最長かな?とにかく長いです。
分けようか考えましたが、途中まで書いていたので面倒になって、そのまま投稿します。
拾った救難ポッドを解錠し、ドアを開けようとしている。
マードック軍曹が「開けますぜ。」と言い、ハッチが微かな音を立てて開いた。周囲に待機した兵士が、カナデさんが銃を構える。そこへ――――
『ハロハロ……』
間抜けな声を発しながら漂いでてきたのは、ピンク色のボール状の物体だった。パタパタと耳が羽か翼のように羽ばたくように動き、玉の真ん中には二つのつぶらな目が光っている。どうやらペット用ロボットらしい。何者が出てくるかと身構えていた一同は中央を横断した珍妙な物体に、完全に毒気を抜かれた。
「ありがとう、御苦労様です。」
ハッチの中から、愛らしい声がし、キラは慌ててそちらへ目を向け直した。
フワリと視界いっぱいに淡いピンクが漂い、キラは目を瞬かせた。柔らかなピンク色の髪と、長いスカートの裾を靡かせて、ハッチから出てきたのは、キラと同じくらいの年齢の少女だった。
白い肌、ほっそりとした腕、愛らしく優しげな顔には、周囲を幸せにするような笑みがたたえられている。その少女が宙に浮かんだ様子は、まるでシャボン玉のように綺麗で繊細で儚げに見えた。
「あら?………あらあら?」
慣性でそのまま漂ってしまいそうになる彼女の体を、キラは我に返って手を掴み止めた。細く柔らかい手首だった。
「ありがとう。」
間近で少女がニッコリと笑顔を向けてくる。空の色のような綺麗なブルーの目で見詰められ、キラは自身の顔が赤くなるのを感じた。
ふと、少女の顔が疑問符を浮かべた。
「あら?」
その目は、キラの制服の徽章に止まっている。
「………あらあら?これはザフトの船ではありませんのね?」
おっとりとした口調で告げられた内容に皆がぽかんとし、バジルール少尉が深々とため息をついた。
そして彼女が周囲をくるくると見回すとあるところで顔が止まり、身体が震えだした。
みるみるうちに目に涙が溜まり、ぐいっと僕の腕を引っ張り、後方へ浮かんでいった。
「カナデ!!」
引っ張られた反動で前方にたたらを踏んでいるとカナデさんを呼ぶ声がした。慌てて後ろを見るとカナデさんと少女が抱き合い宙に浮かんでいた。
フワリと浮かぶその様子が1枚の絵のように美しく感じた。
カナデさんは抱き締めようと両手を広げたが数瞬の恐らく躊躇を見せた後、優しくそっと彼女の背に両手を回し、壊れ物を扱うかのようにそっと抱き締めた。
「ポッドを拾っていただいてありがとうございました。わたくしはラクス・クラインですわ。―――これは友達のハロです。」
少女は私達の前に、ピンクの球体のロボットを差し出して紹介する。ハロというロボットがまた、〈ハロハロ・ラクス、オマエモナ〉と間の抜けた声を発し、横で立っているムウがガックリと頭を抱えた。ナタルも私も内心はそうしたくなる。どうも調子が出ない。彼女の斜め後ろに立っているキリュウ二佐が眉間に深い皺を作って沈黙している。格納庫での一件、彼女と何かしらの関係があるのは分かったが………
「なんて言ってる?」
「聞こえない。黙ってよ、トール。」
「お前ら、静かにしろって。」
外からそんな声が聞こえてきた。どうやら彼女が気になったのだろう。外で聞き耳を立てているようだ。だけど外でそんなに大きな声を出したら駄目でしょうに………
横にいるナタルに頷くと彼女はドアの前に立ち、扉を開けた。
「お前たちにはまだ積み込み作業が残っているだろう!さっさと作業に戻れ!」
ナタルがそう叱責すると出歯亀をしていた少年たちは一瞬で逃げ出した。軍籍の男もいることに頭を抱えたくなった。
部屋の中から少女がヒラヒラと外に向かって手を振る。誰かに手を振ったのだろう。その時、少女の後ろにいたキリュウ二佐が声を上げた。
「キラくん、すまないが少し待っていてもらっていいかな?用がある。この話し合いが終わるまですまないが外で待機しててくれ。」
