ガンダムSEED 天禀の才   作:雪の師走

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遅くなりました。

次は地球か………完結までなっが……。

ここからデスティニー、映画もあるのか…………


宇宙(そら)に降る星

地球連合軍の駆逐艦、戦艦から次々とメビウスが飛び立っていく。そしてザフト艦からもモビルスーツが放出されていく。

互いに戦闘準備がなされていく。

『全艦密集陣形にて迎撃態勢!』

通信を通して、メネラオスのハルバートン提督から命令が下される。

『アークエンジェルは動くな。そのまま本艦につけ!』

アークエンジェルの艦橋では、重苦しい不安を感じながら、皆が戦闘隊形に移行していく両軍をモニターで見つめた。

敵艦は3隻、モビルスーツはジンだけで10機を越える。ジンとイージス相手にあまりに脆く呆気なく沈んだモントゴメリを思い出し、これだけの数の戦艦に守られているにも関わらず、クルー達は少しも楽観的になれずにいた。

「イーゲルシュテルン起動!後部ミサイル管コリントス装填!」

次々と武装システムの立ち上げを命じていく。

「ゴットフリート、ローエングリン発射準備!」

手一杯のトノムラが小さく“くそっ”と毒づく。この少ないクルーで、アラスカまでは何とかやっていかなければいけないと思ったその時―――。

「すみません、遅れました!」

ドアが開き、少年少女達の明るい声が響いて、マリューは驚いて振り返った。トール、サイ、ミリアリア、カズイ―――ヘリオポリスの学生たちが元気よく入ってきて以前からの自分たちの席に着いた。

「あなたたち………。」

マリューが呆然と呟く。

「志願兵です。ホフマン大佐が受領し、私が承認いたしました。」

事態を知っていたらしいナタルが短く説明してきた。その内容にマリューは目を見開いた。コパイロット席についたトールは、パイロットのノイマンに合図を送り、トノムラは背後の2人をチラと見て笑みを浮かべる。始めは呆気にとられていたクルーたちも、今は嬉しそうに彼らの存在を受け入れていた。

だがマリューの胸中は複雑だった。少年たちの決意がありがたいと同時に、彼らの命が重荷となって彼女の肩に重くのしかかった。彼らなりに思うところがあっての決意なのだろうが、それはあまりに幼く、甘いものだ。今後の彼らの人生に、この決意は一体どんな影響を及ぼすのだろうかと、彼女は思わずにはいられなかった。

 

 

 

 

ジンが散開した。

暗い真空の海に、炎の華が咲く。メビウスとジンが互いの砲門を開いた。メビウスの放つミサイルを躱し、ジンがバズーカを撃ち込む。爆発するモビルアーマーを尻目に、戦線を掻い潜ってくる赤い機体があった。

イージスがクルリと機体を変形させ、クローの合間からスキュラを撃った。たちまち3機のメビウスが炎に包まれる。バスターとデュエルもその機動力と圧倒的な火力で、次々と地球連合軍のモビルアーマーを落とし、艦隊に迫る。

メネラオスの艦橋でそれをモニターしていたハルバートンか呻く。

「くそっ……イージス、バスター、ブリッツ、デュエルか………!」

「確かに見事なモビルスーツですな……だが、敵にしては厄介なだけだ。あの4機、何としても落とせよ!」

副官のホフマンが隣で冷ややかに言う。

 

 

 

 

 

モビルスーツたちは、次々に新たな標的を屠っていく。だが艦隊中央には動きがなかった。つまらなそうにラウが言う。

「ハルバートンはどうあっても、あれを地球に降ろす気だな。大事に奥にしまい込んで何もさせんとは………。」

「此方はお陰で楽ですな。ストライクもあのプロトタイプも出て来ないとなると。」

アデスが半ば冗談、半ば本気でそう応じる。ラウはその言葉に小さく笑った。

「戦艦とモビルアーマーだけでは、もはや我らに勝てぬと知っている………良い将だ。黒騎士も高く評価していたな。あれを造らせたのも彼ということだしな………。」

ラウは氷のような冷たい口調で言い放った。

「ならばせめてこの戦闘で、自説を証明して差し上げよう!」

 

 

 

 

 

