俺の心がドレスを着ろと告げている   作:三白めめ

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A:血染めの夜が暴れ回っているので、都市北部か東部ならまあまあの確率で関係者にエンカウントします。


Q:血鬼と戦う方法

 こと巣において。実のところ、走ることは滅多に無い。子供がはしゃいで少しばかり走ることこそあれど。走らなければならないほどのタイムスケジュールを組んでしまう人間はそもそも巣に入ることはできないし、ランニングならルームランナーなりジムに行くなりいくらでも方法がある。

 よって、夜間の巣の中で走らなければならない状況というのは限られてくる。

 

 こういうことを考えるのは、走る足音が聞こえているからだ。それも二人分。規則正しいわけでもない、必死で逃げるようなペースで。巣の中でそんなことはあるのかと思うかもしれないが、現在はその例外が猛威を振るっている期間だ。

 都市の星──血染めの夜。ワークショップでP社支部にいった時あたりで都市の星に認定され、おおよそ一年が経ったくらいか。今では燦然と輝く一番星としてフィクサー雑誌を飾っている。

 

 攫った人間は裏路地で発見される。血管や臓器といった中身がなくなり、無差別に他者へ襲い掛かる状態で。これは吸血に伴う血袋への変化というより、血染めの夜──エレナの能力だろう。ドンキホーテの家門が硬血を用いて戦うように、エレナは血による他者の操作や肉体の再構築に長けている。

 

 さて、俺個人が有する知識の整頓も終わったところで。いくつかの翼が、ツヴァイ協会のフィクサーを雇用していることも考えなければならない。そして、幸運なことに俺の近くにはそうした巣の警備をするフィクサーがいる。彼もこっちへ向かってくる人影に気付いたようで、すぐに駆け出した。ツヴァイの制服を着ていなかったあたりから考えて、協力事務所のうちの一つに所属しているのだろう。街灯事務所みたいな。

 スーツを着た青年を追いかけるのは、血塗れの服を着た男性だ。その手には片手斧が握られており、見ただけでもどういう状況なのかを理解できるシチュエーションである。

 

……彼女、確か狡猾な手段を使うのだったかしら。これで引っかかれば楽だし、引っかからなければ……といったところでしょうね

 

 どちらにも、意志が感じられないが。であれば、今回の簡単な罠は見当がつく。走る両者が血袋だ。エレナに操作されて、『追う側と追われる側』という劇を演じている。

 

「間に合わないか」

 

 気付いたところで、もう割って入っていたフィクサーが後ろから刺されていたが。がらんどうの体内から血の刃が飛び出し、彼の体に穴を開ける。膝から崩れ落ち、倒れ伏すフィクサー。血袋たちは彼から流れる血を求めるように、その体を噛み千切っては血を啜っていた。

 

 であれば、引っかからないくらいに強いフィクサーならどうか。

 

「設置時間」

 

 エレナの使っていた広域──顎あるいはトラバサミを思わせる、血の牙。それが、無数に張り巡らされていた。

 

無数の血袋ね。多数であるのは強いもの。けれど、けれどね

 

 血の罠、血袋、彼らの持っていた武器。その程度で。

 

私の自我(E.G.O)を。私の夢を。塗り潰せるわけがないのよ

 

 戦闘用の強化施術を起動した際の赤い目。それが、普通の目の色へ()()()()

 次元鞄からスティグマ工房の槍を手に取る。赤熱するそれを血袋の振るう片手斧へ突き出し、頭蓋を打ち砕く。直後、地面より起動する鮮赤の牙。噛み砕こうとするそれを槍で支え棒とし、血を炎で塗り潰す。……周囲一帯は敵だらけだ。そちらの私が気にかけているように、巻き込む心配はないでしょう?

 エレナが直接作り出して配置したならともかく、血袋に仕込んで配置させた脆弱な意志しかもたない血であるならば。押し合うことなく領有できる。一つ、二つ。血袋を滅ぼす。槍は投げて血袋を地面に縫い留め、アラス工房の手袋での殴打へ変更する。

 

私は武器なんて使わないもの。私自身(E.G.O)ならともかく。それに、人魚を作ろうにも、あんな血袋じゃあ、ね? ……えり好みしてしまうようになったのは、あちらの私に影響されたのかしら。それも愛おしいのだけど

 

 酸の霧を纏う。鯨としての性質が集約したのか。この酸は鯨油のように、心も蝕むようになっていた。纏った霧は拡散し、周囲の血を消していく。血袋に関しては、俺が傷を負うことなく対処できる範囲だ。

 

「これで終わりね。どうしたものかしら。私が通報するのは好ましくないでしょうし

 

 縫い留められていた血袋と、肉片となったフィクサーの死体が残った。退屈というわけではないが。幸運だったとは思う。エレナに直接出張られていたら、本当に厄介だった。E.G.Oギフトやらを着けている状態ならともかく、現状だと感情が上がる前に殺される可能性があった。

 

 

 

「どう思うかしら? 眷属さん

 

 エレナではない。だが、間違いなくさきほどの血袋とは違う。血鬼。御伽噺の存在だと思われていた、人間の怪物。

 

「おや、気づかれていましたか。フィクサー……いや、違いますね。フィクサーらしくない。ここに守るべき者はいない。わざわざ(わたくし)に話しかける意味はないはずです」

 

 モノクルをかけ、執事服を身にまとった長髪の老人。目立つのは、指ぬきグローブだろうか。片眼鏡の位置を直すように右手を伸ばし、左手は背中に回している。

 

「私もかつてはフィクサー、バトラーとして働いていてね。今は我が()()()──夜を率いる主へ仕えております」

 

