都市において、一番面倒なのは起きたことの処理だったりする。ここを杜撰にすると、後になって不利益が回って来ることがあるのだからなおさらだ。煙戦争参加者に対する巣への移住権回りのことが、例としては適切か。
現在の俺は、L社に所属する羽という肩書があるが。こうした荒事に巻き込まれる可能性については考えていなかった。都市の星案件に直撃するのは想定外だ。このままだと、手続きがとてつもなく面倒になる。L社所属ということもあって、特異点絡みのあれこれとかで煩雑な書類などが多い。E.G.O絡みで、トレス協会関連の書類も確認しなければならないし……
そんなわけで、それらを簡単に処理するためにフィクサー免許を取得する。とある特色からオススメされたのもその一因だ。といっても、まさか書類を書いている最中に試験を受けに行くわけじゃない。
ナレンシフ号での鯨捕りの経験をエイト協会に申請。9級フィクサー資格証を発行してもらう。鯨の件も、思えば約一年前のことではあるが、ゼペットのコネでスタルティフィラに掛け合って諸々を通した。好奇心もあったとはいえ、積極的に手伝っただけの甲斐はあったということだろう。久しぶりに話したが、好印象で覚えられていた。
ともかく、これのおかげでハナ協会に提出する書類は依頼処理のフォーマットに沿う記述で済むわけだ。付け加えるなら、翼に属するフィクサーのように、特異点に類する技術は詳細を記述することが免除される。よって、これでE.G.Oまわりのトレス協会関連書類はパスした。
「それほど苦労はしなかっただろうね」
ツヴァイの事情聴取を終えて協会を出たところで、声をかけられる。フィクサー資格を取っておくことを勧めた本人。俺の知識も及ばない不確定性の塊であるが故に、考えないようにしていた特色だ。
……このタイミングでフィクサー免許を取ることが勧められるということは、血鬼を討伐した実績が必要だった? あとは、赤い霧に近しい装備を用いていると、朱色の十字が察したからか。このあたりは推測だし、近視眼的な考えにならざるを得ない。
「望ましい結果の一つではある」
となると、期待される役割のひとつは白夜・黒昼以降のP社支部の監視? 支部が埋没処理された後、エンケファリンを目的に組織やフィクサーが侵入する可能性が高い。意図されていないタイミングでラ・マンチャランドが解放されるのは望ましくないだろう。
「目的は? "紫の涙"」
「あれだけやったんだから、目をかけることもあるだろうけど」
赤い霧やローラン、
「朱色の十字が言っていたことが正確なら、"赤い霧"と私の纏う服は同種」
「まあ、不完全ではあるけどねぇ」
ここからは認識の確認だ。お互いに分かり切っているが、コミュニケーションとは前提を共有すべきだろう。
帰結として考えられるのは、十三番目の協会の人員確保か。肉斬骨断のイベント時点で、そういう流れがあるという状態だったはずだ。となると、将来的に起こり得るねじれの発生について、上手く述べることが着地点になる。当然のことながら、現時点でのネロという人間が知りうる範囲の知識量で。
「であれば、他の人間が発現不可能と言い切るのは浅慮にもほどがある。その上で、常に揺るぎない自我を保てるものばかりではないはず。精神が自身の内側に振り切れた際にどうなるかは、想像に難くない。……詳細に関しては言及を控える。
眼前の彼女は表情を変えずに聞いている。……しまったな。三人目って言わなかったのは失敗だった。
「"赤い霧"が都市に姿を現さない現時点において、フィクサーとしての私はどこにも紐づいていない」
俺個人としてはL社に属しているが、将来的には本社が光の種を撒いて倒産する。Bエンドでも倒産して翼は折れるので変わらない。Cエンドは……最悪のパターンだ。
L社にまつわる顛末に関しては、アインが成し遂げてくれることを祈るしかないが。それ以外は彼女と俺にとって望ましい流れはだいだい一致している。図書館は光を集めて、最終的には外郭へ放逐されるのが最良ルートだ。光が再び撒かれたということも重要になってくる。……ラ・マンチャランド案件を片付けるなら、トマリーの孤児院襲撃は見逃す必要があるのか? いや、その前に大罪ワイルドハントで、ガーネット周りのことが無くなったヴェルギリウスが不利益を覚悟して助けに来なくなる可能性が出てくるか。
訂正。少なくともLimbus Company設立まで、望む道を同じくしている。
「よって、将来的に起こり得る……心が揺らぎ、単純化した願いに自身を当てはめた際に変化するだろう異形への対処を目的として声をかけたと考える。このタイミングだったのは、不自然に思われないためと、フィクサーとして第二眷属の討伐記録を残しておくため? 巣で暮らしている以上、P社支部に転勤することは好ましくないけど」
面倒だけど、これ以降の会話において前提を省けることは便利だ。最後に関しては、L社が折れるだろうこと──光の種シナリオを予測しているのは流石に不自然なので、転勤だとかの的外れなことを言っておく。
「これほどまで推測できるだなんて素晴らしいね。それじゃあ、また然るべき時に声をかけるとするか」
正解とも不正解とも言っていない。まあ、そんなものだろう。……なんなら、別れ際にアラス工房の紹介状を渡されたのが一番効いたかもしれない。前世の感覚からして、そういう借りは返しとかないと心に残る。恩を返さないのは不義理だし、よくないだろうという庶民的感覚。
第二眷属との戦闘、朱色の十字との共闘、紫の涙との遭遇。……翼に就職しているから、フィクサーとしての空白期間は問題なく埋まる。あくまで学生時代に取得するのが問題だったというだけで、今取る分にはまだリカバリーが効く。
巣の住民に手を出したこともあり、マルチェロの都市災害レベルは『都市悪夢』に認定された。その討伐は、9級から上がるには実績として十分過ぎる。昇格審査の結果はまだ出ていないが、結果は見えている。
フィクサーとして超えてはならない一線というものがある。戦闘意思の無い民間人を殺してはならないだとか、組織の依頼でツヴァイ協会のフィクサーを殺すだとか。つまり、最低限の良識に従いましょうという意味だ。例に挙げたうち後者に関しては、反社の依頼で警察を襲うのはマズいだろうってことだし。
翼の入社試験よりも格段に緊張した対面を終えて、家に帰る。フィクサーになったということが、心にのしかかる。ついに、冒険のチケットがこの手に握られたわけだ。使うか使わないかに関わらず。
「存外、悪い気分じゃない」
ネロ
フィクサー資格を得た。といっても、L社で働いているのでフィクサー活動をする気はない。自覚していないが、ドンキホーテのフィクサー観に考えが近かったりする。流石に、無償の仕事というわけではないが。