機動戦士ガンダムSEED FREEDOM~IF STORIES~短編集 作:フォレス・ノースウッド
今回はスウェンの境遇も通じて、デスティニープランを受け入れたとして、コズミック・イラから争乱の連鎖を断ち切れたか?に踏み込んでみた回。
スターゲイザー見直して書いてると、最初見た時以上に実はデスティニープランのアンチテーゼが入っていたと実感。
公式でも本編キャラとの絡み見たいな~(ムチャイウナ
本編より心身ともに成長した二人ならではのIFシンステもどうぞ。
星々の邂逅 後編
ブルーコスモス残党軍からこれで二度目の襲撃を受けたDSSDの宇宙ステーション《トロヤ》の補修作業や周辺宙域の機体残骸と言った後始末の作業をひとまず終え、母艦(ミレニアム)が迎えに来るまでの間、施設内で一時の休息時間ができたシンとステラは、回廊内を歩いている。
「ステラ、スウェンさんと会った記憶は?」
シンは作業中に話す時間が無いかと頼まれたDSSDを警備するシビリアンアストレイ隊の隊長であるスタッフ――《スウェン・カル・バヤン》の指定した落ち合う区画へと向かいながら、首を傾げて頭上に疑問(はてな)を浮かばせるステラに問う。
「うーん……やっぱり覚えがない」
生体兵器も同然の強化人間(エクステンデット)だった頃のステラは、ある種の〝メンテナンス〟の一環として、定期的に性能を十全に発揮出来る様、直近の戦闘で蓄積されたストレスや恐怖の感情、そして不必要とされた記憶を消去させられており、そのメンテを担う専任スタッフから《最適化》と呼ばれていたと言う。
その頃の彼女にとっても絶対に忘れたくないシンとの交流の思い出も、何度兵器としては邪魔な故障(ノイズ)扱いされて消させられたことか。
《カーボンヒューマン》の技術で複製された肉体に、オリジナルのステラの脳を移植する形で生まれ変わった今は、ほとんどの記憶は甦っており、彼女を知っているかのようなリアクションを見せたスウェンと過去に面識があったか洗いざらい深掘りしてみたが、ステラには覚えがなかった。
「でもあの人にはあって、元軍人だったのは間違いないから……《ファントムペイン》の別部隊にいたとは思う」
シンもその可能性を推察していたので頷く、最近彼が仕事の合間に読んだ一冊の二十一世紀初頭に出たSF小説で、特殊部隊所属の主人公が追う敵役が〝軍人には独特の歩き方がある〟と言っていたが、それを参考にスウェンと正規の訓練を受けていないキラのを比較して、確かにスウェンは正規軍人の歩き方をしていた……DSSDの前職が軍属だったのは間違いない。
まあどの道本当のところは、当の本人が話してくれるだろうからと、推察を終えたタイミングで待ち合わせ場所の区画(へや)に繋がる自動扉の前まで到着し、入室してみると。
「わぁ~~」
ステラは区画内の光景を前にすみれ色の瞳を輝かせた。
ここはどうやら植物園らしく、色んな種類の植物が立ち並んでいる。
実験室と憩いの場を兼ねているのか、部屋の中央を陣取る池の水面は水連ら池花と噴水が彩り、水中はライティングで幻想的に演出させられている。
「いい匂い~~」
確かに心安らぐなと、シンも植物の香りと、その場をくるくると軽く踊るステラの愛らしさを味わいながら、先に来て待っている筈のスウェンを探そうと見渡していると、窓際の方に立っている彼の姿があった。
不思議とシンは、スウェンの横顔をまざまざと見つめてしまう。
向こうはと言えば、空を見上げる様に星々を眺めているようであった。
「スウェンさん、お待たせしました」
シンは呼びかけると、星空観賞に夢中になっていたらしいスウェンは、ようやくシンたちが来ていたことに気づいたらしく。
「すみませんアスカ大尉、こちらから呼び出しておいて」
「いいですよ、それに、俺のことは名前の呼び捨てで構いませんよ、こっちが年下なわけですし」
指で頬をぼりぼりしてシンが提案するのは、階級呼びされることにまだ慣れ切っておらず照れ臭いこともあるが――。
〝だーかーら……ハイネだって〟
ステラとお互い敵同士であることを知らなかった頃、彼女からの攻撃から自分を庇って殉職した上官の影響もあった、ことはさておき。
「ステラも……私も、是非ステラと名前で呼んでほしいです」
「………」
相手がコンパス所属のMSパイロットだからと言って畏まることはないと表明するシンとステラに対し、少しの躊躇いの間を置いて。
「分かった……シンに、ステラ」