先鋒の駆逐艦がイージスを捉える。イージスは優雅にさえ見える動きでその砲撃を躱し、艦の懐にまで入り込み、スキュラを放った。外部、内部で激しい誘爆が起こり、駆逐艦は黒煙を上げながら戦線から離脱していく。

ブリッツも1隻の駆逐艦に接近していた。黒い機体が艦橋の間近に出現した。ミラージュコロイドを展開し、接近したのだ。左腕にマウントされたアンカー、グレイプニールを射出して、艦橋を潰す。

バスターは両腰のランチャーとライフルを、中央でドッキングさせ、構えた。二つの武器は繋ぎ合わせることにより、長射程の超高インパルスライフルと対装甲散弾砲に変わる。今は超高インパルスライフルの砲口が火を噴いた。ビームに貫かれた艦は、一瞬にして爆散する。

デュエルもシヴァとライフルを次々と発射し、駆逐艦の横腹に穴を空けていく。多く穿たれた穴から紅蓮の炎が噴き出し、艦は沈んだ。

高機動型ジンも、スイスイと対空砲火を掻い潜り、モビルアーマーを銃で撃ち落とし、反対の手に保持したバズーカを艦橋に撃ち込み沈める。

「セレウコス被弾、戦闘不能!カサンドロス、沈黙!」

「アンティゴノス、プトレマイオス、ティレルズ撃沈!」

メネラオスの艦橋に、オペレーターの上擦った声が響く。当初は冷笑的だったホフマンが、その戦果に愕然として立ち上がった。

「何だと!?戦闘開始後たった5分で………5隻をか!?」

その時、遥か前方の敵艦に動きがあった。

「敵ナスカ級、及びローラシア級接近!」

「セレウコス、カサンドロスにレーザー照射!」

「なにっ………!?」

クルーの報告に、ハルバートンは耳を疑った。敵艦がレーザーを照射して砲撃の狙いを定めたのは、たった今被弾して戦闘能力を失った2艦だった。

「離脱中の艦を……!?おのれ、クルーゼ!」

 

 

 

 

「アスランとニコルは甘いな………。」

ヴェサリウスの艦橋では、ラウが薄く笑っていた。

「人を残せば、そいつはまた新たな武器を手に、来るぞ。」

ヴェサリウスとガモフの主砲が火を噴いた。パッと目を射る一瞬の輝きと共に、2隻の駆逐艦が沈んだ。

 

 

 

 

虚空に散ったセレウコス、カサンドロスの映像がモニターに映し出されていた。クルーゼ隊の非道とさえ言える容赦のない戦い振りに、アークエンジェルのクルーの上に冷たい沈黙が落ちた。キャプテンシートの通信機が着信し、マリューは受話器を取った。

『おい!何で俺達は発進待機なんだよ!』

焦れたようなムウの声から状況の不安定さが伝わってくるようだった。

『第8艦隊ったって、あれ4機相手じゃヤバいぞ!』

「フラガ大尉………。」

『ってまあ、キリュウ一佐じゃねえから俺一機だけじゃあ出たとこで、大して変わんねえだろうがさあ!』

キリュウ二佐は今回のメネラオスとの合流に際し、オーブ本国からヘリオポリス民間人の責任者としての交渉とこれまでの尽力に対しての功績で昇進を命じる書面を受け取っており、一佐に昇進されていた。

「本艦への出撃指示はまだありません!待ってください!」

“しかし”と受話器の向こうの相手が言い募る前に、マリューは通信を一方的に切った。ムウは珍しく苛立っているようだ。修理を急がせたので、ゼロの状態は万全なのに、味方の劣勢に、味方の死に指をくわえて見守る現状に、ストレスを感じているのだろう。 

マリューも彼と同じ気持ちだった。この艦を守り、無事に本部へ送り届ける事が、現在の第8艦隊―――マリューたち自身を含む―――の最重要課題だ。たとえ参戦し、それで艦隊を守れたとしても、アークエンジェルが落とされたり、地球へ降下するタイミングを失えば何の意味もない。分かっている。だか、このまま手を拱いていていいのだろうか。

