少しゆっくりと創作活動します。
暑くてシンドイので。
「クルーゼ隊長へ、本国よりであります。」
アークエンジェル追討を一旦中止し、スペースデブリの陰に停泊していたヴェサリウスに通信が届いた。通信兵がプリントアウトした紙をクルーゼに手渡す。
クルーゼが文面に目を走らせると、それを無言でアデスに突き出した。アデスは通信文を受け取り、その内容に顔を顰める。それはプラントの最高決定機関である評議会からの出頭命令だった。
「そんな……!あれをここまで追い詰めながら!」
「ヘリオポリス崩壊の件で、議会は今頃てんやわんやといったところだろう。まぁ、仕方ないさ。」
クルーゼは淡白に笑う。
「ヴェサリウスもこの有り様では、どうにもならんしな。……修理の状況は?」
「程なく、航行には支障ないまでには……」
「アスランをガモフから帰投させろ。修理が終わり次第、本艦は本国へ向かう。あれはガモフに引き続き追わせよう。」
指示を終えるとクルーゼ隊長は、艦橋を後にした。その様子にはさっきの激情の名残すらなく、獲物を前に邪魔されたという苛立ちは見えない。評議会に召喚されれば、ヘリオポリス崩壊の責任を追及されるだろうに、それに対する懸念を全く感じられなかった。アデスには、そんな上官が理解出来なかった。
アークエンジェルはアルテミスへ入港した。
第五宙域に位置するユーラシアの軍事基地アルテミス。辺境の小惑星に造られた小規模なもので、軍事拠点としては大したものではない。だがこの基地は、独特の防御装置で名高い。小惑星全体を光波防御帯がすっぽりと覆い、どんな物体も兵器もレーザーでさえもそのシールドを通さない。通称〝アルテミスの傘〟
難攻不落と言われる絶対防御兵器である。
極秘裏に建造され、軍の認識コードを持たないアークエンジェルだけに、すんなりと入れてもらえないのではないかというマリューの懸念に反し、入港許可はあっさり下りた。
入港前に制服に着替えるために更衣室でパイロットスーツを脱いでいると、さっさと着替えたフラガ大尉は部屋を出ていった。
「あの、カナデさん。さっきはすみませんでした。」
キラ君がおずおずと不安げに謝罪をしてきた。
「謝る必要は全く無いよ。新兵にはよくあることだ。君は軍人ではないから立派なものだよ。」
恥ずかしがった表情を見せるキラ君がやっぱり民間人の少年だと感じさせる。
「それよりもこの後、機体をロックしておいてくれ。自分以外が動かせない様にね。」
「えっ?なんでなんですか?」
不思議そうな顔で聞いてきた。
「私の予想では面白くない事態になるだろうからね。皆の安全の為に頼むよ。」
そう言ってキラ君の肩を叩いた。
「傘はレーザーも実体弾も通さない。まあ、向こうからも同じことだがな。」
「だから攻撃もしてこないってこと?馬鹿みたいな話だな。」
ディアッカが呆れて言うと、艦長のゼルマンがジロリと睨んだ。豊かな髭をたくわえ、服装にはいつも一分の乱れもない、いかにも生真面目そうな人物である。
アルテミスを睨む位置に停泊していたガモフの艦橋では、ゼルマン艦長とイザーク、ディアッカ、ニコルがブリーフィングの真っ最中だった。
ザフト軍には厳密な階級というものは存在せず、ただ隊長、艦長などという役職があるのみだ。基本的に知的レベルの高い軍隊だけに、上官の命令に従うだけでなく、兵士たちが現場で独自の判断を下すことが許されている。
ディアッカはいつもの斜に構えた様子だが、ニコルは真剣に戦略パネル上のアルテミスを見つめていた。
「あの傘を突破する手段は今のところない。厄介な所へ入りこまれたな。」
「どうするの。出てくるまで待つ?」
クスクス笑うディアッカを、苛立ったイザークが睨みつける。
「ふざけてる場合か、ディアッカ!お前は用を終えて戦線に戻られたクルーゼ隊長に、何もできませんでしたと報告したいのか?それこそいい恥晒しだ!」
そう言われるとディアッカも黙り込むしかなかった。その時、ニコルが口を開いた。
「傘は常に開いているわけではないんですよね?」
「ああ、周辺に敵のいない時までは展開していない。だが傘が閉じている所を狙って近付けば、此方が衛星を射程に入れる前に察知され、展開されてしまうだろう。」
ディアッカがお手上げというように、両手を開いた。だかニコルは言った。
「僕の機体〝ブリッツ〟なら、うまくやれるかもしれません。」
これまで彼を相手にしていなかったイザーク達は、驚いてその顔を見た。柔和なニコルの顔には、いつになく悪戯っぽい表情が浮かんでいた。