 バトラーを名乗る彼が腕を軽く振れば、ビルが寸断される。……何も見えなかった。ただ、ビルが斬られた結果だけが、目の前にあったのだ。

 

「第二眷属、マルチェロと申します。いずれ血袋となる人間よ、以後お見知りおきを」

「──そして、さようなら」

 

 マルチェロは再び右腕を振るう。……霧が揺れた? 咄嗟に血袋の残骸を蹴り上げ、即席の盾を作る。

 

「……おや、仕留め損ねたとは。臓腑ごと体を捌いたと思いましたが」

 

 次の瞬間に血袋は何枚もの皮に解体され、空中でバラバラになっていた。……カマイタチじゃない。幾重もの空気の刃を作るのは、あの動きではできないはずだ。腕の動き自体は見切っている以上、これは確実。であれば……

 

「おや、私の技の正体を見切ろうと? さて、遺跡の遺物か、あるいは触れたものを分解するナノマシンやもしれませんね」

 

 待て、指ぬきグローブ? バトラーを務めるようなフィクサーだ。当然、等級も高いわけで。実際、マルチェロの着ている服も上等なものだ。それを、わざわざ指の部分だけがら空きにしたグローブを使う?

 それに、今の発言はブラフ。わざわざ他から持ってくる必要はない。そもそも、遺物探しなんてする血鬼の方が稀だ。

 大方の見当はついた。

 

「糸……いや、血鬼であるなら毛細血管か。面白い」

 

 指先から伸ばした毛細血管を宙へと遊ばせている。肉体の再構成によって鋭く硬質化させたそれを、眷属としての血液操作能力で自在に操っているのか。ドンキホーテ流の、武器を作る硬血ではこうもいかない。エレナの眷属であるが故の独自技術か。

 前世において、人間の振るう鞭の先端は音速を超える。であれば、血鬼の膂力で扱えばどうか。その答えが眼前の光景だ。

 

「……おや、見破られてしまいましたか。それも、こうも短時間で。一級の牙狩りといえど、我が血線を見破ることは不可能だったというのに」

 

 分かった上で、対応できるかは別だ。視認することができないほどに細い血管。

 

「だが私の斬撃を見破ったのなら、分かるでしょう」

 

 切断されたビルの中に、まだ息のある人間が何人も残っていた。そして、それらの人間へ血線が突き刺さっていく。

 

「こうした使い方もできるのだと!」

 

 傍に置いてあった鞄……次元鞄か。年季の入ったそれから中身を取り出し、放り投げる。血線で操られる血袋に成り果てた連中は次々に()()を取った。

 

「銃器を用いるいくつかの事務所及び組織を襲撃いたしました。私は主様の組織に属するので、事務所破りということですね。いやはや、久方ぶりに口にする単語ではありますが」

「かくして、数十丁の銃と連射可能な銃弾を集めたわけでございます。どうぞ、ご堪能ください」

 

 Sランクの銃は無いようだが、それでも十分に脅威だ。それに、反動は血線で無理矢理抑え込まされている。もちろんその衝撃は腕に蓄積されるが、操っている側からすれば関係ない。リロードのことは考えていないし、できるだけの隙があるとは思っていないだろう。

 フレンドリーファイアと反動を無視したワンマガジン連射。数十の銃口から放たれた弾丸が俺を襲った。

 数発を弾き、不完全ながらハーロットを発現させる。その場に止まっての回避では血線での切断に対処できないため、アラス工房の強化施術も起動して一気に加速。コンクリートを砕きながら踏み込み、銃弾を躱しながら操られている連中の方へ。

 

「元バトラーと言ったはずです。そのくらいの強化施術であれば──!」

 

 見切っているとばかりに、進路に血線が振るわれる。何人かの血袋が巻き込まれるが、気にしていない。対して俺はハーロットの能力を自分に向け、急激に減速をかけた。

 

「──ッ!」

 

 炎が俺を燃やすことなく、粘体の減速部分だけが作用する。加速した分だけ強烈な反作用が襲うが、制御できる範囲だ。再び加速をかけ、さきほど放置した槍を回収。連射を続ける彼らへと槍を投擲すれば、命中直後に炎が爆発する。

 広域への攻撃で、血袋は殲滅した。とはいえ、こうした投擲による遠距離への広域はスティグマ工房の武器の発火機構を暴走させて使っているものだ。なので、あとはナイフを使う一回きりだ。

 

「お見事、実にお見事。しかし、私の意図も理解できているでしょう?」

 

 巣の中で響く大量の銃声。間違いなくフィクサーが集まってくるだろう。そしてそれは、血線で操れる人間が増えることを意味する。

 

「さあ、もう一度。銃はありませんが、今度はフィクサーです。見せてください、貴女の力を」

血鬼(我ら)がどういうものかは説明の必要がないご様子。私は、あと一人だけ子を作れます。これすら切り抜けられるのであれば、ぜひとも貴女を迎えたい」

 

 それは叶わないでしょうね。私も、あれが欲しくなってしまったわ。




マルチェロ
エレナの第二眷属。毛細血管を指先から体外に露出、硬化させて作った『血線』で斬撃を放つ。血管なので血液の操作で軌道を変化させられるし、ものすごく細いので目に見えない。
また、他者に突き刺して血を注入すれば、対象を操ることができる。これは親であるエレナ由来の共通能力。
フィクサーを引退してバトラーになったこともあり、血鬼になる前から戦闘経験は豊富に有している。

血袋
マルチェロが血を注入して操る血袋。マルチェロの次元鞄から武器を与えられ、襲い掛かってくる。複数人での銃の乱射は強い。終止符親指戦法で覚えのある方もいるのではないだろうか。

2024/11/15における情報による二次創作であり、エレナを第一眷属として書いている。
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