俺の心がドレスを着ろと告げている   作:三白めめ

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A:束縛を付与して、速度5以下にし続けます。


Q:草を食みに来たウサギを倒す方法

 ウサギチーム──翼の戦闘部隊と事を構えることになったわけだが、少なくとも今の状況においては絶望するほどじゃない。彼らがニコライのような優れた指揮官の下で戦っているならともかく、分隊や小隊規模でしかないなら生き残るだけの目はある。それに、大量の銃を相手にするのは第二眷属戦で予習済みだ。

 しん・いき(死んでも生き返る)のようなものとはいえ、孵化場での選別には一週間かかる。もっと悪質な連中(ダンテ一行)とは違って、戦場においては殺せば死ぬのだ。特異点の結果だけしか知らないから、いくら消耗しても高水準の傭兵が空席を埋める傭兵企業と恐れられているだけで。

 

「リウの言葉を借りるのであれば、『彼を知り己を知れば百戦して危うからず』か」

 

 ウサギチームの強みは、素早さに起因する制圧力だ。なんなら、幻想体と戦闘する際の弾丸はロボトミー社が作ったものを使っている。おかげで4属性の攻撃が連続して飛んでくる。頼もしいといえば頼もしいが、半敵対状態となると厄介なことこの上ない。これが、4人組の4部隊派遣されるわけだ。

 ……青い残響が羨ましくなるな。超振動する鎌が残す微細な震えが、遠距離の攻撃を弾くってあれだ。図書館やってた時は、特色の名を冠するパッシブがこの程度かと思っていたが。こうして見ると、凄まじく強い。実質ポーキュバスとか言ってごめんね。

 

 では、どうするかだが。まず、"陰"は倒してもらわないといけない。情報チームの方にも、"陽"を倒すために派遣されているのだろう。同じくらいの火力を投射していると考えると、鎮圧するタイミングもおおよそは合うはずだ。問題は、先に"陰"の鎮圧をしていた俺を挟むように、廊下の両側からウサギチームから来るってことだが。

 挟み撃ちになると面倒なので、片側を潰しに行く。もう片方は、"陰"が弾避けになってくれるだろう。ある程度はダメージを与えておいたので、半分くらい削られても十分に倒せるはずだ。

 

「それにしても、多く死んだ」

 

 懲戒チームも、"風雲僧"が脱走したりと大変なことになっているのだろう。生憎と、部署は封鎖されていて聞こえないが。

 

「危険レベル、高!」

「新鮮な草が見えるな!」

 

 さあ、ウサギチームの到着だ。2部隊が廊下の両端から来ている。残り2部隊は、事務職の掃討をしているのだろう。翼と戦うのは、ワープ列車整理要員以来か? ジョバンニの件は、途中から共闘みたいになってたし。あの時と違って、殺されたら死ぬ。保険はなく、味方は無し。

 

「いつも通り、始めよう」

 

 開戦の合図は、くしくも"陰"の攻撃だった。廊下一帯を射程とする爆発。爆破範囲を示すレーザーの軌跡が奔った瞬間に、一気にウサギチームへ距離を詰めていく。

 

「どんな武器を持っていても、ウサギには草に過ぎない」

 

 壁を蹴り、天井を駆ける。ドレスでこの動きをするのは、どこか心許ない気もするが……アラス工房の最新式強化施術は、加速と踏破性能に関して追随を許さない。もちろん、外骨格スーツや筋肉増幅施術といったR社の独特な身体強化も翼として高品質なのは確約されているが……

 

「情報も武器だと思うが?」

 

 速度が同じなら、情報のアドバンテージが優劣を決める大きな要因となる。爆発を防いだ俺に対して、ウサギチームは少なからず負傷していた。射撃姿勢が揺らいだりしたところを見るに、体力や精神力は半分ほど削れただろうか。

 鯨包丁──"不調和"を大きく振りかぶり、彼らへと振るった。刀身から滴る炎が、壁や床を染めていく。アラス工房の施術によって加速した動作に加え、大質量の偃月刀による慣性。暗色の橙が斬撃の軌跡となり外骨格まで達する。その破壊力は一撃で胴体を断ち切り、二人目を巻き込んで──

