フラガ大尉のメビウス・ゼロが出撃し、私とキラくんが各自の機体の最終チェックを行いながら出撃の時を待っているとキラ君が手持ち無沙汰になったのか話しかけてきた。
『カナデさんの機体ってストライカーパック使えるんですね。』
そんな話だった。
「ああ、これは全てのGのベースになった機体だからな。概念実証機としての役割があったからストライカーパックが使えるんだ。」
『そうなんですね。』
「プロトガンダムとGの大きな違いはフェイズシフト装甲を有していない点だ。なので機体重量が大きく違う。エールストライカーを装備したプロトとストライクなら圧倒的にプロトが勝っている。フェイズシフトが無いからバッテリーの減りも少ないから継戦能力の差もあるな。」
『確かにフェイズシフト装甲は当たらなければバッテリーを喰うだけになりますね。』
工学系のカレッジに通っていただけあった話がスラスラと通るな。コーディネーターで興味がある分野なだけに理解が早い。
「プロトを基にデュエル、バスター、ストライクの3機を製造した。そして特殊装備を持たせたブリッツ、フレームに違いを施したイージスを製造した流れだ。他にも幾つかのプランを立てたんだが予算や当時の技術や連合とモルゲンレーテの共同開発に於ける使用技術の制限で実用化しなかった機体も間々ある。」
私の開発経緯に関する解説の話にポカンとしたキラくんの顔がモニターに映っている。
『あのカナデさん、凄く詳しいのですが開発にも造詣があるんですか?』
ん?ああ、そういえば言ってなかったな。
「今回のGの基本設計は私が担当した。様々な設計案の中で連合、モルゲンレーテの技術提供の元、開発可能な機体が多く選ばれ、その中で運用に最適な組み合わせが選ばれ、製造されたという事だ。」
『へ、へぇ〜。ってこの機体もカナデさんが!?』
「まあ、開発コンセプトからの提案位くらいだよ。設計図なんかは違う技術者が起こしてくれたよ。それにラミアス大尉は技術士官としては大変優秀だぞ。何せPS装甲の開発に携わっていたからな。現在のザフト軍のモビルスーツの主要兵器は実弾だ。この機体が量産化されれば戦況は一変するだろう。量産化されればな……」
最後の私の言葉に引っ掛かりを覚えたのだろう。
『量産化されないんですか?』
「ふふ、そのストライク。ジン何機分だと思う?べらぼうに高いぞ。連合の資源、資産があっても何百と作れるものでは無いよ。各地の戦場に回せるだけの規模となると金が無い。まぁ出来て装甲を簡略化した量産機って所で手を打つだろうね。」
『はあ〜世知辛い世の中ですね。』
そんなこんな話をしているとCICから通信が入った。
『キラ〜。』
『ミリアリア!?』
彼女は確かキラくんの学友の少女だったはず。
『以後、私がMS、MAの戦闘管制となります。宜しくね。』
『よろしくお願いしますだよ。』
隣からツッコミが入った。少し硬かった空気が此方もあちらも少し和んだ。私が素直な感想をキラくんに伝える。
「良い友達だな、キラくん。」
『はい。』
少し照れたように笑いながら返事をした。
「彼等を守ろう。そして生きて帰ってこよう。いいね?」
『はい!』
そう元気に返事をしてくれた。
『ストライク、プロトガンダム両機、発進位置へ。装備はエールストライカーを装着。』
発進シークエンスが次々と進められていく。それを感じているとバジルール少尉が話しかけてきた。
『アークエンジェルが吹かしたら、あっという間に敵が来るぞ、いいな?』
『はい。』「ああ。」
私達2人の返事を聞き、作戦を開始する。
先ずは前方のナスカ級に気付き、慌てて撃った振りのローエングリンだ。
『艦首特装砲、回避されました。』
『前方ナスカ級よりMS発進、機影1です。』
『艦長。』
『お願い。』
次々と状況が進んでいく。私たちの出番のようだ。