スウェンは顔に僅かなこそばゆさも見せつつ二人の希望通り、ファーストネームの呼び捨てに呼び直す。普段は感情の起伏が現れる機会が少なさそうな端正な顔から、微かに笑みを彼らに見せる。
二人も身の硬い態度で接せられるよりはずっと心地良かったので、両者の間に流れる空気は、大分柔らいでいた。
「俺が君たちを呼んだ理由は、薄々察していると思うが……」
一方で、いよいよ本題に入るとあって、周りの空気がまた重さを帯びるのを感じ取り、シンとステラは息を呑み。
「かつて俺も、《ファントムペイン》所属の兵士だった……ステラとは、別の部隊にいたがね」
スウェンは、自身がステラと同じ、ブルーコスモスとその母体だった〝死の商人〟、軍需複合体組織――《ロゴス》直属の実質私兵部隊であった地球連合軍の《第八一独立機動軍――ファントムペイン》に属していた過去を二人に明かし始めた。
ところと時間は戻って、ミレニアム艦内のレクレーションルーム。
ソファーに腰掛けるシンは缶コーヒーを少しずつ飲む傍ら、レクルーム内に複数置いてあるタブレット端末の一つを使って調べものをしている。
「この記事って……」
「うん、スウェンさんの家族の……」
シンが見ていた記事(アーカイブ)の内容は、衛星関連の技師だったスウェンの父が開発した人工衛星《HB-502》のお披露目パーティーの最中に起きたテロのこと、この惨劇で彼の両親含めた多くの人が亡くなった。
奇跡的に助かった幼少期のスウェンは、家族の死を飲み込めぬまま天涯孤独となり、ブルーコスモスが出資する兵士育成施設に連れて行かれたと言う。
以来彼は同じ境遇を抱えた孤児たちとともに、ブルーコスモスの思想の下でコーディネイターを殲滅する為の兵器に仕立て上げられる洗脳教育と、過酷な特殊軍事訓練を半ば強制される形で受けさせられ、心身ともに疲弊してゆく毎日だったと言う。
〝ステラたちエクステンデットほどでは無いが、俺の身体も投薬による人体改造を受けたさ……〟
当時を打ち明けるスウェンは、その証拠である注射痕が幾つも残る鍛え上げられた腕を見せた。
〝なんか意外です、連中なら寿命も縮める過剰な強化措置を施しそうなイメージなんですが……〟
〝担当の教官が、当時の盟主に食ってかかるくらいの良心を残していた方だったお陰で、そこまで身体を弄られずに済んだんだ〟
とは言え、時を経て最終的にはコーディネイターであるザフトの一般兵をも上回る戦闘能力を獲得して兵士としての頭角を現したスウェンは、ファントムペインに配属され……連合が開発した最初の《ガンダムタイプ》五機の後継機の機体を借り、パトリック・ザラを妄信する過激派が《ユニウスセブン》の地球落下を目論み引き起こされた《ブレイク・ザ・ワールド》をきっかけに始まってしまった《第二次連合・プラント大戦》の戦火の裏側で、受けた命令のままに〝汚れ仕事〟を実行する日々を送っていたと言う。
〝俺たちが請け負った他の任務がどれだけのものかは、あとは想像にお任せする〟
と具体的な任務の仔細は伏せられたが、同じくかの部隊にいたステラと、彼女の同胞たちの末路をロドニアの研究所で目の当たりにしたシンならば、二人各々の想像だけでもどれだけ非人道的で凄惨なものだったか察することができた。
「多分今のシンでも、義憤でガラスにパンチしてたかも……」
「あ~~……やってたかも」
ステラに図星を刺されたシンは苦笑う。
「あの人、自分の身の上を口では他人事みたいに話してたから、もっと正直に怒ってもいいんですよって、怒ってたわ」
壮絶な過去をシンたちに打ち明けるスウェンの物腰は、表面的にはまるで機械音声の如く淡泊したものだったが、裏を返せばそれぐらい心を押し殺し続けなければならない程、冷徹な兵士の仮面の裏に〝優しさ〟を捨て切れずに持ち続けられた証。
シンも前大戦で自分を押し殺して戦火に飛び込み、心の傷口(トラウマ)から絶えず両親の血を流したまま戦いに明け暮れていた経験をしてきたので、スウェンの寡黙(ポーカーフェイス)さで隠された心の悲鳴の声を聞き取れたのだ。
そして話題はステラとの面識があった件について。
〝ステラと会った……と言うよりはすれ違った程度なんだが、搬送中のデストロイを護衛任務を終えた直後のことだ〟
丁度シンの手で返されながらも、長時間〝最適化〟されず衰弱し切り、ストレッチャーの上で眠ったまま運ばれる痛ましい姿を、偶然目にしたと言う。
〝あの後デストロイに乗せられたんだと察していたから、まさか君が今はコンパスにいる事実にはびっくりさせられたさ〟
