国会で議員や記者達を黙らせて愉快な陽奈は館山基地の食堂に現れる。
「ぬおっ!?」
「よう、遊びに来た」
いきなり現れた彼女に駒込は心底驚いた様子を見せると、直後に陽奈を指差しながら叫んだ。
「ばっ、化け者だあっ!?!?」
「うっさいわ馬鹿!」ゴスッ
「ぎゃあっ!?」
思わず陽奈は駒込の脳天に拳をぶつけると駒込は汚い悲鳴をあげた後に蹲っていた。
「うぅぅぅうう〜……」
「うぉぉおおおっ!陽奈様の登場だ!!」
「「うぉぉぉおおっ!!万歳っ!!」」
殴られた部分を覆ってうずくまる駒込とは反対に歓喜狂乱の馬鹿三人。
「我らのアイドル、陽奈!」
「俺達の救世主、陽奈!」
「俺達の命の恩人、陽奈!」
「「「さあどうぞ!思う存分俺達を踏んでください!」」」
そして馬鹿三人はいつもの挨拶を陽奈にすると彼女は宮古と園香に挨拶していた。
「皆元気なようでね」
「うん!」
「二週間だけどね」
馬鹿三人をよそに挨拶をする二人はそこで宮古が聞く。
「大丈夫なの?このあと仕事とかは……」
「いやいや、三時間ほど時間あるから無問題。もともと記者会見があったらしいけどキャンセルしたし」
「まあ、あの映像を見たらね」
大いに納得する園香、あの衝撃的な国会中継の映像を見てまた合おうと思わないだろう。本能的に見てはならないものを見ているような感覚だ。
事実、事前に『見るな』と叫んでいた神道学者や神職者、霊媒師などは先の国会中継を受けて再評価されていた。
「インパクトあったやろ?」
「うん…寧ろありすぎたくらい……」
と言うか不気味すぎて駒込が倒れたと話すと陽奈はケタケタ笑っていた。
「いい薬だな」
「飛んだ毒薬だわ!何なんだあれは!?」
「ん?馬鹿共によく効くお薬」
陽奈はそう言うとちょうど食堂に里見が入ってきた。
「お前ら、そろそろ……って、陽奈か」
「よう、遊びに来た」
「ったく、俺の胃に風穴が空くよ」
「はっはっはっ、胃薬調合してやろうか?」
少なくとも里見はあの日以降ひっきりなしに連絡が来ており、記者の対応で激務となっていた。
「必要になったら頼むよ」
「んー、了解」
時間を見て里見は陽奈に聞く。
「陽奈、このあと時間あるか?」
「ええ、三時間ほどならね。そのあと宮城で仕事があるから」
「そうか」
里見は宮城という古い言い方や何より宮城での仕事という滅多に聞かない話に苦笑する。
「さすがは神様だ」
「あら其れ程でも無いわよ?」
そう言い紺色セーラー服姿の彼女を見て駒込が言う。
「でも見た目二十歳の女がセーラー服はキツいし…おまけに実年齢不祥……」
「あ"?」
軽く青筋を立てて駒込を見る。
「お前、また殴られたいんか?」
「ヒエッ、ナンデモナイデス」
駒込はトラウマ級の陽奈の拳骨に軽く怯えていると彼女は腕をそっと下ろした後に食堂を出て行く。
「んじゃ、里見。話をしようか」
「ああ、司令室に来てくれ」
そう言うと二人は食堂を後にしていた。
そして司令室に入ったやいなや里見は軽く愚痴をこぼす。
「やれやれ、テレビで随分暴れたようじゃないか」
「ふんっ、阿呆どもに神の偉大さを教育しただけよ」
「教育?おどしの間違いだろう」
「まあ、否定はせん」
ソファに座って煎餅を齧りながら陽奈は話す。
「妾が表に出た事で、妾の威を借りて叩くに脅しに使おうとしよったからなあの首相は」
「……」
陽奈の言葉にさとみは納得半分驚き半分で聞いていた。現人神を外交手段の一つとして活用しようと考えるのはある意味で自明と言うべきなのだろう。ただ不敬と思う感情が生まれるのを除けば……。
「神の威を借る人だな、何と無精な輩か」
「それは大変だったな」
「まあ、そんな奴ら。オーディンの責任を取らせようとした馬鹿を黙らせる為に態々国会に赴いたわけだが……」
そこで態々政の中心の国会に向かった理由を話すと彼女は心底呆れた様子で聞いた。
「今の奴ら、骨無ししかおらんのか?」
「……まあ…君がそう言うのなら、そうなのだろうな」
ピラーと言う未知の生命体との戦いで一度崩壊しかけた政府を建て直した名政治家だと言うのに陽奈からすれば骨無しという辛口、逆に聞きたいものだ。陽奈の目に叶う政治家というのが。