『キラ・ヤマト、ストライク発進だ。キリュウ二佐も頼みます。』
『キラ、カナデさん。』
『「了解。」』
眼前のカタパルトが開いていく。この瞬間が私は好きだ。戦闘への昂揚感、どこまでも美しい星空。吸い込まれると錯覚させる景色が全身を包み込む。
「キラくん、君は生き残る。私もそして艦の皆も、いいね。」
『はい!キラ・ヤマト、ガンダム行きます!』
「カナデ・キリュウ、プロトガンダム出る。」
カタパルトが機体を射出する。急激にかかるGにこれから始まる戦闘開始のゴングを鳴らせたように感じながら機体を踊らせた。
『後方より接近する熱源3。距離67、MSです。』
アークエンジェルが戦闘準備を完了させると後方の機体が分かったようだ。
『機種特定……これは!Xナンバー、デュエル、バスター、ブリッツです!』
『えっ!?』『なに!』
『奪ったGを全て投入してきたというの……!?』
アークエンジェルの艦橋が浮足立っているのがわかる。仕方ないことだか此の儘にはしておけないな。
「データの吸い出しが終われば、機体は使える!実機を持ち帰るより此方の艦とMSを危険視しているという事だ!何をしている!直ぐに敵が来るぞ。しっかりしろ!」
私の叱責でラミアス大尉、バジルール少尉が動き出した。これで何とかアークエンジェルはいける。
「ではキラくん、前方のイージスを頼むよ。私は作戦通り後方の3機を抑える。」
『は、はい。』
「分かっていると思うがアークエンジェルは前進しているから置いていかれるなよ。艦との距離を確認しながら戦闘するようにな。」
「ヴェサリウスからはもうアスランが出ている。遅れを取るなよ。」
『フン、あんな奴に。』
3機のGがアークエンジェルに撃墜しようと踊りかかる。
『ディアッカとニコルは艦を。俺はあの機体をやる。』
ミサイルを撃ち落としながら指示を出す。戦艦の後方で俺達を待ち構えているのかMSが1機いる。
「ナチュラルがモビルスーツ等、贅沢なんだよ〜!」
そう叫びならビームライフルを放つと奴はスッとバーニアを吹かし、鮮やかに回避した。そのスムーズな機体の軌道にゾッとした。
「ディアッカ、ニコル!手伝え、先にあのMSをやる。」
反射的に応援を呼んでいた。
『どうしたんだよ、イザーク?』
目の前にいる機体が左方から回り込んで艦の方に行こうとしていたブリッツにビームライフルを2射した。制動を掛け、1射目を回避した所に2射目が襲い掛かり、ニコルは慌ててシールドで防いでいた。
『あのMS、中々やる。手間取りたくないから援護しろ!』
そう言って近接戦闘に持ち込む為にライフルを撃ちながら接近する。斜め後ろからバスターが両腰の砲で援護してくる。それを恐れることなく前に踏み込んで躱しながら此方に接近してきた。
「くっ、間合いが!?」
一気に距離を詰められたので右手に持つライフルが近接戦闘の邪魔になっている。抜き打ちで一閃されたビームサーベルをギリギリの所でシールドを間合いに差し込むと下半分を斬り捨てられた。
そのままの勢いで前進して来た相手の膝蹴りをコクピットに喰らった。
「ぐぅ、わぁ〜〜〜〜〜!?」
激しく揺さぶられ、後方に弾き飛ばされながらも機体の制御をしようとする。片目で前の機体を見遣ると左手に持ったライフルを此方に向けようとしていた。
(や、殺られる!)
そう思った瞬間、相手は機体を翻しながら両横合いからの射撃を回避しながら後方に下がっていった。
『イザーク、大丈夫ですか!?』
『おいおい、イザーク無事か?』
ニコルとディアッカが心配の声を掛けてきた。
「くそっ!先ずはアイツを落とす。」
『分かりました。』『あいよ。』
そう言って3方に分かれて半包囲する形に持っていく。この機体を少しでも早く落とさなければ……3人で掛かっているんだぞ!