「あれにはフェイズシフトの他にもう一つ、ちょっと面白い機能があるんです。」
「あの、何がどうなっているんですか?」
隣に座っているキラ君から疑問を聞かれた。
「ユーラシアって味方ですよね?大西洋連邦とは仲が悪いんですか?」
と対面に座るサイ君からも質問が飛んできた。
「まぁ、良くはないね。地球連合軍と一言で言っても一枚岩ではないんだ。対プラントという共通の目的を持って、設立された地球連合だが、所詮は別々の国家の寄せ集めでね。寄り合い所帯の常として、利権や大国の思惑、互いへの牽制などもあって、足並みが揃っているとは口が裂けても言えんのよ。」
「「「「へぇ〜〜。」」」」
感心した様に声を漏らすヘリオポリスの学生達に苦笑してしまう。
「まあ、残念な事に本命は別の所にあるようだがな。」
アークエンジェルとストライクは、大西洋連邦が総力を注ぎ込み、他の共同体にも極秘で建造した新兵器だ。同盟国とはいえ、ユーラシアとしては無関心ではいられまい。
「と、言いますと?」
「単純明快、この艦とモビルスーツが欲しいんだよ。出来れば実機、それが駄目ならデータをね。実際、今現在ザフトも含めロールアウトしている物の中で最も性能が優れているからね。そりゃ喉から手が出る程に欲しいんだろうね。」
そんな事を学生達に話している。後ろに立っているマードック軍曹やノイマン曹長、チャンドラ伍長達も頷いているのを気配で感じた。
そこへ、ユーラシアの士官達が足音荒く入ってきた。先頭に立った禿頭の男が、横柄な口調で尋ねてきた。
「私は当衛星基地司令、ジェラード・ガルシアだ。この艦に積んであるモビルスーツのパイロットと技術者はどこだね?」
「あっ………」
素直にハイと手を上げ、立ち上がろうとするキラ君を片手で押さえ付けた。後ろからもマードック軍曹が肩をぐいと押さえた。
キラ君は訳が分からずキョトンとして私とマードック軍曹を見た。代表して、ノイマン曹長がムッツリと聞き返した。
「なぜ我々に聞くんですか?艦長達が言わなかったからですか?」
そのやり取りにキラ君はハッとした表情をした。やっと察したようだ。入港前にストライクをロックしておくように言った理由を今になって理解したようだ。
「モビルスーツをどうしようってんです?」
ノイマン曹長の言い方に、ガルシアはムッとした様子だったが、不意にフッと笑うと、発言したノイマンに近寄ってくる。
「別にどうもしないさ。ただ、せっかく公式発表より先に見せていただく機会に恵まれたんだ。色々と聞きたくてね。パイロットは?」
マードック軍曹が答える。
「フラガ大尉ですよ。お聞きになりたいことがあるんなら、大尉にどうぞ。」
「先の戦闘は此方でもモニターしていた。ガンバレル付きのゼロを扱えるのは、今ではあの男だけだ。それくらい、私でも知っているよ。」
私がスッと立ち上がり、声を発した。
「私がモビルスーツのパイロットだ。」
胡散臭そうに此方を見る視線が不愉快だった。若造がとでも思っているのだろう。考えている事が手に取るように分かる。底が浅い人間なのだと思った。
「君は?」
不躾かつ失礼な質問で此方の素性を訊ねてきた。
「モルゲンレーテ社特別教導部隊兼外国人傭兵部隊所属カナデ・キリュウニ佐です。」
相好を崩した嫌な笑みを浮かべている。その喜びようが無性に心をざわつかせた。
「これはこれは、オーブの方でしたか。今回の計画はオーブとの共同開発との事でしたが…」
ガルシアが両手を擦り合わせるかのように擦り寄ろうとしてきたが彼の間違いをピシャリと指摘した。
「オーブではなくモルゲンレーテです。国営企業の為に勘違いされているようですが、今回の計画に政府が絡んでいるのかいないのか、モルゲンレーテ上層部の独断か現場組の独断かハッキリとした事は末端の社員である私には分かりません。貴方も自身の判断を口にされるのは控えた方がいいでしょう。自身の身の為になりません。」
私が今回の計画のモルゲンレーテの参加は認めるがそれが何処までかは分からないため、これ以上の言及は政治問題、国家間の問題になると警告すると、顔色を悪くして黙り込んだ。
「とりあえず、貴方には別室にて色々とお話を聞かせて頂く。身元の確認もしなければいけませんしね。おい、彼を貴賓室にお連れしろ。」
そうガルシアが私に告げ、若い兵士に連れて行くように命じた。4人の兵士が前後に立ち、食堂から出るように促されて歩き出した。
