エセヒロインは余談を許さない〜“完璧美少女”を演じる悪友が可愛くて困る!だが“俺も”演り返す!~   作:隣ワニ

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27話 新生徒会長は余談を許さない

 演説を無事終えて控え室まで舞い戻った俺は、和太鼓のように息苦しく暴れる鼓動の存在に気づいた。思いのほか俺は緊張していたらしい。

 指先はすっかり冷たく、この寂しさをどう埋めたものかと模索して、冬司を探す。

 

 生徒会選挙の立候補者が集まっていた控え室。その片隅で惚けている悪友を発見して、俺はなんだか息が軽くなる思いがした。

 

「ん……」

 

「ん?……」

 

 冬司は、手を握った俺をちらっと横目で確認して視線を戻す。

 自分のことのように緊張し、女の子の小さくしなやかな手になってもしっかり握り返してくる親友に、俺はかつての頼もしさを感じつつ、妙な愛おしさも覚えていた。

 

 ──互いの手汗が伺い知れるほど強く握りあった冬司の手を解いたのは無事に当選が確定した時だ。

 当選が発表され、生徒会長となった俺は喜びと安堵を()い交ぜに、そんな冬司と抱き合って高揚を噛み締めた。

 最初はお互いあんなにも乗り気じゃ無かったくせに、気づけばこうして手放しで喜んでいるのだから不思議だ。

 

 

 

 ん? そういえば、俺達はいったいなにやって……

 と。少しずつ興奮が引いていくのと同時に、腕が強ばる。

 

「あ……あー……あっ……とその」

 

 我に帰り、抱擁の現状と気恥しさを自覚した俺は、

 

「……っうん」

 

 ばっ、と慌て、成立しない日本語を放って離れる。

 俺はしばらく素数を数えながら、再び暴れ始めた心臓の機嫌を取ることにした。

 

「……」

 

 冬司を見れば俺と似たようなポンコツ具合のようで、互いに茹でダコのように染まった顔をチラ見しては、抱き合った記憶を逡巡し、仲の良い女の子同士のスキンシップを体現してしまった気恥しさに煩悶(はんもん)していた。

 また気恥しさ故にその真意を確かめるでもなく……

 ただ、柔らかかったなあとか、華奢な体で心配だなあとか、いい香りだったなあとか、やっぱ胸大きかったなあ等々……煩悩(ぼんのう)に浮き身をやつす無言に留まった。

 

「と、とりあえずもっ、もも戻る?」

 

「う、うん」

 

 しどろもどろな会話を皮切りに、俺達は、ひとまず控え室に2人だけでよかった、なんて安堵を抱えて、何事も無かったようにその場を後にした。

 

 

 ……結論から言えば、この時や俺達は手の施しようがないアホだった。

 

 実はこの時、控え室の窓には新聞部員が待機していたらしいのだ。

 

 抱擁(ほうよう)の一部始終を目撃した新聞部員はその後「キマシタワー」と、とち狂ったような熱烈ゴシップを書き、俺達の預かり知らぬ所で異例のスマッシュヒットを叩き出すことになる!

 

 記事の存在に気づいた時すでに遅し! 俺と冬司の間には妙な噂がたち始め、一連の恥ずかしい場面を収めた盗撮写真は、記事を目に留めた理事長の「青春だねぇ……」の一言で学校パンフレットへと採用される事態になる。

 一時の高揚感が生んだ事故のような既成事実は、校内外へと拡散されることになるのだ……

 

 

 ……当然そんな伏兵の潜伏、気恥しさで手一杯の俺達は知る由もない。

 

 

 ◇◇◇

 

 

 選挙結果発表の放課後、晴れて生徒会役員となった俺と冬司は、さっそく生徒会室へと足を踏み入れていた。

 応接間も兼ねた空間の中央には、ずっしりとしたソファが対面するよう鎮座している。

 

「うっひょーいっ!」

 

 そんな趣あるソファに飛び込む冬司はまるで子供のようだ。

 

「冬さん、貴女ったら、はしたない! 気を抜いてる間に誰か来たらどうするの?」

 

「だ〜れも来ねぇって今日はっ! 生徒会選挙終わったばっかで生徒会室に来る奴はいねぇよ。それに今日だって元々休みなんだろ? ふへ、フカフカ……」

 

 開放的な気分になるのは分かるが、まったく不用心極まりない!

