エセヒロインは余談を許さない〜“完璧美少女”を演じる悪友が可愛くて困る!だが“俺も”演り返す!~   作:隣ワニ

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6話 アホと天才は紙一重。だから予断を許さない。

「……あうあう……」

 

 床に手をついてしょぼくれる美少女。

 アイドル顔でゆるふわおさげ、おまけに胸も大きい(大事)……

 

 この美少女、恥も外聞もなく地団駄を踏み、あげく俺を押し倒そうとしてきた。

 かと思えば今はこうしてしょんぼりしている。

 騒がしいのかなんなのか、忙しい奴だ。

 

「……なあ呉久、もう詩織さんいねえよな……?」

 

「たぶん……? もういないとは思うけど……どっちにしろ、詩織姉さんなら警戒したって無意味だぞ? 格上相手の時はいかに本気を出させないかが勝負所なんだ。こちらの被害を最小限にしつつ早急に満足して頂く。このスリルがたまらんのさ……」

 

「負け犬根性……」

 

「なんとでも言え。石の上にも三年。俺は尻に敷かれて更に数年。慣れれば心地良いもんだぞ?」

 

「お前はそれでいいのか……」

 

 詩織姉さんは不可避の災害である。トラブルは言うまでもないが不利益ばかりでもない。

 今回そのお陰と言ってはなんだが、こうして冬司に冷静さが戻り俺は押し倒される寸前で解放された。

 案外詩織姉さんは俺を助けるつもりで乱入してきたのかもしれない……考えすぎだろうか?

 だとしたらいったいいつから……?っと。

 なんだか身震いがする。詩織姉さんについて考えるのはよそう。

 

 そういえば冬司はあれだけ暴れたというのに未だパンツを見せていない……そういうなにか見えざる力でも働いているのか? だとしてもなんとかして拝めないものか……

 

「あ。冬司のこと詩織姉さんに話さないとじゃんか……話していいか?」

 

「まあ……良いけど……なんかお前もシスコン入ってきてないか?」

 

「え……どこが……? さすがにそれはない……はず? ないよな?」

 

「詩織さんやっぱ怖ぇ……」

 

「ま、まぁ、それは置いといて。お前も詩織姉さんの毒牙にかかっちまったときは一緒に踊れるな? 一蓮托生というやつだ相棒。ふふふ」

 

「なんかおまえ嬉しそうに話してね……?」

 

「そう聞こえたか? まぁいい。俺ははやく詩織姉さんが用意したハーブティー取ってこないとダメだからな。すぐもどる」

 

「……そういうとこだぞ」

 

 部屋を出て保冷庫へ向かう。ご丁寧に書き置きを添えたケーキが2つ用意してあった。

 

『先程はお楽しみとは露知らず失礼いたしました。ごちそうさまでした。ハーブティーは水出しのレモングラスをご用意しました。御夕食後にもお茶を用意してます。お嬢様 詳しく聞かせてくださいね? (威圧)』

 

 書き置きによれば夕食後、俺は詩織姉さんから詰められるという予定が入ったらしい。

 あとなんだ「ごちそうさまでした」って。

 とりあえずティーセットを持って部屋に戻る。

 

 自室のドアを開ける。そこには────ベッドで顔を赤らめ、秘蔵の[すけべえ(自主規制)]本を熟読する美少女(冬司)がいた。

 

「あっ、あっ、あっ、」

 

 言葉にならない……ティーセットぶちまけるくらいには動揺してる。とりあえずそれらをテーブルに置いて──よし俺、まだ冷静だ。

 このまま、このまま冷静に……

 

 しかしここで、冬司のいやらしい視線が俺を捉えたのがわかった。

 

「……おー呉久……ふむ……その淑やかな見た目でこんな[スケベエ]読んでるって想像すっと……それはそれで……なかなか」

 

 無理だった。普通無理だろ?──とても冷静ではいられない。

 

「……やっ、おまっ、なんでっ、」

 

 冬司は震える俺を気にとめず。

 

「なんでって……そりゃあ性癖知った仲なんだし?当然……だよなぁ?」

 

 俺の肢体と[すけべえ]本を両端とした卑猥な視線のシャトルラン。ペースを上げる冬司の顔が紅潮していく。

 

「いや、それはそうなんだけどっ、ちょっ!〜〜いい加減読むのやめろ!!」

 

 思春期のバイブル、さながら性書と言ったところか。

 現実世界でうだつの上がらない俺が求めた妄想世界。俺はベッド下猥褻図書館秘蔵の[すけべえ]本から着想を得て理想の美少女像(妄想)を形作ってきた。俺を受け入れてくれる女神は今まで形而上にしか存在し得なかった美少女のイデア、idolだ。

 

 今日に至るまでそんなものが目の前に体現するなんて夢にも思わなかったし、あろう事かその女神はニヤついた悪魔の顔で俺を徹底的にバカにしようとしているなんて……

 

