第二次ラグナロク作戦の成功の方を受け、国連軍統合作戦司令本部では安堵と喜びの声で埋め尽くされていた時にその現場である入間基地から日本大使を通じて報告が上がった。
「新たな神の出現だと?」
その話が上がると、まず出てきたのは疑問だった。
「神が?冗談じゃなくて?」
「何かの出鱈目じゃないのか?」
そりゃそうだ。オーディンと言う神を倒した現在、神はこの世に存在しない。そんな状況下での神を名乗る者の出現だ。
実際、オーディンの出現以降。神を自称する者はいくつか例があった。しかしそれらは全てしょっ引かれることが多かった。
「はいしかし……その者は天照大御神と名乗っていると…」
「アマテラス?」
「日本神話の神です。太陽神であり、日本の皇族の先祖であると……」
すぐさま情報が周り、映像が映し出される。
「……」
「その者とコンタクトは取れるか?」
「よろしいので?」
アメリカ大使の意見にイギリス大使が聞き返す。
「あのミスター里見の報告だ。信憑性は高いだろう」
「しかし……」
すると日本大使からさらに続報が流れる。
「その人物が通信を要望してきています」
「繋げ」
「メインモニターに映します」
すでに全員が座っており、会議場のモニターには基地からの映像だろう。オンライン通信で背景には基地の応接間の映る映像に一人の豪勢な巫女服を着る女性が座っていた。
『やぁやぁ、みなさん。せっかく喜んでいた席を乱してすみませんね』
「君が天照大御神かね?」
アメリカ大使が聞くと、画面越しに女性は軽く頷いた。
『ええ、巷ではそんなふうに呼ばれている存在ですよ』
「君が神である証明は?」
中国大使が聞くと、その女性は少し考えた後に彼らに提案する。
『うーん、そうですね……百聞は一見にしかずと言いますし、今からみなさんのところに行くとしますか』
「何…?」
『あぁ、ご心配なく。あのロリコ…ゲフン、あの土足でいきなり現れた神様と違って私は正面玄関から行きますから』
「あ、おい君!」
『私も、直接皆さんにお会いしてお話ししたいことがあるので。では…』
そう言い残すと彼女はオンライン通信を切ってそのままパソコンを閉じた。
それを見ていたイギリス大使は呆れた様子で答える。
「全く、神とやらは自分勝手な者ばかりなのですか?」
特大ブーメランだぞと誰かが突っ込みそうな発言だった。すると会議室の窓を開けて一人の兵が報告をしにきた。
「ほ、報告します!入り口いきなり人が…!!」
「「「「「っ!?」」」」」
報告を聞き、大使は何かの偶然かと思ったが、次ぐ報告に全員が驚愕した。
「その人物は『大使と直接話がしたい』と……」
「「「「「……」」」」」
この一瞬で日本からアメリカに飛んできた事に彼らはとにかく疑いをかけていた。
「ここは様子見の方がいいのでは?」
「そうだ、何かしら仕掛けに来るかもしれんぞ」
彼らは口ぶちにそう言い、外にいる人を入れるのを拒んでいた。だが…
「通せ」
アメリカの大使が一喝すると、その人物を通す理由を話した。
「彼女はオーディンの事を知っていた。と言うことは、我々の思惑には気づいていると言うことだ。何かしたことを起こした場合不利になるのは向こう側だ」
「それは……」
「異論はないな?」
アメリカ大使の意見に誰も反論はしなかった。かくして、この会場にその人物は入れられる事となった。
少しして会議場の扉が開き、そこから二人の軍人に挟まれる形で一人の女性が現れた。
動きにくい特徴的な巫女服に髪飾りをつけ、何よりも見た目相応の威厳というものがあった。
銃を持った兵から警戒の目で見られながらその女性は会議室にいる各大使に厳しい意思線を向けられながら挨拶をする。
「いやはや、ここまで通していただき感謝いたします」
