エセヒロインは余談を許さない〜“完璧美少女”を演じる悪友が可愛くて困る!だが“俺も”演り返す!~ 作:隣ワニ
それに、懸案事項はまだある。
「それから、他の候補者のことだけど……」
「それは任せて!」
「それは大丈夫!」
「それは大丈夫です!」
3人とも、まるで結託しているかのように目を輝かせて言う。
思っていた反応と違う。いやいや、これが一番の難問ではないか?
「……どうして? かしら……」
「それは……ねぇ?」
「うん……懐柔させればいいし」
「改宗させればいいし……」
「……もちろん茉莉先輩にも多少手伝ってもらいますが」
なんだか怪しげなスメルがプンプンする。3人とも目つきが怖い!
それにどうやら俺だけが知らないようじゃないか? なお怖い!
「それは……いったいどんなものなのかしら……?」
「「「ふふふ……」」」
美少女3人に見つめられる役得シチュエーションにも関わらず、俺の背筋にはゾクリと悪寒が走る。
「さて、早速これからその素材集めだね!」
「えっ? えっ? えっ? 素材?」
「スタジオはもう予約してあるから」
「???」
「さあ、茉莉お嬢様、あまり時間がございません」
聞き馴染んだ声! 振り返ってみると────
「え!? は?? し、詩織姉さん!?」
「お嬢様。落ち着いてください。ね?──」
じ、っと重みのある詩織姉さんの視線……こっわい。強制的にお嬢様へと矯正するノンバーバルコミュニケーション。詩織姉さんの放つ重力場は相対性理論を無視する光速度で、俺の脳へ直接「お淑やかな言葉遣いをなさい」と語りかけてくるようだった。
……でも驚いた時とかは無理でしょ普通? それくらい勘弁してほしい。こちとら数ヶ月前まで元男子高校s……ひっ……あ、ダメですか、はい……
「……と、取り乱しました。それで……
慌てながら、慌ててないように取り繕った俺は、先程からの疑問を柚穂さんに尋ねたのだが……
「
……
…………
………………
??????????
「────へ?」
◇◇◇
──昨今、世の中にコスプレという文化があるのは多くの人が知っていよう。俺だって知っていた。
巷ではコスプレイベントやら撮影会やらが開かれ、イベントの華に留まらず、出店や催し物、街を挙げての大イベントに据えられる場合もあるという。延いてはコスプレイヤー同士の大規模な社交の場という一面をもち、最早その市場規模はバカにできない。
コスプレ人口の拡大を鑑みれば、条成学園の生徒の中にもコスプレイヤーが混じっていてもおかしくはない。
と、まあそれは問題ない。俺も時折、冬司や柚穂さんや秋菜ちゃんのコスプレ姿を拝んでみたいな、なんてことを考えたりもする。詩織姉さんに至っては毎日メイドのコスプレをしているに相違ない。
しかし────
「茉莉ちゃん! イイ!すごく……いい!!」パシャ
「………………へ????」パシャ
「あ、次このポーズね? はいっモデルガン持って〜? それで視線だけ右上ね?」
「…………へ??????」パシャ
「どうしたの?」
「……一肌……一肌脱ぐってッ!! こういうことか〜〜〜〜!」
────まさか、俺自身がコスプレすることになるとは思わなかったッ!!
どうしてこうなった……?
「お、おお……茉莉様、御乱心だ……」
なんて言ってる柚穂さんは仰々しいカメラを構えて興奮しているし?
「あーダメですよー!茉莉先輩! 急に項垂れたらブレちゃいます!」
と言ってる秋菜ちゃんは俺のウィッグを都度修正して、目を凝らして険しい顔になったかと思えば「いい……」なんて漏らして恍惚な表情を浮かべるし?
「お嬢様……」
「ひっ……と、取り乱してしまったわ……!」
なぜか突然現れた詩織姉さんに俺は当然のように逆らえないし……
先程まで優雅に紅茶を楽しんでいたはずの俺は、気づけばコスプレの撮影スタジオへと召喚されている。
やれやれ顔の俺を尻目に意気揚々と突き進む美少女達を眺めているうちに、俺はバッチリメイクまで施され、申告した覚えもないのにサイズピッタリの衣装、ヘアセットされたウィッグ、各種小道具を持たされて、気づけばノリノリの柚穂さんの前でシャッター音を聴くマリオネットにクラスチェンジしていたッ……!
俺がノリノリコスプレイヤーだと思われると名誉に関わるので弁解しておくが、こうなる直前、俺はどうせ嫌がるであろう冬司を引き合いに出し、撮影拒否同盟の締結へと一応の抵抗を試みてみた。
ところが、そんな俺の言葉を待っていたかのように、冬司も撮影に加わると言い出しやがり、結局同盟は白紙、冬司がコスプレする以上俺もしないわけにはいかない、そんな言質を取られ、後に引けなくなった俺は自らの失策を知ることとなった。
どうも最近、俺ばかりが恥ずかしい目に遭っている気がするのは何故か?
