神経質なまでの打ち手。実に見事だった。だが……」
その瞬間、トールの頭上に巨大な魔法陣が浮かび上がる。無数の雷光が彼女達を襲っていた。
「ここにあの女がいないのであれば、引き摺り出すまでだ……」
その瞬間、オーディンは再び指示を出す。
今まで貯めていた意志を持たぬ未知の生命体を呼び起こしていた。
「っ!!ピラーの反応、さらに増大!」
「世界中で新たな援軍が出現した模様!!」
「国内のセカンダリピラーさらに出現!」
「何?!」
司令部で世界規模でのピラーの援軍に里見は一瞬驚く。
「野郎、どこかに戦力を溜め込んでいたのか……」
「セカンダリ、なおも増幅中!」
「世界規模で戦闘が苛烈化しています!」
「っ……」
思わず兵力に里見ですら一瞬怖気付く。てっきり負傷しているのはお互い様かと思われたが……
「まさか、ここまで戦力を回復させていたとはね……」
この状況に、里見は普段は考えない負けを一瞬感じていた。
「ど、どどどうすれば?!」
「落ち着け!ピラーが出たところで、ウチらの目的は変わらない!」
状況の変化にクラウディア達も一瞬動揺する。外で起こる戦況悪化は目に見えていた。
「だが、一刻も早く事を済ませる必要がありそうだ」
「そうだね。今の私たちにできることは……」
園香やクラウディア達はそのまま視線の先に映る一人の影を見た。
その彼は待ち望んでいるようにその時を待っていた。
「滅びを恐れよ人類。
神の力に慄け、己が無力を知るが良い。
ラグナロクの時は近い!!」
自分に言い聞かせているようにも聞こえる何度も聞いた宣言はこの空間にはよく響いていた。
そして司令部では、さまざまな報告が上がっていた。
「富士ピラー内部に、オーディン出現!戦術姫隊とコンタクト!」
「トールハンマー、初撃被害軽微。ニョルニル、再充電開始」
「敵多数!このままじゃ……!!」
「増援のピラーとの交戦を開始!」
「欧州、北米、アジア、アフリカ……全空域で混戦状態になっています!」
司令部では混乱が広がっていた。ピラーの増援、オーディンとの接触に多数の堕ちたワルキューレ。
この最悪とも言える状況に里見は冷や汗をかいていた。
富士ピラーの内部ではオーディンは持っていたグングニルを背後に控えていた新たに作ったスレイプニルに突き刺し、一角獣を作っていた。
八本の脚を持つ軍馬はオーディンを乗せるとそのまま空を駆けて前進する。
これで全員が絶望し、大勢が死ぬ。それで彼女を引き摺り出せば、ことは済むと思った矢先……
「それがどうした」
「ん?」
「何度だって言うよ。それがどうした!!」
赤い機体に乗る一人の少女……六車・宮古は叫ぶ。
「アズがいる、ソノがいる、クラウがいる、ヒナもいる。みんなが、世界中が戦っている。謝るなら今のうちだよ!オーディン様!!」
その純粋でこんな暗い状況でも光り輝くその心にオーディンは嫌気がさす。
「謝るなら今のうちだと……?忌々しい娘だ。どうすればお前の心はへし折れる!」
「折れない!」
「諦めろ!」
「断固拒否!」
その瞬間、スレイプニルは高速で移動を始める。その動きを目で追う宮古。
「堕ちろおぉぉおおおっ!」
そしてスレイプニルが突撃した瞬間、
『よく言った。不屈の精神を持つ少女』
「え?!」
「なんだ!?」
どこから聞こえたかも分からぬ声が聞こえた瞬間、富士ピラーやその外で巨大な閃光が走る。
「うわぁっ!!」
「くっ……」
その閃光は太陽にも似た暖かさを持った光だった。
「なんだっ、この光は……」
その光の円は空中に無数に灯り、その様子は司令部からでも確認できた。
「これは……」
里見は無数に開いたその円の中から何かが飛び出していくのが見えた。
「あれは……」
すると本庄が叫ぶ。
「光の中から新たなピラー……っ!?システムに侵入者!」
「何っ?!」
レーダーの画面が次々と変わっていく事に驚きを隠せなかった。
「IFFが切り替わっていきます。システムを止められません!」
「電源を落とせないのか?」
「ダメです!外部からの接続を拒否されます!」
御厨が上がってくるデータを読み上げた。
「欧州、北米など世界中の地域でも同様の現象発生!」
「世界規模で起こっているのか……」
里見は今起こっている不思議な現象にただただ首を傾げるだけだった。