女性はそう答えるとそのまま会議室のモニターの前に立ち、まずは自己紹介をした。
「どうも、私。天照大御神と申します」
軽く自己紹介を終えると、変わらぬ視線に彼女は半分納得した表情で続ける。
「まぁ、みなさんがそう思うのも仕方ありませんね。あの馬鹿……オーディンがしでかした事を思えば……」
「君は、大神オーディンを知っているようだね?」
「ええ、何せ目の敵にしてきた小童ですから」
苛立ちを混ぜた様子でアメリカ大使の質問に答えると、さらに大使は続けて彼女に話しかける。
「あなたがあの短時間でここにきた事実から見て、どうやら本物のようで……」
「あら、案外信用してくれるのですね」
「それ以外、どう説明をしろと?」
ついでに日本から彼女が目の前でいなくなったという通報もあった。これで、彼女が普通の人ではない事を示しているようなものだった。
「それで、あなたはどんな目的でここにきたのですか?」
すると今度はイギリス大使が彼女に問いかける。
「簡単な話です。あなた方にピラーの情報をお渡しに来ました」
そう言うと、閣僚達全員がどよめく。彼女が神であることは事実。そして、そんな神から齎されるピラーに関する情報。誰もが固唾を飲む中、イギリス大使は続ける。
「あなたの情報を信用しろと?」
「そこは各自の判断にお任せします」
そう言うと彼女はメモリーを画面を切り替える報告官に投げ渡す。
「情報はその中にあります。無視するも使うも、全てはあなた方の判断だ」
そして画面に映し出されたデータを見て大使達はそのデータの成否を問わずその情報量に驚いた。
「これは……」
「今までに観測されてきたピラー。そして彼らピラーの生態系に関する情報です」
そう答えると、天照は大使達を見て追加で情報を伝える。
「あなた方には共犯者となって頂きたく存じます」
「共犯者だと?」
その疑問に彼女は頷く。
「ええ、そうです」
「今更、神の言う事を信じろと?」
前回、オーディンに煮湯を飲まされた彼らにとって神を信用すると言う行為に懸念があった。
しかし、そんな言葉に臆する様子はなく彼女は淡々と続ける。
「みなさんもご承知の通り、ピラーは世界中に存在する。そしてそれら撃破のためには今まで多くの命が散る事となった」
忌々しげにその時の経験を思い返す大使達に彼女はつげる。
「ですが、そんなピラーの数を減らせる可能性があれば。美味しい話だと思いませんか?」
そんな、甘美な誘惑にも聞こえる彼女の話に誰もがまず訝しんだ。
散々神に煮湯を飲まされた彼らはもはや部外者の意見を聞こうとは思っていなかった。
「ちなみに」
そんな中、アメリカ大使は彼女を見て問いかけた。
「その情報は事前に聞かせてはくれないのかい?」
その問いに彼女は答える。
「別に構いませんが……真実を知った時、
あなた方は殺し合うことになる可能性がありますよ?」
そんな脅しのような意見に彼らは一瞬ためらった。これは本気の目だ、今は一致団結しているこの関係が一瞬で崩壊する爆弾である事を彼女は示していた。
「あなた方は常に何かの疑心に駆られている。それ故に、何時何処で。この中の誰かが敵になる可能性のある爆弾を抱えている」
今はこうして作戦の成功で喜び合い、人類共通の敵としてピラーという存在がいるが、それらがいなくなった後の世界はわからなかった。
「そうなる可能性を秘めていると言うことに留意してお聞き願いたく」
彼女は淡々と答え、大使達の反応を伺っていた。
「ふぅ〜、終わった終わったぁ〜」
撤収の進む入間基地の応接室で陽奈はぐったりとソファーで横になっていた。彼女は『働いたら負け』と書かれたTシャツを着ていた。
すると同じ部屋にいた里見があきれた様子で彼女に話しかける。
「全く、おまえさんのおかげで俺はゆっくり休めやしないよ」
