エセヒロインは余談を許さない〜“完璧美少女”を演じる悪友が可愛くて困る!だが“俺も”演り返す!~   作:隣ワニ

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19話 ときめきの余地を許さない

 ……俺たちは校門前に停めてあった車に乗って帰路に就く。

 冬様は車に乗るなりこう言った。

 

「ねぇ、茉莉ちゃんっ? 生徒会長になって塩谷退学にしよっ♪」

 

 俺の視界を奪う“かわいいは正義”、問いかけの審議より先に俺は、

 

「う、うんっ!」

 

 同調してしまっていた……

 

「ちょろっ」

「あっ」

 

 返答を聞いた冬司の顔が無垢な少女からしたり顔へ高速推移したのを見て、俺は自分の発言が失言であったと認識した。

 有り体に言えば……かわいいに気圧されたのだ。

 

「……ついうっかり……ってえ!?」

「塩谷を追放しよっ☆」

 

 この美少女鉄面皮の前では敏腕ネゴシエーターもお手上げに違いない。なにせこのエセ美少女は大抵の物事に無意識で了承してしまうようなダークエネルギーを自在に操れるんだからな。 現に俺もその毒牙でパブロフのお嬢様になりつつある。

 

「……貴女ねぇ……そもそも生徒会にそんな権限はないでしょう?」

「たしかに……って、ん!?」

 

 ……さっそくパブロフのお嬢様の発動が。脊髄反射的に口調がお嬢様に引っ張られた。

 

「……冬司、そもそも生徒会にそんな権限はないぞ」

「……なぜ二回言った?」

「だ、大事なことだからだ!」

 

 コイツ無意識なのか? なおのことタチが悪いぞ、俺を惑わす悪女め。いよいよ俺が頭にアルミホイルを巻く日も近い。

 しかし、俺もこいつも猫かぶったり素に戻ったりが板についてきたなぁ。成長が悲しい……いや、怖い。

 

「なぁ呉久ってやっぱチョロインだよな? ちょっとずつ心も女の子に……」

「な、なんですとぉ!」

 

 ない。そのようなことは断じて。

 

「……あ! ……茉莉ってやっぱチョロインだよな!」

「……へぅ!? ……言い方の問題じゃないッ!! ……うぅ……」

 

 茉莉と名前を呼ばれただけでムズムズする。というかなんで名前2つ言った? あとチョロインってなんだ!?

 

「……? 2回目の方が反応がいいぞ……? エロい」

「言うに事欠いてそれかぁ!!!」

 

 昨日といい今日といい、こいつはこいつでヤバい変態なのだ。塩谷に気を取られて忘れるところだった。

 

「は? 思ったこと言っただけだぜ?」

「なんでキレ気味なんだ……? 仮に変態のお前が人前で思ったことをありのままに発言すれば、この地域の公序良俗は瞬く間に崩壊するだろ」

「人を犯罪の温床みたいに言うな」

「冬司から冬様取ったら何が残るというんだ? 猥談だけじゃないか」

「それは……」

 

 俺の詰問に言い返せない友人が、あろうことかどタイプの美少女になっているのだ。必然的にこの女の子の頭がエロに塗れた野郎であるという結論が導かれる、というのがただただ悲しい。

 

「はい! 反論もなし! したがって冬司、お前には発言権が認められない!」

「はぁ!? いや、反論ならある!」

 

 冬司は品を作って、

 

「明晰な頭脳、キュートなお顔♡パーフェクトなプロポーション!」

 

 冬司はピンと立てた両指であざとく顔を抑え、目をパチパチさせて俺を見た。可愛い。

 最初のは失笑モノだが、後半2つは言い得て妙だ。冗談が頭の出来だけなぶんタチが悪い。そして可愛い仕草と連動させるのやめろ?

 自信満々なぶん余計に可愛く見えてたまらん。まったくどこでそんなの覚えたんだ。

 

「……くっ……いいから、つまりはだな、お前はその……ずっと冬様でいてください!! 小川のせせらぎ、小鳥のさえずり、蝶よ花よと愛でられて、永遠に人類のアイドルでいてください!! お願いしますッ!!!!」

 

 これは紛うことなき俺の本心だ。

 

「……呉久、お前相当キモイ事言ってる自覚あるか?」

「……あがっ」

 

 液体窒素のような目で、俺の本心は凍結された。

 

「あと、お前がオレのこと冬様って言ってくんの、解釈違いだからやめろ」

「……はぁ!? なんで!?」

「オレもお前のこと茉莉様って言うぞ」

 

 つい先日判明した事だが、冬司はその可憐な見た目とは裏腹に、茉莉様とかいう偶像兼親友である俺の写真でけしからんことを致すような、けしからん奴なのだ。

 いくらコイツが面が良く声も可愛い完璧美少女でも茉莉様呼びされれば、俺にだって友人に劣情のままに消費されている悪寒が……あれ、んん!?

