俺の心がドレスを着ろと告げている   作:三白めめ

2 / 32
A:文学知識を元に、有名な名前と一致している先輩がいないかを探します。


Q:支部内の頼れる先輩を探す方法

「新人さんですか? よろしくお願いしますね~」

 

 福祉チームのチーフだと言って俺を迎えた女性は、おっとりした喋り方をしていた。丸眼鏡をかけた(オールドレディギフト)彼女はエルフのような耳(寄生樹ギフト)であり。桜の花が付いた簪(墓穴の桜ギフト)ツタや葉の絡みついたローブ(寄生樹EGO)も相まって、ここがファンタジーの世界なんじゃないかと誤解しそうですらあった。……寄生樹いるのか、この支部。

 

 初出勤日に同僚が多数殉職したのもあって、あと2日くらいある予定だった教育チームでの新人研修は終わった。配属されたのは福祉チーム。"溶ける愛"の隔離室がある部署らしい。

 "妖精の祭典"、"オールドレディ"、"そりのルドル・タ"のいる教育チームから、エレベータを使って福祉チームへ。ここはセフィラたちのいる所と違って、一瞬でワープできるような設備はない。あるのは普通の階段とエレベータだ。

 

「福祉チームは、事故の予防や後始末をしている部署です~」

 

 エレベータの待ち時間に説明を受ける。なんと呼べばいいのか聞けば「エルフさんと呼んでくださいね」と言っていた。分かりやすくていい。

 

「あとは、EGOの整備も私たちの仕事ですね。始業前にスーツや武器を各部署に届けるのは事務員さんの役目ですが、メンテナンスは3級以上の職員がやらなきゃいけません。……事務員さんは、死んじゃいやすいので」

 

 最後は少し声を抑えて、エルフさんは言う。職員は5級まで分類されていて、数字が高くなるほど偉い。この辺りはフィクサーの等級とは逆だな。あっちは1級の方が上だ。

 昇降機は到着時や開閉時に音が鳴らず、静かに乗客を迎える。乗り込もうと歩を進めた時だった。

 

「あぁ、昨日の。やはりそちらに配属になったか」

 

 後ろからかかってくる声。その主は早足で歩き、俺たちの目の前に立つ。

 黒を基調に、緑色の混ざったコートとズボン。一見して船乗りや船長といった印象を与えるE.G.Oスーツやギフトの帽子を纏った女性が歩いてきた。前世の記憶で見覚えのある装いは、眼前の彼女がどの幻想体を担当しているかが容易に察せられる。

 

「エルフの。そこの4級相当から聞いた内容も踏まえて纏めた情報だ。目を通しておけ」

「流石はゼペットさんですね。紙でも渡すのは相変わらずなようで」

 

 ゼペットと呼ばれたその人は、懐から取り出した書類をエルフさんへ渡す。管理情報が載っているのだろう。ちなみに、4級相当ってのは俺のことだ。入社した時の能力テストで4級上位から5級付近の成績だった。

 

「それと、指揮チームから伝言だ。奥の手を切らずに終息できて幸いだった。迅速な制圧に感謝する、とのことらしい。オレもあのハンマーは好かん。見ずに終わったのはありがたい」

 

 ……情報量が多いな。奥の手のハンマー……レガシー版にあった、夜明けのハンマーだろう。逆行時計みたいなアレだ。

 そして、目の前にいるのが情報チームのおそらくチーフ。……ゼペットなんて名前だ。確実に強い。

 考え事をしていると、彼女は俺に顔を近づけてきた。左目は灰色に染まっていてハイライトもない。E.G.Oと同じように、盲目なのだろう。あるいは、それくらいにまで力を引き出せているのか。

 

「……やはり、鯨とは異なるな。気配は近いが、決定的に違う感覚」

 

 やっぱり、鯨と関係ある。童話の方のピノキオで、ピノキオは鯨だかサメだかに飲み込まれていた。それ関係だろうか。

 

「U社の出身ですか?」

「ああ。以前は鯨や人魚を獲っていた。だが、ここは陸だ。オレの部署の部下はただの部下で、航海士でも漕ぎ手でもない。関係のない過去だ」

 

 用は済んだとばかりに話を打ち切り、ゼペットは立ち去っていく。

 

「もうちょっとお話してもいいんですけどね」

 

 エルフさんが呟くのとエレベータのドアが閉まるのはほぼ同時だった。

 

「じゃあ、気を取り直して。私たちの部署の幻想体について話しましょうか」

 

 三本の指が立つ。

 