 

「制御、しきれない……っ」

 

 着地と同時に、靴底と地面が火花を散らす。横薙ぎに振るった運動エネルギーが殺しきれず、交戦中の小隊の背後まで通り過ぎたところで咄嗟に床へと刃を突き刺した。ドレスのスカート部分が風で広がり、粘液を散らしながら回転する。直後、無数の弾丸が俺のE.G.Oウェポンを襲う。

 

「運がこれっぽっちもないやつら!」

 

 他のウサギは死んだメンバーを一瞥し、軽く呟いていた。まあ、孵化場でまた会えるからそんなものか。死に動揺しないのは強い。そのせいで俺は銃弾の雨に曝されて、攻勢に出られないわけだし。不調和で防ぐことはできているが、下手に動くとその隙をついて一点射撃を通される。レッドダメージであれば、ハーロットの粘液をシールドにして防げるが……これでペイルダメージの弾丸だったら致命打になりうる。付け加えるなら、一度体勢を崩した時点で一方的に攻撃を通されて終わりだ。なので、こうして弾丸を防いだり弾き続けたりする状態から脱せていない。

 ハーロットは原型が"溶ける愛"のE.G.Oなので、レッドとブラックダメージの弾丸は通してもほとんど問題ないが、ホワイトとペイルダメージは確実に防いでおきたい。一番耐性の低いペイルでも等倍なので、弱点というわけではないが。

 向こうでは"陰"の鎮圧を行っている。幻想体にこういうことを思うのもどうかと思うが、もうちょっとだけ耐えてほしい。挟み撃ちされると、本当に厳しいから。

 

「追加で来られると面倒だ」

 

 弾丸を弾いた勢いを利用し、"不調和"を手元で回転させる。逆手に持ったそれを、今まさに火線を俺に集中させているウサギへ投擲。かなりの勢いで投げたそれは、盾にした銃を粉砕しながら"陰"の方へ飛んでいった。今ので一人持っていければよかったんだけどな。

 しかし、狙いはそっちじゃない。俺と対面しているふたりのウサギ。その最後の銃の射線が、"不調和"の飛んで行った方向へ向く。当然だ。武器を投げたのだから、回収しないと攻撃手段がないと考えるのは当然の帰結だろう。

 ただ、俺の手には"ハーロット"の武器たるトーチを握っている。E.G.O自体、『人の姿を孤高に保ったまま、服と道具によって最も人間らしい姿で闘わなければならない』というのがコンセプトだ。なら、服を着るタイミングと道具を持つタイミングが別々でも何らおかしくないだろう。

 一気に距離を詰め、今まさに銃を捨ててナイフを構えたウサギへ突きを繰り出す。不意打ちだったんだが、それでも何合かをナイフと打ち合うことになる。そう簡単に殺れないか。打ち合っている最中に飛散させた炎で焼かれたのか、敵は地面に倒れ伏す。火傷で継続的にダメージが入るのが役に立った。

 

「三人目」

 

 残り一人。投擲した"不調和"に釣られたウサギがこちらに銃を向けるが……接近戦の間合いと判断し、銃を脇に抱えた。ナイフを取り出し、片手に構えている。

 

「これは、ちょっと危ない感じだな?」

 

 発言に反して、声色には高揚が滲んでいる。筋力増幅によるアドレナリンの分泌が作用しているのだろう。それに、死を恐れることがないからか。士気が下がらないのはいいことだが、それでどうにかできる状況かどうかは別だ。床は発火している粘液が覆っていて、素早い戦闘機動を阻害する。

 

「鑑賞の対価」

 

 現時点で、3人を殺した。これから、更に1人を殺す。この後、彼らは1万人の自分自身を殺すのだろう。連綿と積み重なる悲劇は、都市の苦痛に加担し続ける俺を責める。罪悪は炎を燃え盛らせ、"陰"やそれと戦闘しているウサギチーム、そして眼前のウサギへ侵食していく。ともすれば俺すら飲み込もうとするそれは、同時にE.G.Oが危ういものだということを常に思い知らせた。だからこそ、よりよく生きなければならない。

