エセヒロインは余談を許さない〜“完璧美少女”を演じる悪友が可愛くて困る!だが“俺も”演り返す!~   作:隣ワニ

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34話 ラブコメの波動をゆるさない!

 新生徒会が発足して数週間が過ぎた。

 俺はというと、女の子の日の悶絶(もんぜつ)や赤飯の洗礼により、世の女性に対する畏怖と尊敬と実感を身に付けて、不本意ながら順調に乙女の階段を駆け上がっていた。

 ところが、ここまで上昇してしまった女子力を総動員しても尚、俺は現在保留中の難問に回答できずにいた。

 

「はぁ……」

 

 先週の光景が目に浮かぶ。

 『──と、とにかく、オレはマジだからな? いい加減……ォ、オレと付き合え!!──』

 冬司の再告白はあまりに唐突で、俺はとっさに回答を保留した。

 

 それまでの冬司は妙によそよそしく、話しかけても生返事。目が合えば反らされ、むっとされた。

 仕方ないから塩谷や柚穂さんとつるんでいると、冬司の機嫌はますます悪くなった。

 

 そして諦めて時間による関係修復を試みれば──()()()された。

 和平交渉を飛び越え、合併交渉である。もうわけがわからない。

 

「はぁぁ……」

 

 翌日からの冬司は打って変わって、けろりと通常運転に戻っていた。いや、それどころか、俺が生理に差し掛かった時なんかは気遣いすら見せた。

 

「……不可解だ」

 

「……不可解なのは会長だろ。『相談がある』って呼び出されて、僕はかれこれ30分間アンタのため息しか聞いてないんだが?」

 

「いや、だ、だって……」

 

 今、生徒会室は俺と塩谷の2人のみ。俺はここ最近の冬司について、塩谷に助言を請うつもりで呼び出したのだが、その塩谷もまた、冬司と厄介な間柄にある。

 俺が何から話そうかと無い知恵をひたすら絞り、いたずらに紅茶を飲み干す様を、塩谷は呆れた目で見つめていた。

 

「……もう部活行っていいか?」

 

「あっ、ま、まって!」

 

 嘆声(たんせい)をもらし、退室しようとする塩谷の腕を掴んで引き止める。

 

「その、聞いてもらわないと、困る……」

 

 塩谷の女性遍歴、そして冬司に対する変態的分析力はバカにできない。社交性において一抹の寂しさを持つ我が身を鑑みて、俺はこの変態にすがるしかなかった。

 

「ぐ……わかった、わかったよ。僕は部活サボってポンコツ会長のカウンセリングを優先してるんだ。紅茶だけ飲んで帰るのでは割に合わん」

 

「うん、ありがとう塩谷」

 

「……調子狂うなあ」

 

 礼を言って見上げると、ばつが悪そうに頬をかいている。ポンコツだのと茶化しながらも、協力してくれるらしい。

 俺達は再び応接用ソファーに腰掛け、向かい合った。

 空になった互いのティーカップへダージリンティーを注いで、仕切り直す。

 

「……えっと。これは友達の話なんだが」

 

「会長の話だな」

 

「そ、その友達はだな、仲が良かった友人の態度が急に変わってしまって、以前のように話したりできない……と悩んでるらしいんだ」

 

「うん、これ確実に冬様と会長の話だな」

 

「なんというか、急によそよそしくなって。下ネタも言わないし、一緒に帰ってたのが急に別々で帰ったりしだしたし……」

 

「仲いいなアンタら」

 

「かと思えば、この間は軽叩いたりして、それで次の日からはいつも通りに戻ってたり……! それにその日は──」

 

 ──また告白されてしまったし。

 

「それにその日は?」

 

「い、いやっ、なんでもない! あと、そもそも、これは友達の話であって!」

 

「あー、はいはい」

 

 現時点での情報漏洩は紛れもない俺と冬司の現状であり、今さら取り繕ったところで、語るに落ちる先は自らが掘った墓穴である。

 このポンコツ会長の面目躍如たる俺の狼狽(ろうばい)を、塩谷はニヤニヤと憎たらしい笑みを浮かべるばかりであった。

 