「いいじゃないか。お前さんは今まで忙しく働いてこなかったんだ」
「ったく、この鬼女神め」
そう答えると、里見はそんな彼女に聞く。
「おまえさんが帰ってきた時、上は随分と忙しくなったらしいじゃないか。
何やらかしたんだ?」
「何かしでかす事前提かい?」
「おまえさんの場合、よくやるだろう?」
前例がある以上、陽奈も否定することはなかった。里見の問いに彼女は少し鼻で笑うと話した。
「ふっ、ちょっとピラーに関する情報を渡しただけさ」
「おぉ、そいつは核爆弾並みの威力がありそうだ」
少なくとも初めは目の敵のように見ていた姿勢が、それどころでは無くなるくらいのものだ。一体どんな情報を渡したのやら……。
少なくとも深く追求はしたくないと思いながら書類をまとめて席を経とうとした時、
「あぁ、司令」
「何かね?」
陽奈は里見にある人物達を呼んでほしいと頼んでいた。
三十分後
基地の屋上に四人が上がってきた。外はすでに夕方で、夕陽がよく映えていた。一部部隊は撤収を開始し、館山の飛行隊は明日に帰投する手筈となっていた。
「あの〜」
「俺たち」
「なんで」
「呼ばれたんすか?」
呼ばれたのは園香ととある戦乙女のシールド隊をしていた三人衆であった。そんな彼らに里見は後ろを指差しながら言った。
「彼女が、君たちにある話をしたいってさ」
「「「「ん?」」」」
そうして里見の後ろ、屋上の柵に寄りかかってキセルを吸っている陽奈を見た。
「あっ!ヒナ……天照様!」
慌てて言い直した園香に彼女は少し笑って答える。
「言い直さなくていい。堅苦しいのは皇族だけで十分だ」
そう言うと、彼女はキセルから灰を軽く落とし、一歩柵から離れてから言う。
「司令も含め、君たちに来てもらったのは言うまでもない
君たちに会いたがってる人がいる」
「「「「「?」」」」」
すると彼女は目を閉じて言った。
「もう出てきてもいいわよ」
そう言うと、彼女の後ろから一人の人影が現れあきれた様子で答える。
「あんたも大概なペテン師だよ。天照さん」
「…え?」
その声を聞き、園香や里見。そして、天塚・弥生のシールド隊だった三人衆は信じられないと言った表情を浮かべた。
「ま、まさか……」
「よぅ、アンタら。無事に生きとったさね」
彼女の背中からいきなり現れた彼女、天塚・弥生は陽気に答えた。彼女の姿を見て里見は全てを察した。
「なるほど、俺たちをここに呼んだのは……」
「そう。彼女に合わせるためさ」
「全く、私が
「ご愁傷さん」
陽奈はそう言うと、里見が聞いてきた。
「あれって?」
「この人、今じゃ珍しい術が効かない体質の人間なんですよ」
「術?」
「この鬼女神が使っている欺瞞情報。普通そこには適当な住所が浮かび上がってまずバレない所を、私は見破っちまったのさ」
「まぁ、いつの時代にもいる例外ってやつさ」
陽奈は少し笑って答えた。すると天塚はやや嫌味を込めて言う。
「まぁ、このおかげで私は生きてこれたんださね」
すると園香がそんな天塚を見て嬉しそうに近寄った。
「本当にお姉ちゃんなの?」
「そうじゃなかったら私は誰なんだい?」
そう答えると、園香は目元に薄く涙を浮かべて天塚に近づいた。
「お姉ちゃん、私。頑張ったんだよ」
「あぁ、おまえが富士ピラーで桜を堕としてくれたのだろう?」
「え?見ていたの?」
園香は驚きで首を傾げると陽奈を指差して答える。
「そこにいる鬼女神に言われて、中で戦闘機に乗っていたのさね」
「鬼女神とは失敬な」
陽奈が不満げに答えると、園香は目の前にいる天塚に抱きついていた。
「今度は泣かずにやれたじゃないさね」
「はい……」
見ていたからこそ言える二人の会話に、他の五人も微笑ましく見ていた。
「自慢の妹だよ」
「私も、自慢の姉です」
そう言うと、園香はさらに天塚に近づいて抱きついていた。