そう言ってナタルに扉を閉じるように促す。ドアが閉まり、静寂が戻るとムウが気を取り直して発言する。
「クラインねぇ………。かのプラント最高評議会議長どのも、確かシーゲル・クラインと言ったが………」
その発言に、ラクスは嬉しそうに手を打ち合わせた。
「あら、シーゲル・クラインは父ですわ。ご存知ですの?」
無邪気というか、自分の置かれた状況を理解しているのだろうか?そんなラクスを前に、更に尉官3人ガックリと肩を落とした。
「そんな方が、どうしてこんな所に?」
「わたくし、ユニウス・セブンの追悼慰霊のための事前調査に来ておりましたの。」
ラクスが相変わらず可愛らしい声で、中々に筋道だった話を始め、私達はハッとして姿勢を正した。
「そうしましたら、地球軍の船とわたくしたちの船が出会ってしまいまして。臨検すると仰るので、お受けしたのですが―――地球軍の方々にはわたくしどもの船の目的が、どうやらお気に障られたようで………。些細な諍いから、船内はひどい揉め事になってしまいましたの。」
少女の流麗な眉が、悲しげに寄せられた。
「そうしましたらわたくしは周りの者たちに、ポッドで脱出させられたのですわ。」
「なんてこと………」
思わず自身の思いをポロリと呟いてしまった。
「それで……あなたの船は?」
「わかりません。あの後、地球軍の方々がお気を鎮めて下さっていればいいのですが………」
そう言って、不安そうに斜め後ろに立っているキリュウ二佐に縋るような視線を送る。彼は結末を知っているのだろう。救命ポッドを回収した近くに、ごく最近破壊された真新しい民間船があり、その船には砲撃の痕があったなどと言う必要はなかった。彼女に向けていた視線を切り、暗く苦渋に満ちた表情を浮かべ横に首を振った。
それで彼女も察したのだろう。顔を戻し、頭を垂れた。
聞きたいことが終わったのでラクスを部屋で休ませることになった。ドアを開けるとキラくんが1人ポツンと立っていた。
「悪かったね、キラくん。」
「い、いえカナデさん。それで僕に頼みって何でしょうか?」
「彼女、ラクスを私の部屋へ案内してくれないかな?部屋の場所は分かるね?」
そう尋ねるとハイと返事をしてくれた。
「私が行くまで、すまないが一緒に居てあげてほしい。部屋の飲み物を出してあげてくれ。机の引き出しにクッキーなんかが入っているから君も好きに食べてくれ。」
「はい、分かりました。」
「暗証番号は………02051205だ。」
キラくんに番号を伝えると隣のラクスが嬉しそうにしているのが分かった。色々と複雑な感情で心がごちゃごちゃになりそうだ。とりあえず伝える事は伝えたので部屋に戻った。
すると3人の尉官がさっきと違ってピリピリした空気を醸し出していた。
「キリュウ二佐、そちらにどうぞ。」
そう言ってラミアス大尉が、さっきまでラクスが座っていた椅子を指差したので、此方は大人しく椅子に座る。
「さて、彼女の件は大体理解できました。それによって新たな疑問が浮かんできました。率直に伺います。貴方は何者ですか?」
真剣な眼差しで此方をしっかりと見て、問い掛けて来た。嘘を吐くのはフェアじゃないな。
「元ザフト軍特務隊FAITH所属、特殊作戦群隊長のカナデ・ドウジマだ。」
私の元の職場の経歴を伝えると皆が目を大きく見開き、言葉が発せられずにいる。3人がギギギッと顔を動かして見合わせて頷くと硬直から解けたのか質問が出てきた。
「特戦群のドウジマって黒い死神と云われたザフト軍のトップエースの!?」
ラミアス大尉の質問か確認の問いに頷きながら答える。
「地球軍にそう呼ばれているのは知っているが気持ちの良いものではないな。特戦群に他にドウジマは居なかったから私のことだろう。」
黒い死神も私が黒く塗装され、胸部に白の十字架、ピンクのモノアイのジンを使っていた所からきた。ザフトでは黒騎士や黒き流星と言われていた。何処となく恥ずかしい思いがある。