格納庫でステラの顔を見て驚いた表情を浮かべていた真相を聞いたシンは、お互いスウェンとステラがファントムペイン所属の兵士だった経歴はご内密する約束を交わした上で、彼女がコンパス所属のMSパイロットにして、兵器なら〝一人の人間〟に生まれ変われた経緯を話し。
〝運命的な転機とは、本当にあるものだな……〟
〝スウェンさんは、何がきっかけでDSSDに転職したんですか?〟
〝それは――〟
シンにとっても、ステラにとっても〝生き写しの鑑〟同然だったスウェンの兵器(マシン)であることを強いられる人生に転機が訪れたのが、前大戦末期に起きたファントムペインによる、DSSDのステーション襲撃事件。
スウェンが所属していた部隊は、スターゲイザーと、かの機体に搭載されているAIユニットを奪取する為、発足当初こそザフトからの資金援助は受けたがCE73の時点で中立の立場だったDSSDの基地(トロヤ)を、テロ紛いの手段で一方的に襲撃。
〝関係者も全て抹殺せよ――と命令だった〟
〝あいつらは……どうしてこうも〟
〝シン……〟
これには現在のシンでも、拳を握りしめ震えるほどの怒りが無き、ステラもやり切れぬ想いを抱え、彼の方にそっと手を置いて宥めた。
だが最終的に、この襲撃作戦は失敗に終わった。
護衛のシビリアンアストレイ部隊が粘りに粘って迎撃していたこともあるが――。
〝セレーネも、スターゲイザーに乗って出撃した〟
〝え?でもあのガンダムって戦闘用じゃないでしょ?〟
《ヴォワチュール・リュミエール》を搭載し、デスティニーに匹敵する高機動力を持つ以外は非戦闘用MSのスターゲイザーではあったが――。
〝あの機能の応用で、機体周囲に、攻防一体なリング状のビームサーベルを展開し応戦してきてね〟
持前の機動性と、従来の戦闘用MSには無い攻撃手段、さらにはセレーネの命がけの奇策によってMS隊はスウェンが乗っていたガンダムタイプ含め壊滅、母艦もDSSD所有のレーザー発振衛星《アポロンA》から発射されたプロパルジョンビーム砲の直撃を受けて撃沈し、最終的に生き残ったのはスウェンだけだった。
〝セレーネの温情で助かり、兵器としての運命の輪から外れた俺に、彼女からスカウトされた……最初は断ったが………もう一度、目指したくなったんだ……諦めたのに、ずっと大切にしまっていた……俺の〝夢〟を――〟
「〝星を、目指したい〟……か」
ソファーに腰掛けたまま窓の向こうの星々を眺めるシンはスウェンが幼少期から抱きながらも、その境遇ゆえに一度は諦め、なのに捨て切れぬまま、ずっと心の奥底で秘めていた彼の〝夢〟を発し。
「俺……スウェンさんの〝夢〟を、また奪うところだった」
隣で彼の言葉を聞いたステラは、そこに籠っている意味を悟る。
《デスティニープラン》
ギルバート・デュランダルが、前大戦末期に提唱した新たな世界秩序。
今を生きる者だけでなく、これから生まれてくる命も例外無く、全ての人間の遺伝子を解析し、各々が持つ遺伝的特性に合わせた〝人生〟を提供する社会システム。
誰もが生まれながらに有する資質に準じた役割だけを全うするだけの世界、それは確かにある種の公平さが保証されたユートピアな一面を持つ。
「あの世界じゃスウェンさんは、死ぬまでずっと兵器にさせられてしまう」
だが、生まれ持った資質(いでんし)だけで、人間の生きる時間も目的も定め、他の生き方を許さぬ世界では、スウェンの〝星を目指す〟夢は、目指そうとする意志を持つことさえ許されなくなってしまう。
それどころか、なまじ兵士だった彼は、一生自分の心を押し殺したままその呪縛から逃れならぬ生涯を押し付けられただろう。
「〝デスティニープラン〟の世界で、戦争を無くすってことは、みんな昔のスウェンさんみたいな生き方をしろってことだ……アスランがあの時言ってた通り……」
〝シン!議長にとって人とはただの役割、目的の為の道具に過ぎないんだ!そんなのは連合のエクステンデットと同じだ!〟
アスランはかつてシンに、デュランダルが作り上げようとする世界とはスウェンやステラたちエクステンデットと同じ生き方を強いるものだと警告したことがある……今ならシンにもあの言葉の意味(おもさ)を痛いほど理解できた。
全人類がそんな生き方ができるかと言われれば、答えは否だ。
そもそもの《コズミック・イラ》に於ける戦乱の最大の要因は、遺伝子操作された《コーディネイター》とそうでない《ナチュラル》の、能力差から生まれた確執だ。
そんな時代に、遺伝子で生き方を縛る秩序を齎せばどうなるか?