デュエルを射撃を行いながら前に踏み込ませた。
「中々やるな。流石はクルーゼ隊だ。ガンダム奪取作戦に参加しただけはある。エース級の腕だ。」
3方向からの射撃を機体を操作しながら躱す。時折此方からも射撃を繰り出すが防がれるか避けられる。まあ片手間の射撃だから仕方ないが。
『キリュウ二佐、援護します!』
バジルール少尉が援護を行う旨の通信をしてくる。
「いらん!こっちの機体はPS装甲がないんだ。アークエンジェルの攻撃でも当たれば致命傷になる。フレンドリーファイアはゴメンだよ。」
『しかし!』
それでも尚言い募ろうとする少尉に若干の苛立ちを覚えた。
「アークエンジェルは自身の防衛に専念してくれたらいい。離脱する時に援護を頼むがそれ以外は此方に構わんでくれ。」
『りょ、了解しました。』
そう言って通信を終える。眼前から迫るデュエル、左方から来るブリッツ、デュエルの後方から援護射撃をするバスター。即席のチームにしては良い連携だ。デュエルをイーゲルシュテルンであしらいながら後退する。ブリッツにライフルを撃って牽制し、バスターの射撃に気を払う。意外と神経を使うな。
アークエンジェルの方は問題ないな。此方が3機の相手をしているから。キラくんの方はどうなっている?
3機の相手をしながらカメラとレーダーで確認すると此方の方に流れてきている。
「キラくん、此方に近づきすぎだ!これでは此方の戦闘に巻き込まれるぞ!」
『カ、カナデさん!?す、すみません!で、でも!?』
此方の通信に慌てて返事をするもどうしようもないようだ。
(チィッ、キラくんは素人だ。流れを見ながら戦うなど出来ないか。)
デュエルが此方に近づきつつあるストライクとイージスに気付き、そちらに向かおうとしている。
「行かせるか!」
そう吐き捨て、デュエルを追おうとするとバスターがミサイルを一斉射してきた。それをライフルとイーゲルシュテルンで撃ち落としながら後退する。撃ち落とし終わってから再度追おうとすると横合いからブリッツがサーベルで斬り掛かって来たのをサーベルで受ける。鍔迫り合いをしながらカメラでデュエルを見るとやはりストライク達の方に向かっている。
「キラくん、すまない!そっちに1機行った!気を付けてくれ!」
そう警告を出す。ブリッツを振り払おうにもこのパイロット、どうしても私をここに釘付けにしたいのか離れない。
「ええいっ!しつこいんだよ!!」
そう吐き捨てながら左手のシールドを叩きつけようとする。その動きを見たブリッツが離れようとする。その一瞬の隙を逃さず離脱を図る。
しかしそれをさせじとバスターが両腰の砲を繋ぎ合わせ、超高インパルス長射程狙撃ライフルにして放ってきた。
離脱した瞬間を狙ってくるのを予測していた為、機体のスラスターとバーニアをフル稼働で瞬時に前倒しにし、射撃を躱すと同時に後方にライフルを向けて一射する。急加速、急転換、急制動による高G機動で身体が圧迫されるのを感じながらの動作の為、射撃が私の狙いよりズレた。
放たれた一射がバスターの左肩のミサイルポッドに当たり、爆発する。ミサイルにも引火したのか中々に派手な花火を上げている。私が追撃する恐れを警戒したのかブリッツがカバーに入ろうとしたので彼我の距離が出来た。そのままキラくんの元へ全速で向かう。
カメラにしつこく接近戦をしようとするデュエルとそれを追い払おうとするストライクがライフルを連射する様子が映されていた。
目の前でキラとイザークが激しく戦っている。俺は………どうすればいい……今の立場ならキラを討たなければならない。クルーゼ隊長との約束でもある。でも………キラを討つなど。
しかしキラの味方をしてイザークと戦う事も……俺はどうしたら……
宇宙を漂いながら2人の戦闘を観ていると不意にレーダーから警告音が響いた。レーダーに目をやり、方向を確認し、カメラをその方角に向けると一機のMSが猛スピードで此方に向かってきていた。
反射的にライフルを向け、二射するとヒラリと機体を翻し、最小最短の回避行動でスピードを殺さずに躱した。そして機体の顔を此方に向けると興味がないと言わんばかりに無視し、キラ達の方に向かっていった。
ただ俺は漂い見ているしかなかった。
