"火の鳥"鎮圧で武器を貰おうということで、各チームのチーフと5級職員が呼ばれている。とはいえ、チーフ以外の5級職員は俺以外にいないが。
集合場所である指揮チームへのエレベーターはせわしなく動いていて、他のチームからもチーフが来ているのだと分かる。
俺たちが降りてきた横のエレベーターからは、Nが描かれた緑の腕章の青年が出てくる。彼も俺たちの腕章に気付いたのか、一礼してきた。
「安全チームチーフ、ミリアムです。……まあ、繰り上がりですけど」
不安なのか、しきりにこちらに話しかけてくる。俺としては、他の管理職がどういう人物かを知れて楽しいが。
「今回は、殴ればなんとかなる仕事なんですよね……巣の人たちって、ごちゃごちゃした管理方法とかすぐに覚えられるものなんです?」
「それに、作戦も細かくて……というか、WAWランクって上から二番目ですよね。暴れたら、死者が数十名になるとか……」
「射撃後は室外に退避する、チームの名に相応しい最も安全な役割です。貴方には我が懲戒チームのE.G.Oウェポンを貸与しているのですから、その程度は成し遂げてもらわなくては」
そんな風に話すのは、オールバックの髪型にギフトらしき眼鏡をかけた男だ。ピンク色の軍服で、狙撃銃を背に懸架している。片手には同じくピンクの軍用ヘルメットっぽいものを持っていた。"黒の兵隊"だな。事実上のALEPHだ。
貸与されているE.G.Oと聞いてミリアムの方を見れば、ぬるぬるとした"抜け殻"の大砲を持ちにくそうにしていた。こっちの元は"裸の巣"か。
「懲戒チームチーフ、ブラウンです」
……どっちだ。なにもなさそうな名前だが、眼鏡でブラウンと聞くとブラウン神父が思い浮かぶ。だとすれば、時間殺人時間やワープ特急殺人事件で名前が出ていた、セブン協会1課のアガサと関連がある可能性が濃厚だ。どっちも探偵だし。ドンキホーテが知っていたってことは、数十年前のフィクサーだろうけど……血縁あたりか?
「だから、ビックリなんだよなー。お前が無事に帰ってこれたの。やっぱ、E.G.Oと感応してるやつは違うのか?」
「くどい。到着したぞ。口を慎め」
次いで、情報チームのゼペットチーフと、教育チームのチーフだろうか。武器の丸鋸からして、シャーデンフロイデ装備だろう。
「皆さん、集まったようですね! それでは、ブリーフィングを始めます」
最後に来たのは、包帯の巻かれた大剣とスーツを着た青髪の女性──指揮チームのチーフであるアロナックスだ。
「まず、ネロさんのE.G.Oウェポンで"火の鳥"の移動速度を低下させます。その後、ミリアムさんの持っている"抜け殻"で砲撃。レッドダメージへの耐性を低下させ、早急な鎮圧を達成しましょう!」
まあ、突き詰めれば囲んで殴るなのだが。
「懲戒チームチーフ、ブラウンです。こちらが管理作業を担っているD-01-110、以後"風雲僧"と呼称するこの幻想体は、事務職を含む職員の死に反応します。隔離室前で懲戒チームメンバーを待機させていますが、相手は移動速度の速いWAWランクです。逃走を許す可能性も考慮しなくてはなりません。その場合、アロナックスチーフが」
「アロナちゃんです!」
「アロナックスチーフが単独で"風雲僧"の対処に当たります。指揮権は私に引き継がれるので、各位は私に従うように」
短期決戦の理由はそれか。死体に反応する幻想体を抱えているから、事務職が巻き込まれると大惨事になりかねない。大乱闘は避けたいというのも分かる。
「伝達事項は以上です!」
そうして、隔離室の廊下に俺とゼペット、アロナックスと教育チームのチーフが待機する。遠距離武器のエルフ先輩とミリアム、ブラウンは扉を隔てた隣の廊下にいる。幻想体が廊下に侵入後、こちらに突入し射撃を行うわけだ。
「教育チーム、ラズローだ。よろしく頼むぞ! といっても、全員俺の顔は見たことがあるか。教育チームですれ違ったことはあるだろうからな」
「"火の鳥"、管理作業終了予定時刻です。もうすぐ、来ます!」
Second trumpet。WAWランクの幻想体が脱走したのだから、脅威度としてはそうなるだろう。
廊下に甚大な熱気が吹き荒れ、非常ランプが赤く点灯する。輝かしい炎を纏った巨大なる鳥が、俺たちの目の前に現れた。
「始めるぞ。ネロ!」
「了解」
ハーロットによる束縛。トーチを振るい、散弾のように粘液を撒く。大きく羽ばたいて優雅に飛行する鳥は、動きを制限する粘性の炎に身をよじった。
「ミリアム、撃ちます!」
扉の開閉音。熱さにどよめいて震える声ではあるが、その宣言と共に、俺たちの背後から砲撃が行われた。
「ラズロー、第一射の着弾を確認した。脆弱性の付与を確認。後衛! 援護頼む!」
