ガンダムSEED 天禀の才   作:雪の師走

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フェイズシフトダウン 後編

攻撃命令を出し、今まさに攻撃といった瞬間、突然ラウは、ハッと頭を起こした。ぞわりと肌を伝うような、この感覚。すっかり馴染となった、彼の身の内に憎悪と愉悦にも似た戦慄を呼び醒まさずにはいられない、この感覚はっ!

「アデス!機関最大、艦首下げろ!ピッチ角60!」

唐突に私の口から叫ぶかのように命令が飛び出した。アデスは虚を突かれ、ただ私の顔を見るばかりだ。無理もない。彼にこの感覚を伝える事など不可能だ。だがこの瞬間、その反応の鈍さに私はどうしようもない苛立ちを覚える。

その時、管制クルーが驚きの声を上げた。

「本艦底部より接近する熱源っ!モビルアーマーです!」

 

 

 

 

 

「うぉりゃあああっ!」

ムウは雄叫びを上げながら、最大加速でヴェサリウスに迫る。寸前でヴェサリウスのエンジンが轟音を立て、スラスターを噴射したがもう間に合わない。ゼロはCIWSの迎撃をスイスイと躱し、ガンバレルをパッと四方に展開させた。目標は唸りを上げる巨大な機関部、エンジンだ。ムウは機体下部のリニアガンを連射し、ありったけの火力をぶち込む。

すれ違いざまに機関部が火を吹くのを見て、ムウは「おっしゃあ!」と左手でガッツポーズを作った。そのままの速度でヴェサリウスの上方へ抜けながらゼロからワイヤーが射出される。ヴェサリウスは外壁にアンカーを打ち込み、振り子のように慣性で方向転換したあと、ムウはワイヤーを切り離し、素早くその宙域を離脱した。

 

 

 

 

 

ヴェサリウスの艦橋は激しく揺れ、警報が鳴り響いていた。

「機関区損傷大!推力低下!」

「第五ナトリウム壁損傷!火災発生!ダメージコントロール、隔壁閉鎖!」

クルーの悲鳴のような声が、次々と艦の状況を伝える。

「敵モビルアーマー離脱!」

その機影を前方のモニターで一瞬捉え、怒りに任せてアデスは叫ぶ。

「撃ち落とせーっ!」

だが激しく揺れ傾く艦の状態では、照準を合わせる事もままならない。王手を目前に、ゲームの形勢は一気に逆転された。新造艦とモビルスーツ、守るべき戦力を囮にして、たった1機の旧式モビルアーマーで本陣を叩くとは。

小賢しい真似をすると、歯ぎしりしながら、アデスは後ろを振り返った。そこで一瞬、息を詰める。

「ムウめ………!!」

クルーゼは唸り、砕けるほどの力でアームレストを握りしめていた。仮面から僅かに覗く顔は、悪鬼の如く憤怒に歪んでいる。上官がこれほどの激情を露わにする処を、アデスはこれまで見たことがなかった。

 

 

 

 

 

 「フラガ大尉よりレーザー通信!『作戦成功。これより帰投する』!」

アークエンジェルの艦橋に歓声が上がる。トール達が思わず顔を見合わせ、ホッと胸を撫で下ろした。

マリューは強く握りしめた拳をやっと解いたが、直ぐにしゃんと背筋を伸ばした。

「この機を逃さず、前方のナスカ級を撃ちます!」

クルーの間に再び緊張が戻る。マリューからの指示を受けて、バジルール少尉が命令を発していく。

「了解!ローエングリン1番、2番、発射準備!」

「陽電子バンクチェンバー臨界、マズルチョーク電位安定しました!」

アークエンジェルの両舷艦首にあるローエングリンの発射口が開く。

「てェッ!」

バジルール少尉の号令と同時に、特装砲ローエングリンが火を噴いた。その圧倒的な火力。プラズマの渦が宇宙空間を貫く。それは、傷ついたエンジンで必死に回避行動をするヴェサリウスの右舷をかすった。凄まじい衝撃が艦を襲う。

ヴェサリウスは完全に戦闘能力を失い、戦線を離脱するしかなかった。

 

 

 

 

デュエル、バスター、ブリッツとストライク、プロトの激しい戦闘を介入することも出来ず、迷いながら見守っていたアスランは、特装砲の威力に息を呑んだ。ほぼ時を同じくして、ガモフからレーザー通信が届く。それはヴェサリウスの被弾を知らせ、戦闘宙域からの撤退を命じるものだった。

『ヴェサリウスが被弾!?』

『なぜ!?』

『俺達にも撤退命令!?』

一瞬の隙にストライクが艦に向けて離脱する。もう一機が殿になるようだ。

当初は圧倒的に有利と思われた戦況が、いつの間にか完全に覆された。信じられないニュースに、しばし呆然としていたアスランだったが、アークエンジェルから信号弾が打ち上げられ、我に返る。