「ってぇ〜〜事は〜〜………俺とも何度か………」
フラガ大尉も恐る恐る尋ねてきた。
「ええ、グリマルディ、惑星防衛戦、月面軌道遭遇戦、地球降下作戦防衛戦などではお世話になりました。」
手で顔を覆い、天を仰いでいる。
「マジか〜〜〜、道理であんなに強い訳だ。納得だよ、クソッ。」
最後に吐き捨てる様に悪態をついた。それに対して私も苦笑してしまう。
「貴方の多方向からのガンバレル、対処にいつも苦労しました。」
私のヨイショに不貞腐れたような表情を浮かべて吐き捨てた。
「全部躱されて、お返しの一撃をいつも喰らってたよ。」
男二人のやり取りをナタルとマリューは顔を見合わせて苦笑した。何をやっているのか。
「では、本命の質問をさせていただきます。彼女との関係は?」
私の心を抉るような質問をしてきた。格納庫で抱き合ったのだ。ただの兵士と議長の娘と言っても、ここにいる誰も納得はしないだろう。
「私の両親が彼女の父シーゲル様に仕えていてね。執事長、メイド長として屋敷の全ての管理を任されている。そんな両親の間の子供だから彼女が赤ん坊のときからの付き合いでね。」
遠く懐かしい、そして大切で大事な大事な思い出を慈しむように語った。
「私が物心付いたら彼女の世話を少しずつ任されるようになった。彼女が初等科になる頃には全般の世話は私が担当するようなった。クライン邸の警護が任務だから軍事訓練も受け、SPとして勤務。そして彼女が15になる前にザフトに復帰し、戦場を駆けずり回り、後は君達が知っている通りだよ。」
「第三次カーペンタリア攻防戦で戦死したと?」
「正確には戦死ではないよ。MIA、戦闘中行方不明だ。機体は大破し、私は意識不明の重傷を負った。私は覚えていないのだがボロボロになりながら街にいたそうだ。それをたまたまアスハ代表の警護の方が発見し、保護と治療をしてもらった。それから恩返しとして、オーブの為に働いているということだ。」
一応話としては事実だからな。3人が顔を見合わせて頷くと納得したのだろう。
「分かりました。彼女の身柄ですがキリュウ二佐が預かり見て下さい。」
「ラミアス大尉!」
ナタルが驚きの声が上げた。
「バジルール少尉、私達には人手が足りていないし、彼女は女性で政治的配慮も必要な方よ。男性の軍人を付けることは出来ないし、そんな人手は無いわ。」
ラミアス大尉の言葉にバジルール少尉も沈黙するしか無かった。
「感謝する、ラミアス大尉。」
「いえ、私は貴方を二人より長く見てきました。なので軽挙妄動をなさらないと信じています。」
信頼を見せつつ、嫌な枷を嵌めてきた。彼女は慣れないながらも一端の艦長になりつつあるのだろう。
ザッと敬礼をし、部屋を退出した。さて、ピンクのお姫様のもとに行かなければ。あのお転婆娘をキラ君に長く面倒を見させるのは中々に大変な仕事だからな。
「すまない、待たせたかな?」
部屋に入りながら声を掛けると、二人が揃ってこちらを向いた。
「カナデ、生きて…生きていたのですね………何故、帰ってきてくれなかったのです?」
ラクスが目に涙を一杯に溜め、私に言ってくる姿が胸に来るものがある。
「私がMIAになった第三次カーペンタリア攻防戦はどう聞いている?」
私の質問に涙を幾筋か零しながら答えた。
「カーペンタリアに大規模な連合艦隊が来て、カナデがモビルスーツ隊の指揮を取り、幾度の総攻撃を跳ね返し、大きな被害を出しながら守りきったと…………その折、カナデが敵の玉砕覚悟の最後の攻勢で戦死したと聞きました。」
大まかな戦況報告はプラントにも入っているようだ。だが大きく違う点が幾つもある。
「まず、防衛線を幾重にも引いていたカーペンタリアは外縁で余裕を持って対処できていた。十分な戦力があったからな。空陸海の新型モビルスーツが大量に配備され、万全の態勢で待ち構えていた。敵は外縁で悉く打ち払われていたよ。」
「では何故…………?」