彼女はしばし悩み、そして決断した。

「メネラオスへ繋いで!」

モニターに厳しい表情のハルバートンが映った。

『なんだっ。』

「本艦は艦隊を離脱し、直ちに降下シークエンスに入りたいと思います。許可を!」

『なんだと!?』

ハルバートンの表情が驚愕に変わり、腰を浮かした。副官のホフマンの声が割って入った。

『自分たちだけ逃げ出そうという気か!?』

「敵の狙いは本艦です。本艦が離れなければ、このまま艦隊は全滅です!」

これだけの艦隊がたった3隻の艦と十数機のモビルスーツ相手に持ち堪えられないという現実を上官に告げた。

「アラスカは無理ですが、この位置なら地球軍制空圏内へ降りられます!突入限界点まで持ち堪えさえすれば、ジンとザフト艦は振り切れます!閣下!!」

決断を促すと、ハルバートンの顔に苦笑が浮かんだ。

『相変わらず無茶な奴だな。マリュー・ラミアス。』

「部下は上官に習うものですから。」

マリューも笑ってみせた。

『いいだろう!アークエンジェルは直ちに降下準備に入れ。限界点まではきっちり送ってやる。送り狼は一匹も通さんぞ!』

マリューの熱意が提督の心に火をつけたようだ。彼は頼もしげな笑みを浮かべて頷いた。

「はいっ!」

 

 

 

 

「降りる!?この状況でか!?」

この激しい戦闘のさなか、アークエンジェルは艦隊を離れ、地球へ降下するという。

「俺に怒鳴ったってしゃあねえでしょう?ま、このままズルズルよりゃいいんじゃねえんすか?」

「いや、けどさあ………」

「ザフト艦とジンは振り切れても、あの4機が問題ですよね。」

割り込んできた声に、ムウとマードックがギョッとして振り返る。

「坊主っ!?」

パイロットスーツを着込んだキラが、いつもと変わりない様子で機体へ飛んでいく。とっくに艦を降りていた筈の幼いパイロットはあっさり言う。

「ストライクで待機します。まだ第一戦闘配備ですよね。」

「あいつ、船を降りたんじゃあ………?」

コクピットへ漂っていく少年の後ろ姿を見送りながら、ムウが低く呟いた。

「あんま若い頃から、戦場とか戦争何かに浮かされちまうと、後の人生キツイぜ…………。」

その声にはいつもの飄然とした調子は少しもなく、どこか寂しげな響きがあった。マードックは“エンデュミオンの鷹”と呼ばれる男を見やる。ムウがエースパイロットとして戦場で名を馳せたのは、キラほどではないが、ほんの若造と呼ばれる頃だったはずだ。

今漏らした言葉は、自らの経験からなのだろうか………マードックは口を噤んでムウを、そしてコクピット前でキリュウ一佐と話すキラを見るしか出来なかった。

 

 

 

 

 

メネラオスから第8艦隊全艦へ向けて、通信回線が開かれた。

『メネラオスより各艦コントロール―――ハルバートンだ。本艦隊はこれより、大気圏突入限界点までのアークエンジェル援護防衛線に移行する。』

ハルバートンの声が、真空中で繰り広げられる死闘を圧して響き渡る。

『厳しい戦闘ではあると思うが、かの艦は明日の戦局のために、決して失ってはならぬ艦である。陣形を立て直せ!我らの後ろに敵を通すな!』

彼の情熱を注ぎ込んだ結晶であり、前線で戦う生身の人間、兵士たちの希望―――“アークエンジェルとストライクを守れ!”

その言葉を越える、強い思いが、全ての兵士を奮い立たせた。

『地球軍の底力を見せてやれ!』

 

 

 

 

 

その動きは攻めかかるザフトでも見て取れた。

「アークエンジェルが動く!?チッ、ハルバートンめ!第8艦隊を盾にしてでも足つきを降ろすつもりか!?」

最大望遠のモニターに高度を下げていくアークエンジェルが映し出されていた。

「追い込め!降下する前に、何としても仕留めるんだ!!」

「はっ!!」

出撃中の全機にレーザー通信が間を置かずに送られた。

 

 

 

 

メビウスとジンが激しく入り乱れ、ジンの放った砲火がコクピットを直撃する。そのジンを側面から駆逐艦の主砲がとらえる。儚く散っていく命が真空の闇を、花火の様に照らし散っていく。