「まず一つ目に、"墓穴の桜"。綺麗な桜ですね~。満開になると人を食べようとしちゃうので、そこだけ気を付けてくださいね?」

 

 偶に他の部署からも見に来るくらいは、綺麗な花なんですけどね。そう締めて指を一本下ろした。

 

「二つ目は、"世界樹"です。私は寄生樹って呼んでますけどね。こっちは、見に行くこともオススメしません。精神汚染度は下がるんですけど、祝福──あの木は祝福って言っているのでそう呼びますね。それが一定数に行き渡ると、その人たちを有毒ガスが出る苗木に変貌させるんです」

 

 こっちも魅了してくるので、気を付けてくださいね。そういってまた指を下ろす。魅了ばっかりだ。

 

「最後に、昨日来た……えっと、"溶ける愛"ですね。作業を終えた職員に粘液を感染させて、一定時間がたつと汚染が広がって粘液に変わるのかな? それに、二次感染から三次感染に広がっていく……マズいことしか書いてないですね」

 

 最後の指が下がり、ずっと表情の変わらない笑みをこちらに向けてきた。

 

「ネロちゃんには、この"溶ける愛"を担当してもらいます」

 

 端的に言うと、ボッチ宣言。施設全体としては幸運なことに、桜と寄生樹が同じ廊下に隔離室があり、"溶ける愛"は別の廊下の隔離室だ。悪意がないとはいえ、こういう指示が妥当。……そもそも、この部署の幻想体がロクなものじゃない気もするが。

 

「終業時間になるまでは、メインルームに入ってこないでくださいね。そのメインルームも、私か事務員さんしか使いませんけど」

 

 エルフさん以外全滅してたことをさらっと伝えられつつ、エレベータを降りて福祉チームへ。

 

「……外だと感情上げなきゃいけないけど、ここだとすぐに出せるのか」

 

 黄金の枝が地下にあるからか、"ハーロット"はすぐに発現した。溶ける愛の攻撃に耐えられたこともあって、これを着ての愛着作業は無事に終わったわけだ。指示が洞察作業ではなく愛着作業なので、当然ながら業務終了までひとりぼっち。

 

 静かだ。よく考えれば、昨日はALEPHクラスの幻想体とその眷属が脱走。眷属もHEクラスなので、新人や中堅は大体死んだのだろう。俺たちの福祉チームや懲戒チームに繋がるエレベータは情報チームの部署にある。そこのチーフは、さっき会ったゼペットだ。明らかに強い。そんなベテランばかりの管理体制で幻想体が脱走するわけもなく、万が一脱走したとしてもこっちの部署まで逃げてこないはずだ。

 手元のタブレットには愛着作業の指示が伝達され、休憩して再び愛着作業。俺が作業している間に昼飯が届けられていたようで、広々と寝転がれるソファーにピザの箱が置かれていた。

 ……虚しい。こじんまりとした部屋なら、まるで引きこもりだとでも思えたかもしれないが、ここは戦闘するのに十分なくらい広かった。

 職場の人間関係に苦しめられることは無さそうだが、これはこれで釈然としない。……クリフォト抑止力が強まって、粘液の感染が起きなくなった終業後はエルフ先輩と普通に話すが。

 

 エルフさんから聞いた話だが、昨日の挙不者は福祉チームの人──俺の前任者だそうだ。他の部署の被害は、指揮チームで一人と、教育チームのチーフ他二名。安全チームは壊滅して、情報チームはゼペットチーフ以外死亡らしい。……ゼペットさん、一人で上層の被害に対処してたってことか?

 ちなみに、懲戒チームは遠かったので無事らしい。風雲僧が収容されているみたいだから、余裕というわけではなかったそうだが。

 

 

個人的な日記 記録者:ネロ

入社二日目。福祉チームのエルフチーフ、情報チームのゼペットチーフと知り合った。脱走もないので、休んでは"溶ける愛"に愛着。休んでは"溶ける愛"に愛着。自制の価値観検査、たぶんランク5になっていると思う。




ゼペット
情報チームのチーフ。"夢貪る濁流"から抽出した船長っぽいEGOスーツとギフトの帽子、武器の錨を持っている。盲目イシュメールと同じやつ。U社の巣出身の元船乗り。盲目EGOと相性がよく、E.G.Oの本当の力一歩手前。
情報チームの幻想体は、"夢貪る濁流"と"蓋の空いたウェルチアース"、"次元屈折変異体"。ウェルチアースのエビは鯨か人魚あたりじゃないかと疑っている。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。