「地球軍の作戦が始まって早々に大規模な別働隊、強襲揚陸艦を用いた戦車大隊を別方向から派遣していたようだ。それを終盤にタイミング良く基地に突っ込ます事ができた。しかし、それでも基地には予備戦力と補給を受けている部隊があり、冷静に対処すれば問題なかった。私もそのつもりで予備と私が直接指揮する小隊で当たったが…………」
ここまで言って言葉を濁した。しかし、言わない訳にもいかずため息を漏らしながら言う。
「基地司令は混戦、乱戦が基地近郊で行われているのを過剰に反応し、敵味方諸共ミサイルでの対地攻撃を行った。Nジャマーが導入されて以降、ミサイルの追尾機能の性能に限界が見えた。モビルスーツや戦闘機の機動性についていけなくなったからな。しかし、落下地点を決めての爆撃代わりには速度と破壊力で有効な手段になっている。」
敵味方諸共という言葉にラクスは大きく目を見開いて驚き、キラ君は絶句していた。
「味方諸共の攻撃が機体に直撃して、私はその時大きな怪我を負った。そこから先は覚えていないのだが、ボロボロになりながら街を彷徨っていた私を偶然訪れていたアスハ代表の護衛が発見し、治療をして貰って命永らえたという話だ。命を助けられた私は命の礼にこうしてオーブの為に働いている。プラントにいるのも少し辛かったからな。」
ハッとした時にはポロリと内心を口に出していた。
「いやうん、気にしないでくれ。キラ君もすまなかったな。補給活動で疲れていたところに面倒な仕事を押し付けて。」
「い、いえ………」
「まあ、私の世話を見させるのは面倒な仕事なのですね、カナデには!」
私の発言にプリプリ怒っている。ラクスの怒りながら迫る姿に両手を上げ、降参した。
「すまなかった、私の失言だ。許してくれ……」
タジタジの私を可笑しく、面白かったのだろう。キラ君がクスクスと笑っている。
「いつも大人びて見えるカナデさんがラクスさん相手だと押されっぱなしなのが面白くて。」
「彼女には振り回されっぱなしだよ。」
彼女をチラリと見てから両手を広げ、肩を竦めるとキラ君の笑い声が大きくなった。
ラクスと顔を見合わせて、私達も笑った。昔に戻ったようだ。
「じゃあ、僕は戻りますね。何かあれば何時でも言ってください。お手伝いしますから。」
「ありがとう、感謝する。」
「ありがとうございます、キラ様。」
キラ君が退室しようとしたので感謝の言葉を伝えた。
キラ君が退室し、二人きりになった。
「カナデ、本当にプラントには戻ってこないのですか?」
心配そうな顔で尋ねてくるラクスの顔を見ると何ともいえない気持ちになるが、自分の考えが変わることはない。
「…………気持ちは嬉しいが、戻るつもりはない。ウズミ代表の考えを聞き、私なりに戦場を駆けずり回り、色々と考えた時にこのままで良いのかと……」
「カナデ………」
チラリとラクスの顔を見る。私の話を真剣な表情で聞いている。
「プラントと地球、コーディネーターとナチュラル、ザフトと地球軍。様々な括りでの対立がある。ナチュラルはコーディネーターの生まれを嫌悪し、能力を羨み、その存在を憎む。コーディネーターはナチュラルの能力を見下し、羨望の眼差しを嘲笑い、その存在を蔑む。まぁこれはナチュラル同士、コーディネーター同士でもあることだが………」
「……………」
「オーブはコーディネーターもナチュラルも関係なく、国をなしている。確かに問題がないわけではないが、互いが互いを理解し、尊重し合おうと努力している。そんな方の国の力になれたらと思っている。多くの人を殺めてきた私の贖罪であり、願いであり、夢、希望でもある。今の世では難しいのは分かっているが……」
自分でも言ってて恥ずかしくなった。苦笑し、顔を下げた。
「良い国なのですね、オーブは。」
「ああ、美しい海と山。そして多くの人がより良い国にしようと努力している。平和の楽園を作ろうと。」
恥ずかしそうに言うと、ラクスは微笑ましそうに此方を見ている。照れる顔を隠すように手で髪を掻いて顔を隠し、壁のモニターの電源を入れに向かった。
