艦橋での今後の方針を決め終わったので自室に帰り、休むとするか。そう思ったがキラ君の様子を見に行くことにした。初めての本格的な戦闘だったのだ。しかも相手に親友のアスラン君がいる。肉体的にも精神的にも深刻な疲れがあるかもしれない。初陣のパイロットには肉体的疲労があるにも関わらず、心が昂揚感を感じ、休むことが出来ない時が間々ある。
キラ君がちゃんと休めているか確認してから休むとするか。
キラ君の自室。と言っても二段ベッドを2つ向かい合わせにしただけの部屋だが………パイロットのキラ君は少なからず空いている士官室に移ってもらうか。健康管理や安全管理の都合上そっちの方がいい。
とりあえずこの問題はアルテミスに行ってからだな。
部屋と廊下の境目の柱に凭れかかって腕を組んでいた利発そうな少年が私に気付いた。
「あっ、パイロットの。」
その声に片手を上げて応える。そしてキラ君を探しながら彼らに問うた。
「キラ君は?」
「今は寝ています。起こしますか?」
気が進まない感が有り有りと出ている。下段のベッドに座っている活発そうな茶髪の少年がそう話しかけてきた。
「いや、寝ているなら良いんだ。戦闘後の興奮や昂揚感で寝ることが出来ない新兵を数多く見てきた。そうなっていないか心配だったのだが寝むれているなら問題ない。」
少し内気そうな少年が恐る恐る私に声を掛けた。
「あ、あのこれから僕達はどうなるんですか?」
「先程、方向転換が有ったのは気付いただろう?アークエンジェルは一番近くのユーラシアに所属するアルテミス要塞に向かうことになった。」
利発そうな少年が不思議そうな顔をしながら尋ねてきた。
「アルテミスですか?」
まあそうだろうな。ヘリオポリスの一学生だった少年がアルテミスの事を知らないのは至極当然か。
「あぁ、ヘリオポリスから地球へのコースから少し外れた所にある要塞だよ。そこに寄港し、補給と月の地球軍本部と通信を可能ならする予定だ。」
ショートカットの少女が不安げな表情で尋ねてきた。
「私達はそこでどうなるんです?」
ふむ、アルテミスでどうなるかか……正直分からないのだが……
「そこでオーブと連絡が取れれば身分確認をアルテミスで行い、本国に民間船を使って帰還する事になるかもしれない。連絡が取れない時は取れるまで拘束、軟禁も有り得るだろう。」
「そんなっ!」
「身分証明書位は持っているだろう?なら私が責任を持って要塞司令官に対処する。事情聴取くらいはあるだろうがね。」
私の言葉に落ち着きを取り戻したようだ。
「じゃあ私も休ませてもらうよ。君達も不安だろうが休める時に休んだ方が良い。横になって目を瞑っているだけでも違うよ。」
そう声をかけて、その場を離れた。
自室に戻ると肩の力が抜けるのが分かった。知らず知らずの内に力が入っていたようだ。まあこんなコロコロと変わる状況下でリラックスは無理か。そう思うと苦笑が漏れた。
椅子に座り、壁にセッティングされたプレイヤーで曲を流した。軍務につくようになってから必ず起きた時と寝る前に一人でゆっくり聴くのが習慣になっている。
静かに聴き入っていると意識が少しずつ薄れているのが分かる。ああ眠りにつくのだなと感じながら意識を手放した。
耳元でプープーと音がなっている。時計に目をやると40分程寝ていたようだ。曲も止まっていた。通信機のボタンを押すとラミアス大尉の顔が映った。
「お休みの所すみません。レーダーに反応が有ったので連絡をしました。」
「分かりました。直ぐに艦橋に行きます。」
立ち上がるとラミアス大尉が声を掛けてきた。
「お待ちしています。」
そう言って通信を切ってくれた。
