俺の心がドレスを着ろと告げている   作:三白めめ

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A:願望シールが無ければ、祈りましょう。


Q:幸運が必要になったときの方法

 セネカ。史実というより、『オクタウィア』を書いた、セネカを名乗る何某の方か。作者であり、作中に同様の登場人物が存在している。イサンが前例だな。とはいえ、デミアンがヘッセの『デミアン』に加えて『星の王子様』の要素も混ざっているあたり、常にそうした複合モチーフの可能性は検討しなくてはならない。イギリスがモチーフのT社で名声を高めることができたあたり、『フランダースの犬』のネロも混じっている可能性はある。

 実際、T社の理事が運営している工場から声がかかった。……直接会ったことはないが、大湖で運用されている戦艦やその砲塔を作る大手の所だ。……随分と聞き覚えがある名前だったので、話を聞きに出向くのも悪くない。

 けれど今日の業務ばかりは、未来のことを考えるのは後だ。

 

「純粋な運試し、か」

 

 現在、史上最大のピンチに直面している。大湖で鯨に飲み込まれた時や、ウサギチームと戦った時より深刻かもしれない。

 前提として、俺のロボトミーE.G.Oウェポンたる"不調和"は俺とかなり紐づいている。サイズが対鯨解体用のスケールになっていることからも、それは明らかなわけだが。

 

「T-09-97……"古い信念と約束"」

 

 いわば、武器強化ガチャだ。エネルギーと引き換えに武器を強化できる()()()()()()、ツール型の幻想体。

 そう、可能性があるだけだ。細かい数字は流石に覚えていないが、一回目で8割5分程度だったか? それくらいの確率で成功し、武器が強化される。その後、合計4回まで強化を重ねることができた……はずだ。情報を解放したら、それ以降は使わない幻想体だったからな。正直うろ覚えだ。確率は繰り返すごとに低下していくのは覚えている。それから、失敗すれば武器が消えることも。……武器が消滅したときに、俺がどうなるか分からない。最悪、精神が持っていかれる。

 

「記録者、ネロ。T-09-97の記録を開始する」

 

 願望シールが欲しい。幻想体相手に通用するかは分からないが、切実に願望シールが欲しくなった。

 天井から鎖で吊るされて、上下に向かい合うように丸まった二匹の爬虫類。それらが囲んでいるガラス球へ、"不調和"を入れる。

 灰色のそれらは、青色に輝きながら前後に揺れ始めた。ブランコのような振幅は、段々と収束してくる。

 そして、輝きは金色に変化した。……当たりだ。E.G.Oウェポンを失わずに済んだのはありがたい。ついでに、それなりに武器が強化されているのを感じる。無事に終わってよかった。俺が外すと、流石にシャレにならない。深く息を吐いて、隔離室を出──

 

「管理人?」

 

 端末には、再びの管理業務指示。価値観ランクが高いことが成功率に繋がると考える可能性もあり得ると考えるのも妥当だが……

 

「……次は、7割くらい?」

 

 隔離室へ再入室。……逆に考えろ。8割5分は信用できないが、7割なら逆に信用できる。クトゥルフ神話TRPGとかのベーシックロールプレイングシステムで、幾度もD100を振ってきた経験が担保……できたらいいな。

 先ほどの手順を再試行。……祈るしかない。瞬きすることすら忘れ、ガチャ演出(幻想体の様子)を見つめる。7割は問題ない。

 

「……よしっ!」

 

 結果は成功。流石にこれで終わりだろう。次は5割付近になりそうだから。というか、もう20歳だというのにぴょんぴょんと飛び跳ねてしまった。……一向に身長が伸びないんだよな。都市の技術を使えばいくらでも伸ばしようはあるが、どうにも気が乗らないし。

 

「……管理人。もうやめにしない?」

 

