そう脳裏に響く声と共に、俺は自意識を取り戻した。手を見れば、記憶しているものより遥かに小さい五指や掌が目に映る。
端的に言えば、俺は転生した。……解脱できずに地獄行きという意味も含まれている可能性があるけれど。ぶるんぶるん。
転生して明確によかったと言えるのは、言語の習熟だ。前世で使っていた日本語と多少の英語や韓国語といった"都市"の公用語のいくつかは学ばなくても大丈夫そう。日本語はもちろん問題ないとして、英語や大学で選んだ第二外国語程度の知識しかない韓国語でも知っているのと知らないのでは大違いだ。
さて、都市と表現したが、他に国家があるわけじゃない。都市とは、26の大企業──翼によって管理される巣と裏路地で構成されたそれだ。Library Of Ruinaとかを出しているProject Moon作品群の舞台であり、この世の終わりみたいな倫理観の世界。
この世界において、出る杭は打たれるなんてことはない。誰もが優秀であろうとし、
そして、たかが前世で大学課程を終えた程度の人間以上の天才は割といる。ぱっと思いつくだけでもアインやベンジャミン、ディアスにファウスト……つまり、前世持ち一般人が全力を出したところでさほど問題はないということだ。L社に起因するW社やR社の特異点の知識をひけらかすような真似はするはずないが。流石に死ぬ。
高校生活について、さほど変わった点はなかった。
彼らの会話はあまり変わり映えしない。シンクレア曰く、妬みと誇示、優越感や狡猾さ。誰の父親がどうしただの、うちの母がどうしただの。ただ、総合的に見ればそれこそがありがたいのだが。
──都市において、タブーではなくジンクス的に気を付けなければならないこと。それは、青春にイカレ女と関わらないことだ。成績優秀な
白夜・黒昼後は、E.G.Oの発現とねじれのリスクが常に存在する。転生した──変動することがない自我を持っている俺にとっては、ねじれることそのものが恐怖だった。そうならないために必要なのは、心に瑕疵を作らないこと。学生時代にメンタルズタボロにされるのは避けたい。そういった精神衛生に気を使うのは重要だ。
例えば、義体。義体でもE.G.Oの発現やねじれは可能だと図書館に呼ばれるゲストから推測できるが、おそらく人間の体よりそのハードルは高いだろう。
傷ついても痛みはない。食べなくても空腹を感じることがない。けれど、そうして傷つきにくくなった心ほどねじれやすいと俺は考える。ねじれはいわば自己愛の存在だ。そう考えると、苦痛もそれなりに大切だろう。痛いのは嫌だが、自身の痛みと向き合うことは重要なはず。
そして、大学も卒業して就職した。翼の一つであるL社──Lobotomy Corporationに!
なんで没落確定の翼に入ったか? 他の翼の面接で落ちたからだよ。特異点を知っていてかつ安牌な
そう、再就職だ。今の職場にはセフィラがいない。つまり、アンジェラから図書館の司書補に永久雇用してもらえはしないことを意味している。あっちもあっちでろくでもなさそうだが、最終的に外郭でパジョン作って酒盛りが確定してるのだから気楽だ。……いや、赦さないエンドの可能性もあるが。
だが、俺には秘策がある。皆がハッピーな感じになっている白夜(幻想体ではない)中に、再就職するのだ。面接官も頭ハッピーになっているなら、きっと採用してくれるだろう。そうでなければ、俺はユーリちゃん(概念)になってしまう。
そんなわけで初出勤だ。ワンダーラボみたいに、普通の支部にはセフィラなんていない。あれは
スーツを着て、鏡の前で自分の姿を眺める。ピンク色の髪に、150センチほどの身長。転生したら性別も変わっていたことに驚きもしたが、むしろ親の出身地ガチャで
新人ということで、初日から過酷な業務というわけではなかった。教育チームで妖精の祭典──もっとも危険度の低いZAYINクラスの相手をして、仕事に慣れること。先輩やもう一人の同期と一緒のそれが初仕事だ。
「もう情報も解明された幻想体だ。マニュアル通りにやれば問題ねぇよ」
いざ幻想体と──認知フィルターのかかっていないそれらと対面することに感じていた緊張をほぐすように、先輩が背中を押す。わずかにつんのめるが、たたらを踏むくらいであり。
「その防具を着てりゃ、餌付けでつまみ食いされてもちょっと痛いだけで済む。ビビんな!」
実際、ちゃんと餌を与えられている妖精は図書館での餓えた連中のように獰猛ではなかった。初仕事を終えて、次は同期が隔離室から出てくるのを待つ。彼も無事だ。