モニターには無数のデブリが漂う中、砕かれ、荒れ果てた大地が真空の闇に晒されているのが見えた。
「ラクス、祈ってあげてくれ。ここで亡くなった多くの人の魂が安らぐように。」
モニター正面を開けると、そこに立ってラクスが黙祷を捧げた。
私も彼女の後ろで黙祷を捧げる。守ることのできなかった余りに多くの命に対して。
急遽、休暇が短縮された。恐らくはその命令を受けた直後に見たラクスが行方不明になったニュースと関連しているだろう。
出港1時間前に搭乗の命令を受けているが、基本的にこういった命令は早めに行くものである。整備兵は恐らく数時間前に出港準備に取り組んでいる。ブリッジ要員や衛生兵等も各担当のチェックをしている筈だ。モビルスーツパイロットも自分の機体のチェックをしなければならない。出港したら補給を受ける事が出来ないので予備パーツも含めて万全にするのが通例だ。
出港時間の1時間前が集合時間なら更に1時間前に搭乗し、様々な確認を行い、出港時間にはパイロットは待機室、所謂パイロットルームでスタンバイするのが通例だ。
なので2時間前にヴェサリウスに向かうと連絡口に父とクルーゼ隊長が居た。父が自分の見送りに来るような方ではないので隊長に用が有るのだろうが、わざわざここに来る意味が分からない。そんな事をツラツラと考えていると近くなったので横を敬礼しながら通り抜けようとすると、父が急に話しかけてきた。
「アスラン、ラクス嬢の事は聞いておろうな?」
「はい。しかし隊長、まさかヴェサリウスが……?」
やはりという気持ちとわざわざヴェサリウスが?という気持ちがある。
「おいおい、冷たい男だな、君は。無論、我々は彼女の捜索に向かうのさ。」
「でもまだ何かあったと決まったわけではないのでは?民間船ですし……」
「公表はされていないが、すでに捜索に向かったユン・ロー隊の偵察型ジンも戻らんのだ。」
その情報を聞いて、自身の顔に驚きと険しさが起きるのを感じた。
「ユニウス・セブンは地球の引力に引かれて、今はデブリ帯の中にある。嫌な位置なのだよ。ガモフはアルテミスで足つきをロストしたままだしな。アルテミスで補給を受けられたとは思えんしな。となると奴らがどこに向かうか。」
「ま、まさか………!」
確かに嫌な位置だ。地球に近すぎる。だからといって地球連合軍が彷徨いて、わざわざ民間船を狙ったりするとは思えないが……。地球軌道攻防戦で地球軍の宇宙艦隊は大打撃を受けた。月方面なら定期パトロールを行っているようだが此方側でなど……。そんな事を考え込む自分に、父が話しかけた。
「ラクス嬢とお前が定められた婚約者同士だとは、プラント中が知っておる。なのにお前がいるクルーゼ隊が、ここで休暇というわけにもいくまい。」
伝えることを伝えると、そのまま最後に念を押してくる。
「彼女はアイドルなのだ。頼むぞクルーゼ、アスラン。」
敬礼をし、背を向けて去る父の背を見送りながら、アスランは軽い嫌悪を込めて呟いた。
「彼女を助けてヒーローのように戻れ、ということですか。」
「もしくは、その亡骸を号泣しながら抱いて戻れ、かな?」
隣のクルーゼ隊長の放った言葉に、ギョッとして彼の顔を見た。時々この上官は恐ろしいくらい冷酷なところを垣間見せる。その私の視線を受けて、薄く笑った。
「どちらにせよ、君が行かなくては話にならないとお考えなのさ、ザラ委員長は。」
そう言いながら立ち去るクルーゼ隊長を、動くことが出来ず、ただ見送ることしか出来なかった。
アークエンジェルの廊下をひたすら駆けている。ヘリオポリス脱出からここまで慌ただしかった。そこまでなら何とでもなったがラクスを発見、保護し、懐かしい顔を見たからか緊張の糸が切れたからのように熟睡してしまった。
長く軍務に就いてきた自分らしからぬ失態だ。それにしても私を起こさずにどこに行った、あのお転婆娘は………?