ああ……平穏で呑気な日常が恋しい! 誰か今すぐ帰還呪文を教えてくれ! ──急急如律令!
「お嬢様? これは私のコレクショ、いえ。これはお嬢様の生徒会選挙に! 延いてはお嬢様の明るい未来のために必要なのです!」
「詩織姉様? 今コレクションと」
「聞き間違いで御座います、お嬢様」
大義名分のもと、私欲のために撮影会を強行しようとする不届き者が身内にいるな?
「しかし、詩織姉様──」
「お嬢様、聞き間違いで御座います」
詩織姉さんは頑として認めようとしない。
「もう、茉莉ちゃん! このペースじゃ私のコレクショ、生徒会選挙用の素材撮り終わらないよ〜! ほらほら、撮るよ!」
急かすように言う柚穂さんの失言も俺は見逃さない! 不届き者は身内だけでなく友人にも潜んでいた!
「あっあー! いま、柚穂さんもコレクションって──」
「
「秋菜ちゃんまで!? ねえ……これホントに必要な──」
「「「いいからッ!!撮るッ!!」」」
「は、はひっ……ゴ、ゴメンナサイ……」
余りの気迫に圧倒され、俺は彼女達の明らかな失言を記憶から抹消することを余儀なくされる。
いったい彼女達の情熱と興奮はどこから湧き出るのだろうか。その深淵はパンドラの箱である。
邪な四面楚歌の最中にいる自分を確認し、ひとまず俺は姿勢を戻す。
「え、えー……と?? つ、つ次は? その、ローレディ?? でいいのよね!??」
「うんっ! 茉莉ちゃんもなかなかポージングがわかってきたね〜次はカポックにストロボ当てるから今ほど明るくないよ〜あ、目線右上ね?」
柚穂さんなんだかイキイキしてる! いい笑顔! でも、もうなに言ってるかぜんっぜんわかんね〜!
適当に話を合わせる俺の笑顔が険しい引き攣りを極めていく中……冬司の、少し気だるそうな声が聴こえる。
「お待たせー……茉莉ちゃんがあんまりうるさいから着替えてきたけど……」
来たか道連れの腐れ縁! ようやく着替え終わったらしい。なんだかんだごねた甲斐があったというもんだ!
「って……おま、おま、か可愛──」
と、なんだか歯切れの悪そうな悪友の声に、俺はハイビジョン脳内録画ボタンをオンにして振り返る……
いよいよ冬司のコスプレ姿が拝め────
あ────尊────
────
頭の中には、整然と流れるオープニング映像──
走馬灯のように脳裏へ印字されるテロップとタイトルロゴが、眼前のレアリズムを紡いでいく──
やがて
早まる鼓動、始まる物語……
この子……確かヒロインだったような気がするのだけれど……それから設定では────設定??
あらあらまあまあ、まるで夢でもみているみたい。
それにここは……いったいどこかしら?
────────
────
「……二人して……固まってる……? すごい光景‥…」
「……只今、お嬢様はバグって御座います♪」
「バグ!? お、姉は……まぁ同じ有様でしょうけど」
「あの茉莉ちゃんをフリーズさせるとは……さすがは冠城さん、やるね」
「あのご様子だと、お嬢様も冬司様も夢心地でフリーズしたままかと存じますが……お二方はこれからどうなさいますか?」
「どうします?綾瀬先輩?」
「私はそうだね、着替えてこようかな……せっかくだし。なんだか今は唯々、茉莉ちゃん達と併せがしたいよ!」
「……綾瀬先輩、私もいいですか? 詩織さん、そういうわけで、茉莉先輩が復活したら教えてもらえます?」
「うふふ……かしこまりました♪」
────……これは後になって聞いた話になる。
俺はこの日、まるで人が変わったようにノリノリで撮影に臨んだらしい。まるで作中のキャラクターをトレースしたようだったとか。
後日コスプレ姿のまま満面の笑みでポーズを決めている写真を見せられて、これは本当に俺なのかと疑ったほどだ。
冬司のコスプレ姿を一目見て以降、どうにも2次元に入り込んだような、えらくファンタジーな夢をみていた記憶があるのだ……状況証拠からすれば、あの時間は現実だったらしい。やれやれ。
流石の俺もコスプレ冬様(冬司)には耐性がなく、刺激が強すぎたということなのか……? 真相の究明が急がれる。
女の子にTSして純白のリスタートをきった俺の人生に、早速どす黒い黒歴史が刻まれてしまった……