激戦の中、4機のXナンバーにヴェサリウスからレーザー通信が届いた。

「アークエンジェルが降りる!?」

ニコルとアスランが驚愕の声を上げる。

「くそっ!」

「させるかよ!」

たった今シヴァで2機のメビウスを屠ったイザークが、密集して一機も通すまいという構えの陣に、デュエルを駆って斬り込んだ。バスターもそれに遅れじと続く。

強引に突破を図ろうとする2人に、アスランとニコルも続いた。

駆逐艦が退きながら全砲門を開いて迎撃する。数知れぬミサイルに、ビームを4機はものともせず躱していく。デュエルのライフルが駆逐艦のエンジンをとらえ、バスターのランチャーが艦の横腹を貫いた。

メネラオスの主砲が、周りの戦艦の主砲が火を噴いた。暗い宇宙空間が一瞬赤々と照らし出される。しかし、デュエルが抉じ開けるように第一隊列を突破し、続く第二隊列も躱していく。バスター、ブリッツ、イージスもそれに続いた。

 

 

 

 

 

降下シークエンスが続いていた艦内に、突然チャンドラの驚愕の報告が響いた。

『デュエル、バスター、隊列を突破!メネラオスが交戦中!』

ここまでだなと思い、艦橋に通信を入れる。

「ラミアス艦長、出るぞ。ハッチを開けてくれ。」

『キリュウ一佐、何を!?』

「敵は強引な突破を図ろうしている。このままでは降下シークエンス中に敵が来る。押し返さなければアークエンジェルが危ない。」

降下準備中に攻撃を受け、損傷でもしたら。中が高温に晒され、重大なトラブルが起きかねない。それを防ぐには、私達が前に出て、敵を押し返すしかない。

『艦長!ギリギリまで俺達を出せ!あと何分ある!?』

『しかしっ………!』

『カタログスペックではストライクは単体でも降下可能です。』

キラ君が通信に割り込んだ。

『っ……キラ君……!?』

ラミアス艦長が息を飲む雰囲気が伝わり、ミリアリアの“キラッ!?”という叫びがあがる。彼らにはキラ君はとっくにこの艦を降りたことになっていたのだと、その様子から窺えた。

『キラ君、どうしてあなた……そこに!』

呆然としたラミアス艦長の声から、彼女は本当にキラ君を解放したつもりだったのだろう。キラ君の能力を鑑みれば簡単に解放などと、本当に潔い人だ。

『このままじゃ、メネラオスも危ないですよ!艦長!』

キラ君の逸っているのか強い口調での言葉に、マリューは決断を迫られた。

この状況で彼に戦えというのか、メネラオスとアークエンジェルを救うため、守るために?一つ間違えば地球という重力の井戸の底へ引き釣り込まれる、ギリギリの縁で。そんな事を考えているマリューの逡巡は、あっけなくナタルによって打ち砕かれた。

『分かった!ただしフェイズスリーまでに戻れ。スペック上は大丈夫でも、やった人間はいないんだ。中がどうなるかは知らないぞ。高度とタイムは常に注意しろ!』

“はいっ!”というキラの声とともに通信が切れた。

『バジルール少尉っ!』

ラミアス艦長が立ち上がって憤怒の形相で怒りの声をあげた。

しかしバジルール少尉は、彼女の怒りを真っ向から受け止めた。

『ここで本艦が堕ちたら、第8艦隊の犠牲が全て無駄になります!』

2人はしばし睨み合った。そんな2人を余所に我々パイロットは出撃準備を着々と整えていった。

 

 

 

 

 