食堂に近づくとキラ君の友人達の声が聞こえてきた。
「ちょっとやだ……やめてよ!なんで私がアンタなんかと握手しなきゃなんないの。」
その声には紛れもない嫌悪が含まれていた。食堂の入り口に着いたが入れずにいた。そんな時に彼女は金切り声で叫んだ。
「コーディネーターのくせに、馴れ馴れしくしないで!」
食堂の空気が凍り、誰かの呼吸が止まる音がした。そんな空気を壊すように荒々しく音を立てて入る。
「ラクス、何でここにいる!?私を何故起こさない!」
「まあ、カナデ。よく眠ってらしたので。」
給仕場との仕切りにあるカウンターにある食事を見つけて其処の側にいたミリアリアに尋ねる。
「あの食事は?」
「えっ、あ、あの、彼女とカナデさんのです。お二人に持っていこうとしていたのですが………」
しどろもどろに伝えてくれるが、徐々に俯いて言葉が尻すぼみになっていった。仕方ないことではあるが………
「ならこれは私が持って行く。キラ君、すまないが一つ頼めるかな?片手では一つしか持てないから。」
暗い顔をしているキラ君に話し掛けると、彼はハッと顔を上げた。
「わ、分かりました。」
「すまないな、片方の手は彼女を引っ張らないといけないんだ。お転婆娘だから逃げないようにしないと。」
そう言って食事を片方持ってラクスの手を引いて、食堂を後にした。後ろにキラ君がついてくるのを感じながら。
「しかしま〜、補給の問題が解決したと思ったら、今度はピンクの髪のお姫様か……」
フラガ大尉が横を通り過ぎ、前に来た。
「悩みの種が尽きませんな〜艦長殿。」
そう言い、からかうように敬礼してきた。よくもまあ他人事のように。とマリューは思った。
もしかしたら、この飄々とした態度も計算なのではないか。肩に力の入っているマリューたちを和ませようと。まあ、多分これが素なのだろうがと、取り留めない下らないことを思いながら口を開いた。
「あの子もこのまま、月本部に連れて行くしかないでしょうね……」
「もう寄港予定ないだろう?」
「でも軍本部に連れていけば彼女は……いくら民間人とは言っても………」
「そりゃあ大歓迎されるだろう。なんたってクラインの娘だ。色々と利用価値はある。」
フラガ大尉は皮肉っぽく言った。プラント元首の娘だ。外交上の有利なカードとして、利用されることは間違いない。
「出来ればそんな目に遭わせたくないんです。民間人の、まだあんな少女を……」
マリューが自身の思い、迷いを口にすると、背後からバジルール少尉が冷静な事実を突きつけてきた。
「そうおっしゃるなら、彼らは?こうして操艦に協力し、戦場で戦ってきた彼らだって、まだ子供の民間人ですよ。」
「バジルール少尉、それは……」
「キラ・ヤマトや彼らをやむを得ぬとはいえ戦闘に参加させておいて、あの少女だけは巻き込みたくないとでも仰るんですか?彼女はクラインの娘です。ということは、その時点で既に、ただの民間人ではないということですよ。」
彼女の言うことも分かる。マリューは反論できずに黙った。軍人気質の彼女には、自分の意見は甘いと感じられるのだろう。
自分は艦長に向いていないと、つくづく自分では思う。
そんな空気を壊す内容をフラガ大尉がぶっ込んできた。
「両者の意見は一々最もだけどさ、彼。どうすると思う?彼女を政治的に利用しようとするとこの艦、制圧されちゃうかもよ?」
まさかの意見に私は目をパチクリとした。バジルール少尉の方に目をやると、彼女も険しい顔をしていた。
「彼女との関係は君らも見ただろう?俺としては彼とは戦いたくないよ……だって勝てないもの。」
そんなフラガ大尉の言葉に私とバジルール少尉は何も言えなくなった。周りは何故か失笑していたが………
「またここに居なくてはいけませんの?」
カナデさんの部屋に連れ戻されたラクスが寂しそうに言う。
「ええ……そうですよ。」
「ああ……」
キラは食事のトレイを片方のテーブルに置くと、沈んだ気持ちを押し隠し、無理に彼女に笑いかけた。
「わたくしもあちらで、皆さんとお話しながら頂きたいですわ。」
そんな事を言う彼女の顔も、何とも言えず愛らしい。キラは眩しいものを見たように目を逸らした。