 これは一体どんな悪夢だ!? こんな現実許していいのか!? いいはずがないッ

 この女神、俺の感覚と知覚が理性と認識をぶん殴って塗り替えて……

 

 ぁぁぁあああああ……!!とかあれこれ呑気なこと考えてる場合じゃねぇええええ

 

 俺はベッドまで駆けていた。

 

「……なぁっ!……ほんとやめッ!てっ!……なぁ!返せッ!!」

 

「いやー呉久、お前、ほんとこういう正統派の女の子好きだよなあ……?」

 

 ニヤつき、煽ってくる。

 

「ねえ!……返っ!」

 

「……2次元でも3次元でも、なんか今のオレみたいな子ばっかだなあ……?」

 

 気づかれてしまった。よりによってコイツに。

 俺の蔵書は所詮下らないもの(理想の美少女を前にすればもはやそう呼ぶ他ない)だが、それでも燻っていた俺の半生を支えた妄想生活の大切なバイブルでもある。馬鹿にされるのは我慢ならない。

 

  しかし同時に、理想の美少女(冬司)を相手に俺の蔵書が霞んでしまうのは火を見るより明らかであり、思いつくあらゆる批難や反論は眼前の圧倒的説得力(びしょうじょ)にねじ伏せられるのだ。

 

 なにより、理想の美少女に1番読まれたくない物を目の前で読まれているというこの状況が、なにを置いても恥ずかしい‼︎‼︎

 

「〜〜〜〜〜〜ッ」

 

 これでもお腹いっぱいなのに、どうやら冬司は俺を再起不能にしたいらしく。 

 

「……これエロいな……う〜ん……こんな感じか? なあ呉久?どうよ??」

 

 冬司(美少女)は[すけべえ]本を真似て[すけべえ]ポーズで悩殺してきた……実物の破壊力がやばいですよ……たまりません……

 

「……あっ、良ッ♡……って! いい加減にしろ!!おいっ! このッ!」

 

 俺は本を取り返そうと必死で組み合う。

 

「ほっ! ははッ! いや〜呉久女の子になってクソザコになったなァ? ほら! 踊れ! 踊れ!」

 

 が、俺の手は空を切る。

 

 そして俺が[すけべえ本](1)を取りあげる頃には[すけべえ本](2)を広げてニヤつく冬司がいて、 その[すけべえ本](2)を取りあげた頃には[すけべえ本](3)で煽ってくる冬司が目に入る……

 

 やがて[すけべえ本](n)に行き着いて終わるかと思えば、取り上げたはずの[すけべえ本](1)を手にとって煽る冬司……

 そしてまた[すけべえ本](2)からの繰り返しが始まる……といった具合で。

 醜い無限ループが完成していた……

 

 気づけば俺のベッド下猥褻図書館に秘匿可能な最大数であるn冊の[すけべえ本]は須らく散乱しており、その淫らな一面を晒して部屋中を桃色に染めていた。

 

「やめて……やめてよぉ……ねぇ……っ! とうじぃ……」

 

 力尽きた俺は冬司に雪崩こむ。

 

「あっ……おいっ」

 

 疲れすぎて女神のたわわを噛み締める余裕もない。体力のないこの身体が憎い。

 

 

「ハァハァ……やめて? ねぇ?……もうなんでもするからぁっ……!」

 

「〜〜ッ、かわいい…… ん? いま、何でもするって?なんでもするって言ったなァ! ふふ…… その言葉を待ってたぜ!!」

 

「ふぇ……?」

 

「……呉久、お前オレみたいな子好きだよなァ?? これだけ証拠が揃ってて文句は言わせねえぜ!!」

 

 部屋一面に散らばった[スケベエ]には銀髪(コスプレ)で、おさげで、おっぱいで……明らかに今の冬司のような女の子を誂えているわけで……

 

「うぅ……そりゃ見た目は……な……?」

 

 ここまで物的証拠に囲まれれば俺に言い逃れは出来ない。

 

「それでこういう[すけべえ]な事をしたい。そうだな? このむっつり!!」

 

「申開きもございません……」

 

「そんでオレはお前みたいな見た目の女の子どタイプなわけよ。互いの性癖も知ってる。そんなオレたちが付き合えば互いの妄想を現実にできる!!」

 

「うん……?」

 

「ほらほら〜この[すけべえ]本みたいなことも、オレなら叶えてやるぜ〜? オレは今更引かないしな??これが俺とお前が付き合う最大の理由メリットってワケよ!!」

 

「そう、なるのか……」

 

 筋が通っている。冬司のクセに。

 

「それにさっき、“なんでもする”っていったよな??」

 

「ぃっ……てしまった……な」

 

 冬司とは悪友であり腐れ縁である。しかし無二の親友と思えるほどに気心の知れた仲である。おまけに外見はどタイプの女の子……

 

「なぁ、呉久?付き合わない理由無くないか……?」

 

 おかしい、「付き合う」なんて頭の湧いた提案が今は魅力的に思える……

 そして逡巡するうちに様々なことに気付いて末恐ろしくなった。

 