「まあでも、僕に対しての冬様は変わったところないしなあ。相変わらず、僕はいつも通り告白して、振られてる」

 

 塩谷は冬司の“メス堕ち”を目指し、実りのない行軍を続けているらしい。

 

「もういい加減諦めろよ」

 

「断る」

 

 迷惑行為の続行を、何故こうも泰然と即答できるのか。この男の図太いハートは当たって砕ける様子がない。

 塩谷と冬司が恋仲になるなど万に一つも無いはずだが、それを思うに付けモヤモヤとした焦燥感が襲う。

 

「僕のことはいい。冬様は、会長からみていつ頃から変なんだ? なにか心当たりは?」

 

「……新生徒会になったあたり……? 心当たりもない。俺は塩谷と違ってなにもやってないし」

 

「なんか発言に棘がないか?」

 

 渋面の塩谷を無視して逡巡すると、ある珍事が脳裏に浮かんだ。

 

「ん? 強いて言えば、あの時か? ほら、塩谷が俺を押し倒した日!」

 

「ご、誤解を招く言い方するな! あれは事故だろ!」

 

 ──生徒会発足2日目のこと。俺は塩谷のスマホを取り上げようと圧し合い、共にバランスを崩して転倒し、遅れてやってきた冬司と柚穂さんに、ことの結び()()を目撃された。

 彼女らが見咎(みとが)めた俺達の有り様は、吐息のかかる距離で密着する思春期男女があわや……なんて破廉恥な誤解を招きかねない場面であり、これと柚穂さんの爛々(らんらん)(たぎ)る妄想熱が融合した結果、生徒会はラブコメエネルギーの奔流源(ほんりゅうげん)とでも呼ぶべき、妙な力場を形成するに至った──!

 

 考えてみれば冬司の様子がおかしいのもこの珍事以降だ。

 

「……いや、でもあの後しっかり弁明して誤解は解いたわけだし。そもそも俺と塩谷がそんな、ねぇ……?」

 

 塩谷は男時代の俺を知っている。そんな相手と懇ろになるなんて妄想は実態を知っていればあり得ない話である。

 当然、塩谷からも同意ないし苦笑が返ってくると思い、目を向けた俺だったが……

 

「…………まあ、な」

 

 目を反らされた。

 

「なにその反応」

 

「あのさ、会長ほんっっと、いろいろ無自覚だよなぁ」

 

 塩谷は当惑する俺を一瞥(いちべつ)すると、眉間にシワを寄せ、項垂れるように頭を抱えた。

 

「え、なに」

 

「前も言ったけど、さぁ……! もう少し自覚してくれ! ただでさえその容姿で人気高い上に、生徒会長だろ。なのに距離感はおかしいし、ポンコツにツンデレ、おまけにラッキースケベられ体質!」

 

「なんか前より属性増えてる⁉」

 

「会長はさぁ、いったい何人とフラグを立てれば気が済むんだ! こっちはアンタと話す度、男どもの視線が痛くてたまらないんだが⁉」

 

 ものすごく理不尽な理由で怒られている気がする。

 

「し、塩谷……? ちょっと、落ち着こう?」

 

 俺の声は届いていない様子で、塩谷は拳に力をこめてぷるぷる震えている。

 そして頓に立ち上がり、天井へ向けて大音声をあげた。

 

「会長は冬様や綾瀬さんでは飽き足らず──僕のフラグまで立てる気か──っ‼」

 

 事実無根の風評である。しかし塩谷の気迫たるや、奔出(ほんしゅつ)した憤懣(ふんまん)は天元突破して今にも成層圏まで逝ってしまいそうな(おもむ)きである。

 俺は気圧されて、不名誉の撤回どころか、なだめるのが精いっぱいであった。

 

「お、落ち着いて……ね? まずはダージリンでも飲んで……その、落ち着くから、ね?」

 

「ぐ、ぐ……さっきのしおらしさといい、今といい、そういうとこだよ!」

 

「う、うん? ご、ごめん……」

 

 何を言われているのかさっぱりわかっていなかったが、謝った。

 

「いや、悪い。落ち着くから」

 

 塩谷は深いため息をついた後、ソファーへ身を戻した。俺は塩谷の溜飲が下がるのを待って、リラックス効果を強く念じたダージリンティーを注ぎ、切り出す。

 

