「今ここで貴様を殺せないのが非常に残念だよ。オーディン」
「君も物騒な事を言うね」
「当たり前だ」
ここは映画館にも似た小部屋で一人の少女と青い髪をもつ眼帯をつけた少年は互いにコントローラーを持って物騒な内容を話す。やっているのは格闘ゲームだが、状況は少女の方が優勢だ。
「依にもよって我の子供達に手を出しよって」
「君にそう言われるのは心外だ。これは既に決まったことではないか」
そう話すオーディンに少女はそこに怒気を含ませて答える。
「戯けが。妾の領地に手を出すなと勧告したはずだが?」
「そうだったかな?」
「……ロリコン」
その一言でオーディンは火がついた。
「お?僕とやる気かい?」
「上等。かかってくると良い小童」
そう言うと、目の前の画面に『GAME SET』と浮かび、一戦目の勝者は少女となった。試合後、結果を表す画面を見ながら少女は半分呆れた様子で言う。
「しかし、貴様の捧げた対価に関しては大馬鹿と言うべきだろう」
「そうかい?結果的に僕の提案した計画は上手くいっている。そしてその恩恵は君も受けているはずだが……?」
オーディンはそう聞くと、少女はキャラクター選択画面で新たなキャラを選びながら答える。
「私は別にどちらでも良かった。元より私は君の様な緊急措置を取る必要がなかったからな」
「はぁ……つくづく君と君の子供達が羨ましいよ」
「少なくとも過去の敗北を認められず、洗いざらい流した貴様の言う台詞ではないな」
そう答えると二戦目が始まり、二人はコントローラーを動かす。
「確かに自分は過去を流した。しかし、これは我々を思っての行動だ。誤解しないで頂こう」
「誤解?貴様の魂胆はそんな自愛に満ち溢れた物ではないだろう?」
どこか鼻で笑うように言う。
「相変わらず血の気の多い方だ。さすがは暴れん坊の弟に警戒しすぎて弓矢を向けただけはある」
するとその少女は皮肉たっぷりに返す。
「あら悪いわね、血の気の多い人で。戦争と死者の神様」
「言い方きついなぁ……」
そう言うと、二戦目はオーディンが勝った。最終ラウンドのキャラクター選択に合わせていると少女は言う。
「そう言えばうちの所に来た君のスレイプニルを見たよ。やっぱあんたは悪いやつだねぇ」
「あの娘を馬と同じ様に見るな」
ああ言えばこう言うという様に彼女は煽る様に言う。
「おやおや、随分と沸点が低いご様子で。やっぱり愛孫だからかしら?」
「……」
少女の余裕な表情にオーディンは無性に腹が立ってしまいそうになる。これだから此奴は……。
最終ラウンドが始まり、それぞれ得意なキャラクターで格闘技を繰り出す。
「まぁ、私も半分お目付役だ。向こうの判断次第では貴様の運命も大きく変わるやもしれんぞ?」
「それはどうだか……」
すると少女は淡々と現状を話し出す。
「何せ余りにも人が死にすぎた。幾ら信仰心を増幅させるためとは言え、それらを育む為の下地が消えれば本末転倒も良い所。
知っておるか?既に世界人口の約一割近くがこの戦いで死亡している。これ以上被害が拡大するのであれば、
「……」
オーディンは少し黙ってしまうとそこで少女は言う。
「まぁ、
「ほぅ、君が動くのかい。そりゃあ大変だ」
からりと答え、葡萄酒を飲むオーディンはコントローラーを触る。最終ラウンド、どちらもほぼ同じ体力を残していた。そんな状況下でオーディンは問いかける。
「君のレッドラインは何処までかね?」
その問いに少女はコントローラーを操作しながら答える。その力は少し力んでいた。
「貴様が私の子供達に手を出した時だ」
そう言うと、陽奈の最後のカウンターを喰らってオーディンは最終ラウンドに負け。ゲーム自体は少女の勝利となった。少女の太陽の様に明るい色をした瞳は怒りを孕んでいた。
クラウディアを歓迎した翌日。陽奈の姿は東京湾洋上にあった。
「そこのSHー60。聞こえているかい?」
『あ、姉御っ!!』
哨戒ヘリと並走し、橘花に乗る陽奈はハンドサインと同時に無線で呼びかける。エンジン換装後の試験飛行だが、意外にも功を奏したようだ。
「私がエスコートしてあげる。しっかり付いてきなさいよ」
『了解っす!姉御!』
そう言うと、遠くに浮かぶ海上に浮かぶ島とそこに居る一体の巨大なピラーを確認する。
「あれが今回のピラーね……」
『もう少し接近します』
「了解、援護するわ」
そう言い、ヘリと並走して近づくと基地からの無線が入る。
『管制塔よりサンライズ。基地に帰投してください』
「今それは難しいわね。」
『何ですって?!ちょっと!!』
その瞬間、ヘリのパイロットから驚きの声が上がる。
『お、おい!あれを見ろ!!』
「っ!!」
その光景を目にし、陽奈は冷や汗と怒りが沸々と湧き上がる。
「逃げ遅れた民間人だ。皆ピラーの影響で倒れている!!」
『ピラーの影響だ。クソ……早く倒さないと民間人の命が危ない!』
映像にも映ったのだろう基地無線の奥からも動揺の声が聞こえる。
ピラーはオーディンの加護を受けた戦乙女は多少の間は問題ないが、何も施しを受けていない民間人であれば危険度は増す。
『司令、施設への着陸許可を!少しでも民間人を!!』
『ダメだ!許可できない。今はまだ「ピラー」の出方が不明だ!』
『しかし……』
そこで陽奈の冷徹な声が響く。
「ミイラ取りがミイラになってどうすんだい。接近して撃ち落とされる気か?」
『っ……!!』
歯噛みするヘリのパイロットに陽奈は言う。
「お前達は離れていろ」
『な、何をする気です!?姉御!』
「接近して内部の詳しい状況を確認する。離れていろ!この空域にいればお前達はお荷物だ!」
『くっ…了解……』
そう言うと陽奈は推力を上昇させ、海ほたるに発生したピラーの確認を行う。
「これだけ接近しても反応なしか……」
『サンライズ、聞こえていますか?』
「ええ、バッチリね」
『すぐにそこから離れて下さい。情報は全て確認しました』
「了解…と言いたかったのですが……」
陽奈はセカンダリ・ピラーから出てくる溶岩のような見た目のターシャリ・ピラーを確認しながら言う。
「生憎とお客さんの登場みたいです」
そう言うと射撃スイッチを押し、出現したターシャリと交戦を始める。その最中、ピラーの周囲を薄く覆っている膜に射撃を行うが……。
「ちっ、弾丸も貫通しないか……」
弾丸は水と思われる障壁に阻まれ、なおかつターシャリ・ピラーも見た目通り銃弾が当たった瞬間に蒸発してしまった。どんだけの温度なんだよ!!