「定時哨戒、近接防空圏内に敵影、感なし。」
ガモフが付近の宙域を離れた後の事である。
「よし、もういいだろう。全周囲光波防御帯収容。第二警戒態勢に移行する。」
アルテミスの管制室では、敵艦は攻撃を断念したものとみなした。これまでの宙域を訪れた他の敵と同じように………
アルテミスから傘が消えた。
それを待っていたニコルは当該宙域を一時離脱していたガモフからブリッツを発進させた。
デッキからそれを見ていたディアッカが舌打ちをした。今回はニコルだけの出撃だ。それが不満なのだろう。イザークも機影を見守り、口を開いた。
「しかし地球軍も姑息な物を造る。」
「ニコルにはちょうどいいさ。臆病者にはね……」
宇宙空間を慣性移動するブリッツの黒い機影は、そもそもが見つけにくい。そこに機体各所の噴射口からガスのようなものが吹き出し、広がるにつれて、その機体は消えていく。
「ミラージュコロイド生成良好……散布減損率37%……。使えるのは80分が限界か……」
ブリッツのコクピットでニコルは独りごちる。
やがてブリッツの姿は完全に消えた。視覚だけではなく、レーダーにすら映ることはない。
これがブリッツの〝面白い機能〟ステルスシステムである。ミラージュコロイドと呼ばれる、可視光線を歪め、レーダー波を吸収するガス状物質を展開し、それを磁場で機体周囲に引き付けることで、ブリッツは完全に〝見えない存在〟になるのだ。
今、ブリッツは誰にも気づかれることなく、アルテミスに取りついた。右腕に装備されたトリケロスを構える。50ミリビームライフルとビームサーベル、ランサーダートがセットされ、シールドを兼ねる攻守一体の装備だ。先の戦いではプロトガンダムに斬り落とされたが、回収して修理した。幸い肩から斬り落とされたので大きな損傷もなく、短時間で直った。
アルテミス表面の岩壁からは、エアダクトやアンテナ等の他に、一見して用途を測りかねる設備が幾つも突き出していた。ニコルはその中から正確に、光波防御帯を作り出すリフレクターを見つけ、標準を合わせる。
トリケロスのビームライフルが火を噴いた。
貴賓室に押し込められてから30分と経った時、鈍い地響きが身体を揺らした。周りに視線をやると動きやすい物が震えているが分かった。
「ブリッツか………」
直ぐに状況を理解できた。恐らくはブリッツのミラージュコロイドで隠密奇襲を仕掛けたのだろう。アルテミスの傘は、常時展開していない。敵影が消えたら閉じている。その隙をついたのだろう。
目の前の監視役の士官は狼狽えている。私に背を見せ、貴賓室の外に歩哨として立っている兵士に扉を開けて尋ねている。しかし混乱していて分からないようだ。
残念だがここで死ぬ訳にはいかないのでね、行動に移させてもらう。そう決めると直ぐに立ち上がり、入り口で揉めている兵士達の傍に近付いて、連合の兵士の腰に差さった銃を引き抜いた。
驚きの声をあげた瞬間に4発発砲し、物言わぬ骸に変えた。
「悪いな、私はここで死ぬ訳にはいかないのだよ。」
そう言い残し、武器を幾つか奪い、その場を後にした。
アークエンジェルの横の乗り込み口から艦内に入ると直ぐ様、放置されていたインカムを頭部にセッティングし、状況の確認を行う。
「此方、カナデ・キリュウニ佐。各員状況を報告せよ。」
そう言うと直ぐにレスポンスが返ってきた。
『カナデさん!無事だったんですね。』
「キラ君か。今は何処にいる?」
『ストライクで出撃しました。ストライクの起動させてる最中に振動を感じて、敵だって言っていたので。』
「分かった。キラ君はそのままアークエンジェルの直掩についてくれ。私はユーラシアの連中を追い払ってアークエンジェルを解放してからプロトで出る。」
そんなやり取りをしていると別の回線から通信が入った。
『此方、アーノルド・ノイマンです。艦橋は此方で抑えました。艦内も司令が退艦したと情報が流れて逃げ散っているようなのでニ佐は艦の護衛に就いて頂きたい。』
「了解した。」
やるじゃないかと思った。揺れると同時に動いたのだろう。機を見るに敏じゃないか。
機体に飛び込むとアークエンジェルが揺れた。エンジンに火が入ったのだろう。機体のロックを解除し、発進準備が整い、カタパルトに移動するとインカムからラミアス大尉の声が聞こえた。
「ラミアス大尉、無事だったか。これより出撃し、艦の護衛に就く。」
『キリュウニ佐、よろしくお願いします。』