艦橋で艦長と副長が喧々諤々のやり合いをしているのを余所にパイロット連中は、着々と出撃準備を整えている。と言っても元々準備してきたので機体を移動させるだけだが。

「全く。こんな状況で出るなんて俺も初めてだぜ。」

フラガ大尉のぼやきにも似た言葉には頷くしかない。こんな状況出るなんて。

「当然だ。そもそもこんな状況で出るほうが可笑しい。出るならもっと前の段階だ。」

カナデさんがカタパルトに移動しながら答えた。

「あの……カナデさんでもないんですか?」

「ん?ああ、前の地球降下作戦では連合2個艦隊と戦ったのは互いに地球の重力圏から離れた場所だった。少なくとも機体が重力に引かれる場所では普通は戦わんよ。」

「そうなんですね。」

「ああ、ではキラ君お先に。分かっているとは思うが先ずは身の安全を第一にな。」

カナデさんの此方を心配する声はいつも通りだ。

「はい、カナデさんもお気をつけて。」

「サンクス。カナデ・キリュウ、X100“Basis”出るぞ!」

カナデさんが珍しく機体名を告げて、多分初めて声に出して出撃していった。いつもプロトやプロトガンダムと言っていたから。

「ムウ・ラ・フラガ、出るぞ!」

反対側のカタパルトからもメビウスが発進していく。

「キラ・ヤマト、ストライク行きます!」

エールを装備したストライクがカタパルトから飛び出した。

「ぐっ、重力に引かれるのか………!」

エンジンの出力を上げフットペダルをさらに押し込み、重力を振り切るように加速する。カナデさんは………?

モニターには激化する戦場にもう加入しようとするプロトガンダムが捉えていた。

 

 

 

「戦艦ベルグラーノ撃沈!」

「限界点まであと5分!」

メネラオスの艦橋でオペレーターの報告を受ける。脇を守る戦艦がデュエル、バスターの攻撃を受けて沈んだ。

「閣下、これ以上はっ!これでは本艦も保ちません!」

ホフマンが叫ぶも、断固として首を横に振り、意志を示した。

「まだだっ!」

バスターの超高インパルスライフルがメネラオスに命中し、艦橋にまでその振動が伝わる。その時、オペレーターが声を上げた。

「アークエンジェルよりX100ベーシスが発進!…………メビウス・ゼロ、X105ストライクもです!!」

「なんだとっ!?」

モニターに映された姿に身体が何故か震えた。白く輝く機体がピンク色に発光するツインアイが獲物を捉えたのかライフルを構え、放った。

メネラオスに襲い掛かっていたデュエルの鼻っ面にビームが襲い、機体を退いた。そのままデュエルとの激しい戦闘に突入するかと思われた瞬間に機体を翻した。バスターの長射程の攻撃を躱したのだ。その隙をデュエルが攻撃するも、巧くシールドで流し、頭部の砲で攻撃した。デュエルの肩に装備された砲に当たり、爆発する。

第8艦隊をズタズタにしたあの2機を相手に、彼処まで戦えるのは彼しかいないだろう。

「閣下、ベーシスより通信です!」

「開け!」

モニターに白と黒にカラーリングされたヘルメットを被った男が映った。

『何をしているハルバートン!こいつらの相手は私達でする。艦隊を急いで立て直せ!』

第一隊列、第二隊列の残存艦を纏めて最終隊列の我々で戦線を引き直せと命じている。

「雇われのパイロット風情が偉そうに言うな!」

『やかましい!言われたくないならさっさとやれ!』

彼に追いついたメビウス・ゼロ、ストライクがデュエル、バスターの相手を引き継いだ。言うだけ言って、彼は第二隊列を突破した敵に向かっていった。

眼前ではストライクはデュエルと激しくやり合う。接近戦をしたがるデュエルをストライクはライフルで牽制しながら距離を取ろうとする。

あのストライクには、あの少年が―――キラ・ヤマトが―――乗っているのだろう。他の誰にあの機体を、楽々と操れるのだろう。結局彼は、戦い続ける事を選んだのか。胸に痛ましい思いが溢れ出した。

メビウス・ゼロもガンバレルを展開し、バスターに撃ちかかる。撃ち返すバスターの砲弾を躱していく様は、流石は“エンデュミオンの鷹”と呼ばれるだけはある。

前方へ躍り出たプロトタイプはヒラリヒラリと機体を動かし、ジンを続け様に2機撃墜した。高機動型ジン、イージス、ブリッツの射撃を躱しながら、戦闘を開始した。

突然、前方からの極太のビームが視界に入り、ハルバートンは眼前で戦う機動兵器から目を離した。そして目を見張った。

「ロ、ローラシア級接近!!」

いつの間にかザフト艦の内の1隻がメネラオスへ迫っていた。

 

 

 

 