『陽奈、撤退はできるか?』
すると無線で里見が聞いてくる。
「問題ありません。ただし、敵は……」
『あぁ、映像はこちらでも君の機体のガンカメラから確認している。そのための装備も準備してある』
「……了解」
ガンカメラ?そんな物ここにあったかと疑問に感じ、そしてそのまま帰投しようとした矢先、里見は付け加えるように言う。
『ああ、あとそう。……意外と陽奈って歌上手いんだね。知らなかったよ』
「っ!!//」
確信した。
『帰ったらカラオケ大会でもしようかね』
「結構です」
そう即答すると陽奈はピラーを引き連れて館山に向かう。
「ちっ、意外と数が多いな……」
陽奈は後ろを追跡してくるピラーを確認する。そして速度をぐんぐん上げて引き離そうとすると、
『ヒナヒナ〜!』
『命令無視をすんなグウタラ!!』
『サンライズ、無事か?』
『ヒナさ〜ん!助けに来ました〜』
万事休すと言ったところか。ちょうど真反対から館山の四機が接近してくる。
まず言いたいことを陽奈は無線機で怒鳴る。
「駒込テメェ!!何勝手にカメラなんか仕込みやがった!!」
『お前が散々注文をつけてきたからだろうが!』
陽奈の怒鳴りに怒鳴り返す駒込。すると宮古や他の面々も無線を繋いで言ってくる。
『でもすっごい上手だったよ!基地のみんなも盛り上がっていたし!』
『うん、綺麗だった。ね、クラウディアさん』
『ああ、実に綺麗な歌声だった』
くそう、みんな聞いていたのかよ…恥ずか死……。後で絶対いじられる……。なんて思いながら陽奈はピラーを引き連れていると、気を引き締めて聞いた。
「それで?特殊装備って?」
『あぁ、それは……』
『おソノ、頼んだ』
『はいっ!』
そう言うと、園香の機体のフロートから何かが陽奈の後方にばら撒かれる。そして、それを被ったピラーはそのまま凍結すると消えてしまった。
「なるほど冷却剤か……」
『元々は基地の火災用のだがな。だからお前も早くとってこい』
「了解」
作戦の意図を理解した陽奈はそのまま基地に一旦戻る。
基地では既に整備班のおっちゃんが準備を整えていた。
「よろしく頼みます」
「五分で終わらせてやるさ」
そう言い、スポーツドリンクを飲みながら陽奈は出撃のためにコックピットに乗り込む。その中で、作戦の概要を聞いていた。
『ぐうたら、良く聞いとけ。お前が到着次第、アクアラインのトンネルを抜ける。シールド隊は海面スレスレを飛行して囮にする』
「了解……ってアクアライン?」
マジかよ。此奴ら、トンネルの中を進むってか?ぶっ飛んでいるにも程があんだろ。
『この基地で最も爆装できるのがお前だ。だから早く来い!』
「はいはい」
『はいは一回だ!!』
「はーい」
そんな問答をしながら外では整備班長がサインを出す。
「行ってきます」
『おう、しっかりと務めを果たして来い』
そう言い、陽奈はエンジンの回転数を上げるとそのまま離陸していった。
離陸して、ほぼ最高速で飛ぶ橘花。その速度はあっという間に作戦域に到着する。
現在、陽奈の駆る橘花はエンジンをネ20からIHI−17エンジンに換装。機首の三十粍機銃を排し、新たにM61A2を装備。元々の爆弾倉に弾薬箱を設け、推力が上昇した事を良いことに胴体翼下に四箇所のハードポイントを駒込に頼んで付けてもらった。機体自体にかなりの負荷がかかると言われているが、今のところ壊れる気配もないし、整備班長が入念な点検をしてくれてなんとかしてくれるのが現状であった。
「こちらサンライズ。間も無く当該空域に到着する」
『やっぱりジェット機は早いねぇ』
『予定よりも十二秒遅いぞ!どうなっているんだ!!』
『まあまあ、アズちゃん。ヒナちゃんもなるべく急いだんだからいいじゃん』
三人はまあいつものことだと思っているとクラウディアが言う。
『皆揃ったな。作戦開始!』