「……その、話を戻したいのだけど……」

 

「ああ。取り乱して悪い……とりあえず、今はいつも通りなんだろ? なら、なにも問題はない気がするがな……」

 

「そうだけど……いや、そうでも無いというか……」

 

 しばらく迷った後、意を決して、最大の疑問を吐き出した。

 

「なあ、冬司っていったい誰が好きなんだと思う……?」

 

「……えっ」

 

「へ?」

 

「そもそも冬様って好きな人いるのか……?」

 

 塩谷は全然ピンときていない。相談役を間違えたかな。

 

「え。いや、いやいや。冬司は柚穂さんの事が気になっているとばかり……え、違うの?」

 

「冬様と綾瀬さん? ないだろ。女の子同士……でも、なかったか。いや、にしてもな」

 

 仮に塩谷の見立てが正しいとすれば、恋のキューピッドとして立ち回った俺は、完全にから回っていたことになる。一方で、どこかホッとしている俺もいた。

 

「いや、でも。あの2人……よく一緒にいるじゃないか!」

 

「会長の写真でも取引してるんだろ」

 

「え……生徒会選挙は終わったのに……なんで?」

 

「それは……僕と会長の関係みたいなものだな」

 

「ん? あーなるほど……」

 

 得心がいってしまうのもいかがなものか。要はこちらと同様、冬司も柚穂さんもファンクラブの密会をしている、ということらしい。

 こうした素行が明らかになるに付けて、生徒会メンバーの人選ミスを否めない。

 

「いや、でも俺が柚穂さんと仲良くしてるとアイツ機嫌悪くなるぞ? まあ最近は塩谷と話してる時もむすっとしてるが」

 

「会長ってそういうのはわかるのに、肝心なところで鈍感だな。僕は惚気話を聞いてる気分だよ」

 

「どういう意味?」

 

「教えてやらん」

 

 急に突き放された。解せない。塩谷はむんと口をへの字に曲げて、口を割りそうもない。かくなる上は……

 

「ところで……お茶請けに、お菓子を用意しているのだけど」

 

 俺は鞄から菓子箱を取り出して、精一杯の淑女スマイルとともに差し出した。

 

「その手は喰わん」

 

「ど、どうして!? ほら! ご、ご覧遊ばせ? なんの変哲もないチョコレートでしょう!?」

 

 (いぶか)しむ塩谷に、俺は菓子箱の蓋を開けてみせた。

 

「いや、この流れで、淑やか営業スマイル貼り付けて出されたものが“なんの変哲もない”はずがないしな。やましいことがあると口調が変わる、アンタそういう仕様か?」

 

 なせだろう、完全に手の内がバレている。しかし、だからといって退けない。

 

「チッ──失礼ね。純粋な厚意じゃないの……な、なにもやましいことなんてなくってよ? (わたくし)の口調は初期設定につき、お気になさらず。さぁ、お上がりなって?」

 

「今舌打ちしたよな!? ますます怖いんだが!? いったいなんなんだそのチョコは」

 

「ただの自白ざ──チョコレートよ? 後遺症も離脱症状もないから安心して頂戴」

 

「尚のこと安心できるか!! 不純な悪意ではないか!」

 

「ごちゃごちゃうるせぇわね……! いいから、食っちまいなさい! ほら、あーん」

 

「いや、食べない! 僕は絶対食べないからな!?」

 

 俺が身を乗り出して、馬乗りになり、抵抗する塩谷の口に向かって自白剤入りのチョコレートを押し込もうとした、その時。

 

──ガチャ

「やっほ〜遅れてごめん……ね?」

 

「……2人とも、今度はなにやってんの?」

 

 生徒会室の戸が開くと、怪訝な顔で冬司と柚穂さんが立っていた。

 目線の先には馬乗りで組み合う思春期男女。いつかの再放送のような巡り合わせに、ラブコメエネルギーの存在を疑わずにはいられない。

 

「また、またこのパターンか! 一度ならず二度までも……もう、勘弁してくれ──!!」

 

 夕暮れの生徒会室に塩谷の悲痛な叫声が席巻した──!

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