「こいつらは可愛いもんだが、他はそうじゃねえ。下手したら死ぬようなやつや、逃がすとやべぇ連中もわんさかいる。気ぃ緩めんなよ。……とはいえ、初仕事だ。緊張して疲れたろ。休憩だ休憩! ジュース奢ってやるよ」
教育チームのエレベータを降り、メインルームへ。
「……何考えてるんだ、ここの管理人」
なんか、廊下に挙不者がいる。E.G.Oを着ていることから、ここの職員で間違いないだろう。歩き方が覚束ないというか、ゾンビみたいな印象を受ける。体に力が入ってないのか? 挙動こそ怪しいが、ここの職員だ。先輩の知り合いらしく、ふらふらしてるのは
先輩がそちらに行った以上、先に戻るわけにもいかない。そうしてこちらに近づいてくる彼とすれ違う寸前、音が聞こえた。
鈴の音のような、金属が擦れるようなそれ。自分の内側から響くようなそれには覚えがあった。
「罪悪……共鳴?」
直後、施設内に警報が鳴る。First Trumpet。同時に挙不者が溶けた。肉どころか骨もなくなり、粘液の塊に変化する。向こう側からは、威容を誇る巨大な粘液塊が迫りくるのが見えた。
共鳴は繋がり続けている。前へ踏み出せば強く、後ろに下がれば静かになって。ALEPHクラスの脱走だ。施設自体が危険なんだろう。なら、俺は。新入社員に過ぎない俺はどうすればいいか。
──その名を誇る。十二の勇士でもなく、英雄譚の人物でもなく。ただ、その意味を理解して、
Second Trumpet。目の前には、無数の骨が浮かぶ粘液の塊。これが、"溶ける愛"の本体なのだろう。先輩は叫びながら、猛スピードで逃げ去っていく。俺に殴り掛かってこなくてよかった。今は、集中が必要な刻だから。
自身の原型──E.G.Oのモチーフはたった今見ている最中だ。なら、できないことはないだろう。
恐れはない。その腕を叩きつけられれば死ぬと理解してなお、あるのは確信だった。光の種は蒔かれておらず、美しい声は聞こえない。それでも、できると直感している。
「
羽ばたきのE.G.Oスーツが溶ける。代わりに血のように滴る粘液が、振り下ろされた腕を阻む盾へと硬化した。俺の知る限りだと"これ"はスーツの上から粘液で覆われていたと思うが、俺にとってのE.G.Oは違うらしい。
ドレスだ。いずれ
「……ロクなものじゃないな。私も、これも」
迫りくる眷属をトーチで薙ぎ払えば、ピンク色の炎は液体のように広がっていく。スライム故に物理攻撃を無効にしようと、この炎は
この火の燃料は、罪悪だ。都市の悲劇を欲望し、それでもなお理想へ羽ばたく翼も望む。他者の苦しみの源泉から俺の悦びを汲み上げる罪悪感。
──ねじれてしまえば、この罪悪感を覚えることもないだろう。目の前の叫喚を笑って受け入れ、苦痛の連鎖に加担する。……それは、嫌だ。悪趣味な好奇心も、前世で培った良心も。どちらも捨てずに生きていたい。
痛みに共感し、好奇心を抱き、それらを愛する。だからこそ、"溶ける愛"が俺の人柄/人殻なのだ。都市の苦痛を、直視し続ける。慣れてしまえば、この炎は消えるだろう。
トーチを直接、"溶ける愛"の体内に深く押し込む。視界の片隅で、事務職が自分の頭に拳銃を構えているのが見えた。表出しきれない感情が涙と笑みを形作り、手は激しく震えている。異形の眷属になりたくないのだろう。銃を使った自殺という以外は、都市でもありふれた死だ。掃除屋の夜であれば死体は燃料になるが、ここで死ねばエンケファリンの製造量が増す。変わらないことだと思いながらも、心臓を締め付ける罪悪感と背筋を奔る快感はとめどなく俺自身を苛んでいる。
銃声が鳴った。溢れて滴り続ける粘液はその量を増し、宙に複雑な線を描く軌道で眷属たちを貫いていく。トーチの炎はいっそう勢いづいて、"溶ける愛"やあの挙不者が変化した眷属を纏めて灼いていた。
──気付けば、鎮圧は完了していた。収容室の廊下に散らばるのは、眷属にされた人間の骨や床に広がるスライム。それと、頭を撃ち抜いて倒れ伏した死体がいくつかだ。
ドレスは支給されたE.G.Oスーツに戻っていて、トーチだけは手元に残っている。俺の周りに、人はいなかった。
開花E.G.O::ハーロット
粘液のドレスと、槍くらいの長さのトーチ。粘液は変形して盾になったり飛び道具になったり。望めば纏えるけど、その時のメンタルによってはねじれる可能性が付きまとう。
トーチの方は、炎が水みたいに広範囲へ拡散して燃え広がる。全部の攻撃が攻撃加重値2以上みたいな感じ
ねじれると、女の子メンタルの愉悦系淫ピ幼女になります。