正面から迫るデュエルに射撃を何度も繰り出すが迫ってくる。それは僕の心に緊張と恐怖を抱かせるものだった。
『キラくん、援護する!』
不意に入ってきた通信の声に驚いた。
「カナデさん!」
すると直ぐに眼前から迫るデュエルに横からビームが飛んできてデュエルとの間合いが開いた。
『こうなってはキラくんがイージスだけを相手にするのは無理だ。私が前に出て相手をするから君は後ろから援護してくれ。無理に撃つ必要はない。あしらうだけで十分だ、いいね?』
カナデさんはデュエルと激しく撃ち合い、斬り合いをしながらこれからの作戦を伝えて来る。
「わ、分かりました。」
『よし、では君はアークエンジェルの方へ。』
そう僕に伝えて、デュエルを更に引き離しにかかっている。その間に機体をアークエンジェルに向けて移動させた。
デュエルが押されているのを見て、遅れてやってきたブリッツとバスターが援護に来た。それをライフルで牽制する。バスターの左肩が負傷している。恐らくはカナデさんがやったのだろう。
5機が激しく入り乱れ、ポジションを入れ変えながらの戦闘になった。
「ガモフより入電!『本艦においても、確認される敵戦力はモビルスーツ2機のみ』とのことです!」
先に打った電信に対する僚艦からの返答に、ラウ・ル・クルーゼは考え込んだ。ヴェサリウスからはムウ・ラ・フラガのゼロを認められず、念の為にガモフにも確認させたのだ。
「……あのモビルアーマーはまだ出られんということなのかな?」
独りごちつつも何か引っかかる。だがゼロには自身がかなりの損傷を与えた。乗る機体がなければ、出撃したくともできまい。
「それにしてもあの機体、見事なものだな。」
「はぁ?」
アデスの不思議そうな声に顔は動かさず、視線だけを一瞬向けるも直ぐに戻した。
「いかに乗り慣れていないとはいえ、あのイザーク達3人を相手の大立ち回り。見事なものだな。」
「はぁ、確かにその通りではありますが………」
アデスが困惑気味に返答してきた。
「ふふふ、あの機体操作はプラントの先槍を彷彿とさせる。」
私の発言に驚いたのかアデスは振り返って驚きの声を上げた。
「なっ!彼は第三次カーペンタリア攻防戦で死んだ筈です。」
「筈だろう?」
私の疑問に食って掛かるように言い募った。
「じ、実際にカーペンタリアからは彼の機体の残骸が回収されています。」
「コクピットは発見されず、遺体はみつからなかった。」
「それは………」
言葉を窮して黙り込んだ。
「敵戦艦、距離630に接近!間もなく本艦の有効射程圏内に入ります!」
その報告にアデスに向けていた顔を上げた。
「此方からも攻撃開始だ、アデス。」
「モビルスーツ隊が展開中です。主砲の発射は……」
狼狽するアデスに、素っ気ない冷笑で応じた。
「友軍の艦砲に当たるような間抜けは、我が隊にいないさ。向こうは撃ってくるぞ。」
尚も何か言いたそうだったが、命令どおり号令した。
「主砲発射準備!照準、敵戦艦!」
アークエンジェルでチャンドラが計器を見直し、叫び声を上げた。
「前方のナスカ級よりレーザー照射、感あり!ロックされます!」
艦の周りで行われる激しい戦闘に注意を払っていたマリュー達は、その報告に青褪めた。ナタルが躊躇いなく指示を出す。
「ローエングリン発射準備!目標、前方のナスカ級!」
艦長席に座るマリューが慌ててCICを振り返り、その命令を制する。
「待って!フラガ大尉のゼロが接近中です!」
艦首特装砲ローエングリンー直撃すれば、戦艦をも一撃で葬る破壊力を有する陽電子破城砲、そんなものを撃って、もし作戦通りゼロが敵艦に接近していた場合、無事ではすまないだろう。
「危険です!撃たなければ此方が撃たれる!」
ナタルが叫び返す。
『撃つなよ、アークエンジェル!作戦遂行中だ!』
キリュウ二佐から通信が入る。その通りだ!ここで浮足立って自ら作戦を崩すような真似をしたら負ける。
「撃てません!艦、回避行動!」
マリューはキッパリと言った。敵は前後に2隻、モビルスーツの数でも敵わない。この奇襲が成功しなければ、形勢逆転の可能性は万に一つもなくなる。艦長であるマリューは、今回の作戦を立てたカナデとムウを信じなければならないのだ。
握りしめた掌は、じっとりと汗で濡れていた。