 もういいだろう、管理人! これ以上やると、最悪の場合は俺の心が壊れてしまう!課金は家賃までという言葉を知らないのか! いや、ここで命令違反をしてしまえば、家賃どころか給料が入ってくるかが怪しくなるが。

 そんなわけで、そろそろ確率が50%くらいだろうか。ガチャ再開だ。武器を強化したいとかじゃない。単純に、武器を失いたくない。ある種、物欲センサーに引っかかることはないといえるのだろうか。前世の知識にも、この幻想体の最後に『物欲センサーはあるかもしれないね』みたいなことが書いていた気がする。

 

「これで、7割くらい」

 

 "不調和"を振り回してみるが、明らかに動きが軽い。相性のいいE.G.Oとはいえ、ここまで変わるとは思わなかった。

 

「で、この状況はどういうこと?」

 

 業務中、ここを使う人間は俺以外にいないはずの廊下。そこに、一人の職員が入ってきた。正確には、職員だったものだろうか。その頭部や腕部は、"裸の巣"と同じような材質で覆われていた。……感染したか。E.G.Oスーツもまた"裸の巣"のもの。幻想体の隔離室と彼の腕章からして、懲戒チームだろう。

 躊躇う必要もない。攻撃を受けて感染することもない以上、早急に始末するに限る。

 加速。一瞬で彼我の距離を縮め、大きく振りかぶった横薙ぎを直撃させる。反応させることすらない黒の斬閃は、感染者の上半身と下半身を切り離した。

 以前に使った時は、速度と遠心力が乗った一撃の威力を殺しきれずにたたらを踏んだが。

 

「……目に見えて強くなってる」

 

 俺が成長したことに加え、あのガチャの結果もあるだろう。完全に御しきっていた。そして──

 

"不調和"

 

 残像にも思える黒色は、未だにレーザーとして宙へ刻まれている。これはマーキングだ。"不調和"の持つ本来の力の一端。E.G.Oの本当の力。

 宙に奔る線が爆ぜ、職員の遺体を破壊する。同時に、こちらへ寄生しようと脳から飛び出してきた、大量の寄生体を弾くことも。

 

こうあって然るべきだわ。どうにも、都市には柵が多いと思わないかしら?

 

 "火の鳥"討伐は各部署のチーフたちと一緒にレイドバトルだったし、 ウサギチームは束縛を撒く都合上、俺がメインで出る必要があった。最後のキメラE.G.Oウェポンに関しては、鯨の方の力を借りたが。あれは必殺技とかの別枠でいいだろう。

 

そうだ、少し気になったの。アイデアが出た以上、実行するかしないかを決めるだけ、でしょう?

 

 思いついた以上、仕方ない。まあ、成果ゼロか成果ありの二択だ。やってみるのも悪くない。俺の纏うドレスの粘液が蛇に似たそれらに纏わりつく。

 幻想体である"桃色の靴"が、推定名称"あなたは強くなりましたか"によって作られた"お前ぶたれたい?しこたま?"を眷属としたことは注目に値する。

 ……長いので略称である『ぶたたま』と呼称する。ぶたたまは中に人間が入っているが故の事例と考えることもできるが、それは寄生している幻想体ごと人間を取り込めば同じことだ。

 そのために、上半身を残した。脳に巣食う寄生体ごと、人魚として眷属化させる。"溶ける愛"が原型となっていることもあり、スライム状に溶けるので……

 

成功ね。……今日は幸運だったりするのかしら

 

 幻想体本体ならともかく、何体かの寄生体くらいなら人魚にできる。穴掌鯨のように、自身の内に人魚をストックするタイプの運用が妥当だろう。欲しかったのは、再生能力だ。幾重にも重なり、引き裂かれても即座に修復する鱗。"裸の巣"の感染が進んだ際に頭部や腕部を覆う材質は、E.G.Oスーツである"抜け殻"と同じくしている。寄生されている状態を制御できるのであれば、E.G.Oスーツを纏うことと同義なのではないか。