 冬司が理にかなったことを言っただけではなく、これでもかと散乱した[すけべえ]本で俺の弱みを握っていて、あげく言質まで取っている。

 そしてなにより、いつでもガチ恋ビームで俺の頭をパーにして言うことを聞かせることだって出来るのだ。

 こうも外堀を埋められていたとは……完敗だ。

 

「……天才だった……俺はお前を侮っていた。俺はお前が恐ろしい……」

 

「てれるな〜?もっとほめていいぜ?」

 

「……褒めてない……この悪魔め……!」

 

「完膚なきまでオレに丸め込まれる呉久……く〜たまらん! ……なぁ?なぁ?もう付き合っちまおうぜ?かるーくでいいから」

 

 軽く……確かにそれもいいだろう……しかし。

 

「ぅ〜〜〜〜〜ッ! でもっ! でも……」

 

「まだなにかあるのか?」

 

 くだらないのかも、童貞丸出しかもしれない、ピュアピュアで笑われるかもしれない、しかし俺は。

 

「“冬さん”は!!! 俺の初恋だったんだよッ!!!まだ諦められない! っていうか……いや、諦めるしか無いんだけど……なんていうか……俺、初恋がめちゃくちゃになってまだ整理ついてないっていうか……」

 

「えぇ……?……なんかお前、かわいいな……?」

 

「ッ……! 仕方ないだろ……! それにお前だって“茉莉ちゃん”いなくて悲しいんじゃないのか!? いくら外見がお前好みでも結局中身が俺で、野郎なのは変わんないんだぞ?」

 

「まあ、ちょっとがっかりだけど……なんかお前ちょこちょこ女の子してね? それは狙ってやってんの?」

 

「……は、はァ!? 俺が一体いつそんな……!?」

 

「それはさっきからちょこちょこ……って自覚ないならまぁいい。清楚なゆるふわお嬢様とは違うが、それもまた“茉莉ちゃん”かもなぁって解釈したぜオレは」

 

 野郎丸出しの冬司から“茉莉”なんて呼ばれて……なんだかムズムズした。

 

「なんか今の名前呼ばれるって慣れんな……」

「はは……まぁ名前も茉莉に変わってるらしいじゃねーか。外見も茉莉ちゃんだし、女々しいお前から茉莉ちゃん成分感じるし……別に消えた訳じゃないな〜って。そう解釈したら傷が浅い事に気付いてな?ま、呼ぶのは呉久でもいいんだけど」

 

 ……確かに、俺も冬司から“冬さん”を感じることはあった。もうそれでいいんじゃないかとも。

 

「そういうわけでオレは割と吹っ切れてるぞ? それにオレはお前のためなら“冬ちゃん”で居てやってもいいぜ?」

 

 実に魅力的な提案だ。

 

「ッ────!」

 

 いったいなにが冬司をそうさせるのか……

 アホだ悪友だと罵っていた親友がなんだか妙に達観しているように見えた。

 俺だけがつまらない事にこだわっているみたいじゃないか。冬司にここまで良いようにやられたのは初めてだ。

 

 しかしこのとき心を揺らした感情が、寂寥感という符合しないものだったことに俺はもっと注意しておくべきだったのかもしれない。

 

「なぁ……なにがおまえをそうさせるんだ……?」

 

「そりゃあ、ゆるふわ清楚お嬢様といちゃラブおせっせするためにきまってんだろ? ある時は優しくある時は激しく……ああ待ち遠しいぜ」

 

「うわあ。なんかおまえ……すごいな」

 

「ま、そのためにオレは“冬ちゃん”でいることも厭わん! オレがお前のためにここまでやってんだ、キチンとカラダで払ってもらうぞ!!」

 

「いや、今更“冬さん”で来られても困る……着ぐるみの中見たみたいな感じ。俺は……なんかまだ整理つかないし……保留させてくれ……」

 

「え〜〜〜〜!? これだから童貞は。 チキンめ! 意気地無し!」

 

「……うっさい」 

   

「まぁいい。お子ちゃま呉久くんのために? 今日はひとまずそれで手を打ってやろう! オレが“冬ちゃんモード”使わないことに感謝するんだな!!」

 

 ひとまず引いてくれた……か……? 今は時間が欲しい。いろいろ考えたいし。カンベンしてくれ。

 

 その後俺と冬司は粛々とケーキを頬張り、お開きとなった。

 冬司とは長いが、こんな空気になるなんてことは1度もなかった。口数の少ない冬司はそれはそれは不気味だったのだが……交際を申し込んで(?)その直後だし無理も無いかもしれん。

 なんて思っている俺に────

 

「よし、決めた。お前にはオレを好きになってもらうぞ!? 覚悟しとけよ────」

 

 帰り際、それだけ残してニヤリと笑った彼女の顔が頭から離れず……俺は、彼女が帰った後も閉まった扉の前に立ち尽くしていた。

 

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