「これは地球軍の艦ですから、コーディネーターのこと……その……あまり好きじゃないって人もいるし……」
口にした瞬間走った胸の痛みを紛らわす様に、彼は言葉を継ぐ。
「ってか、今は敵同士だし……だから、仕方ないと思います。」
ナゼ自分はこうやって、ナチュラルの肩を持っているのだろうか。それで彼らに溶け込めるわけでもないのに。
そう思うとますます悲しくなり、目を落とした。カナデさんは何も言わずに、ただ温かく見つめてくれている。たった二人のコーディネーターだからか、何も言わずにただ自分に寄り添ってくれている。
「残念ですわね……」
彼女は僕の顔を見て、切なげな表情になる。そして直ぐに包み込むような笑顔を向けてきた。
「でも、貴方は優しいんですよね。ありがとう。」
「僕は………」
なぜか後ろめたい気分になり、彼は思い切って言った。
「ぼくも、コーディネーターですから。」
ラクスは目を丸くし、キョトンと首を傾げた。驚いているのだろう。そして、次に「コーディネーターが何故地球軍にいるのか」と尋ねるだろう。そう思っていたキラの予想は裏切られた。
ラクスは不思議そうに聞いた。
「あなたが優しいのは、あなただからでしょう?」
ドクンと、心臓が大きく脈打った。
―――この子は、なんて―――
「お名前を、教えていただけます?」
ほんわりと笑うラクスの笑顔に見入ったキラは、一拍おいて慌てて答えた。
「あ、キ、キラ……です。キラ・ヤマト……」
「そう。ありがとう、キラさま。」
彼女に笑顔でそう言われると、彼女を守ってあげないとと自分が騎士にでもなったような気がした。
キラがカナデさんの部屋から出ると、ちょうどサイが通路の向こう側からやってきた。声を掛けられたから立ち止まって、サイが前に立つのを待つと、彼は気不味そうに言う。
「……ミリィから聞いたよ。」
「ああ………」
「あんまり気にするな。……フレイには、後で言っとく。」
サイの気の使い方にも煩わしさを感じ、何となく沈んだ気持ちになりかけたキラの耳に、歌が聞こえてきた。場所はすぐに分かった。さっきまで自分が居た所からだ。
どこまでも透明な、美しい声だ。胸に染み入って、ささくれかけたキラの心に、優しく染み込む歌声だ。
「きれいな声だな……」
サイの感想に頷き、二人はしばし敵国の歌姫の歌声に聞き入った。
「―――でもやっぱ、それも遺伝子いじってそうなったもんなのかな?」
サイの何気なく言った言葉に、和らいでいた自身の周りの空気が、急に凍りついたようにキラは感じた。
第8艦隊先遣隊と連絡が取れたニュースにアークエンジェルは沸いた。寄せ集めの人材で、必死に逃げ回るばかりの彼らに、やっと小さな希望の光が見えた。
これまで張り詰めたクルーの顔に笑顔が戻り、避難民にもホッとした空気が流れた。あと少しの辛抱だと。合流まであと僅かだったのだ。
そんなアークエンジェルよりも先に、先遣隊を捉えた艦があった。ラクス・クライン探索の任を負ったヴェサリウスである。
「地球軍の艦隊が、こんなところで何を……?」
アデスが口にした疑問に、ラウが独り言のように応じた。
「足つきがアルテミスから月に向かうとすれば、どうするかな
。」
『足つき』―――アークエンジェルの伏せた動物の前足を連想させる特徴的な両舷の形から、彼らはこの新造戦艦をこう呼ぶことにしたのだった。
「補給……もしくは出迎えの艦艇と……?」
「ラコーニとポルトの隊の合流が予定より遅れている。もしあれが足つきに補給を運ぶ艦ならば……このまま見逃すわけにはいかない。」
「我々がですか?しかし我々は……」
アデスが当惑した顔でラウの顔をうかがう。ラウはいつもの、何を考えているか分からない笑みを浮かべた。
「我々は軍人だ。いくらラクス嬢捜索の任務があるとは云え、たった一人の少女のために、あれを見過ごすわけにもいくまい。私も後世、歴史家に笑われたくないしな。」
「ハッ!」
アデスが艦内に第一戦闘配備の命令を出した。
「ゲーベルに敵の位置情報を連絡しろ。敵の側背から攻撃をするようにと。」
今、獲物を捉えた肉食動物が如く、襲い掛かろうとしていた。