 もちろん、自分の脳を食わせるような真似はしない。もっとも、人魚は自らの鯨に牙を剥くことができないことを確認しているが故に試したことだ。ゼペットと一緒に鯨に呑まれたときと違い、安全は確保している。人魚にできなければ、そのまま寄生体を燃やせばいい。

 

「顔以外の皮膚の変化……問題ない。武器も握れる」

 

 スーツを着たり、E.G.Oを発現させなくても用いることのできる滑らかな鱗。そして最も注目に値するのは、脳機能の代替だ。寄生された職員の脳のうち30%が喰われたとしても、寄生体は宿主の真似をして正常に振舞わせることができる。であれば、人魚として俺と同じ方向を見つめるようになれば? それは、脳の代替として使うことができるんじゃないか。使わないに越したことはないが、手札として認識しておくべきだろう。

 寄生体そのものを伸ばすことも可能だと確認した。顔には寄生させていないので、それ以外──腕や背中を突き破って出てくるわけだが、スライム状なので見た目はまだマシだ。たぶん、感染能力も残っている。これは流石に試すわけにはいかないが。

 

 こうしたことは、クリフォト抑止力で幻想体が弱体化している状況じゃないと安心して実行できない。抑止力無しで人魚へ属させることが可能かと問われれば、おそらくは酷く困難だろう。隔離室にある巣の寄生体に試したところで失敗するだろうし、この偶発的な脱走が功を奏したわけだ。

 

 

 

「懲戒チームで一人と、教育と安全で一人ずつですか~。懲戒の子が持ってかれたのが痛いですね~。まあまあ優秀だったんですけど」

 

 管理業務の終業後、E.G.Oの整備中にエルフさんから話しかけられた。たいていは、こうして今日死んだ人の話になる。本部は記録チームがあるので、死んでも管理人の采配一つで蘇らせられるが。支部には記録チームなんてないので死んだままだし一日はやり直せない。……本部も本部で、入社した本人は記録チームで眠っているので外の自由を得ることができないが。

 

「ブラウンさんは、E.G.Oの製造にエネルギーがどれだけ必要かと怒ってましたよ~」

 

 そんな感じで話しながら整備を終えて帰るのだが、今日は違った。

 

「ネロちゃん、今度T社の巣に行くんですよね? 私も一緒に行っていいですか?」

 

 私も、実家に顔を見せろと言われていまして。そんな風にエルフさんが言うが。

 

「エルフさん、T社出身だったんですか?」

 

 ここは、都市北部とか東部の方だ。T社は南部なので、本当ならこんなところに来ないはずだが……

 

「まあ、家との折り合いが悪くて……」

 

 そういうこともあるか。というか、なんで俺が近々T社の巣に行くって知ってるんだ?

 

「疑問に思ってますよね~。……私、あの家で育ったんです。ですから、行き先が一緒なんですよ」

 

 そういうことか? 先輩は"寄生樹"のE.G.Oである"偽善"を使う。そして、俺は工場の代表の家に呼ばれている。そのうえで、家と折り合いが悪い娘。であれば導き出される答えは一つだ。

 

「改めて名乗りましょうか。福祉チームチーフのエルフさんこと、アンダーシャフト家のバーバラです」

 

 『バーバラ少佐』。作者のバーナード・ショーは、イギリス人作家(T社の領分)だったか。




ネロ
"裸の巣"の寄生体を人魚にして自身の体内へ宿した。その結果、感染時の症状である皮膚の鱗化を任意で扱えるように。鱗の表面は滑らかで、多層構造のため動きを阻害しない。顔を覆うと、外見が気持ち悪くなるのでやりたくない。そういう鯨っていっても信憑性が出そう。

エルフさん
本名はバーバラ。T社出身であり、父親はT社の理事かつ大工場──アンダーシャフト工房の代表。自分の名前が嫌いなので、他者にはエルフさんと呼ばせていた。
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