『帰還信号?させるかよ!コイツだけでも!』

イザークが敵に迫る。撤退前にモビルスーツだけでも落としておきたいと考えたのだろう。そうでなければ完敗となってしまう。イザークはストライクのパイロットが、キラがコーディネーターであることを知らない。プライドの高い彼にとって、ナチュラルに遅れを取るなど耐えられない屈辱のはずだ。

「イザーク!撤退命令だぞ!」

『うるさい!腰抜け!』

アスランが諌めるが、彼は聞き入れようとしない。ディアッカも戦闘から抜けようという気はないようだった。アスランは唇を噛んだ。

 

 

 

 

『カナデさん!』

キラくんの心配そうな声が通信で入ってきた。デュエルに絡みつかれ、バスターが砲を連射しながら此方を撃墜しようと躍起になっている。

「此方に構うな!離脱しろ!」

『で、でも!』

チィィーーッ、ここで彼の優しさが足を引っ張る。彼の機体のエネルギー残量はどうなんだ?初めはイージス、アスラン君の相手をしていたから、そこまでではないが途中にデュエルの相手をした。ライフルをやたらめったら撃ちまくっていたのを見ていたし、背部のエールストライカーを吹かしていた。エネルギーが持つのか………

そう思った瞬間、ストライクの装甲から色が抜け落ち、本来の暗い鋼色な戻っていく。フェイズシフトが落ちた!

それを見て取ったデュエルが猛然とストライクに突っ込んでくる。

させるか!そう思い、デュエルとの間に割り込み、相対する。バスターにも気を配りながらの戦闘を行う。

「キラくん、急いでアークエンジェルに!」

「は、はい!」

私の指示に返事をし、機体を翻した。

「アークエンジェル!ランチャーストライカーの射出を。空中換装を。」

アークエンジェルへ指示を出すとラミアス艦長が困惑している。

『キリュウ二佐、ストライクには帰還させるべきでは?』

「着艦時が艦も機体も最も無防備になる。急いで準備を!」

『は、はい!整備班、ランチャーストライカーの発射準備を、急いで!』

やっと動き出した。後は私がこの2機を抑えるだけか。

そう思った瞬間、視界の端に高速で移動する機体が映った。

あれは……、イージスか!バスターの放ったミサイルを撃ち落とし、デュエルと錐揉みしながら離脱のタイミングを窺っている間にストライクはモビルアーマー形態になったイージスの、鉤爪のようなアームにガッチリと捕らえられていた。キラくんを引っ攫ったのだ。

 

 

 

 

「キラっ!」

手伝いを申し出たヘリオポリスの学生達が思わず叫び声を上げた。

「ストライク、イージスに捕獲されました!フェイズシフトも落ちています!」

CICからの報告に冷たい戦慄がマリューを襲った。唯一残った機体まで、ザフトに奪われてしまう。しかもパイロットは彼女たちが無理強いして乗ってもらった民間人の少年だ。

「キリュウ二佐に救援を要請して!フラガ大尉にも通信で状況を報せて!急いで!」

「キラ!キラぁっ!応答してぇっ!」

ミリアリアが虚しく何度も呼び掛ける。その少女の悲痛の叫びが、マリューの胸を切り裂いた。自分たちは、一人の少年の運命を完全に狂わせてしまったのだろうか。

「艦長!フラガ大尉よりレーザー通信!『ランチャーストライカー、射出準備せよ!』」

キリュウ二佐が先刻要請した指示をフラガ大尉もしてきた。まだ諦めるには早いようだ。

 

 

 

 

『何をする!?アスラン!』

まだ状況を飲み込めずにいたキラの耳に、通信機から無線で交わされる緊迫したやり取りが入ってきた。

『この機体、捕獲する!』

『なんだとぉ!?命令は撃破だぞ!』

『捕獲できるならば、その方がいい!撤退する!』

イージスはキラを抱えたまま、いち早くその宙域を離脱していく。他の3機が遅れて後を追う。その後方にカナデさんのプロトが懸命に追って来ている。3機の相手をしながらイージスの進行方向に攻撃をする事でイージスは速度が出せていない。3機の相手をしながら自分に攻撃を当てないように注意しながら攻撃している。

「アスラン………!どういうつもりだ!?」

キラの叫びに、アスランが応じた。

『このままガモフへ連行する。』

「いやだっ!僕はザフトの艦へなんか行かないっ!」

『いい加減にしろ!!』

アスランの声に含まれた気迫に押され、キラの反論は宙に浮いた。スピーカーから入ってくる声には、苦渋が滲んでいた。

『来るんだ、キラ。でないと……俺は、お前を撃たなきゃならなくなるんだぞ!』

「アスラン……」

『血のバレンタインで母も死んだ……。俺はっ……これ以上……』

ストライクのコクピットで、キラは息をのんだ。二人が交わす言葉を失った、その時っ!