すると、この司令部にレシプロ機の接近する音が聞こえた。
「なんだ……?」
里見が接近してくる機体を双眼鏡を使って覗き込んだ。
「あれは……」
その機体は脚を下ろして機体を左右に揺らしてバンクを振っていた。旧日本軍では敵味方の識別の際によく行われていたロックウィングだ。
「ロックウィング?味方だと言うのか?」
「なんですか?あれは……」
そしてその機体、零式艦上戦闘機はそのまま管制塔の真横を通り過ぎていくと、その時胴体に特徴的なマークを見た。
「あのマーク……まさか!!」
すると本庄が報告をあげる。
「司令!あの光の中から現れた航空機がピラーに攻撃を加えていると報告が!」
「ってことはあの機体は……」
里見は胴体に描かれていた
同時刻
欧州戦線 モンブランピラー戦域
「あれは……」
欧州の空を飛ぶシールド隊の一人がピラーに攻撃を加えている複数の機体を見る。
それは航空機と呼ぶにはあまりにも古い、
「レッドバロンだ……」
三葉機と言う独特なフォルムのフォッカーDr.I、白斑の鉄十字のマーク、そして何より特徴的な赤色の機体。
「間違いない。あれはマンフレート・フォン・リヒトホーフェンの機体だ」
すると仲間から無線が聞こえる。
「おい!あれを見ろ!」
「ん?」
視線の先には
「あのカラーリング……間違いねえエーリヒ・ハルトマンの機体だ!」
「馬鹿言うな!もう故人だぞ」
「しかし……」
そして眼下では無数のピラーをものともせず卓越した操縦技術で簡単に落としていた。
「あの動きは間違いない!彼の戦法と全く同じだ!」
「そんなまさか……」
パイロットは目の前で起こっている不思議な光景にただただ呆然となっていた。
北米戦線 デナリピラー戦域
「すげぇ……」
「マジかよ」
そこでもパイロット達は驚愕に包まれていた。その理由は簡単で彼らの横を飛ぶ二機のP-38にあった。
片方には機首に白黒の引き伸ばされた女性の写真が、もう片方には『PUDGY』の文字と撃墜マークが貼られていた。
そしてそれを見ていたパイロットは断言した。
「間違いねえ。この機体はリチャード・ボングとトーマス・マクガイアだ!」
第二次対戦中のアメリカ軍のエース・パイロットの二人が横に並んでハンドサインを送っていた。中のパイロットは顔全体を覆うマスクに囲まれて顔まで確認はできなかった。
「攻撃をするから援護をだとよ」
「これは夢なのか?」
「どっちでもいい。これより援護する!」
そしてハンドサインを返すと、P-38を追ってジェット戦闘機は急降下を開始した。
下でも同様に英霊機の所属する国連軍のマークではなく、巨大な星のマークがあしらわれた戦闘機が戦闘を続けていた。
「世界各地で、あの円環から現れた機体がピラーと交戦中」
「確認されている機体は全て、過去の戦争でエース・パイロットとして名を馳せた人物の搭乗機、戦闘方法のともに酷似しています」
司令室で本庄と和浦が報告を入れると、里見は司令室の席に深く座って状況の整理をした。
「それはつまり……昔の撃墜王が助けに来てくれたって事か?」
「現状のデータを集めると…そうなります」
報告と戦況を聞き、里見は遠くで戦闘を続ける機首部分の塗装がはげているような零戦を見た。
「あの機体は?」
「外観の特徴と一致するのは……西沢広義です」
「零戦虎徹の次はラバウルの魔王ですか」
里見は世界中で起こっている異常事態を把握し終え、とりあえずの判断を下す。
「全員、光の中から出てきた戦闘機は味方だ。間違っても撃ち落とさないように」
その命令に尾山が里見を見た。
「いいのか?」
「現にピラーに攻撃しているんだ。こっちの戦術システムはすでに書き換えられ半分機能不全、おまけに戦況は最悪になるところだった」
現れた機体の戦法はどれも記録に残っているのと同じ戦法が多く、中に乗っているパイロットはおそらく本物の英霊。かつてのエース・パイロットだ。そして彼らとのコンタクトが取れている事も把握している。そして、向こうから共闘の申し込みがあったと聞いている。
「ここは賭けて見るしかあるまい」
そう言うと、桜色に見える零戦から空中で飛散するクラスター爆弾が落とされ、眼下のセカンダリピラーが一掃されているのを確認した。