「国会で君が暴れたおかげで都内の病院はてんてこ舞いだよ」
「当たり前だ。本来、この国の神というのは預言者でも奇跡を扱うものでもないからな」
そう陽奈は答えると里見は苦笑しながら答える。
「宗教学のお偉いさんが言っていたな。神道の神は祟られるから祀ると」
「左様、西洋の宗教と違い。神道の神は崇めるものなのだ。あのロリコンとも違う話だ」
ロリコンがオーディンのことであると里見は何となく感じる。神を倒した実績のある人類は今後もピラーを倒すべく息づいていた。
「そこで俺がら気になったことがあるんだが……」
そこて先の戦いの立役者は日本の太陽神に問いかける。
「オーディンは本当に死んだのか?」
「……」
その問いに陽奈は里見を見る。
「どう言うことだい?」
「そのままの意味だ。俺や一部の人間はオーディンがまだ何処かに居るのでは無いかと考えている」
「その根拠は?」
里見は友人と建てたある仮説を話す。
「オーディンなき今もこの世界にはピラーが存在している。これだけで十分だろう?」
「ふむ……成程」
そこで陽奈はすこし間を置いた後に里見にいう。
「里見、ピラーとはオーディンが生み出した怪物と思っているのだろう?」
「ああ、そうだな」
「ではその前提が崩れるとしたら、汝等はどう思う?」
「……は?」
そこで里見は思わず驚いた声を漏らしてしまっていた。
結局、里見との会談で時間を使ってしまった陽奈は館山の滑走路を歩く。
普段から民間人がひっきりなしに出入りする我が基地であるが、一人の戦乙女の影響で何処かに誰かの目があるような状態だ。
「……」
そこでキセルを取り出して指先から火を出してそのまま一服をする。
「そんな格好で煙草とはいいご身分だ」
「おお、班長」
現れた整備班長、彼も片手に紙タバコを持っていた。
「火、あるか?」
「はいよ」
そこで指先からガスバーナーのような炎を出すと班長は言う。
「はっ、神様ってのは便利なもん持っているな」
「ふふっ、マッチ要らずですよ」
そこで火をもらった班長はそのまま煙草を吸うと徐に班長は語る。
「ったく、国会で大暴れしやがって。お陰でうちの若い奴が倒れたぞ」
「ふむ、それは悪いことをした」
「何、元々神様は見ちゃあいけねえって教わった身だ。あいつらの自己責任よ」
班長はそう語ると海を見ながら呟く。
「だがまさか、神様が人の真似事をしているとは思わなかったがな」
「はっ、それはそうだな……私も初めの頃は興味も無かった」
そう話すと班長はそんな陽奈に話す。
「なら何でお前さん、戦乙女なんぞになった?」
「……言うなら趣味、かなぁ…」
そう答えると班長は面白げにする。
「趣味で命かける仕事とは、なんて命知らずだ」
「あたしに命はあって無いようなもんさ」
「神様ってのは羨ましいもんだ。ええ?」
「ああ、こうして煙草を吸っても体に害はないからな」
そう言い、彼女は大きく息を吐いて煙を出す。
「羨ましい、カミさんに怒られないってのはな」
「おやっさん、カミさんいたの?」
「失礼な奴だ、俺だって嫁の一つくらい貰っとるわ」
班長とそんな話をしていると陽奈は時計を見た。
「あら、もうこんな時間か……」
「なんだ、仕事か?」
「ええ、可愛い子孫と夕ご飯よ」
「そりゃあめでてぇな」
陽奈の血を持つ、世界で最も高価な血筋の日本の王族。
天照という神が現れたことでより一層その格は上がることとなった。
「んじゃ、基地のみんなによろしく言ってくれ」
「馬鹿言うな。どうせ戻ってくるんだろう?」
少し笑って班長は聞くと、陽奈も少し笑みを浮かべてそのまま滑走路から消えていた。
その頃、基地の司令室では里見は軽く頭を抱えていた。
「はぁ……」
防衛省に上げる報告書にその一文を記載しようかどうか悩んでいた。
「……」
おそらく国際会議で彼女が落とした爆弾と同じ内容の話だろう。しかし、確かに下手に公表したら大混乱間違いなしだ。
「下手に聞くんじゃなかった……」
里見は打ち込んだ一文を消すと基地の滑走路を眺めていた。