急いで艦橋に入ると皆が此方に目を向けた。
「キリュウ二佐、此方へ。」
そう言ってラミアス大尉が自身の横へ手で指し示してくれたので移動した。
「ナスカ級が横から此方の前方に向かって移動中です。恐らくは………」
ラミアス大尉が言いにくそうにしている。先程の私の案を退け、アルテミスに進路を取ったことに後ろめたさがあるのだろう。
「気にしなくていい、ラミアス大尉。補給の面で不安があったのなら君の判断はおかしくはない。敵が一枚上手だったという事だ。」
フラガ大尉がサブ操舵席から現状からの推移の説明をしてくれた。
「恐らくナスカ級がアルテミスの前に陣取り、後方からはローラシア級が来て挟み撃つ作戦だろう。」
「そうとしか考えられないな。で、どうする?前方のナスカ級を排除しなければアルテミスに入港出来ないが?先手を取って此方から仕掛けるか?今回はフラガ大尉も出れるのだろう?」
私の質問にフラガ大尉が頷いた。
「ああ、ゼロの修理は間に合った。3機が作戦に使える。」
「ならどういう作戦でナスカ級を排除するかだな。」
ラミアス大尉、バジルール少尉が不安そうな顔をしている。
「ふむ、敵はストライク並びにプロトガンダムを破壊ないし奪取、アークエンジェルの破壊が目的だろう。ゼロを隠密慣性航行で前方のナスカ級を撃つ。私とキラ君でアークエンジェルの護衛はどうかな?」
「ふむ、敵はアークエンジェルを撃つ為に戦力を投入する。空になったナスカ級を隠密奇襲で損傷させ、前方のアルテミスに飛び込むか。艦長、この作戦で行こう。出来る限り早く仕掛けた方がいい。十分後に作戦開始で行こう。」
フラガ大尉が皆に視線を向ける。互いに顔を見合わせ頷いた。
「ではキラ君を艦橋に呼びます。」
「ああ、パイロットスーツも着させないといけないしな。」
キラ君の友達が手伝いを申し出たり、キラ君に簡単な作戦の説明をしたりしながら作戦の準備が着々と進んでいく。
モビルスーツデッキに入ると各機の準備か整備兵によって進められていた。先行発進するフラガ大尉のゼロに向かいながら話す。
「とにかく艦と自分を守る事を考えるんだぞ。」
「はい、大尉もお気を付けて。」
「作戦の成否はフラガ大尉の腕にかかっている。武運を祈ります。」
私の言葉に一瞬嫌そうな顔を見せた。そんな顔をするなよ。不安になるじゃないか。
「艦を頼みます。」
フラガ大尉の言葉に一つ頷き答えた。
「任せておけ。」
そう言葉を交わし、その場を離れた。
キラ君2人と互いの機体に入り、機体を起動させる。OSの最終チェックを済ませていく。そんな時にキラ君から通信が入った。
「あの…カナデさんはその怖くないんですか?」
不安そうな表情でそんな事を聞いてきた。
「怖いさ。私も長くはないがそこそこ軍人をしてきた。中には怖くないと言うやつもいるが私はそんな奴を信頼しないし、自分が殺される。自分が人を殺す事に何も感じない、思わないという奴は何処か可怪しいのさ。だからキラ君の感情は正しい。」
私の言葉に何も言えなくなったキラ君に対して、私は言った。
「キラ君、本当にアスラン君と戦えない、戦いたくないならストライクに乗ってザフトに降伏すればいい。この艦と君の友達は私が力の限り守る事を誓う。」
私の言葉に驚いたのか目を大きく見開いている。
「僕も皆を守ります。その為に出来る事をするって決めたんです。」
「そうか、分かった。これ以上は何も言うまい。艦長には機種の確認が出来たら此方に報せるように頼んでおいた。そしたらイージスをアスラン君を君が抑える。いいね?」
「はい!」
私の確認にキラ君は大きく返事をした。