あらゆる職業、職種も要職に付けるのはコーディネイターばかりとなり、ナチュラルが取って代われるチャンスは一度たりとも訪れない。
遺伝子調整は現在も莫大な費用がかかる為、それを可能とする富裕層はコーディネイターばかりとなり、逆にナチュラルの大半は貧困層に身を落とし、人種間の格差は第一世代コーディネイターが台頭した時代以上に溝が広がるだろう。
シンの〝戦争の無い世界〟と言う純粋で切実な願いとは裏腹に、デュランダルが《レクイエム》や《ジェネシス》ら大量殺戮兵器を用いた強引な手法を取らずとも、遠からずデスティニープランを受容した世界でも、戦火の悲劇はまた繰り返されただろう。
「そんなの……俺にはとてもできない」
かつてデスティニープランの提唱する秩序を、世界に押し付ける側に立ったシンの身体に寄り添いながら。
「ステラも……死ぬまでずっとシンが戦う世界なんて、嫌だよ」
シンはデュランダルから《デスティニー》を与えられた瞬間から、デスティニープランの秩序に反抗する不穏分子となる勢力を排除、全て根絶やしにする〝役目〟を押し付けられた。
他の生き方を選べぬその世界では、それこそもシンも、自分やスウェンの様に心を押し殺して、秩序を守る名目のまま、殺戮をし続ける未来が待っていた。
自分が〝生体兵器(エクステンデット)〟だった事実を知りながらも、それでも一人の人間として見てくれた、接してくれたシンにそんな十字架を背負わせるなど、ステラにとっても絶対に許したくない所業だった。
「あの世界じゃステラは、シンと出会うことも、〝好き〟になることもできなかった」
デスティニープランが否定された今の世界でも、まだ戦乱は続いているが、それでもステラには、シンが〝処刑人〟となる生涯が確定してしまうあちらの世界にならなくて、良かったと、心から思わずにはいられなかった。
「俺もだよ、ステラ」
ステラからの温もりで、思い詰め過ぎそうになったシンはステラの手の甲に触れて微笑みを贈り。
「さて、もう辛気臭い話はこの辺にしとこ~~!」
その場から立ち上がって再び窓越しの広大な宇宙に目を向けると、その場で目を閉じて合掌する。
どうやら再び流れ星が飛んでいたみたいだが、ステラが目線を宇宙に向ける頃には、既に消え去っていた。
「シン、何の願い事をしたの?」
ステラは首を傾げて、少し上目遣い気味に問うが。
「あ、それは………―――よし!」
少しなにやら考え込む沈黙を経て、シンは飲み終えた空のコーヒー缶をダストボックスへと投げ、一発で箱内へとシュートを成功させ、ガッツポーズを取る。
「今投げた缶が入りますようにって」
「え~~ほんとかな~?」
「ほんとだって!」
明らかに咄嗟に浮かんだ嘘で誤魔化しレクルームから出ようとするシンに、ステラは今にも頭と腰から猫の耳と尻尾が生えてきそうな猫顔(にやけがお)を見せ、二人は仲睦まじき兄妹よろしく、その場を後にしていった。
同時刻のDSSDステーション――《トロヤ》。
「スウェン・カル・バヤン、《スターゲイザーガンダム》――発進する!」
スウェンはAIユニット育成も兼ねたテスト運行の為、今日も〝上を見る者、その向こうにある星を見る者〟と言う言葉(ねがい)を込めて名付けられたガンダム――《スターゲイザー》に乗り、自身の夢そのものたる星々が煌めく宇宙(うみ)を見上げ、駆け抜けていくのであった。
終わり。
読書家の一面があるシンが最近読んでたと言う本は、故・伊藤計劃さんの『虐殺器官』です。彼の小説、時代を先読みした予言書として、オーブ辺りとかで再評価されてそうなんだよな、CEの末期具合を見てると(オイ