「カナデ・キリュウだ。プロトガンダム発進する。」
そう言うと機体にGがかかり、カタパルトから射出された。直ぐに後方に機体を向けると、ストライクとブリッツが鍔迫り合いを行っていた。
「キラ君!離れろ!」
そう言って接近し、サーベルを振り下ろす。敵が入ってきた入り口とは逆方向にアークエンジェルが動き出した。
「キラ君はアークエンジェルの前に行って先導を!アルテミスから脱出する。」
『わ、分かりました!』
外ではいつの間にかデュエル、バスターが攻撃に加わっているようだ。外のビーム砲やミサイル発射管が次々と破壊されているのか爆破している。
ブリッツも私と接近戦をする気はないらしく、ライフルを連射し、近づけずにいる。ならばと殿として切りの良い所で機体を翻して離脱した。機体をアルテミスから脱出させる瞬間に、凄まじい爆炎が開口部から噴き出す。次々と誘爆の炎が上がり、宇宙空間に浮かんだ難攻不落と謳われた衛星が陥落した。
アークエンジェルはストライクを先導に、プロトを殿にしてアルテミスから辛くも脱した。
アルテミスを脱出し、少しして展望室に来ていた。懐から煙草を取り出して火を着けた。深く吸い込み、大きく吐き出した。白煙が吐き出され、眼前の星々を一瞬白く染め上げた。
それも直ぐに晴れ、美しい星々が広がった。
「キラ君、入ってきたらどうかな?」
目の前の星々を楽しみながら後ろに声をかけた。
「気づいてたんですか?」
「昔からこういうのには鋭くてね。それでどうしたんだい?」
そう声をかけて、横を指差すとスッと横に移動してきた。手に持った煙草を吸ってもいいかと訊ねると頷いたので、気にせずそのまま吸うことにした。
「煙草、吸うんですね。」
「ああ、たまの気晴らしにね。」
それで会話が止まり、少しの沈黙が流れた。そのままにしてても仕方ないので此方から切り出すことにした。
「で、何があったんだい?」
私が少し頭を下げ、横にいるキラ君の顔を見詰めると此方に一瞬だけ顔を向け、正面に顔を戻した。
そして、ポツポツとアルテミスで私が連れて行かれた後のことを話しだした。もう一人のパイロットを探すためにミリアリアの腕を掴み、無理矢理立たせ、ガルシアのあまりのやりように思わず激昂した事から始まり、揉めたこと。ストライクに連れて行かれ、OSのロックを解除させられている時に、ユーラシアに勧誘を受け、その時に裏切り者のコーディネーターと言われたことを話してくれた。
「裏切り者のコーディネーターか…………、そうか………」
「あの………カナデさんは元ザフトって言ってましたが、何でザフトに戻らなかったんですか?」
最初は躊躇、逡巡していたが意を決したのか、質問をしてきた。
「私はある戦いで負傷してね。中々の大怪我だったんだが、命を救ってくれたのがオーブの人だった。命の恩人に命の礼をしている、ただそれだけさ。」
「ザフトに戻ろうと思わなかったんですか?」
続けて質問をしてくる。一度聞いた以上は最後まで知りたいことは聞きたいのだろう。
「全く無かったと言えば嘘になるがね。恩を返す事を優先したんだ。………キラ君、確かに君は裏切り者のコーディネーターだ。プラントと地球軍という括りで地球軍に所属するアークエンジェルのパイロットとしての現状をプラント側から言えばそうなる。」
私の突然の言葉に驚愕の表情を浮かべ、慌てて反発心から反論をしてきたが、手をキラ君の前にやり、言葉を無理矢理止めた。最後まで聞いてもらうためだ。
「だがプラントに味方すると云うことはヘリオポリスの友人達を見捨てると言う事になる。どちらの立場になってもどちらかを捨てるという立場になる難しい立場だ。私ならどうしたか分からん。私だって元ザフトのパイロットなのにオーブの軍人になり、モルゲンレーテに出向させられ、地球軍の極秘計画に参加し、傭兵として、ザフトと戦っている。元同胞を容赦無く落とした私はキラ君よりも罪深いのだろうな。」
「それは……………」
私の立場や行動に何も言えなくなったキラ君。
「立場や見る視点が変われば見える物も違ってくる。キラ君は私から見れば友達を守るために懸命に出来ることをしている心優しい子だよ。君は裏切り者なんかじゃない。」
そう言うとキラ君は肩を震わせた。スッと頭に手をやり、ポンポンと撫でた。更に震えが大きくなったが構わず頭を撫で続けた。
あ、ついでにこれはBLではないので。
キラとイイ感じみたいに感じている人がいたら申し訳ないです。
期待されてる方がいたらスミマセン。