 

「…………悪かった。俺も言いすぎた」

 

 ……一応こう言っておいたが、実のところコイツに向けられる劣情にあまり嫌悪がないことに気づいてしまった。見た目補正というやつだろうか?

 しかしそう考えると俺が冬様呼びすることにコイツが嫌がるというのはモヤっとする……ええい、ちくしょう、なんで俺だけこんなに悶々としているのだ……

 

「ふむ……わかればよろしい……ってまた百面相してんな」

 

 そもそもなんでこんな話題に……元々塩谷の話だったよな?

 

「…………脱線したが」

 

 俺は圧をかけるように、

 

「塩谷をどうこう、というのは諦めろ。俺に出来ることがあれば出来るだけ協力してやるから」

 

 ぐいっと顔を近づけて話を戻す。

 

「…………お、おう……」

「? ……なんだ、不服……?」

 

 冬司は口をまごまごさせて落ち着きがなくなった。

 

「…………いや……単に……ちょっとうれしい……だけ……あと近い」

 

 ……え? なに? なんだって? 消え入りそうな声で言うもんだからよく聞こえなかったぞ。

 

「ええと、なんだって……?」

「……はぁ……」

 

 俺に向けられる怪訝な目。いや、なんでお前が呆れ顔なんだよ。

 

「……まぁその、お前が一緒にいて……その……ぅれし……い、いや! なんでもないっ……!」

 冬司は一瞬照れたようにそっぽを向いたと思えば、

 

「い、いや〜塩谷が元気そうでよかったぜ!! い、一緒に? 痛ぇやつの励ましをしなくてすんだなぁ〜ってことだな!?!? うん」

 

 と大袈裟な身振り手振りで言った。なんだこいつ。いったい何をそんなに慌てて……人格分裂してんのか? 

 

「あ、ああ。まぁ……確かに?」

「うんうん」

 

 取り繕うような笑顔。だめだ、かわいい。

 結局なに? 塩谷の話? だよな……?

 

「そ、そういやアレだなっ!? これで生徒会選も楽になったなっ!?」

「あ、ああ。そうだな。って俺別に生徒会長ならなくていいんだけど……」

 

 嫌な事を思い出させるな。

 生徒会選……生徒会戦ねぇ。

 

「いやいや、立候補した以上もう後戻りできんぞ! オレは塩谷を焚き付けて票を集めるんだぜ? オレがこ〜んなに身を砕いてやってんのに、そりゃないぜ? 相棒?」

 

 そう言われると俺が弱いのはお前も知ってるだろ。

 

「あ、ああ。わかった……」

「あとは呉久、いいや茉莉ちゃんのほうだな〜そっちのファンクラブが味方にできたらもう勝利は確実よ!!! ガッハッハ!!!」

 

 なんだか乗せられてる気がしなくもないが、放課後特にやることもないし、今更断るほど嫌ではない。

 

「…………お前……いつの間にそんなやる気になったんだ……?」

「ふふ……なにも気にすんな! 手伝うからっ! なっ!」

「……まあ、ありがと……う?」

 

 気にしないでおく、か……?

 やんごとなき事情やら思惑やらが大仰に錯綜するその足元で、小心者の俺は内申の安泰というちっぽけなエゴを抱えて生徒会選挙に向けて邁進し、タップダンスを踊っている……これが最近の習性になりつつある。

 

 今や条成学園生徒の過半数を占めるまで勢力を拡大した俺と冬様のファンクラブ、この学園は俺と冬司とかいうキテレツが演じる偽りの美少女に牛耳られようとしているのだ。

 つまり学園の過半数が詐欺被害者ということになる。

 条成学園は士族華族から有名企業の令息令嬢選りすぐりの学園であり、彼ら彼女らはいずれ国を担う人材となること請け合いである。そんな者達の目がこうも節穴でいいのか。頓に思う、この国の未来が心配だ……と。

 そんな傾国の生徒会発足に向けて事が運ぶには、解決しなければならない懸案事項が待ち構えている。

 冠城冬ファンクラブの首根っこ塩谷は抑えたものの、未だ俺のファンクラブを纏める人物が特定出来ていないのだ。重要参考人の炙り出しが急がれる。

 ああ、女の子になってから、こうも煩悶が絶えないのは何故だろう……

 俺とラブコメは遠い

 

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