 ……まあ確かに? 座り心地は良さそうだが。

 

「……柚穂さんと塩谷さんには活動は明日からと言ってあるから、今頃は部活ね」

 

「プクク……そんなことより()()チャンは〜? いつまで猫かぶってるつもりかなァ?」

 

「うるさいわね……」

 

 俺は生徒会室の入り口から顔を乗り出して外に誰もいないことを確認し、扉に鍵をかける。

 

「まったく……」カチャン

 

「まあまあ、固いこと言うなって! ほら来てみろよ? このソファ、たぶん寝れるぜ?」

 

 はしゃぐ冬司の隣に座る。なんだか気が抜けた顔だ。そんな顔で呑気にくつろぐ悪友兼親友に、俺は似非お嬢様の素振りをやめて向き直った。

 

「な、なぁ。冬司」

 

「んー? どうした?」

 

「えー……っとその、今回いろいろ付き合ってくれてさ」

 

「おう」

 

「……とりあえず、ありがとう……」

 

 こう、柄にもないことを言うのは、付き合いが長い相手であるほど気恥ずかしい……

 

「……お前……!」

 

 先程まで話半分で座り心地に夢中になっていたはずのアホ面は、かっ、と目を開いて上体を起こす。

 

「……うん」

 

 少し乱れた彼女の銀髪から視線を上げると、いつになく真剣な瑠璃色の目が俺を見つめている。そして……

 

「……かわいいな?」

 

 雰囲気をぶち壊す。は──?

 

「か、かかかわっ!? いや、なんでそんな感想が出る!!」

 

「いやいや、オレの最推しツンデレヒロインがデレたんだぞ!? 自然な感想だって」

 

 ……身に覚えのない属性増やしやがって! 

 

「おお俺は! ツンデレでもヒロインでもないッ!」

 

「それに今回の件は最初からオレも頭数に入ってたしな〜? でもま、お前の感謝の気持ちに漬け込んで、文字通り付き合うって事で手を打つってのも、悪くはねェな?」

 

 冬司は銀髪のおさげを揺らしてぽけーっと空を仰ぐと、いやらしく横目で俺を捉えて、にまーっと笑みを浮かべた。

 

「そ、そそれとこれとは、話が別だろ!!」

 

「まあまあ……」

 

 俺の反論に応えるでもなく、冬司の手が俺の肩へまわされる。

 

「あぇ? なにす──……」

 

 ふかっ

 と、頬への感触。

 どうにも俺の視界は90°回転しているようで……?

 

「膝枕。この前のお返しだ」

 

 頬に触れる冬司のスカート、ザラザラとした肌触り。隔たった数ミリ先には冬司の……冬様の……

 

「膝枕……冬様の……」

 

「あ?……ったく。なんだかんだ今回1番頑張ったのはお前だろ? な、会長さん」

 

「たしかに……膝枕……冬様の」

 

 これはそのご褒美?

 とりあえずひとつ、念願叶っ……た? わけでぇ?

 

「聞いてねぇな……だらしねェ顔だな、このチョロイン」

 

 前回は俺が膝枕したわけだが、お返しと言うからには存分に堪能させてもらおうか。

 一条家のどんな高級枕と比べても勝る上質な弾力! その代金、いったいおいくら万円か……ん? 代金?

 

「……まてまて、こんな卑怯な手であやふやにされてたまるか! 俺はチョロインでもなければツンデレでもないからな……! それから、えーっと、ああそうだ! 付き合う云々はまた別問題だから!」

 

 ……危うく流される所だった。

 

「だったら今すぐ立ち上がったらどうだ? オレというS級の超絶美少女、冬さんの膝枕からよォ?」

 

「……」

 

「ほ〜ら、なにも言い返せねぇ!」

 

 首を傾けて冬司の顔を見れば、むふふんと得意げな顔で腕を組んでいた。

 ……胸が強調されている。天井が半分くらいしか見えん。持ち上げ乳房、下から見るか? 横から見るか?

 

「……返答はまだ保留で。お前が、銀髪お下げが素敵な癒し系で、魅力的なおっぱいのS級超絶美少女ってのは分かったから」

 

「お前、釣れねぇよなァ……こ~んな銀髪お下げが素敵な癒し系で魅力的なおっぱいのS級超絶美少女が膝枕をしてやってるのに……ってあれ? おっぱい?」

 

 惚け面の冬司……可愛いな……?

 アホだけど声は可愛いし、膝枕は最高だし、それに……いい……かほり……

 瞼が重い。存外疲れていたらしい俺の身体を睡魔が襲う。

 

「……だめだぁ。お前の膝枕、快適すぎて……俺……寝そうかも……」

 

「……こりゃ、前と逆だな? だらしない学園の聖女様?」

 

 すっかり蝉の鳴き止んだ秋分の生徒会室。

 俺の腰にポンと乗った冬司の手も、髪に触れる手も暖かい。

 彼女の陽気に誘われて、俺は眠りへ落ちた。

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