「ガモフ、出過ぎだぞ!何をしている、ゼルマン!?」

ヴェサリウスの艦橋で、アデスは身を乗り出しながら叫んだ。元々突出気味だったガモフが、今は完全に敵の戦列に入り込み、最終ラインに向かっている。通信回線が開いた。

『……ここ…まで追いつめ……引くこと…は……元はと言えば…我ら……』

ガモフ艦長ゼルマンの声が、距離があり、ジャマーの影響で映像も音声もひどく乱れている。ノイズの合間に時折聞こえる声は、妙に平静で、アデスにはゼルマンが既に覚悟を決めていることを知った。歪んだ画像が一瞬正常になり、ゼルマンの表情を映した。その顔はいつものように、生真面目な表情だった。

『……足つきは、必ず………!』

距離が開きすぎたのか、それきり通信は途絶えた。アデスは呆然とした。幾度となく機会を得ながら、アークエンジェルをここまで逃がしたのは、確かに失策だ。特に単独行動中、アークエンジェルをアルテミスでロストしたことは、ゼルマンにとって予想外の誤算であり、失策であっただろう。だがそれとて、ゼルマンだけの責任ではない。

「クルーゼ隊長………。」

アデスはやりきれない気分で上官へと顔を向けた。その顔見た瞬間ぞっとした。

そこにはメネラオスに突っ込んでいくガモフの映像を一心に見入るような上官がいたからだ。その口元には面白いものを見たかのような笑みが浮かんでいた。

 

 

 

 

一斉射撃をしながら遮二無二突き進んでくるガモフを止めようと、駆逐艦がメネラオスの前に出る。激しい応射がなされたが、駆逐艦は炎を上げながら沈み、その横をゆっくりとガモフが通り過ぎる。ゼロが横合いから接近し、ガンバレルを展開して全弾を撃ち込んで離脱していく。恐らく限界点なのだろう。

しかしそれでもガモフは止まらない。

メネラオスにガモフの放った砲撃が着弾し、炎を噴き出した。

「刺し違えるつもりか!?」

揺れる艦橋で、ホフマンが立ち上がった。ようやく敵の目的を察したようだ。

「直ぐに避難民のシャトルを脱出させろ。」

虚を突かれたホフマンが、その意味する所を悟り、顔色を失くす。

「ここまで来て、あれに落とされてたまるか!」

メネラオスの主砲がガモフを貫き、激しい爆発が起きる。メネラオス自身もあちらこちらに被弾している。

『ハルバートン!!』

引き返してきたプロトタイプから通信が入ったのだろう。オペレーターが繋いだようだ。すれ違いざまに幾度もライフルを、頭部砲を放ち、ダメージを与えていくもローラシア級は止まらない。

「カナデ・ドウジマ。ザフトの死神よ。君の生き様をもう少し見たかったが、私はここまでの様だ。さらばだ。」

そう言って立ち上がり敬礼をした。彼はバイザーを上げた。

『さらばだ。』

通信が切れ、機体をアークエンジェルへ向けて、機体を飛ばしていった。艦橋の皆が私の言葉に驚愕の表情を浮かべていた。そうか、皆は知らなんだのだったな。まあ、ここに至っては瑣末な事だ。

メネラオスの底部モニターに一機のシャトルが放出され、徐々に離れながら姿勢を制御し、地球へ向かっていくのを認めたハルバートンは僅かに安堵した。

あとは、アークエンジェルが無事に目的地へ辿り着くだけだ。

第8艦隊最大の艦が今、ザフトの勇猛な艦を道連れに沈もうとしていた。

 

 

 

 

 

「艦長!フェイズスリー!突入限界点まで2分を切ります!融除剤ジェル、展開用意。」

ノイマンの声に、ナタルが反応する。

「パイロット達を呼び戻せ!」

マリューは凍りついたようにモニターを見つめていた。満身創痍の二つの艦は、装甲と大気との摩擦で赤く灼かれながらもなお、互いに撃ち合うのをやめずにいた。

不意に、ガモフの艦内で連鎖的に誘爆が起こり、内側から装甲を持ち上げ、弾けた。恐らくは大気熱で内側から誘爆したのだろう。一瞬の内に飛び散った破片が、大気中に放物線を描き、燃えて消える。

メネラオスはまだ、かろうじて持ちこたえていた。だが艦の外殻は薄い空気を切り裂きながら灼熱し、離脱しようとするエンジンは着いては消えを繰り返し、ほとんど機能していない。もっともこの段階になっては、どんなエンジンも地球の重力から救い出すのは無理だろう。