真っ先にラズローが丸鋸を持って突撃し、ゼペットやアロナックスも続く。鳥は大きく羽ばたいて炎を拡散させようとするが、"抜け殻"の着弾箇所と同一部分に銃弾が撃ち込まれた。
「相手の動きを統制し、掌握し、制圧する。当然のことです」
ヘルメットについているマイクを通した声で、ブラウンが誇る。パッと見ただけでも、彼の背後に青い炎が灯っているのが視認できた。……"壊れゆく甲冑"のギフトだな。
認知フィルター越しに見る戦闘と、実際の戦闘は違う。"火の鳥"が床一面を覆うように炎を放てば、ラズローは壁にめり込ませた丸鋸を回転させ、壁面を削りながら上昇して躱す。アロナックスは包帯を鎖として天井のライトや隔離室の突起に巻き付けて壁や天井を走っている。ゼペットと俺は普通に跳躍して回避した。
"溶ける愛"の粘体で足止めしつつトーチを叩きつけていれば、壁や天井をレール代わりにしたラズローが鳥の上を取っている。
「さて、これで上手くいってくれよ……!」
天井から武器を引き抜き、落下しながら攻撃を行う。当たれば、そのまま丸鋸が体を削り続けるだろう。
「ここだな。……波よ」
ゼペットが錨を床に擦らせながら突進する。その瞬間、まるで床が水面だったかのように波が押し寄せた。水に囚われた火の鳥を、E.G.Oウェポンである"視線"が押し付けられる。強烈な攻撃に、いままでのようなゆったりとした動きも止まり……
「何か様子がおかしいです! 気をつけて下さい!」
「各位、新たな行動に注意するように。おそらくは突進です」
アロナックスとブラウンから声が飛ぶ。
「マジ、か……っ!」
高速の突進。廊下の壁面を焼き焦がすほどの巨大さでの攻撃は、回避を困難にしている。おそらく、ラズローは間に合わない。
「ネロ。大湖のあれをもう一度だ」
故に、質量には質量で対抗することが選ばれた。ゼペットが自らのE.G.Oと深く感応し、侵蝕状態になる。本来なら元に戻すことはできないが……
私なら違うわ。一度できたのだもの。心を元に戻してあげることくらい、簡単だけれど。ただ、それは彼女の心が緩やかに死にゆくことなの。私の見つめるものを自らの視界とする血族。人魚になるとはそう言うことでしょう?
「ただ、天地すら分からぬほどに……深淵の航路へと!」
叫びながら、"夢貪る濁流"に似た姿が地を泳ぐ。理性を失い、ただ輝かしき光へと。激突の衝撃は照明を破壊し、ガラスが光を乱反射させる。
ラズローもまた弾き飛ばされ、床を何度か跳ねながら着地した。今の攻撃は精神に作用するようで、相当に憔悴した表情を浮かべている。
「精神汚染は、こちらでフォローできます~」
直後、エルフ先輩の"偽善"──周囲への精神汚染値を下げるE.G.Oスーツの効果が作用している。空気が僅かに清浄になる錯覚。
「総員、一斉攻撃です!」
突進を止めたところで、ゼペットのE.G.O侵蝕を解く。これ以上侵蝕状態を維持していたら、鯨の方の俺が表に出ないと治せない。そして、鯨の方の俺は"陰"のE.G.Oが強く出る。ここにいる味方も巻き込んだ攻撃しかできないのだ。それは大惨事なので、こうして一撃だけが限界なわけだ。ゼペットは膝をついて荒く息をしている。
その隙を縫うように、ラズローの丸鋸とアロナックスの剣、俺のトーチに加えてエルフ先輩のボウガンやブラウンの銃弾が火の鳥へと殺到する。ミリアムの砲撃もあった。
そして──
「……幻想体が卵へ変化したのを確認しました。鎮圧完了です」
目標、完全無力化。制圧完了だ。最初に深く息を吐いたのは誰だったか。ともかく、口に出すかはともかく全員が喜びを抱いていた。
「目が眩みますね~。あんなに光っていたのをずっと見ていたからでしょうか~」
エルフ先輩が言うが、そういえばそうだ。"火の鳥"に攻撃すると、その日の作業効率が半減するんだったか。
「残りのエネルギーノルマは、他の管理職の人たちに委託しましょう。皆さんは、今日は休んでください!」
アロナックスがそう言って、解散になる。指揮チームの幻想体ということで、今回のレポートは指揮チームが書く。
「と、終わりはしましたが。E.G.Oスーツもウェポンもたくさん消耗しましたからね~。福祉チームとしては、業務終了後の方が忙しくなりそうですよ~」
ゼペット
情報チームのチーフ。E.G.Oのオーバークロックを覚えた。ネロがいなくても使えるが、その場合は戻ってこれない。
ミリアム
安全チームのチーフ。チーフ歴一ヶ月くらい。裏路地出身。勇気が高く、暴力に慣れている。
ブラウン
懲戒チームのチーフ。巣の出身。高い正義に加え、攻撃速度が上がるギフトをいくつか持っている。
ラズロー
教育チームのチーフ。裏路地出身。