いきなり横殴りの衝撃が襲った。モニターの端には見覚えのあるオレンジ色の機体、フラガ大尉のゼロが突っ込んできたのだ。カナデさんの攻撃を何度も躱すことによって速度が出ずに追いつかれたのだろう。ガンバレルを四方に展開し、リニアガンから発射された実弾がイージスを襲う。

防御態勢を取るために、イージスはモビルアーマー形態を解かざるをえない。自由になったストライクのコクピットに、フラガ大尉の声が飛び込んできた。

『離脱しろ!アークエンジェルがランチャーストライカーを射出する!』

「えっ……?」

目の前でゼロとイージスが何度も交差しながら攻撃をし合っている。

『後ろにもまだデカいのがいるんだぞ!早く装備の換装を!コイツラは俺達が押さえる!』

キラは一瞬、イージスを見やった。

「……分かりました。」

イージスがゼロを迎撃している隙に、キラはその宙域を離脱した。

『キラーーー!』

後ろから追いかけてくるアスランの声が、胸に突き刺さった。それを振り切るように、キラはバーニアを吹かす。

 

 

 

 

デュエル、バスター、ブリッツの3機を相手取っている脇をストライクが全速で駆けていった。その様子を見て取ったデュエルがストライクを追おうとする。それをライフル射撃で頭を押さえる。一気に接近し、格闘戦に移行する。こちらのサーベルをサーベルで受けた。デュエルはイーゲルシュテルンで牽制しようとするも、その動きを読み、一合で距離を取った。バスターが離れた瞬間を狙い、射撃を行ってきたが、後方に下がることで躱す。そこにブリッツが左手のグレイプニールを放ってきた。それを流れる様に右手のサーベルで切り払い、破壊する。

その隙にデュエルがストライクをまた追おうとするもこちらもイーゲルシュテルンを放って牽制する。何発か当たるもPS装甲に弾かれ、シールドで防御される。その隙に接近し、勢いそのままに飛び蹴りをシールドに喰らわす。反動で後ろに機体が弾かれると後方からサーベルを発振し、接近していたブリッツに肉薄する。私の動きに動揺の挙動が見て取れた。スラスターとバーニアを巧みに吹かしながら機体を操作し、サーベルを躱す一連の流れからサーベルで攻撃を行い、ブリッツの右手を根元から斬り落とす。これでブリッツは無力化出来たはず。

後は2機とデュエル、バスターを見ながら、アークエンジェルとストライクにも目を遣る。

ストライクがアークエンジェルの前に出ようとした時に、アークエンジェルのカタパルトから勢いよくランチャーストライカーが打ち出された。ストライクはそれを確認すると、機体からエールストライカーを離脱する。コンピューターがストライクとランチャーストライカーの相対速度と姿勢を制御し、換装する。

ストライクの装甲が白、赤、青の色鮮やかに変わった。そして背部の巨大なランチャーを腰溜めに構え、一条のビームが放たれた。私の機体に接近しようとしていたデュエルを襲う。間一髪でシールドで防御するもその巨大なエネルギーに耐え切れず、左手も一緒に吹き飛ばす。ストライクがアグニを連射し、その強力な火線を必死に躱し、後退していく。形勢は完全に逆転したことを悟った敵が戦場を離脱していく。

四機のXナンバーが戦場を完全に離脱したのを確認すると力を抜いた。恐らくはアークエンジェルのクルーは、みな一様にぐったりとしているだろう。自分達の力で、敵を撃退することが出来た。彼らは無事に生き延びたのだ。

 

 

 

 

 

機体を格納し、降りると先に帰投していたストライクのハッチがまだ閉じたままだった。整備士のマードック軍曹がハッチを叩きながら中に声をかけている。

「どうかしましたか?」

傍に寄って尋ねると、マードック軍曹が困惑顔をしていた。

「いや……坊主が中々降りてこねぇんで……」

「そうか……代わろう。」

状況を察した私は、そう言って横のパネルで外部ロックを外し、ハッチを強制開放した。

中を見ると、操縦レバーを未だに強く握り締め、凍りついたかのような姿勢をしたキラくんがいた。ハッチから身をくぐらせて、傍による。

「キラくん……キラくん!!」

名を呼び、肩を叩くとキラくんが身体を震わせた。ひくっと喉が鳴り、思い出したかのように激しく呼吸を行う。

キラくんにとって本格的な戦闘はこれが初めて。新兵にはよくあることで、恐怖のあまり吐いたり、漏らしたりは当たり前で、それでも生きて帰れたら上等なのだ。ザフトでも初陣の兵士は後方援護射撃のみにさせるのだ。訓練を受けたザフトの兵士でもそうなのに、訓練も受けずにいきなり実戦に放り込まれたのだ。キラくんがこんな状態なのも仕方ないことだ。ヘルメットを外してやり、優しく声をかけた。

「もう終わったよ、キラくん。よくやった。」

まるで接着剤で貼り付けたように、レバーを固く握る指を外してやり、ベルトも外してあげた。

「君も私も、そして艦の皆も無事だ。よくやってくれた。」

そう言って頭を抱え、抱き締めてあげた。キラくんの身体が激しく震え始めた。その身体の震えを優しく両手で包み込む様に抱き締め、柔らかい手つきで背中を叩いてあげた。

「ううぅぅぅ〜〜〜〜っ。」

彼の様々な感情の発露を胸に感じながら、落ち着くまでこうしていようと思った。

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