「ハルバートン提督…………!」

燃え上がり、散っていくメネラオスに向けて、マリューは立ち上がり、ゆっくりと敬礼した。涙が溢れ視界を覆う。

―――閣下………。その思い、しかと届けます―――

 

 

 

 

 

艦橋では降下シークエンスが最終過程を迎えていた。

「プロトガンダム、キリュウ一佐着艦!」

「フェイズスリー!融除剤ジェル展開!」

「キラ!キラ、戻って!」

さっきからミリアリアが懸命に呼びかけているが、通信機から返ってくるのは擦過音に似たノイズばかりだ。

「キリュウ一佐っ!」

『無理だ、プロトはフェイズシフトを搭載していない。外に出れば大気との摩擦熱で機体が燃え尽きる…………キラ君……。』

外にいる、ここまでの道中で頼りになった男に縋るように尋ねるも、彼の返事は芳しくなかった。彼ならどうにかしてくれるのではと思ったが、そう上手くは行かない事を突きつけられた。

遥か先でデュエルと激しい戦闘を繰り広げるストライクを見ていることしか出来なかった。

「艦、大気圏突入!」

ついにアークエンジェルは艦底部を地上に向け、大気圏に突入した。噴出口から透明なジェルが排出され、摩擦熱をもっとも受ける底部全体を包み込む。ラミネート装甲全体の温度がジリジリと上昇していく。

「キラ君………!」

心配することしか出来ない自分がこの時ほど情けなく、不甲斐なく思った。

 

 

 

 

 

眼前でデュエルにヘリオポリスの民間人を乗せたシャトルを撃ち落とされた。思わずコクピットの壁をガンと激しく打ち付けた。

ここまで守ってきたのに…………。キラ君が守ろうとしたが届かなかった。シャトルの爆発に押されて、アークエンジェルから離れたのも痛い。

「…………ん、何故姿勢制御をしない……?このままでは燃え尽きるぞ?」

背中から降下するストライクを見て、そう呟いていた。確かにストライク並びにXナンバーは大気圏突入はカタログスペック上では可能だが、それは姿勢制御をして、かつシールドで大気との摩擦熱を軽減させる必要がある。

先に落ちていったバスターも撃墜された戦艦の破片を盾代わりにしていたし、バスターはフェイズシフトの出力が高く設計されている。それを考えれば中のパイロットもそう大したことにはならないだろう。

問題は、何もせずに自由落下しているストライクだ。どうにかして姿勢制御だけでもさせないと。

『あのまま、降りる気か?』

バジルール中尉が幾分焦った口調の声が聞こえた。接触回線で通信だからクリアに聞こえる。

『本艦とストライク、突入角に差異!このままでは降下地点が大きくずれます!』

パルの声に、ミリアリアが必死に呼びかけはじめた。

『キラ!キラ、戻れないの!?艦に戻って!』

『無理だ………ストライクの推力ではもう………。』

バジルール中尉の沈痛な声が聞こえた。まだ諦めるには早い。

「ラミアス艦長!!」

『分かっています!艦を寄せて!アークエンジェルのスラスターなら、まだ使える!』

『しかしそれでは、艦の降下地点が………!』

ノイマンからの抗議を、ねじ伏せるように強い口調で命じた。

『ストライクを見失って、本艦だけアラスカに降りても意味がない!早く!』

ラミアス艦長の声から、直ぐにアークエンジェルがゆっくりと確実にストライクに近付いていく。

『直ちに降下予定地点を算出して!』

『ちょっと待ってください。』

そんな会話が聞こえる間にも、艦は横滑りするようにストライクへと進む。

『本艦降下予定地点は………アフリカ北部ですっ!北緯29度、東経18度!…………完全に、ザフトの勢力圏です!』

突きつけられた事実に艦内が凍りつくなか、ストライクが手を伸ばせば、届く距離に来た。ストライクへ手を伸ばし、キラ君を呼びかけるも反応が全くない。仕方ないので受け止める態勢に変え、ストライクを抱き寄せるように受け止めた。

ストライクとの接触回線が、自動で開いた。

『まも、れなかった……あの子をっ、守れなかった、ぼくっはっ……………。』

そこから気を失ったのか、何も聞こえなくなった。




次の更新は銀英伝、アオのハコの後になります。

暫くお待ち下さい。
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