 ここまでやって普通に戦闘を継続しているあたり、流石は翼に所属する戦力と言うべきだろう。視界の端には、エレベーターで降りてきたウサギチーム2部隊が合流するのも見える。致命的な状況だが……

 

ここまで素材があれば、それなりのものはできそうね

 

 対処は十分に可能だ。"陰"のギフトの耳飾りを触れば、(ヒト)から()へ本能が切り替わる。ハーロットの粘液に触れている諸々──ウサギチームの銃やナイフ、外骨格といったものが統合されていく。

 

 前提として。グロテスクの語源は、ローマ皇帝のネロが建築した宮殿で用いられていた装飾様式だ。本来の大きさを無視して、人物や動植物へ変化していく曲線模様。そこから転じて、不調和なものを形容する言葉でもある。建築分野においては、奇怪な生物の彫刻もグロテスクと呼ぶのだったか。そういえば、キメラとも呼ばれるらしい。

 では、再解釈していこう。大きさを無視して、人間が別のものに変化した結果の一つに人魚がある。"不調和"は俺の有するE.G.Oウェポン。キメラは……今の俺は人間と鯨のキメラのようなものだ。

 影響下にある万物を領有し、ひとつに組み上げる。陳腐な言い方になってしまうが、それがネロ()たる俺の必殺技。

 

グロテスク

 

 "不調和"に肉や鋼鉄の絡みついたような巨大な偃月刀が析出する。大湖の鯨用の鯨包丁より巨大なそれは、俺の背丈を遥かに超えていて。不調和の名が示す通り、ただの一度振るうだけで崩れる不安定さを持つ。

 

「いったい、ここは何の施設なんだ!?」

 

 恐れる声を遮るように、溟い色の斬閃を放つ。炎に侵食されているもの全てを破壊する一撃が、廊下にいるウサギチームや"陰"を飲み込んだ。

 

「……ここまでやって、ようやく倒せるか」

 

 廊下には、俺と"陰"の卵だけがあった。幻想体を鎮圧した際に残る核。福祉チームの事務職は全滅したこともあり、俺かエルフ先輩が隔離室へ運ぶことになるのだろうか。できればエルフ先輩にやってほしい。

 福祉チームに派遣されたウサギチームを全滅させたことで、封鎖が解除された。奥の手も含めて全部使い尽くした疲労でその場にへたり込む。俺を捨て駒にしてでも、支部の全滅を防ぐという判断は正しい。ただ、それはそれとしてすごく疲れた。明日の仕事は休みって言われても許されるだろうくらいには疲れた。

 それなりの数のレッドやブラックダメージ弾を受けて浅からぬ傷を負っている。一発一発は軽いといえど、物量が確実にダメージを蓄積させていた。

 

 エルフ先輩も、今日の俺に仕事をさせることはなかった。戦闘でボロボロになったソファーに寝転がり、目を閉じる。数秒後には、眠りに落ちていた。

 

 

個人的な日記 記録者:ネロ

R社第四群が鶏肋扱いされていた理由が実感できた。殺戮に狂って無差別攻撃するのは、思っていた以上に迷惑だ。




ネロ
現時点で出せる全力で頑張った。単独で都市の星案件を解決できる一級フィクサードンファンって、物凄い人物だったんじゃないかと思っている。

グロテスク
専用広域ページ。幻影乱舞とか大団円とかの枠。周辺の武器とかを鯨油で"不調和"に統合して、その"不調和"をハーロットに同化させることで力を上乗せしている。E.G.Oウェポンである"不調和"はともかく、他の統合した諸々は一撃振ったら壊れるので使い捨て。

ウサギチーム
本部みたいにミョが来るわけじゃないし、煙戦争みたいにニコライが指揮するわけじゃないのでどうにかなった。あと、相手が束縛付与してくるタイプだったので相性差。
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